バカカップルとカメムシ
壁の薄いボロアパートというものは、まるで世界と自分を隔てる唯一の膜が、古びたティッシュペーパー一枚でできているようなものだ。そしてそのティッシュは、隣室の若いカップルの、飽くことを知らない営みによって、常に湿り気を帯び、震えている。
彼らの情事は、昼夜の区別を持たない。それはまるで、遠くで鳴り続ける古いラジオのノイズのように、私の静寂を侵食し続ける。私は耐えきれなくなり、怒鳴りつけるつもりでベランダへと足を踏み出した。
しかし、そこにいたのは彼らではなかった。
それはカメムシだった。
どこからともなく飛来したその甲虫は、ベランダの仕切り板で、まるで私を嘲笑うかのように鈍く光っていた。私は思わず後退りした。カメムシというのは、そういう種類の生き物だ。何かを損なうことなしには、そこに存在しえない生き物。
私は部屋に戻り、殺虫剤の缶を掴んだ。中身はたっぷりあった。私はベランダに戻り、引き金を引いた。鋭い噴霧が空気を切り裂き、カメムシを包み込む。それは軍隊の制圧射撃のような、冷徹な正確さで行われた。
カメムシはたまらず、ベランダの仕切り板の隙間へと、その醜い羽をばたつかせて落下していった。私はすかさず、足先でカメムシを蹴り上げた。乾いた音がした。それはサッカーボールを蹴るような軽快な手応えと共に、彼らの領土へと放り込まれた。
私は空になった缶を握りしめ、冷ややかな夜風の中でしばらく立ち尽くしていた。
隣室の情事は、一瞬途切れたような気もしたが、すぐにまた何事もなかったかのように再開された。
やれやれ、と私は思った。
正しいことをしたのか、それとも間違ったことをしたのか、それは誰にもわからない。ただ、殺虫剤の冷たい匂いが、夏の夜の湿度の中に溶け込んでいくだけのことだ。
私は部屋に戻り、冷えたビールを一口飲み、やがて来るはずのない朝を待った。




