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救われたのは俺か、アンタか

作者: 藤咲梗花
掲載日:2026/06/22




 いつも通りの時間。いつも通りの帰り道――のはずだった。


 キキーっ!!!


 地面を走るタイヤから悲鳴のように音がする。


竜也たつやくん――!!」


 その声を耳にして、俺の意識は飛んだ。







「竜也くんは、センスがいいから。いつか、あたしより上手じょうずになるよ」


 覚えてる。大好きだった従姉いとこの姉ちゃん。


 姉ちゃんの笑顔も、あの時の衝撃的しょうげきてきな対面も。

 




「お姉ちゃん……!! 目ぇあけてよ! ウソだよね!? なんで――っ! お姉ちゃん!!」


 小さな俺は、状況が飲み込めなかった。意味が分からずに――理解したくなくて泣き叫んだ。


 小さな俺の、慟哭どうこくだった。









 姉ちゃんはいわゆる脳死のうしだった。もう目が覚めることもない。そんなこと、当時とうじの俺が納得なっとくすることはない。


 それから俺は、退院して。下校すると、毎日姉ちゃんの様子を見に来ていた。


 でも――姉ちゃんが目を覚ますことはない。




「ねぇ、姉ちゃん……俺、生きててよかった?」


 小4になった俺は、姉ちゃんがもう目を覚ますことがないことを――イヤでも理解していた。


 だから、ひとり姉ちゃんの病室で、そんなことをこぼした。


 反応なんてものはない。その度に、泣きたくなった。





 俺は高校生になっていた。姉ちゃんと遊んだバレーボール。俺は強豪校の男子バレー部に所属していた。レギュラーだった。


 テスト勉強の期間くらいしか、会いに行けなくなっていた。


「なぁ、姉ちゃん……。あん時死ぬべきだったのは、俺だったんじゃないのか?」


 高3になっていた俺は、部活仲間と充実した日々を過ごしていた。


 けど、姉ちゃんに会いに来て、ふとあの日を思い出す度に、俺の心は落ちる。


「いつまで経っても――アンタを忘れられないんだ」


 それが、消えない事実だった。






 俺をしたってくれる後輩がいた。深山千里みやま ちさと。バレー部のマネージャーだった。


 深山とは帰り道が同じだった。電車通学が多い中、深山と俺はバス通学で。

 その日も、学校の側のバス停に向かって、チームメイトと別れた後、2人で帰り道を歩いていた。


 この十字路を渡れば、バス停に着く――その時だった。それは、十字路を曲がって――


 俺は、咄嗟とっさに深山を突き飛ばした。――反射神経が必要な部活で良かった。そんなことを、思った。







 ――ん。――くん。


竜也たつやくん」


 名前を呼ばれて、バッと起きる。


「おっと! ぶつかるトコだった!」


 そう言って、間一髪かんいっぱつで俺のひたいとぶつかるのをける。


 そこには、笑顔の里美さとみ姉ちゃんがいた。


「え――っ! なんで泣くの!?」


 俺は姉ちゃんを見るなり、泣き出していた。高3にもなって、情けない。


「なになに? あたしが竜也くんをかばって、ぬ夢を見たの?」


「そうだな」


「でも、あたしここにいるよ?」


「――それはそうなんだけどな」


「あたしが死ぬ夢とか! 怖すぎ!」


 姉ちゃんはそう口にする。


「変な夢だよな……」


 そう言って、俺も苦笑した。





 



「じゃあ、そろそろ行くね」


「ん? どこにだよ」


「んー? どこでもいいの!」


 そう変わらない笑顔のまま話す姉ちゃんに、何故かスゴい不安になる。


「なら、俺もついてくわ」


 そう言えば、まゆを八の字にして、姉ちゃんは困ったように笑う。


「竜也くんは――……まだ来ちゃダメ」


「……え?」


「聞こえるでしょ? キミを呼ぶ声が」


 この場には、俺と姉ちゃんの2人だけなのに――俺を呼ぶ聞き慣れた声がする。


「うん。ちゃんと最後まで生きるんだよ」


 そう言った姉ちゃんは、け始める。


「……っ!!!」


 声を出したいのに、声が出ない。


「ちゃんと! 好きな人作るんだよ!」


 そう口にして姉ちゃんは――









 ――ハッとした。見知らぬ天井てんじょうと、身体からだの痛み。


「竜也――!!!」


 おふくろと、オヤジが涙を浮かべてそこにいた。頭痛が走る――俺は頭を押さえて。


 嗚呼。なんでだよ――なんでっ!

 アンタは、俺をうらんでないのか?

 なんで――また俺を助けるんだよ――!


 痛みがどこからくるのか、俺にはとても――判断できなかった。





 

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