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第五話:一流のその先

「色兄ちゃんセンス良いね」

色助だから色兄ちゃん。可愛いセンスの持ち主は今日師となった小学生の幸人君。


「幸人君の教え方上手いんだよ。将来は教師なんていいんじゃないかな」

「僕勉強したくないから無理ー」

「おや。勉学をしないとこんな大人になってしまうよ?」

「あはははは! すごい説得力ある!」

うんうん。また一人迷える子どもを救ってしまった。



数日が経過した。

近所で釣り竿を垂らし続け釣果はゼロ。

資金が底をつく前、近くで釣り上げる小学生集団に頭を下げ釣りのイロハを教示してもらった。


「色兄ちゃんってなんで働かないの?」

「不思議だよねー。なんでだろう」

「やーい、ダメ人間ー」

「こらー! 本当の事を言うと人は怒るんだぞー!」


霜を踏んで釣り糸を垂らす。

吐く息が白く、すぐに川面の風に溶けた。

大人は皆極寒に身体を縛られる中、いつだって子どもはたくましく元気に駆け回る。


そんな中、少年グループに一人だけ黙々と絵を描いている少女が居た。



「……」

その子は面白い。釣りはせず、釣った魚の魚拓を取る役割だった。

こういう役割分担を自然と割り振りできるのも小学生の逞しさだろうか。


それでいてその後は魚を見てデッサンを繰り返す子だった。



「すげえだろ色兄ちゃん。望愛は俺達と違って天才なんだよ。ちょーーー絵が上手い。大人よりもすごいんだぜ」

まるで自分の事のように自慢する少年に微笑ましく思う。


対して望愛という少女も通常時は照れた表情を魅せるものの、今はゾーンに入っているため外界の音は遮断されている。


「うん凄いよね。これだけ描ける小学生は見た事ないよ」

「ボクが小学生の頃はもっと上手かったけどね」


その言葉に望愛は顔を上げて歪に微笑んだ。

――微笑んだのだ。



「おや」

ちょっとした意地悪のつもりだった。

きっと小学生らしい対抗心を燃やした鋭い目線で、少しだけジャレあってあげようという気まぐれ。

これだけ描ける実力で微笑むほど人間ができているわけじゃない。まだ小学生の女の子。精神的には未熟なはずだ。


では何故苦々しく微笑むのか。


――見たことがないのだろう。


自分よりも、描ける人を。



「……ふむ」

それは可哀想だ。


「気が変わった。今日は釣りを辞める」

「え、色兄ちゃん帰るの?」

幸人君の問いに首を横に振る。


「望愛君とデッサン勝負する」

周りのリアクションは大笑いだ。


勝てるわけがないだろうと。

大人に勝てる。という話の凄さ。


スポーツでも勉強でも、これぐらいの年齢の子はなにを取っても大人には勝てる要素は何一つないと刷り込まれている。

そのタカが唯一外れている。もとい、逆説的に大人であっても、どんな人であっても望愛にデッサン勝負で勝つ事はできない。


「望愛は先生にも勝ったんだよ。すごく有名な美術大学のコンクールで凄い賞をもらっている先生だよ。それよりも上の賞を取ったんだ」

「ちょーーーー凄い先生よりもちょーーーー凄い望愛に勝てるわけないよ」


望愛の表情を伺う。

期待を寄せられた張本人はと言うと、なんとも言えない顔をしていた。


そうなんだよね、とでも言いたげな。

やってきた自負と周囲の評価を既に獲得している。


「ふむ」

壁にぶつかるのは早いほうがいい。

中学、高校と遅くなるほど拗らせるが、これほどの画力ならば成人するまで壁を知らずに突破して就職までゴールするだろう。


「……」

あー……。

勢いで描くって言っちゃったけど……ま、今回ばかりはしょうがないか。


この子達からは魚を恵んでもらった。等価交換の原理……にはこちら側の報酬に思う所はあるが、まあお捻り(おひねり)がないのは失礼だ。


「デザインや絵ってね。意外に思うかもしれないけどセンスじゃないんだよ」

「法則の詰め合わせ。言ってみれば知識の数で決まるんだ」

「一流まではね」

その発言で、初めて望愛の瞳に魂が宿った。

「その先を――少し見せてあげよう」

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