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エピローグ5・燦歌芽生える

少女は橋の下でキャンバスを広げる。川の音だけが聞こえる。

そこには一人しかいないのに、立てるキャンバスは二つ。

画用紙も二枚セットする。


以前住んでいたホームレスの姿はもうなく、少女は一人で河原を描くのが日課になっていた。



少女には師匠が居た。

その師から何を教わったかと一言で表せば『未熟さ』である。

自分よりも遥か遥か高みに位置する天才は己を未熟と言い研鑽を続けた。


何故そこまでこだわるのか?

否、こだわれるのか?

当時未熟であった自分にはわからなかったが、今となってはそれは良くわかる。


もっと描く。もっともっと描く。もっともっともっと。

行き着く技術の先にそびえ立つ頂点はシエル・リュミエール。それは少女の師ではない。


もっと見る。もっと感じる。もっと考える。もっと学ぶ。

それでいて絵は楽しいという想いを乗せる。

先が見えない永いトンネルも暗闇ではない。


トンネルを走る毎日がこんなにも楽しい。

師匠は何故『燦歌彩月』を名乗ったのか。それは今でもわからない。


私が未熟だから。それでいい。

私は私で想いを愛する。

師匠にも負けない、煌めく歌を届ける。


(ふふっ)

今日は我ながら良く描けた渾身の一作だ。かなり調子が良い様だ。

師匠に習い、ブルーチーズと、後は年齢の問題でジンジャエールを飲む。



「ふむ」

良い絵が出来た時のおやつは何事にも形容しがたい幸福だった。

また一歩、近づいた。

出来上がった絵を眺めると、ひょいと端を摘み取る。

だけどコレでは、世界一の師匠を持つ弟子を名乗るには情けない作品だ。


無礼。

今思い返すと師匠にはいっぱいいっぱい迷惑をかけた。申し訳ないと思う反面、掛け替えのない出会いと美化するのは都合が良いだろうか?

結局今師匠が隣に座ったら色々と教えを乞うだろう。


無礼だと。失礼だとわかっても師匠には甘えてしまうと思う。

――それでも、この無礼だけは許されない。



(だって私は、燦歌彩月の弟子だから)

びりり、と音を上げて作品は紙になっていく。


「うん」

月が浮かんでいる。

師匠も今、同じ月を見ているかもしれない。

師匠の弟子として、自分の名に失礼がない作品を完成させるんだ。

足りない。もっともっと想いを乗せる。もっともっと煌めいた絵になるはずだ。


そして私の絵で、多くの人に愛を歌ってもらう。


「雅号・煌想愛歌」(きらめきそうあいか)

私の新しい名前だ。


月が照らす夜の世界。



幸せに絵を奏でる少女に新しい燦歌が芽生えるのはもう少しだけ先のお話――。

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