Ⅱ-14 自分を大切に
「お前、色々持ち寄ってって言ってたが、今まで何持ってったんだ?」
「えーっと、ぬいぐるみとお菓子と、平民の間で流行っている本、刺繍、手品、宝飾品、面白い話、感動する話、怖い話……」
「随分多いな」
「私も今思いました」
こうして改めて数えてみると、かなりのレパートリーだな、と実感する。しかし、それでも尚アレクシスの好きなものを見つけられない自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう。
(あのぬいぐるみとお菓子は気に入ってくれたけど、それ以外は微妙だったし……私の勧め方が悪いのかな)
リアンと色々店を見回ってみたが、目新しいものはなかった。びっくり箱なる玩具があったのだが、アレクシスが驚いて笑う姿は想像出来ないし、逆に怖がらせてしまうかもしれない。
「そんなに色々持って行くって、絶対ただのお茶会じゃないだろ。手品とか物じゃないのも混じってるし」
「まぁ、お茶会っていうより発表会みたいになってますね」
勉強で忙しい中、アレクシスに何を見せるか考えるのは楽ではない。それでも、これまで孤独に頑張っていたアレクシスをこれ以上一人にはしたくなかった。
「でも、その人の笑顔が見たいので! いくらでも頑張れちゃうんです」
それはアレクシスだけでなく、リアンやルルマも同じだ。しかし、そのためにどうすれば良いのかは手探り状態だ。ルルマに至ってはあれから会えていない。
リアンはぱちぱちと目を瞬くと、「……そんなに大切なんだな」と小さく呟いた。
「でも、無理はすんなよ。別にお前のことが心配な訳じゃないけど、その友達が悲しむだろ」
「え、そうですか? 寧ろ元気で……」
フレイが顔に手を当てた時、ぐぅ〜っ……と軽快な音が響く。フレイは視線を逸らした。
「……元気だけど、お腹は減ったかもしれません」
「だろうな」
そんな音聞いたら嫌でも分かる、と呆れ顔のリアンに言われ、フレイはがっくりと落ち込んだ。せっかくリアンと一緒に居られるのに、自分の腹の虫を鳴り響かせてしまうなんて。
「は!? 昨日から何も食べてないって……いくら平民だったとはいえ、今は伯爵令嬢だろ。そんなに金ないのか?」
「いえ! お金はものすごく貰ってます、本当に」
入学金や毎日の服は勿論、お小遣いと称してビスト、アステラ、トルマから目玉が飛び出そうになる額を貰っている。しかし、だからと言ってそれをバカスカ使う気にはなれないし、金銭感覚がおかしくなったら結婚生活で困るだろう。
必要なものを買う時は使わせてもらっているが、それ以外では極力使わないようにしている。
「相手から渡されてる分使うのは我儘でも何でもないだろ。伯爵令嬢、それも聖女が腹減ってぶっ倒れたなんて洒落にならないぞ」
「でも、私は本当の子供ではないですし……使ったお金は全部返すつもりなので」
身寄りのない自分を養子として迎え入れ、学園に通えるよう手助けしてくれただけでも感謝しかないのだ。恩を受けた分は返さなければならない。
「……お前はもっと自分を大切にした方が良い」
「え?」
「俺はリンドゥルク夫妻のことはよく知らないが、少なくともお前のことを大切にしているから金を渡してんだろ。愛してくれる人が居るなら、ちゃんと自分を大切にしろ」
思わぬ言葉にフレイは胸がどくんと鳴った。リアンにはフレイが自分を大切にしていないように見えたのだろうか。
(孤児院に居た頃よりずっと綺麗な服を着て、美味しいご飯を食べてるのに?)
どこがそう見えたのかは分からない。だが、いつになく真剣なリアンの瞳に、フレイは曖昧に頷いた。
「……お前、本当に分かっ……」
「ちょいと、そこのお二人さん! ウチの串焼き肉は絶品だよ!」
リアンの言葉は、威勢のいい声に遮られる。見ると、屋台の女性がこちらを見てにっこりと笑っていた。鉄板には串に刺された肉がじゅうじゅうと音を立てており、思わずまた腹が鳴ってしまう。
「ほら、良い匂いだろう? まけてやるから食べてったらどうだい?」
流石にこの匂いには抗えない。フレイが垂れかけた涎を飲み込むと、リアンがスッと前に出て女性に金を渡した。
「二つくれ」
「あいよ、ちょっと待っておくれ」
え、と思わず声が出る。一瞬自分の分も買ってくれるのか、と思ったが、直ぐに考え直した。リアンは男だし、二本くらい余裕で食べられるだろう。思い上がるな。
そう考えながらじっとリアンを見ていると、リアンは赤くなった顔を手で隠した。
「べ、別に、お前のことが心配とかそういうんじゃないからな。急に倒れられたら困るって、それだけだからな」
「……もしかして、私の分も買ってくれたんですか?」
その言葉はつまり、そういうことではないか。ぽろりと口から出た言葉に、更にリアンは顔を赤くする。フレイは確信し、慌てて懐から金を取り出した。
「ごめんなさい、お金払います!」
「は!? いらねぇよ」
「で、でも……」
大した額ではないが、第二王子に払わせる訳にはいかない。昨日から何も食べていないフレイを憐れに思ったのかもしれないが、それは自業自得だ。リアンが気にすることではない。
(こんなことになるなら、何も食べていないなんて言わない方が良かったかもしれない)
「……あのな、リナ」
名前を呼ばれ、フレイは顔を上げた。リアンの顔は茹で蛸のように真っ赤だったけど、しっかりとこちらを見ている。
「俺は、お前に助けられたし……それに、もう何回か会って、話してるだろ。だから、その、俺はお前のこと、と、友達だって思ってるっていうか……」
「え?」
思わぬ言葉にリアンをまじまじと見てしまう。リアンは更に更に顔を赤くし、なんなら目も潤んでいるが、それでもフレイから視線を離さなかった。
「だ、だから……俺もお前に何かしてやりたいんだよ。与えられるだけなんて、そんなの、嫌だろ」
フレイははっとした。せっかくリアンは自分のことを想ってくれたのに、それを受け取らずに、言わなきゃ良かったなんて思ってしまった。
第二王子であるリアンが、照れ屋さんのリアンが、フレイのことを友達だと思ってくれた。心配してくれた。それなのに、フレイがいつまでも遠慮していたら、リアンも嫌になってしまうだろう。
(リアン様の想いを、ちゃんと受け止めなきゃ)
「……ありがとうございます、リオ様! じゃあお言葉に甘えていただきますね」
「……おう」
リアンはオーバーヒートしてしまったのか、ぷすぷすと頭から煙が出ているような気がする。辛かっただろうに、そこまでして言葉を伝えてくれたことが嬉しい。
「はいよ! 串焼き肉二本、お待ちどうさま」
女性から串焼き肉を受け取る。焼き立ての肉からは香ばしい香りが漂っていて、またまた腹の虫が鳴いてしまいそうだ。
「ありがとうございます!」
「あんたら恋人かい? 今日は色々出てるから、楽しんでいきなよ」
「なっっっっっっっっ!!????」
揶揄うように笑った女性の言葉に、リアンが聞いたことのない声を出してフレイから遠ざかった。ただでさえ赤い顔が更に更に赤くなり、死んでしまうのではないかと不安になってしまう。
「違う! 断じて違う! 恋人なんかじゃねぇよ!」
「おや、そうなのかい? 仲良さそうに見えたんだけど」
「はい、仲良しです!」
「お前は黙ってろ!」
リアンに大袈裟なくらい否定され、フレイは若干落ち込んだ。だが、傍から見て恋人だと思われるのは良い傾向だろう。リアン自身がそれを嬉しく思ってないと意味ないのだが。
「ほら、もう行くぞ! お前腹減ってんだろ」
「あ、リオ様〜!」
辛抱ならないと言った様子で、早歩きでリアンが屋台から離れていく。フレイは屋台の女性に一礼して、リアンの背を追った。




