Ⅱ-13 思わぬ出会い
貴族の学び舎である聖アシュアケット学園だが、勿論授業がない日、すなわち休養日もある。
生徒は日頃の疲れを休養日で癒やすため、婚約者や友達と出かけたり、秘密のお茶会を開いたり、読書に耽ったりする。
かくいうフレイも例に漏れず、街へと出かけていた。
「うーん、次は何が良いかなぁ。もう色々やり尽くしたけど……」
かと言って遊びに行っている訳ではない。アレクシスとのお茶会で持って行くものを探しに来たのだ。
相変わらずアレクシスの表情はほとんど変わらないが、少しずつこれは嫌だ、これは嫌じゃないと教えてくれるようになった。
お菓子やぬいぐるみだけでなく、手品や刺繍なども見せている。しかし、そろそろネタがなくなってきた。
(何も持ってかないでお話するだけでも良いのかもしれないけど……せっかくなら、アレクシス様の好きなものを見つけたいし)
そう思い街を歩いているのだが、中々良さそうなものが見つからない。この前は異国の布が置かれていたが、もう商人が撤収してしまったようで見当たらなかった。
この際大道芸でも習おうか、と悩みながら歩いていると、どんっと何かにぶつかる。ごめんなさい、と言って顔を上げ、フレイは目を瞬かせた。
「リア……むぐっ」
名前を呼ぼうとすると、手で口を覆われてしまった。
「声がでかい。ここでその名前を呼ぶな」
その言葉にこくこくと頷くと、フレイのものより一回り大きい手が離れていく。改めて彼の姿を見て、フレイは笑いかけた。
「こんにちは、リ……えーっと、何とお呼びすれば良いですか?」
「……リオ」
「リオ様、こんにちは!」
リオ、もといリアンは居心地が悪そうに頭を掻いた。その服装は王子様とはほど遠く、平民の街によく紛れている。
「だから声がでかい。目立つだろ」
「あっ、すみません。リオ様と会えたのが嬉しくて」
この前は鐘の音に遮られてしまったので、また話したいと思っていたのだ。アレクシスと同じように、リアンのことを知るならリアンに沢山会うしかない。何より、また会えたのが純粋に嬉しかった。
しかし、お忍びで来ているであろうリアンの休日を奪うのはあってはならないことだ。フレイがしゅんと落ち込むと、リアンの顔がぼっと赤くなった。
「なっ、べ、別に俺もお前に会えて嬉しいなんて思ってないんだからな!」
「え? そ、そうなんですか……」
もしかしたらリアンも少なからず好意を抱いてくれているのではないか、と思っていたがそうではないようだ。
(まだ全然魅力が足りてないってことだよね。もっと頑張らないと)
思い上がってしまって恥ずかしい、と更に落ち込むと、リアンは視線を泳がせた。
「ち、違、そういう意味じゃ……それより! お前こんなところで何してんだ?」
「あ、えっと、お茶会の準備をしているんです」
「お茶会?」
首を傾げたリアンにアレクシスとのお茶会のことを教えようとして、はたと止まる。アレクシスがリアンの前でどう振る舞っていたのか分からないが、勝手に“あの”アレクシスのことを教えるのはどうなのか。
(もしリアン様の前でも完璧だったら、今私が話しちゃうのは良くないな)
「えっと、放課後に友達と色々持ち寄ってお茶会を開いているんですけど、今度は何を持って行こうかなって」
アレクシスのことを友達というのもあれだが、現状一番近い関係は多分それだ。アレクシスからリアンの話が出たことはないが、兄弟仲はどうなのだろう。
「へぇ、そんなことやってんのか」
「はい。ぬいぐるみとかお菓子とか持って行っていたんですけど、そろそろネタがなくなってしまって」
一番好評に見えたのはお菓子だったので、また甘味が強いものを持って行こうか。だが、毎回それでは飽きられてしまう。そういえば、前に見せたぬいぐるみの中で狼のものは気に入っていた。確かあのぬいぐるみの色は──
「手伝ってやる」
「っえ?」
突然のリアンの言葉にフレイは俯いていた顔を上げた。目が合うと、リアンは顔を真っ赤にして髪をがしがしと掻いた。
「べ、べべ別にお前のためじゃないんだからな!」
「え!?」
「たまたま俺も何か見たいと思ってただけで、お前のために手伝ってやろうなんて思ってないんだからな!」
そう言うリアンは耳まで真っ赤にして、まるで素直になれない子供のようだ。もしかして、と思い、フレイはリアンの顔を覗き込んだ。
「本当に良いんですか? リオ様と一緒に居られるなんて嬉しいです!」
フレイがにこっと笑うと、リアンの顔が更に赤くなり、ばっと視線を逸らされる。その反応に確信した。
(リアン様、照れ屋さんなんだ……!)
孤児院にもありがとうやごめんなさいを素直に言えない子が居た。そういう子は放って置くとどんどん一人になってしまうので、多少強引に接するくらいが良い。
「でも、リオ様の用事は大丈夫ですか?」
「……俺のは大した用事じゃないから大丈夫だ。それより、お前のことは何て呼べば良いんだ」
「あ、そうですね。じゃあ、私のことは……リナって呼んでください!」
今日は休日だし、学園の生徒が遊びに来ることもあるから、普通の名前でも平気なはずだ。でも、こうした方がリアンとの距離が縮まる……気がする。
リアンのものと似せた偽名に、リアンは顔を赤くしつつも、消え入りそうな声でその名を呼んでくれた。




