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Ⅱ-10 許せることと許せないこと

「ふあぁ……」


 思わず大口を開けて欠伸をし、そうになって慌てて飲み込む。誰も居ないと気が抜けてしまうが、流石に大口を開けるのは淑女としてまずい。だが、この温かい日差しの前なら致し方あるまい。

 お昼休み、生徒の多くは食堂で友人と共に昼食を取る。舌が肥えた貴族でも絶賛する味らしいが、フレイはまだ食べたことがなかった。


(未だに友達、一人も出来てない……)


 ほとんどが友人と食べる中一人なのは辛いし、生徒とはいえ本物の貴族の前で食事をするのも緊張してしまう。

 ということで、フレイは購買で買ったものを中庭などで一人で食べる、という昼休みを送っていた。食べ終わったら予習や復習をしているので充実はしているのだが、話す相手が居ないのはやはり寂しい。

 フレイも友達を作ろうとする努力はした。この学園には平民の特待生も居るので、声をかけてみたことはあるのだ。しかし──


『せ、聖女様と友達なんて……そんなの恐れ多いです!』


 そう言って逃げられてしまったのだ。他の生徒の中にはフレイを目の敵にしている者も居るし、気軽に声はかけられない。


「……と」


 毎日話をしているアレクシスだが、やはり友達というには少し歪な関係なのでは、と思う。最終目標は恋人だし、同じ学年のはずなのにルルマとはあれから会えていない。


「……っと」


 攻略対象全員を幸せにするという使命がある以上、そんな呑気に友達を作っている余裕はないのかもしれない。だが、人脈があって困ることはない。もう一度平民の生徒に声をかけてみようか──


「ちょっと! わたくしの話を聞いてますの!?」


 不意に響いた高い声に、フレイははっと顔を上げた。目の前には陽光を反射する華美な扇子を持った令嬢が居た。後ろには数人彼女より抑えた服装の令嬢がこちらを見ている。


(こんな近くに来るまで気付かないなんて……気を抜き過ぎた!)


「ご、ごめんなさい! 考えごとしてて聞いてませんでした!」


 フレイは慌てて立ち上がり、深く頭を下げた。扇子の令嬢は芝生に置かれたサンドイッチを見てはっと鼻で笑う。


「地面に座って手掴みで食事を取るなんて、流石平民ですわね。考えられませんわ」

「平民の癖に“聖女”だなんて笑わせますわよね」

「近頃はアレクシス殿下とよく話しているようですし、やはり平民は殿方に取り入るのが得意なようで」

「この前教師に襲われたと聞きましたけど、貴方から誘ったのではなくって? その卑しい身体を使って」


 取り巻きの令嬢達がわざとらしく口元を隠して笑う。その笑い声が穏やかな昼下がりの空気に混ざり合い、フレイは眉を寄せた。


(私のことは、何て言われたって別に良い。でも──)


「つまり、貴方達はアレクシス様が、身体を使えば誰でも受け入れるような方だと思っていらっしゃるのですね」

「……は?」


 フレイの静かではっきりとした声に、令嬢達の笑いが止まる。扇子を持った令嬢がわなわなと震え始めた。


「な、何を! わたくし達はただ──」

「私のことは何と言っていただいても構いません。平民なのは事実ですし、所作も皆様に劣ることは確かです」


 ただ、と言ってフレイは続ける。


「そんな平民である私にも暖かく接してくださったアレクシス様を、誰よりも国のために尽くしている彼を侮辱することは許しません」


 こんな偉そうに言える立場ではないことは分かっているが、国のために自分を殺したアレクシスを知っているからこそ、彼を軽く見られるのは許せなかった。

 芯のあるフレイの言葉に、取り巻きの令嬢達が怯む。反対に扇子の令嬢は顔を真っ赤にして口を開閉させた。


「な、な……このっ、平民風情がっ!」


 扇子を持った手が勢いよく振り上げられる。ここは避けるべきか、それとも甘んじて受け入れるべきか。どちらにせよ、相手は戦闘の訓練は受けていないであろう令嬢だ。反撃は出来ない。


「──うるせぇな」

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