Ⅱ-8 揺れる天秤
「えーっと、今日は魔法薬の勉強をしたよ、それから街でお菓子を買ったから一緒に送るね、と……」
日が沈み空が橙色に染まる頃、フレイは寮の自室にて孤児院へ送る手紙を書いていた。流石に毎日五十枚書けるほどネタがないので、今は十枚ほどで勘弁してもらっている。
基本的に聖アシュアケット学園の生徒は学生寮に入っている。学園に近い者、つまり王都周辺に住む位の高い貴族は家から通う者も居るらしいが、それはごく少数だった。
(本当なら、家から使用人を連れて来ても良いらしいけど……)
リンドゥルク家で修行をしていた時、平民上がりのフレイに優しくしてくれる使用人はたくさん居た。彼らも自分に好感を抱いてくれていたのか、学園には使用人を連れて行かない、と言った時、何がご不満でしたかと泣かれたのだ。
使用人に世話をされるのが落ち着かない、というのもあったが、一番は攻略対象を幸せにする計画を知られないためだった。彼らのことは一人の時に考えたいが、ただでさえフレイは注目を集める上、寮まで使用人が居たら一人の時間がなくなってしまう。
フレイは何とか使用人達を説得し、今は一人で生活をしている。元は平民だったのでこっちの方が落ち着くし、考えごとも捗るのだ。
「ふぅ、これで皆への手紙は書き終わったね。明日の授業は歴史と魔法学と魔物学……」
そこまで言って、フレイははっと思い出した。
「あ、インク切らしてたんだった!」
授業を受けるときは基本羽ペンとインクを使うのだが、今日インクがなくなってしまったのをすっかり忘れていた。
学園内に必要なものを買える購買はあるが、この時間では閉まっているだろう。買うとしたら外になる。
学生寮には門限というものがない。というか、余程のことがないと夜に令嬢が出歩くなんてありえない。
(この辺りは王都近くで治安も良いけど、それでも一応伯爵令嬢だし、こんな時間に出歩くのは……でも、明日の授業が……)
明日買いに行くとしても、購買が開くのは昼からだ。借りれるような友達はまだ居ないし、唯一の知り合いであるアレクシスやルルマの元へなんて行けない。
フレイは伯爵令嬢としての矜持と明日の授業を天秤にかける。ぐらぐらと揺れていたが、どっちに傾くかは分かりきっていた。
「……もし襲われたら、私だってバレないように倒そう」
フレイはクローゼットからローブを取り出す。被るとすっぽりと身体が入るこのローブは、学園に入学する時にトルマから贈られたものだ。認識を阻害する魔法が使われているので隠密行動の時に使えと言われたが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
(もし私だってバレたら、お父様やお母様にも迷惑がかかっちゃうかもしれないし……あんまり長居はしないようにしよう)
フレイは窓を開け、窓枠に足をかける。正面から出ると他の生徒に見つかり、あらぬ噂をかけられてしまうかもしれない。いや、窓から飛び降りようとしているところを見られる方がまずいのかもしれないが。
誰にも見られませんように、と祈りながら、フレイは窓から飛び降りた。




