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Ⅱ-7 好きなもの探し

 太陽の光が燦々と降り注ぐ放課後、人払いがされたテラスへフレイは駆けていた。息を切らしながら辿り着くと、そこにはもう金髪碧眼の王子様が座っている。


「ごきげんよう、アレクシス様! お待たせしてすみません」

「構わない」


 もっと早く来たかったのに、途中で先生に用事を頼まれて少し遅れてしまった。アレクシスは相変わらず無表情だが、怒っているようには見えない。


「今日はこちらのお菓子を持ってきました! 色々な味があるので、もし気に入ったものがあったら言ってください」

「分かった」


 フレイは持っていた紙袋から様々な菓子を取り出した。桃色や橙色の果物の香りがするものや、珈琲の香りがするものまである。これらは放課後に街までひとっ走りして買ってきたものだ。


(どれかは口に合うと良いんだけど……)


 何故フレイがアレクシスとお茶会をしているのか。それは勿論、“アレクシス”を見つけるためだ。

 フレイの熱意に折れたのか、最初は戸惑っていたものの、アレクシスは最終的に“アレクシス”を見つけようとすることを認めてくれた。そこまでは良かったのだが、方法は考えていなかった。

 必死にうんうん唸って考えたが、魔法みたいにぽんと見つけられるものではないし、聖なる力も今回は役に立たない。いきなり“アレクシス”を見つけるのは難しい。

 なら、手始めにアレクシスの好きなもの、嫌いなものを見つけてみようと思いついたのだ。

 それからフレイは放課後になるとテラスへ向かい、アレクシスに色々なものを渡すようになった。一昨日は平民の間で流行っている本、昨日は外国から輸入されたぬいぐるみを見せた。

 アレクシスは全て目を通してくれるのだが、必ず気に入るものが見つかるかは分からない。ただ、昨日見せた青い瞳の狼のぬいぐるみは気に入ったようなので、そのままあげた。


「……甘い」

「この桃色のものはラズベリーで、茶色は珈琲味です。他にも色々ありますが、アレクシスが嫌ではないものはありますか?」

「……」


 アレクシスはもぐもぐと咀嚼したあと、白色の菓子を指差した。それは果物も何も使っていない砂糖だけのものだが、意外と甘党なのだろうか。

 好きなもの、と聞くとアレクシスは固まってしまうので、嫌じゃないもの、と聞くようにしている。逆に珈琲味は一つ食べて以来手を付けていないので、苦手なのかもしれない。


「甘味が強いものの方がアレクシス様はお好きなのかもしれませんね。嫌だと思ったものは食べなくて大丈夫なので、嫌ではないものを食べてください」

「……分かった」


 アレクシスは砂糖味、カスタード味、チョコレート味のものを手に取る。それを口に運ぶ様子は、ただ食べているだけなのに絵画のようだ。


(やっぱり綺麗だなぁ)


 テラスに差し込む日光がアレクシスの金髪に反射して、星のようにきらきら光り輝いている。長い睫毛に縁取られた青い瞳は宝石のようで、何回見ても綺麗だ、と感動してしまう。

 今のままでも十分綺麗だけど、もしアレクシスが心から笑えたなら、その笑顔はどれほど美しいのだろう。見てみたいな、と思う。誰かに求められた笑顔ではなくて、アレクシスが笑いたいと思った時の笑顔を──


「……嬢。フレイ嬢」

「へっ!?」


 思わず見惚れていると、アレクシスに名前を呼ばれフレイは我に返った。


「そんなに見られていると、食べにくい」

「そ、そうですよね! 申し訳ありません、アレクシス様が綺麗で、つい……」


 フレイは顔を赤らめながら頬を掻いた。“アレクシス”を見つけるためのお茶会なのに、本来の目的を忘れて見惚れてしまうなんて穴があったら入りたい。

 フレイの言葉にアレクシスはぱちぱちと目を瞬かせる。そのまま胸を押さえて俯いてしまったので、怒らせてしまったのでは、と慌てた。


「あ、あの、アレクシス様……?」


 恐る恐る声をかけると、フレイの前に白色と黄色の菓子が差し出された。アレクシスを見ると、もうその顔は無表情になっている。


「食べてくれ」

「え、でもこれは……」


 この味はアレクシスが好きかもしれない味なのだ。どうせ食べるなら苦手なものを、というかこれはアレクシスのものだし、と思ったが、アレクシスは静かに首を振る。


「私だけ食べるのは申し訳ない」

「そんな、私が勝手にやってることですし……それに、美味しそうだなって思って私の分も買っておいたんです。だから遠慮なく召し上がってください」


 フレイが笑うと、アレクシスは突然フレイの指に触れた。へっ、と間抜けな声が漏れるが気にした様子はなく、アレクシスがまっすぐこちらを見る。


「……私が、君と食べたいのだが」

「……は」

「その、どうしてかは分からないのだが、一人で食べるのは嫌だ、と思ったような気がして……」


 アレクシスは視線を泳がせて、嫌だったら忘れてくれ、と付け足す。その姿が久しぶりに一緒に寝てくれ、と頼んできた孤児院の比較的年上の子供達に重なる。

 その瞬間、とすっと何かが胸に刺さった音がした。


(いやいや、何だ今の音)


 忘れるな、相手は第一王子だ。孤児院の子供に重ねるなんてそんなことをしてはいけない。ましてや可愛いな、なんて思ってはいけないのだ。


「……分かりました! それじゃあ、一緒に食べましょうか」


 フレイがにこっと笑顔を作ると、アレクシスの背景がぱぁ、と輝いた気がした。表情は変わらないが、嬉しそうな気がしなくもない。

 その微妙な感情の変化にまた何かが刺さりそうな気配がして、フレイは思わず胸を押さえた。

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