4.可愛い婚約者
サイトの障害が発生していて、更新が遅くなってしまいました…!すみません!
結局その日、キャンベルとハロラーク侯爵が帰るまでの間に、ロボロフが元の姿に戻ることはなく。そしてそれからの日々は、とにかく大変だった。主にロボロフの突然の変身回数と、それに対処するダルメン侯爵家の使用人たちが。
なにせキャンベルは宣言通り、しっかりと事前にお伺いの手紙を出して許可を得て。まず最初に顔合わせをした時と同じように応接室で会話をしようとすれば、ロボロフが入ってきた瞬間ポンッという間抜けな音と共にハムスターの姿になってしまったので、その日はそのままお互いのこれまでのことを話すことになってしまい。その次の時こそ大丈夫だろうとダルメン侯爵家を訪問すれば、顔を合わせて話すことができたはできたのだが、会話が弾んでキャンベルが笑顔を向けた瞬間、またポンッという間抜けな音がしてロボロフがハムスターの姿になってしまったのだ。
そんなことばかりが続いていたので、これはいけないと考えたキャンベルが次回はぜひお庭を案内していただきたいですと、訪問を告げる手紙にひと言添える。もしかしたら同じ場所ばかりなのが問題なのかもしれないと考えて。
だが実際に訪問した際に、ロボロフから返ってきた言葉は。
「その……さすがに敷地内とはいえ、屋外で小動物の姿になってしまうと大変危険で……」
という、非常に後ろ向きなものであった。
「まぁ。そうだったのですね」
「なので、今日は屋敷の中の案内だけで許してもらえないだろうか?」
「もちろんですわ。むしろ危険ということでしたら、無理にお庭に出る必要などございませんもの。わたくしのほうこそ、無茶なお願いをしてしまって申し訳ありませんでした」
とはいえその言葉は、捕食者が多い自然界を考えると当然のことであったので、素直に反省したキャンベルはそう頭を下げた。少し考えればすぐに分かることだったと、心の中で自身のことを叱りながら。
そんなやり取りの末、ロボロフによるダルメン侯爵邸内の案内が開始されたのだが。室内から直接出入りのできる温室へと向かう道すがら、ドレスを着ていると気付きにくいちょっとした段差があるからと、ロボロフが婚約者にそっと手を差し出す。その優しさが嬉しくて、花がほころぶような笑顔を浮かべながらキャンベルが彼の手に自らの手を重ね握った、その瞬間。
「あ……」
これまたポンッという間抜けな音と共に、またもやロボロフがハムスターの姿へと変身してしまったのだった。
今まで以上に長い時間、人の姿のままで接することができていた今日こそもしかしたら大丈夫なのではないかと、キャンベルが思い始めていた矢先の出来事で。期待してしまっていた分、落胆も大きくなってしまったキャンベルはこの日、初めてダルメン侯爵家の使用人たちが回収してしまうよりも先に、ロボロフをその白く細い手でそっと持ち上げてみたのだった。
「キャ、キャンベル嬢!?」
見た目はどう見ても白く小さなハムスターが、つぶらな瞳でこちらを見上げながら、これまた小さな口を開けて驚いたような声を発した姿に。そのフワフワとした、あたたかい毛並みに。
「かっ……」
「……か?」
「可愛いですっ! ロボロフ様っ!」
これまでずっと心の中に秘めてきたはずの思いが、口をついて出てしまったキャンベルだったのだが。これに驚いたのはロボロフだけではなかったようで、周りに控えている使用人たちも声にこそ出さなかったが、これでもかというほど大きく目を見開きながら侯爵令嬢であるキャンベルのことを凝視していた。
「か、可愛い……? 私が……?」
「はいっ! 実はずっと、ハムスター姿のロボロフ様に触れてみたかったのです!」
もう声に出してしまったので吹っ切れたのか、キャンベルはそう満面の笑みでロボロフに伝えるのだが。まだ困惑したままのロボロフは、それにどう返答すべきなのかよく分からないまま。
「あ、ありがとう……?」
そんな間抜けな言葉を発してしまう。
この自分の発言を思い出してロボロフが頭を抱えるのは、キャンベルがハロラーク侯爵邸へと帰ってしばらくしてから、ようやく人間の姿に戻れたあとのことだったのだが。この時はまだ、そんなことになるとは知らぬまま。
それよりも、彼は今。
「あたたかくて、フワフワとしていて、とても気持ちよくて……本当に、とっても可愛らしいですよ!」
ただただ素直な笑顔を向けながら、うっとりと自分に頬ずりしてくるキャンベルのその行動に、ドギマギしていただけだった。
こうして、二人が顔を合わせるたびに毎回ロボロフがハムスターの姿に変身してしまうので、最終的には安全のために基本応接室の中だけで過ごすことになり。そして初めから当然のようにテーブルの上にはケージが置かれるようになったのは、もはや必然としか言いようがないだろう。