5.魔女の店へ
魔女の店へ向かうか否かの最終的な決断は当然、ダルメン侯爵とハロラーク侯爵の話し合いで下されたが、両者とも二人の提案に異を唱えることはなく。ただ無事に帰ってくることだけを最優先に考えるようにとだけ告げて、魔女と会うための予約などの事務的な部分は全て済ませておくので、二人はしっかりと当日までに話し合っておくようにと付け加えただけだった。
そうして迎えた当日は、普段キャンベルがダルメン侯爵邸を訪れる時よりもかなり多い人数の護衛を用意した上で、外からは見えないようにカーテンで内側を隠し。さらには家紋もついていない馬車で向かうという徹底ぶりで、約束した時間に間に合うように二人はダルメン侯爵邸を出発したのだった。
「……緊張、していらっしゃいますか?」
「……あぁ、もちろん。だがそれは、キャンベル嬢も同じなのでは?」
「そう、ですね。やはり少し、わたくしも緊張しております」
それは仕方のないことだともいえよう。そもそも正式に社交界にすら出ていない二人が、まさか魔女に会いに行く権利を得られるなど、普通では考えられないことなのだから。とはいえ、さすがにここで怖気づくキャンベルではなかったようで。
「お母様と一緒にお茶会に参加させていただく際にも、やはり初めてお会いする方がいらっしゃるので緊張してしまうのです」
魔女という特殊な存在に会いに行くことすら、彼女にかかれば貴族女性のお茶会への参加と同列になってしまう。その事実に、思わずロボロフは吹き出してしまうのだが。
「ははっ、そうかっ。確かに初めて会う人物には、緊張してしまうものだからな」
おかげで過度な緊張をほぐすことができて、今は逆に救われた気分になった。それはある意味、すごい才能でもあるのだが。
「そうなのです。そのせいで、いまだに毎回お茶会への出席は少し気が引けてしまって……」
キャンベル本人は、そんなことには気付きもしないまま。普段通りに何気ない会話を始めるものだから、ロボロフは面白くて仕方がない。
そんなふうに、不思議と和やかな雰囲気のまま。気が付けば魔女が借りているという店の前まで、馬車はたどり着いていたのだった。
「さて。準備はいいかな?」
「もちろんですわ!」
まるでおどけてみせるような様子で、その手を差し出すロボロフに。キャンベルはわずかに気合いを入れつつ、けれど同時に対抗するかのように元気よく、そう返事を返す。それにまた、ロボロフはおかしくなってしまうのだが。さすがにこのまま魔女に会うのは失礼だろうと、店に入る前に深呼吸して気持ちと表情を整えてから、目の前の扉を叩いたのだった。
「開いているから、入ってきて大丈夫だよ」
中から聞こえてきたのは、快活そうな女性の声。予想していたよりも若々しい声に、二人は少しだけ顔を見合わせたのだが。せっかく自分たちのために時間を割いてもらっているというのに、ここで立ち止まっていては申し訳ないと、思い切ってその扉を開いて中へと足を踏み入れたのだった。
店の中は想像していたよりも明るく、けれど簡易なテーブルと椅子が置いてあるだけで、商品は一切陳列されていなかった。それどころか棚すら見当たらず、一見すると何を売っている店なのか、全く予想がつかないような場所で。けれどその簡易な椅子の一つに、まるで燃え盛る炎を彷彿とさせるようなスカーレットの瞳と髪を持つ、大変妖艶な美女が座っていて。
「いらっしゃい。アタシがこの店の店主、シリアンだよ」
同じく鮮やかな色をした唇から飛び出してきた言葉に、今度こそ二人は驚きに目を見張ったのだった。
だが、さらに二人を驚かせたのは、その見た目ではなく。
「疲れただろう? まずはほら、座って。紅茶の準備をしておいたから、まずはのどを潤してから、詳しい話を聞かせておくれ」
あまりにもしっかりとした準備がされていたことと、その手際と人当たりの良さ。そして何よりも、想像していた魔女という存在よりもずっと常識的で大人の対応をされていることに、二人はただただ衝撃を受けたのだった。




