第8話 水蛇と氷狐(前編)
吹雪side
私の名は凍月 吹雪。銀毛三尾の狐人にして、黒巫女見習い。縁有って、金毛九尾の狐人にして黒巫女。そして、剣士序列二位、四剣聖筆頭である、夜光院 狐月斎の弟子を務めています。
ですが、元から狐人だった訳ではありませんし、黒巫女でもありませんでした。元々は、人間でした。
私の家。凍月家は、由緒正しい暗部の家系。要するに『裏』の一族。諜報、護衛、暗殺、破壊工作等、闇の仕事が生業。暗部、凍月と言えば知られた一族でした。
そう、知られた一族でした。
残念ながら、既に凍月家は最盛期を過ぎ、劣化の一途を辿るばかり。にもかかわらず、一族の上層部は過去の栄光に縋りつくばかり。そんな中、私は凍月家当主の次女として産まれました。
一族の中の突然変異、先祖返りとして。そして、一族史上、最高の天才として。
ですが、私は自身の才能をひけらかす気は全くありませんでした。かつての一族最盛期の頃なら、当主の座を狙っても良かったのですが、今の落ちぶれた凍月家当主の座を得ても、大した旨みは有りません。それどころか、才能が有ると知られたら、欲に目が眩んだバカが寄ってきて厄介です。
だから私は自分に自信の無い、弱気な無能を演じました。下手に目を付けられない為に。さて、私は次女。当然、姉がいます。二歳上の長女が。弱気で無能(演技ですが)な私とは対照的に、姉は才気煥発、利発であり、周囲からも天才と持て囃され、次期当主の座は確実視されていました。
ま、私から見れば、多少はできますが、あの程度を天才と呼ぶとは正にお笑い。凍月家の堕落ぶりがよくわかります。一族最盛期の頃なら、当主の娘としてふさわしくないと、処分されていたでしょう。良かったですね、お姉様。一族が落ちぶれていて。でなければ、あなた殺されていましたよ?
もはや、滅びに向かって落ちるばかりの凍月家。私は早々に凍月家を見限りました。
私が才能を隠し、弱気な無能を演じている事を誰一人として見抜けず、多少、出来が良いだけの姉を天才と持て囃す愚かな一族。
私が一族を見限る決定打となったのが、私が五歳の時。
凍月家代々のしきたりとして、当主の子は七歳になると家宝の小太刀。『氷牙』を鞘から抜くというのが有りまして。
この氷牙は凍月家家宝にして、当主の証。ですが不思議な事に、誰でも鞘から抜ける訳ではないのです。抜けない者にはどうやっても抜けません。そして、氷牙を鞘から抜けた者が正式に当主として認められます。逆に抜けなければ、当主の座には就けません。
といっても、今やそのしきたりは形骸化しました。とりあえず、氷牙を手にして、抜く仕草をすればおしまい。
なぜなら、少なくとも五代前から、誰も鞘から抜けなかったからです。で、今回は七歳になった姉がしきたりに従い、氷牙を手に、鞘から抜こうとしました。しかし、今回も抜けず。
周囲の者達は皆、古い品だから錆び付いて抜けないのだろうと言っていました。凍月家当主である母や、その夫である父さえも。
ですが、真相は違いました。その夜、私は氷牙の保管されている蔵に忍び込みました。何ともお粗末なことに、凍月家家宝にして当主の証であるというのに、ろくにセキュリティも有りません。連中は氷牙を錆び付いたガラクタと考えていますからね。おかげで、簡単に氷牙の保管場所まで辿り着けました。
そして、氷牙を手に取り、鞘から抜いてみたら……。
あっさり抜けました。
本当に拍子抜けするぐらい、あっさり抜けました。その刃は錆一つ無く、冷たい白銀に輝いていました。錆び付いて鞘から抜けないなど、バカ共の戯言でしかなかったのです。
しかし、ならば、なぜ、誰も鞘から抜けなかったのか? そして、なぜ、私は鞘から抜けたのか? その答えは氷牙自身が教えてくれました。いきなり声が聞こえたその時は、さすがに驚きましたが……。
氷牙曰く、凍月家はあまりにも劣化、堕落した。もはや、自分を使うに値しないと。要は見限った訳です。だが、そこへ私が現れた。一族の突然変異にして、先祖返り。そして、一族史上、最高の天才たる私が。
氷牙は言いました。やっと自分を使うに値する者が現れた、と。今後はお前に付いていこうと。
私としても異存は有りませんので、氷牙を受け入れました。それにしても、氷牙にも見限られた凍月家。落ちぶれたとは思っていましたが、ここまでとは……。やはり、家を出るしかないと判断しました。
しかし、今はまだその時ではありません。私はまだ幼く、金、物資、人脈、経験、等々、まだまだ足りません。思い立ったら、即実行とはいかないのです。私は原則的にギャンブルはしない主義なので。だから、その時に備え、秘密裏に準備を整えることにしました。……周囲にばれたら面倒ですからね。表向き、私は弱気な無能ですし。
それから八年。私は十三歳となり、小学校を卒業。……昔ならいざ知らず、現在は普通に学校に通っていましてね。そして、遂にかねてからの計画を実行、凍月家を出ることに。邪魔立てする者などいません。これまで徹底的に無能を演じてきたおかげで、私はもはや凍月家において不要な存在と見なされましたから。
だから、私のやる事に注意、警戒する者など皆無。 せいぜい、無能が何か無駄な事をしていると思われるのが関の山。……無能に無能呼ばわりされるのは耐え難い屈辱でしたが、それも終わりが近い以上、我慢です。ここでキレたら全て台無し。
そして、八年間待ち続けた、計画実行の時が訪れた。
小学校を卒業した、その日の深夜。既に日付が変わっていたから、翌日と言うべきでしょうか。ともあれ、私は十三年間過ごした凍月家に別れを告げる事に。
八年の間に、私はその才能を活かし、金を稼ぎ、物資を調達、人脈を形成。『裏』の世界は実力と結果が全て。幼いながらも、確かな実力と結果を出すことで、私は『裏』での確かな地位を得ていたのです。……もっとも、凍月家の者達は、最後の最後までその事を知らずじまいでしたが。
必要最低限の物だけ持ち、私の痕跡を辿る要素を一切、断った上で、私は凍月家を後にしました。曲がりなりにも産まれてから十三年を過ごした家ながら、全く感傷は湧きませんでしたね。思っていた以上に、私にとって凍月家はどうでも良い存在だったようで。
もっとも、それはお互い様だったらしく、その後、曲がりなりにも当主の次女である私が姿を消したにもかかわらず、別に騒ぎにもならず、表向き、急病による病死として片付けられました。
ついでに言えば、ろくに葬儀も挙げなければ、墓にすら入れられませんでしたね。そこは最低限、形ぐらいはやるものでしょうに。後にその事を知り、あぁ、やっぱりなと、妙に納得したものです。あの両親と姉ならばと。私を凍月家の面汚し。弱気な無能と思っていましたからね。
……無能に無能呼ばわりされるのは、心底、不愉快極まりないですが!
さて、私の演技を見抜けず無能呼ばわりする、筋金入りの無能達と袂を分かち、独立した私。既に『裏』での確固たる地位は得ていましたし、若手実力者として『裏』の仕事をこなしながら、日々を過ごしていました。実家では周囲の目を欺く為に無能を演じてきましたが、もはや、その必要は無い。いやはや、あの解放感は今でも忘れられません。
しかし、その日々は、突如、終わりを告げる事に。そして、自分の未熟さ、浅はかさを思い知らされることに……。
『裏』など『闇』と比べれば、子供のお遊戯に過ぎないと。
今にして思えば、それはある意味、運命の導きだったのでしょうか? あの時の事は、今でもはっきり思い出せます。
その日は、『裏』の仕事も無く、たまの休みを満喫していました。凍月家史上最高の天才たる私といえど、やはり休息は必要。
という訳で、たまの休みを満喫したのですが、午前零時を回る所まで遊んだのは、さすがにやり過ぎと反省。急いで、住居であるマンションに向かっていたのですが……。
「…………おかしいですね、なぜ、着かない? というか、ここは一体?」
不思議なことに、いつまでたってもマンションに着きません。それに、辺りの景色は確かに街中のはずなのに、周囲に人の気配が有りません。というか、誰もいません。車一つ通りません。完全に無音です。午前零時を回っているとはいえ、明らかに異常な状況。
「まさかとは思いますが、何らかの怪奇現象に巻き込まれた。あるいは迷い込んでしまったということでしょうか?…………どうやら、そうみたいですね。厄介な」
家を出る前の私なら、非科学的と一笑に伏していたでしょうが、今はそうは思いません。凍月家家宝の小太刀、氷牙。喋る小太刀という怪奇現象そのものを得物にしている上、氷牙から、色々と聞かされましたからね。『裏』より深い『闇』のことを。それに、私は周囲を見渡して気付きました。
周囲の文字が全て、左右反転していることに。鏡の世界ということでしょうか?
しかし、まさかこんな形で出くわすとは……。最悪、出られない可能性さえ有ります。都市伝説の某駅とかが有名。あれは対処を間違えると、二度と出られないと聞きます。
その時でした。甲高い金属音と、激しい破壊音。何事でしょうか?! 私はどうするべきか迷いました。即座に立ち去るか。それとも、そちらに向かうか。
「…………行ってみましょう。このままでは、状況が変わりません。このおかしな状況の原因がそこに有るなら、行く価値は有ります」
この決断が正しいのか、間違っているのかはわかりませんが、このまま座視していても状況は変わらないと判断し、私は音のする方へと向かう事に。
そして、これが私の人生における、二度目の大きな転機となる事に。
私が向かった先。そこは大型ショッピングモールが有る場所。店舗の前が広場になっていて、よくイベントが行われています。音のする場所はそこのようです。
「どこの誰かは知りませんが、随分、派手にやっているみたいですね。……誰もいない以上、遠慮はいらないということですか」
向かっている最中も、激しい破壊音が聞こえてきます。もし、周囲に人がいたら、大惨事間違いなしでしょう。……私はいますが。ともあれ、現場に急ぎます。
そして、辿り着いたショッピングモール前の広場。そこには惨状が広がっていました。辺り一帯、滅茶苦茶に破壊され、見る影もありません。
広場に設置されたベンチも街灯もバラバラにされて散らばり、花壇もズタズタに。更に周囲の建物には幾つもの大きな切れ目が走っています。
そう。切れ目です。砕かれたではなく、切られている。私は近くに転がる、真っ二つになったベンチの残骸を見ました。その断面は恐ろしいまでに滑らか。優れた刃物と優れた使い手。その両方が合わさって初めてできる芸当。
そして……。その当本人達がいました。
『いやはや、楽しいな! 去年から、また一段と腕を上げたようで、私は嬉しいよ! それでこそ、私の愛しいセニョリータだ! たまらないよ! それでこそ殺しがいが有るというもの!』
「……私としては全く嬉しくないな。さっさとあの世に行け、骸骨が」
『ハハハハハ! 相変わらずつれないな、セニョリータは! そういう所もたまらなく愛おしいよ!』
「やはり、お前とは相入れんな」
それは異様な光景でした。相対し会話をしている二人の人物。一人は紫の刀身の大太刀を持つ、巫女風の女性。あくまで巫女風。なぜなら、巫女ならば、白い着物に赤い袴のはずが、黒い着物に紫の袴。あえて呼ぶなら、『黒巫女』でしょうか。
もう一人は闘牛士、マタドールの格好をした人物。右手には剣。左手には赤い布、カポーテを持っています。
見るからに異様な二人ですが、それ以前に、二人とも人間ではありませんでした。
黒巫女の方は頭に狐の耳が有り、臀部には九本の狐の尾が生えていました。
マタドールの方に至っては、『骸骨』でした。骸骨なのに、どうやって喋っているのか謎です。
などと、悠長に考えている状況ではありませんでした。この場は怪人二人による戦場なのですから。二人はいつまでも喋り続ける訳もなく、当然、戦闘を再開。
黒巫女が大太刀を振るえば、周囲のビルや地面が切り裂かれ、マタドール姿の骸骨が剣を突き出すと、辺り一帯に幾つもの穴が開く。正に人外の戦い。特撮物の撮影と思いたいですが、残念ながら、現実です。
それにしても……。とんでもないハイレベルの戦い。攻撃が速過ぎて見切れない上、恐ろしく鋭い。既に見ていますが、斬られた物の断面が、磨かれたように滑らか。私でもこんな芸当はできません。多分、あの二人に斬られた者は、自身が斬られた事すらわからず死ぬでしょうね。
……何せ、私が斬られましたから。
私としたことが、しくじりました……。あまりにもハイレベルな戦いに見とれ、致命傷を負うとは……。
気付いた時には、上半身と下半身が泣き別れに。地面に崩れ落ちた時点で、自分が二人の攻撃のとばっちりを受けたと理解しました。まさか、こんな形で死ぬとは……。運命とは皮肉なものです……。
狐月斎side
「……これはどういうことだ?」
『確かに、これは異常事態だね。なぜ、部外者がここにいる?』
私達は想定外の事態に困惑していた。我が宿敵
『マタドール』との年に一度の死闘。その最中、現れた見知らぬ少女。手加減などできない死闘故、気付いた時には遅く、我が斬撃により上半身と下半身が泣き別れに。まだ、かろうじて死んではいないが、じきに死ぬだろう。何せ我が愛刀『紫滅刃』は斬った対象を紫=死で蝕み、確実に殺す刀故。
しかし、なぜ、部外者がここにいる? ここは私とマタドールの二人で展開した鏡面世界。通常世界とは紙一重ずれた世界であり、入ることはおろか、認識すらできないはずだ。事実、これまで一度たりとて侵入者を許したことは無い。だが、現に彼女はここにいる。それ即ち、この少女が類稀なる逸材たる証拠。
『どうするのかね? セニョリータ』
そう聞いてくるマタドール。迷っている暇は無い。少女はじきに死ぬからな。私は少女に問うた。
「聞こえるか? 君に選択肢を与える。二択だ。このまま人として死ぬか? もしくは人をやめて助かるか? どうする? 時間が無い。早くしろ」
そして彼女は……。
吹雪side
下級転生者『人食い蜘蛛』を抹殺し、次の標的、『リッチ擬き』を討ちに向かう道中。既に日も暮れ、テントを張り、野宿。既に夕食も終え、今は休息の時間。時には休むことも重要ですからね。
「あれから、もう、三年ですか」
私はテント内でカレンダーを見ながら、そう呟きました。後、数日後に赤丸が書かれたカレンダーを。赤丸の書かれた日のマスには『マタドール』の名も。今年も来ますか、あの骸骨。
そして、そんな私の言葉など気にも止めず、愛刀である『冥刀』紫滅刃の手入れに余念の無い師匠。丹念に砥石で研ぎ、刀身に刃毀れ、歪みは無いかと見ています。まぁ、相手が相手ですからね。
『マタドール』。闘牛士の格好をした怪人にして、過去の素性は一切不明。わかっているのは、最強クラスの剣士にして、強く美しい女性剣士専門で狙う殺人鬼。見た目が骸骨な上、声や喋り方は中性的で男か女かわかりませんでしたが、師匠曰く、マタドールは女性だそうです。骨格でわかったとか。
で、強く美しい女性剣士専門の殺人鬼たるマタドールは、現在、我が師。夜光院 狐月斎をターゲットにロックオン。年に一度、死闘を繰り広げる仲。そして、私は両者の死闘のとばっちりを受け、死に掛けた事がきっかけとなり、今に至る。
「……まぁ、悪かったとは思っている。だからこそ、私の尾を一本分け与えてやった」
ここでようやっと、師匠のお言葉。三年前、死にかけた私に、師匠はこのまま人として死ぬか? 人をやめて助かるか? の二択を迫り、私は人をやめて助かる方を選択。師匠は自身の九尾の内、一尾を切り離し、私に与えてくださいました。その結果、私は銀毛一尾の狐人となり、一命をとりとめたのです。そして、師匠から弟子入りを打診され、承諾。狐人の黒巫女見習いとなりました。
それから三年。私は三尾に昇格。師匠の元、黒巫女見習いを続けています。いい加減、見習いの『青』から、一人前の『灰』に昇格させてほしいのですが。ちなみに師匠は最高位の『紫』。
「まぁ、それに関しては感謝しています。でなければ、死んでいましたし、おかげで、私は天才から大天才に昇格しましたしね。という訳で、いい加減、『灰』に昇格させてもらえませんか?」
「調子に乗るな、未熟者が。少なくとも、私に右手を使わせるまでは『灰』は認めん」
「ケチ!」
「何とでも言え」
師匠に『灰』への昇格を求めるも、あっさり却下。とにかく厳しいお方。しかし、実力は本物ですから文句は言えません。人間時代で既に天才。狐人になり大天才に昇格した私が、全くかなわない相手ですからね。金毛九尾は伊達じゃありません。
「それにしても……。師匠と骸骨に出会った時点で十分驚きましたが、まさか、その後、世界が滅ぶとは思いませんでした。それもたった一人のバカのせいで」
「こればっかりは、運が悪かったとしか言えんな。盛大にやらかした下級転生者を恨め」
師匠と出会い、人間から狐人となった私ですが、その後、更に衝撃の事態が。
世界が滅びました。
世界中で異常な地殻変動が勃発からの、世界各地の火山が大噴火。膨大な火山灰が空を覆い尽くし、急激な寒冷化。
更に、有毒物質を大量に含む雨が降り注ぎ、世界中を汚染。動植物が大量死。当然、食料生産も致命的な打撃を受け、そうなれば行き着く先は食料を巡る争い。遂には、世界大戦が勃発。その果てに、核攻撃の応酬となり、とうとう、世界は終わりました。
師匠曰く、原因は下級転生者のやらかし。地属性の術で改革とか、バカな事を考えた奴がいたそうで。そして、そのバカが滅茶苦茶したせいで、大地の力の流れ、霊脈が狂い、異常な地殻変動が起きたと。ちなみに当の本人は、突如噴き出したマグマに焼き尽くされて死んだそうです。……どうせ死ぬなら、責任取ってから死ね、クズが!
「……まぁ、幾ら恨んだところで、あの連中には通じませんし。無駄な事はしません。下級転生者は見つけ次第、抹殺一択ですから」
「そういう事だ。下級転生者は抹殺一択」
師匠曰く、下級転生者は全て気狂い。事実、この三年間にも何人かの下級転生者に出会いましたが、例外なく気狂い。明らかに異常な思考と言動。特に多かったのが、ラノベやゲームの世界に来たと思っている奴。
口を開けば、『原作知識で無双』。……救いようの無いバカだと思いました。ラノベやゲームは所詮、フィクション。架空の物語に過ぎない。要は実在しない。実在しない世界になど行ける訳がない。そんな当たり前の事がわからない辺り、知能の低さがよくわかります。
後、『チートで無双』。こいつら、自分で『チートが無ければ何もできない無能』と言っている事がわからないんですか? 事実、ご自慢のチートが通じない。もしくは失った時点で詰み。この三年間、そうして破滅したバカを何人も見てきました。
バカは下級転生者だけではありません。『自分に都合の良過ぎる話を信じる』バカ。半年程前に、バカな事を言い出したバカがいました。魔力を他人に分け与える能力持ちの奴で、言い分は『仲間が強力な技や魔法が使えるのは自分が魔力を貸したおかげ。だから貸した魔力を返せ』との事。
ですが、全く相手にされませんでした。当然です。なぜなら、その理屈で言えば、『お前こそ、自分達の強力な技や魔法で勝利して得た利益を返せ』となりますから。
要はこのバカ、全く、取引を理解していなかった。
『自分は仲間に魔力を分け与え、代わりに仲間はその魔力を使い、強力な技や魔法で敵を倒し、勝利する』
この時点で取引成立。なのに、魔力を返せなど、利益の二重取りでしかない。故にそんな理屈は通りません。
ですが、バカにはわからない。この手のバカの思考は徹頭徹尾、自己正当化と他責思考。仲間に相手にされないと知るや、今度は冒険者ギルドに訴えた。ですが、結果は同じ。そんな訴えは認められないと却下。挙げ句、周囲の笑い者に。私でも笑います。バカ過ぎて。
しかし、バカは自分のバカさ加減を棚上げして、逆恨み。そこに現れたのが、自称、『妖精』。その『妖精』はこう囁きました。
『貸した魔力を返さないなんて、ひどい連中。お前は正しい。そんなひどい奴らからは、絶対に取り立てろ。リボ払い方式で毟り取ってやれ。自分も協力するから、この契約書にサインしろ』
バカは自分を肯定してくれた『妖精』を信じ、契約書にサイン。その後、一方的に冒険者パーティから抜けた上で、『妖精』の協力を得て、リボ払い方式による強制魔力取り立てを開始。手始めに仲間達から、強制的に魔力を取り立てた。
仲間達は当然、大騒ぎ。いきなり勝手にパーティから抜けたと思ったら、今度は大量の魔力を強奪された。下手人は明らか。あのバカだ!
すぐさま探し始めたものの、『妖精』の協力を得たバカを捕らえる事はできず。一方、仲間達からリボ払いにより大量の魔力を取り立てたバカは、大喜び。『妖精』も褒め称え、更に取り立てろとそそのかした。
その言葉にバカは乗り、暴走開始。無関係な人達に次々と一方的に僅かな魔力を貸し付けては、法外な利息を付けてリボ払いで強制取り立て。完全に犯罪ですが、バカ特有の自己正当化、他責思考で、ひたすら暴走。そうして膨大な魔力を溜め込み、遂には『魔力王』を名乗り、世界を支配すると言い出す始末。
……もっとも『妖精』の言った一言で、その絶頂は終わりを告げたのですが。
『契約に基づき、お前の溜め込んだ魔力全て、及び、お前の魂を頂く』
『妖精』はかつてバカがサインした契約書を手に、バカにそう告げました。契約書には『妖精』がバカの魔力取り立てに協力する旨が書かれていましたが、それだけではなかったのです。
契約書には極めて小さく、こう書かれていました。
『乙が甲の魔力取り立てに協力する対価として、乙は甲の保留した魔力及び、甲の魂を受け取る。なお、乙がその権利を行使するのは乙の任意に基づく』
確かに『妖精』は馬鹿の魔力取り立てに協力しましたが、無償とは言っていません。当然、対価を要求してきました。バカは『話が違う!』と騒ぎましたが、もう遅い。サインした以上、契約は絶対。契約に基づき、バカは『妖精』にこれまで溜め込んだ魔力全てと自身の魂を奪われて、死にました。そりゃもう、無様に泣きわめき、糞尿を漏らしながら死んだそうです。本当に無様(笑)。
かつての仲間達がバカの本拠地に踏み込んだ時には、既にバカの姿は無く、バカの成れの果ての塵の山と、垂れ流された糞尿だけが残っていたそうです。
ネタバレすると、『妖精』の正体は『悪魔』。そして、典型的な詐欺。バカに対し、都合の良い話を持ち掛け、最初は利益を与えて調子に乗らせ、最終的に根こそぎ刈り取る。本当に使い古された手口ですが、逆に言えば、それだけ有効な手口という事。
結局、バカがそのバカさ故に詐欺に引っ掛かり、破滅しただけ。かつての仲間達は魔力を奪われただけで済みましたが、自身は溜め込んだ魔力の全てと魂を奪われて死ぬ羽目に。しかも悪魔との契約死ですからね。地獄行き確定。
悪魔との契約で死んだ奴は地獄に落ち、徹底的に搾り取られ、最終的には不定形の化け物となり、地獄で永久に奴隷としてこき使われる羽目になります。まぁ、バカにはお似合いですね。
取引というものを理解せず、更には都合の良過ぎる話を真に受けたバカの末路。本当にバカです。つまらない欲を出すから、詐欺師に騙される。当たり前の事ですが、他人がただで利益を与えてくれる訳がない。
『うまい話には裏が有る』
正に至言。
ちなみに私が一連の事情を知っている理由ですが、その『妖精』が私の所に来たからです。
前回のバカで味をしめたのか、今度は私に対し、こう、そそのかしてきました。
『あなたのような天才を認めないとは、なんてひどい師匠。そんなひどい師匠は討ち取るべき。自分も協力する』
確かに私としても師匠に対し、不満や思う所は有ります。だからといって、こんな見え透いた詐欺話に乗る程、私はバカじゃないんです。
とりあえず、両手足を切り飛ばし、ダルマにした所で尋問開始。暗部出身ですから、尋問、拷問はお手の物。こうして『妖精』から一連の情報を聞き出しました。その上で師匠に報告。
「なるほど。事情はわかった。とりあえず、その『妖精』を騙る悪魔は処分しろ。その上で、そいつがバカから騙し取った魔力を有るべき場所へと返す」
「返すんですか……」
「何だ、吹雪。お前はこんなセコい詐欺師の集めた魔力が欲しいのか?」
「……いえ」
「ならば、良し」
そう言って、師匠は『妖精』がバカから騙し取った魔力を有るべき場所、つまりは元の持ち主達の元へと返されました。もったいない気はしますが、確かに詐欺師の集めた魔力を得て強くなるというのも、私のプライドが許しません。
後日談ですが、バカの弟とやらが、かつての仲間達の元を訪れ、兄の罪を謝罪。その後、パーティ入りし、大活躍したそうで。その結果、パーティは上位入りを果たしたとか。愚兄と賢弟ですね。
まぁ、それ以外にも、自分だけレベルアップやら、自分だけゾンビに襲われないやら、実にくだらない事を抜かす連中がいましたが、きっちり破滅。
自分だけレベルアップとか言う奴は、最終的に化け物に成り果てましたし、自分だけゾンビに襲われないと言う奴は、最終的にゾンビになりました。
自分だけレベルアップするという事や、自分だけゾンビに襲われないという事を、自分だけに与えられた特典と考え、おかしい、異常だと考えない辺り、実に愚か。そんな都合の良い展開、有りません。現実を舐めるな。
自分だけレベルアップは単なる肉体の暴走。ゾンビに襲われないのは、単にゾンビ化が遅いだけで、ゾンビからは既に同族と見なされているから。種明かしすれば、実にくだらない。他にも最強だの、成り上がりだの、ハーレムだの、浅ましい欲望剥き出しの醜い連中。最終的に、全員破滅しましたが。バカに未来は無いのです。
などと、考えていると……。おや、師匠が誰かと通話中。珍しい。師匠、人付き合いが嫌いですから。あ、終わったみたいですね。
「喜べ、吹雪。今しがた、狂月殿から連絡が有ってな。以前から頼んでいた、お前の新しい小太刀を打つ件、引き受けてくださるそうだ」
「本当ですか!」
「本当だ。あの気難しい御仁が引き受けてくださるとはな。正直、断られると思っていた」
師匠の古い友人にして、『妖匠』の異名を取る刀匠、朧 狂月様。これまで数々の名刀を世に送り出してきた、素晴らしい名工。以前から、私の小太刀を打ってくれるよう、師匠が頼んでおられたのですが、了承が得られずにいました。それが、やっと引き受けてくださるとは。実に喜ばしい事ですが……。そんな甘いお方じゃないのも確か。
「ただし、条件が有るそうだ。素材を自分で調達しろとのことだ。私の助力は当然、無し。自力で探せ」
「やはり、そうですか」
狂月様の出した条件。素材を自分で調達しろとの事。師匠の助力は得られません。まぁ、師匠の占術を使えば、素材探しなんて楽勝ですからね。
「まぁ、頑張れ。幸い、期限は切られていないからな」
「頑張ります」
幸い、期限は切られていないとのこと。すぐに良い素材なんて見つかりませんからね。
「師匠の紫滅刃みたいに、魔宝石が理想なんですが……」
「やめておけ。魔宝石は確かに最高の素材だが、同時に最悪の素材。どれも下手に手を出せば死ぬぞ。今のお前では扱えん。とりあえず、アダマンタイトか、オリハルコンを探せ」
「やはり無理ですか。わかりました。お言葉に従います」
師匠の『冥刀』紫滅刃の刀身に使われている魔宝石。正確にはその一種。『紫死晶』。魔宝石は素材としては最高なんですが、同時に、非常に危険な物。
例えば『紫死晶』は周囲に瘴気を撒き散らし、死をもたらす恐ろしい宝石。かつて、とある鉱山で発掘された際には、国一つ滅ぼしたそうです。他にも、狂気を撒き散らし、周囲の者達を狂わせ、殺戮地獄を生み出す『紅狂玉』。その美しい輝きに魅入られた者を、片っ端から引きずり込む『蒼奈落玉』。地上に有りながら、周囲の者達を次々と溺死させる『溺水玉』。その他色々有りますが、どれも危険極まりない品。言われた通り、アダマンタイトか、オリハルコンを探しましょう。まぁ、それすら簡単に見つかる物ではないんですが。
「予定を変更するぞ。お前の小太刀の素材探しを優先する。下級転生者の抹殺依頼は、他所に回す。クーゲル殿か、クリス殿に頼むとしよう。借りを作ることになるが、仕方あるまい」
「あの方々なら、安心して任せられますね」
下級転生者抹殺依頼は、師匠の友人方に回し、私の小太刀の素材探しに向かうことに。
…………この件がきっかけとなり、私は終生のライバルと出会うのですが、それはもう少し先の話。
ハルカside
「今日は本当にめでたい日だ。お祝いだよ! エーミーヤ! 今日の晩飯は豪勢に頼むよ! 食材は好きな物を使いな! 今回は私が全額持つ!」
「ほう、それはありがたいな。ならば、遠慮なくやらせてもらおう。お嬢さんからのリクエストはハンバーグだったからな。最高級のハンバーグを作るとしよう」
僕の魔道開眼の儀式が成功した事で、上機嫌のナナさん。お祝いだと、大盤振る舞い。エーミーヤさんも、ならば、遠慮なくやらせてもらおうとやる気満々。意気揚々とキッチンへ。
「さて、晩飯の支度はエーミーヤに任せるとして、今日はゆっくり過ごしな。魔道開眼を果たしたは良いけど、安定するまではしばらく掛かるからね。何にせよ、無事に済んで良かったよ。せっかく取った弟子に早々に死なれたら困る」
「ありがとうございます」
ナナさんから、今日はゆっくり過ごせとの言葉。事実、かなり疲れていた。魔力の行使は体力、精神力の消耗が激しいとは聞いていたけど、確かに激しい。鍛錬を重ね、自身を鍛え上げないといけないな。改めて、決意を固める。
「だけど、これだけは言っておくよ。確かにあんたは魔道開眼を果たした。だけど、それはあくまでスタートラインに立ったに過ぎない。これからだよ、本番は。……油断してたら、すぐ死ぬよ。本当にバカはすぐ死ぬからね。あんたがそんなバカじゃないことを切に願うよ、私は」
「肝に命じます」
その上でナナさんからの言葉。魔道開眼を果たしたけれど、それはあくまでスタートラインに立ったに過ぎないと。本番はこれからだと。そして油断してたらすぐ死ぬと。
当然だね。アニメ、小説ならともかく、これは現実。主人公補正なんて御都合主義は無い。現実は容赦なく牙を剥いてくる。死ぬ時は死ぬ。……僕が交通事故で死んだように。
「……ともあれ、今日はお疲れ様。ゆっくり休んで、また明日からに備えな。先は長いよ」
「お気遣い感謝します」
とりあえず、今は休もう。休息もまた、強くなる為には必要な事だから。
狐月斎side
「…………あの気難しい狂月殿が、吹雪の小太刀を打つ件を引き受けてくださるとはな。全く、我が弟子ながら、末恐ろしい奴だ」
夜も更けた、深夜二時。私達は決まった拠点を持たぬ流浪の身故、野宿中。既に吹雪は寝ている。そんな中、私は思案に耽っていた。
狂月殿は腕は確かだが、同時に非常に気難しい御仁。自身の作に絶対の自信を持つが故に、相手にも相応の格を求める。要するに、下級転生者みたいな、武具の性能に頼り切りの愚か者など相手にしない。自身の作を手にするにふさわしいと認めた者だけ相手にする。
そんな気難しく、厳しい狂月殿が吹雪の小太刀を打つ件を引き受けてくださったのは、正に驚嘆に値する。銀毛三尾とはいえ、若干、十七歳の小娘だぞ? ……それだけ、狂月殿も吹雪を高く評価してくださっているという事か。
そもそも、狐人になって三年で三尾に至った時点で驚異的。私でさえ一尾増やすのに平均、百年掛かったのだからな。天才、狐人となってからは大天才を自称するだけはある。正真正銘の大天才だ吹雪は。いずれ、私を超えるだろう。
……故に心配でもある。あれには並び立つ者、競い合う者がいない。そういう輩は得てして、暴走し、最終的に破滅するものだ。
「死神ヨミが言っていた、新しく生み出した上位転生者とやらに期待するか」
私自身のできる事の限界を痛感する。私は吹雪の師匠だが、逆に言えばそれだけだ。吹雪の好敵手にはなれん。今、吹雪に必要なのは、並び立ち、競い合える相手だ。
「とりあえず、今は吹雪の新しい小太刀の素材探しを静観しよう。魔宝石はやめておけと釘を刺したし、その危険性がわからぬ奴でもない。現時点では最上でオリハルコン、次点でアダマンタイト。いずれにせよ、簡単には手に入らん。吹雪の真価が問われる。その辺も込みで狂月殿は言われたのだろう」
まぁ、できないことを言っても仕方ない。今は、吹雪の新しい小太刀の為の素材探しを静観するのみ。
「……だが、いつか、そう遠くない内に、吹雪は魔宝石さえも使いこなすだろう」
というか、既に有る。
「……我が弟子に対し、高い評価をされるのは師としても鼻が高いが、だからといって、あなたの秘蔵の品を吹雪に与えるのはさすがにまだまだ早い。ゆえに私が預かります。その時が来たならば、吹雪に渡しましょう」
私の目の前には、妖しく煌めく魔宝石が一つ。それも特大サイズ。その価値は計り知れない。つくづく、弟子の天才ぶりを思い知らされる。ここまで高く評価されるとはな。
「何と、他にも与えたい者がいると? 近々、与えると?」
しかも、他にも魔宝石を与えたい者がいると。
「やれやれ。次々と新しい才能が現れるな。……遠からず、多元宇宙は大きな変革を余儀なくされるだろう」
新たな才能の出現。それは単なる偶然ではあるまい。多元宇宙に大きな変革が起きようとしている前触れ。果たして、一体何が起きようとしているのだろうか? こればっかりは、この夜光院 狐月斎にもわからん。
「……先が読めぬが、それもまた良し」
この私をして、先は読めぬ。だからこそ、世の中は面白い。何もかもがわかってしまったら、楽しみが無くなる。ただ、ある程度は読めている部分も有る。
「……遠からず、吹雪は好敵手と出会うだろう。恐らくは次に行く世界。そこにいる」
吹雪の行く末を占う度に出てくる『水蛇』。恐らくは吹雪の好敵手となるであろう相手。だんだんと反応が強くなっていてな。この分だと、次行く世界にいると思われる。
ちなみに行く理由だが、その世界はオリハルコン、アダマンタイトを始め、希少な素材を産出するのでな。吹雪の新しい小太刀の素材探しにうってつけ。ただし、探すのは吹雪の自力。私は一切、協力せん。
「さて、次に行く世界。どうなることか?」
やっと書けました、第8話。
今回は前編。吹雪編。
まずは彼女の過去。由緒正しい暗部の一族の生まれながら、既に一族の栄光は過去の物。一族史上最高の天才として生まれた彼女は、そんな一族を早々に見限り、あえて無能を演じながら、袂を分かつ準備を進め、十三歳の時に家を出て独立。
その後、夜光院 狐月斎と怪人マタドールの死闘に巻き込まれ、瀕死の重傷を負い、狐月斎より一尾を分け与えられ銀毛一尾の狐人に転生。弟子入りを果たす。
それから三年。今では銀毛三尾に昇格。天才ぶりを存分に発揮。そして、師の古い友人である『妖匠』朧 狂月に新しい小太刀を打ってもらえる事に。ただし、素材を自分で調達しろとの条件付き。
以下、今回の新要素の説明。
『マタドール』∶その名の通り、マタドール姿の骸骨。強く美しい女剣士専門で狙う殺人鬼にして、最強クラスの剣士。本人曰く、『殺意は愛』。愛しているから、誰にも取られないように殺したいというのが、行動理念。ちなみに女性。要するに百合。
元、人間であり、命懸けのギリギリの状況でしか自分が生きている実感を得られない異常者。そこで性別を偽り、マタドールデビュー。剣士として無類の才能を発揮。最強無敗のマタドールとして名を馳せていた。
やがて牛では飽き足りず、『裏』のマタドールに。そこでは牛ではなく『竜』を相手にする、観客である権力者達の娯楽と愉悦の為のデスゲームが行われていた。だが、彼女はそこでも無敵無敗、全戦全勝を果たす。竜でも彼女の『飢え』を満たせなかった。
強敵との命懸けの戦い。それを求めるあまり、とうとう、人である事をやめ、骸骨の殺人鬼。マタドールと化す。現在は夜光院 狐月斎をターゲットにロックオン。年に一度、死闘を繰り広げる仲。狐月斎の事をセニョリータと呼び、非常に執着している。狐月斎との約束で、彼女を殺すまでは他の者は殺さない。
『貸した魔力を返せ云々の馬鹿』∶一言で言えば、馬鹿。自分が仲間に魔力を付与。その魔力で仲間が敵を倒す。そんな簡単な事すら分からず、貸した魔力を返せと騒ぐが相手にされず。次はギルドに訴えるが、やはり同じ。
挙げ句、突然現れた自称、『妖精』の口車に乗せられ、リボ払い方式で魔力を取り立て始める。しかし、全ては『妖精』の仕組んだ詐欺。最終的に『妖精』を騙る悪魔に溜め込んだ魔力全てと、自身の魂を刈り取られて死亡。しかも、悪魔との契約死故に、死後は地獄行き。自業自得。
『魔宝石』∶その名の通り、魔性の宝石。希少性、美しさ、硬度、強度、魔力、全てにおいて申し分なく、武具、魔道具の素材として究極至高と呼ばれる。事実、狐月斎の『冥刀』紫滅刃の刀身には、魔宝石『紫死晶』が使われている。
しかし、その一方で、周囲に恐ろしい災いをもたらす、最悪の危険物。それ故に、手を出す者は少なく、加工できる者となれば、更に少ない。だが、魔宝石を求める者は後を絶たず。犠牲者も後を絶たず。それだけの美しさと価値が魔宝石には有る故に。正に魔性の宝石。
ちなみに狐月斎は魔宝石を所有している者と知り合いらしい。