表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第6話 ハルカ、魔道について学ぶ。そして……異世界転生の不都合な真実

 ハルカside


 異世界に転生して、三日目。今日も、ナナさんの元で学ぶ。今日は魔力に関する基礎を教えてくれるそうだ。


 魔力だの、魔法だの、単なるファンタジーと思っていたけど、この世界には実在する。僕にとって、全くの未知。……しっかり学ばないといけない。半端な知識や技術は最悪、命取りだから。







 午前八時。午前の部開始。


「さて、昨日言った通り、今日は魔力の基礎について学ぶ。特にあんたは魔力に関しては、完全に素人だ。心して学ぶように。良いね?」


「はい、よろしくお願いします」


 ナナさんの部屋で、午前の授業。魔力の基礎について。元の世界では全く得られなかった知識。ナナさんの言うように、心して学ぼう。


「まず、魔力とは何か? それは森羅万象にあまねく満ちる大いなる『力』。生物、非生物問わず、それは宿る。しかし、そう簡単には扱えない。扱うには正しい知識と技術、才能が必要だ。扱いを間違えたら、最悪、死ぬよ」


 やはり、魔力は簡単には扱えないらしい。扱うには正しい知識と技術、才能が必要だと。……扱いを間違えたら、最悪、死ぬと。


「さて、ハルカ。あんたに聞こう。魔力ってどんなものかわかるかい?」


 ここでナナさんから、質問。魔力とはどんなものかわかるか? と。


「……すみません、わかりません」


 僕はそう答える。だって、本当にわからないし。たとえば、電気なら雷とか、ビリビリ痺れるとかイメージできるけど、魔力とはどんなものかと聞かれても、まるでイメージができない。不思議な力? ぐらいしか……。しかし、ナナさんは別に叱ったり、失望したりはしなかった。


「それで良い。あんたの長所は素直な所だ。わからないなら、わからないと認める。意外とできないんだよ、これが」


 むしろ褒められた。僕の長所は素直な所だと。


「では、魔力について説明するよ。魔力に決まった形は無い。使い手次第で如何様にもなる」


 ナナさん曰く、魔力に決まった形は無く、使い手次第で如何様にもなるそうだ。


「そして、魔力を扱う基礎中の基礎にして、魔力を扱う為の第一歩。それが魔力を感じる事。まずはここから。逆に言えば、これができなきゃ話にならない。ちなみに感じ方は人それぞれ、十人十色」


「人によって感じ方が違うんですか」


「そうだよ。だから、一概にこうとは言えない。こればっかりは、本人次第」


 魔力の感じ方は人それぞれらしい。そして、これができなくては駄目らしい。できるかな……。


「ただね……。本来、魔道を学ぶ者は幼い頃から英才教育を受ける。初歩の初歩である、魔力を感じる事も、普通は二〜三年ぐらい掛けて学ぶ。だけど、あんたは既に十六歳。はっきり言って、魔道を学ぶには遅い。だから、初歩の初歩たる、魔力を感じる為の儀式も、かなり荒っぽいやり方をするよ。午後からやるから、覚悟は良いね?」


「……はい!」


 魔道を学ぶ者は幼い頃から、英才教育を受ける。だけど、僕は既に十六歳。魔道を学ぶには遅いと言われた。だから、初歩の初歩たる、魔力を感じる為の儀式も、かなり荒っぽいやり方をすると。覚悟は良いね? と問われた。荒っぽいやり方だけに、危険を伴うらしい。しかし、避けては通れない。







「まぁ、それはそれとして、授業を進めるよ。魔力の属性についてだ。魔力に決まった形は無いが、魔力を元に発動する力は、基本的に七属性に分かれる。それすなわち、地、水、火、風、光、闇、無の七つだ。それぞれに相性が有る。潰す関係、増幅する関係って具合に。例えば、火と水は反属性。潰し合う関係だ。それら属性間の相性を理解し、使いこなす事が肝心」


「敵の攻撃に反属性をぶつけて相殺したり、自分の攻撃を増幅したりするんですね?」


「まぁ、単純にはね。実際にはもっと奥が深い。属性の組み合わせ、応用で、戦術の幅が大きく広がる。しっかり勉強しな」


 更に属性についての話。属性は七種類。地、水、火、風、光、闇、無。それぞれ、相性が有り、それを理解し、使いこなす事が肝心だと。ゲームなんかでよく見る内容だけど、これはゲームではなく、現実。


「あと、人それぞれ、得意属性、苦手属性が有る。得意を伸ばすか、苦手を克服するか、それも人それぞれ。後で、あんたの属性相性も見るからね。それを元に、今後の育成方針を決める」


 それと、人それぞれ、得意属性、苦手属性が有る。後で僕の属性相性も見ると。それを元に、今後の育成方針を決めるそうだ。







「さて、もう少し踏み込んだ内容を話そうか。魔法の他に、異能(スキル)が存在する。こいつは生まれつきの能力でね。使い手も希少。そもそも魔法は、異能(スキル)を研究し、普通の人間にも使えるように生み出された技術なんだ。要は擬似異能(スキル)。ちなみに異能(スキル)は血筋で受け継がれる。だから異能(スキル)持ちの一族は、とにかく血筋を重んじる。滅茶苦茶厳しい掟に縛られているよ。掟を破った奴には、容赦なし。それだけ異能(スキル)は希少価値が有るからね」


「僕にも有るんでしょうか?」


「それはわからないけど、有りそうだねぇ。あんた、上位転生者だし、異能(スキル)の一つや二つ、持っていてもおかしくない」


 魔法の元ネタである異能(スキル)。そんな物まで有るとは……。ただし、使い手は少なく、血筋で受け継がれる為、異能(スキル)持ちの一族は血筋を重んじ、厳しい掟に縛られていると。


「ハルカ。魔法や異能(スキル)について話した訳だけど、一つ、大切な事を教えておくよ」


「何でしょう?」


 魔法や異能(スキル)について教えてくれたナナさんが、一つ大切な事を教えておくと。


「確かに魔法や異能(スキル)は強力かつ、便利だ。物理法則を超越した事さえ可能とする。それ故に、万能だの、自分は神だの、調子に乗るバカが多くてね。だが、はっきり言うよ。魔法や異能(スキル)は万能じゃない。そんな都合の良いものじゃない。過信すると破滅するよ。それにだ。初日にも言ったけど、魔力の行使は肉体、精神共に、多大な負担が掛かる。ろくに鍛錬もせずに魔力を使いまくれば、その反動が来て死ぬよ。だからこそ、基礎鍛錬で心身共に鍛えるんだ」


「忠告、ありがとうございます」


 ナナさんからの教え。魔法や異能(スキル)は強力かつ、便利だが、万能じゃない。過信は破滅に繋がる。そして、ろくに鍛錬もせずに魔力の濫用は死に繋がる。やはり世の中、そんなに都合良くできてはいない。バカはそれを理解せずに破滅する訳だ。僕も気を付けよう。







 さて、その後も、魔道について学ぶ。


「魔法は複数の種類に分かれている。代表的なのが、白魔法、黒魔法、精霊魔法だね。聞いた事有るかい?」


「はい、有ります。神との契約で使える白魔法。魔との契約で使える黒魔法。精霊との契約で使える精霊魔法。これで合っていますか?」


「それで合ってるよ。しかし、それ以外にも有る。自前の魔力を使う魔法。そして……古代魔法。その名の通り、遥かな昔に編み出された極めて強力な魔法。今では忘れられた、太古の神魔の力を借りて発動する魔法。現在、その使い手はほとんどいない。扱いが難しい上、古い魔法だけに情報が失われてね。ちなみに私がよく使うのは、黒、精霊、自前、古代だよ。あんたはまず、自前から学ぶ。契約ってのは、そう簡単にはいかないからね。神魔、精霊は甘くない。相応の力、知識が無ければ無理」


「頑張ります」


「頑張りな。いずれ、古代魔法も教えてやるよ」


 結局の所、努力が大事。楽して力を得られる程、世の中甘くない。今は、とにかく知識を学ぶ。それが、今、僕のやるべき事だから。







 昼食と昼の休憩を挟み、午後の部が始まる。場所を移し、地下一階のトレーニングルーム。午後は実戦に向けての鍛錬。今回はまず、僕の各属性に対する相性を見る。


「さて、午前の部で話したけど、まずはあんたの各属性に対する相性を見る。これからの育成方針を決める大事な事だからね。悪いけど、血を少し貰うよ」


「はい、わかりました」


 ナナさんはアルコールを染み込ませた脱脂綿を手に、僕の右腕を消毒。それから注射器の針を静脈に刺し、採血。ちょっと痛いけど我慢。


「……良し。で、こいつをここに垂らす」


 続いてナナさんが取り出したのは、七角形が描かれた呪符。その中心に僕から採血した血を垂らす。すると、中心に垂らされた血が七角形のそれぞれの頂点に向かって、伸びていく。しかし、各頂点ごとに、伸び方が違う。よく伸びる頂点も有れば、あまり伸びない頂点も有る。やがて、血の移動が止まり、ナナさんがそれを見て判断を下す。


「……なるほどねぇ。天之川家は水神様を祀る神官の家系と聞いていたから、そうだろうとは思っていたけど、やはり、水が一番伸びるね。次いで闇か。更に続いて風、地か。この辺も中々のもんだね。その代わり、火と光は相性悪いね……。まぁ、仕方ないか」


 ナナさんの言葉から、僕は水が一番相性が良いらしい。闇が次点。続いて風、地。この辺も中々のものとの評価。ただし、火、光は相性が悪いらしい。……残念。やはり、世の中、甘くない。


「方針が決まったよ。まずは、得意属性を伸ばす。あんたの場合は水。私のやり方は、自身が絶対の信頼を寄せる『武器』を持つ事。殺られる前に殺る。水属性を鍛え上げ、絶対の武器にしてみせな。ただ、午前の部で各属性の特徴について教えたからわかっているだろうけど、水属性は汎用性に関しては、ずば抜けている反面、決め手に欠ける。使い手のセンスが非常に問われる属性なんだ。器用貧乏にならないように気を付けな」


「はい」


 魔道の育成方針が決定。僕の一番得意な属性である水を伸ばす。ナナさんのやり方は、自身が絶対の信頼を寄せる『武器』を持ち、殺られる前に殺る。水属性を鍛え上げ、絶対の武器にしてみせろと言われた。


 その一方で、水属性の欠点についても言われた。水属性は汎用性に優れる反面、決め手に欠ける。特に火力。使い手のセンスが非常に問われる属性。最悪、器用貧乏。


「それと、得意属性を伸ばすと言ったけど、苦手属性を放置して良いって訳じゃないからね。苦手の克服は得意を伸ばすより難しいから、後回しにしただけ。まずは得意を伸ばし、それから苦手の克服に掛かる。いざって時、できない、使えないじゃ困るからね。少なくとも、最低限は使えるようになりな。……無理、できませんは聞かないからね。言ったら、即、追い出す」


 更に苦手属性に関しても。得意属性を伸ばすのを優先しただけで、苦手属性の克服もすると。少なくとも、最低限は使えるようになれと。確かに、いざと言う時、できない、使えないは困る。もちろん、拒否権は無い。







「前置きが長くなったね。それじゃ、魔力を扱う為の第一歩。魔力を感じる為の儀式を行うよ。ただね……。これも午前の部で話したけど、かなり荒っぽいやり方だ。本来なら、二〜三年掛けてやるもんだけど、あんたは既に十六歳。魔道を学ぶには遅いからね。手っ取り早いやり方をする。その分、危険を伴うけど……。改めて聞くけど、覚悟は良いかい?」


「はい!」


 いよいよ、魔力を扱う為の第一歩。魔力を感じる為の儀式を行う。現時点で十六歳。魔道を学ぶには遅い僕。その遅れを補う為に、危険を伴う、荒っぽいやり方をすると。覚悟は良いかとナナさんに問われ、了承の意を告げる。


「良い返事だ。じゃ、このマットに横になりな」


 ナナさんに言われて、その場に敷かれていたマットに横になる。マットの周りには奇妙な文字、模様が描かれている。魔法陣だ。


 僕がマットに横になったのを確認して、ナナさんから、今回の儀式の説明。


「ハルカ、今から、あんたを眠らせる。その状態で私が流す魔力を感じ取り、戻ってくるんだ。できなければ、目を覚ます事なく、そのまま死ぬよ。準備は良いかい?」

 

 僕を眠らせ、その状態でナナさんが流す魔力を感じ取り、戻ってくる。できなければ、目を覚ます事なく、死ぬと。確かに危険な儀式。しかし、避けては通れない。


「…………はい」


 覚悟を決め、了承の意を告げる。


「わかった。じゃ、やるよ。……帰ってくるんだよ」


「はい」


 そしてナナさんが術を発動。急激に眠気に襲われ、僕は眠りに落ちていった。


「…………死ぬんじゃないよ」







 同時刻、とある世界


「異世界キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」


 暴走トラックにはねられ死んだ、三十代OLの私。しかし、死後、神に会い、異世界転生を果たした。某作品にならい、巨大蜘蛛に転生。目指せ、進化、迷宮の支配者。その為に力を得るべく、毎日、迷宮に来る人間を襲っては食らう日々。人間を食らうほどに力が増すのを実感し、充実した毎日を送っている。


 いずれ、元の世界に攻め込み、私を毎日罵ってくれたクソ上司、手柄を横取りした同僚。何かと見下してきた後輩、クズ揃いの家族。みんな食ってやる。最終的に多元宇宙全てを支配……。


 スパッ!!


 巨大蜘蛛となり、毎日人間を食い殺しては力を増大させ、多元宇宙支配を目論んでいた下級転生者。だが、終わりは唐突にやってきた。突然、その身体が十文字に四分割される。


「え……? なんで……」


 ダイヤモンドより硬い外骨格が自慢の巨大蜘蛛だったが、あっさり死亡。四分割された死骸は紫に変色し、更に溶けて、最終的に跡形も無く消滅した。


「……全く、下級転生者は性根が腐り切っているから、臭くてかなわん。鼻が曲がる」


 そこに現れたのは、巫女らしき女性。ただし、普通の巫女と違い、黒い着物に紫の袴姿。それは闇の巫女たる黒巫女の服装。その手には妖しくも美しい、アメジストのような透き通る紫の刀身を持つ、五尺の大太刀。


 彼女の容姿もまた、特徴的。長い金髪に、右目は赤、左目は青のオッドアイ。何より人間ではない。頭には狐耳、臀部には九本の狐の尾が生えている。狐人の黒巫女だった。


「とりあえず、今回の依頼は完了。こんなゴミクズでも、『紫滅刃(シメツジン)』の足しにはなるか」


 彼女はそう言うと、大太刀を一振りしてから、背中に背負った鞘に納める。


「師匠〜、あんまり先々、行かないでください。あ、ゴミ処理が終わりましたか」


 続いて、銀髪三尾の狐人の黒巫女の少女が走ってきた。そして、現状を把握。


「遅いぞ、吹雪。私が処理したが、本来なら、この程度の輩、私がわざわざ手を下すまでもない」


「申し訳ありません、師匠」


「まぁ、良い。今後も精進せよ。行くぞ。()()()()()()()()()が済んだ以上、ここに留まる理由は無い」


「はい、師匠。しかし、今回の抹殺対象ですけど、人食い蜘蛛の化け物に堕ちて、よく生きてられましたね。というか、よく平気で人間を食えましたね。私が同じ立場なら、即、自殺ですよ。巨大蜘蛛になって、人間を食えだなんて絶対、嫌です」


「下級転生者は全て、狂人故な」


「毎度思いますが、人として終わっていますね、下級転生者」


「あの連中は所詮、人擬き。だから生前から世に受け入れられん。自業自得だが、それすら理解できず、世の中が悪いと逆恨みするクズ共だ」


「……本当に終わっていますね」


「だから見つけ次第、殺処分する。さ、行くぞ。他にも下級転生者抹殺依頼を受けているからな。確か次は……元、ブラック企業務めの下っ端だな。最高位のアンデッド、リッチに転生して、『最高の仲間達』と共に『理想国家』建国とやらを掲げ、周辺諸国を侵略しているとか」


「プッ! 『最高の仲間達』? 『理想国家』? 相変わらず、下級転生者は笑わせてくれますね。お笑い芸人になれば良いのに。要するに、『自分を全肯定し、ひたすら持ち上げてくれる太鼓持ち』達に囲まれて、『自分だけに都合の良い、理想国家。他人には地獄の、独裁国家』を建国しようっていうんですから。そりゃ、通りませんよ、そんなわがまま。それをいい歳した大人がやっているんだから、笑うしかないでしょう。本当に傑作。ま、刺客を差し向けられて殺されるんですけどね。仮に来なくても、()()()()()()()()()()()()()()()


「そういうことだ。クズはクズらしく、おとなしく地べたを這いつくばっていれば良いものを。なまじ力を得て野心を持つから、討たれる。愚かな」


「異世界は理想郷でも楽園でもないし、下級転生者に忖度なんかしませんしね。後、ゲームや小説といったフィクションの世界は、そもそも存在しませんし。にもかかわらず、フィクションの世界に来たと思い込むバカの多いことで。現実逃避も大概にすべき」


「下級転生者は所詮、狂人。現実を否定し、自身の妄想こそ真実と思っている。後、何より努力、苦労を嫌う。楽して得ることばかり考えている」


「いっそ、清々しいまでのクズ思考。そんな事ができるのはごく一部のエリートだけ。下級転生者みたいなクズ中のクズにできる訳ないじゃないですか。アイテムに頼る連中もそうですよね。先日、私が殺した奴。確か、『このタブレットが有れば、専門知識や技術が無くても平気』なんて、舐めたこと抜かしてましたね。何の為に勉強、努力して、専門知識、特殊技能を身に付けると思っているんだか? ご自慢のタブレットを細切れにしてやった時の、あの絶望に満ちた顔は最高に笑えましたけど。そして無様に泣きわめいて命乞いしてきましたね。……きっちり殺しましたが。本当に見苦しい」


「所詮、魔道具に頼り切りの愚か者。魔道具が無くなれば、死有るのみ」


 次の抹殺対象、リッチに転生した下級転生者を殺しに向かう道中、語り合う狐人の黒巫女師弟。


「吹雪、次の奴はお前が殺れ。本物のリッチならば、さすがに苦しいが、所詮、下級転生者。リッチ擬きに過ぎん。本物の足元にも及ばんカスだ」


「でしょうね。本物のリッチは高位の魔道士や、僧侶なんかが、不死化の秘術を用いて自らを変えた存在。元から強い者が、更に強くなった訳ですし。しかも、不死に物を言わせて、修行、研究に明け暮れていますからね。その力は非常に強大。リッチ擬きの比ではありません」


「さて、成り上がりだの、理想国家だの、ハーレムだのと、くだらん夢を見ているバカに、夢は所詮、夢に過ぎんと教えてやろう。現実の残酷さを思い知らせてやろう。自身が虚弱貧弱無知無能のクズだとわからせてやろう。自らの弱さ、愚かさをとくと知らしめて、殺してやろう。そして我が愛刀、紫滅刃の糧となれ」


「全くです。調子に乗ったクズは不愉快極まりないです。クズに夢を見る資格は有りません。クズは地べたを這いつくばって、エリートの踏み台やっていれば良いんです」


 下級転生者をボロクソにこき下ろす、黒巫女師弟。しかし、彼女達は何一つ間違ったことは言っていない。


「それとな、吹雪。先日、お前を占ってみたら、面白い卦が出た」


「へぇ。どんな卦ですか?」


「氷狐、水蛇と相対す。蛇は水と舞い踊り、狐は氷を従え、刃を振るう。水蛇が何を表すかは知らんが、それとお前が激突するという暗示と見た」


「……水蛇とやらが何かは知りませんが、大天才たる私と激突するとは不運なことで」


「相変わらず自信家だな。だが、油断するなよ? 卦には、お前が勝つとは出ていないのだからな」


「……師匠は私が負けると?」


「さぁな。しかし、お前もバカではあるまい。まさか、自分が絶対無敵、常勝不敗とでも?」


「……意地の悪い方ですね」


「よく言われる」


 軽口を叩きながら、黒巫女師弟はその場を去っていった。並の者達からすれば恐るべき脅威である下級転生者。しかし、彼女達からすれば取るに足らないカスに過ぎない。


 下級転生者達は知らない。自身が所詮、使い捨てに過ぎないことを。やり過ぎれば、刺客が殺しに来ることを。そして、どのみち、()()()()()()()()()()()()()







 ナナside


「…………さて、どうなるかね?」


 魔力を感じるようになる為の儀式。ただし、邪道なやり方のそれをハルカに対して行った。眠った状態から、私の放つ魔力を感じ取り、それを辿って目を覚ませば成功。できなければ、そのまま死ぬ。


 そもそも、魔道を学ぶ者は、幼い頃から英才教育を受けるのが相場。まぁ、その分、金も掛かるからね。必然的に金持ち限定となる。だから、魔道士の連中はエリート気取りが多い。……もっとも、実戦で使い物になるかどうかは、別問題だけどね!


 それはそれとして、魔道の基本たる、魔力を感じる事も、本来なら、数年掛けて学ぶ。しかし、ハルカは既に十六歳。しかも素人。そんなハルカを使い物になるようにするには、邪道なやり方もやむなし。


 しかも、ハルカは死神ヨミから転生する代償として、下級転生者抹殺の任を受けているからね。


 で、ハルカが眠って、はや三時間。起きる気配は無い。とりあえず、今日一晩は待つ。


「無理やり起こす訳にもいかないからね」


 全ては本人次第。できなければ死ぬだけ。私にできるのは見守る事だけ。


「……随分と、強引な手を使ったものだな。まぁ、状況が状況だけに仕方ないが」


 いつの間にか来ていたエーミーヤ。


「あんたの言う通り、状況が状況だからね。真っ当なやり方じゃ、時間が掛かり過ぎる。ある程度のリスクは覚悟の上。それはハルカも同意してるしね」


「……そうか。思った以上に覚悟の決まったお嬢さんだな」


「そりゃそうだ。でなけりゃ、転生の条件として下級転生者抹殺の任なんて受けないさ。あの子はバカじゃない。自身の受けた任の重さ。それを重々に理解した上で、必死に学んでいるよ。大丈夫、必ず起きてくるよ。何せ、私が弟子に取った逸材なんだからね。という訳で、エーミーヤ、何か軽食を頼むよ。私は今日一晩、ここにいるからね」


「わかった。サンドイッチを作って、持ってこよう」


「ツナサンドとハムサンド。後、ハルカ用に卵サンドを頼むよ。後、野菜は入れるんじゃないよ」


「注文が多いな」


「うるさいね、さっさと行きな」


「わかった。ツナサンド、ハムサンド、卵サンドだな? 飲み物は紅茶で良いかね?」


「任せるよ。私は砂糖いらないからね」


「任された。では作ってこよう」


 そう言って、キッチンに戻るエーミーヤ。それを見送り、再びハルカを見守る。


 邪道なやり方ではあるが、ハルカならば、できる。私はそう信じている。あの子の才能は底知れない。ならば、この程度、乗り越えられない訳がない。必ず戻ってくる。







 とある世界、深夜。


「今回の依頼、下級転生者『人食い蜘蛛』の抹殺は完了だ。報酬を貰おう」


『こちらでも確認した。では、報酬を支払おう。相変わらず、良い腕をしているな。これまでも、お前に何度か抹殺依頼を出したが、その全て、達成している。やはり、お前に依頼して正解だったな。さすがは剣士序列二位にして、四剣聖筆頭』


夜光院(ヤコウイン) 狐月斎(コゲツサイ)


「褒めても何も出んぞ」


『無愛想なのも相変わらずだな』


「お互い様だ」


 九尾の狐人の黒巫女。夜光院 狐月斎。彼女は依頼人である死神ヨミと話していた。


「しかし、殺しても、殺しても、バカは後を絶たんな。私とて、暇ではないのだがな」


「喜べ。先日、新しく上位転生者を生み出した。下級転生者抹殺の任を与えてな。我が最高傑作。多少はお前も楽になることだろう」


「ほう! これは驚いたな。私以外の上位転生者は久しぶりだ。しかもあなたが最高傑作と呼ぶか。これは凄い」


「お前の弟子と同年代だ。いずれ、引き合わせてやろう」


「……やれやれ、先日の卦はそういう事か。しかし、ありがたい話ではある。師匠としての贔屓目抜きにしても、我が弟子。『凍月(イテツキ) 吹雪(フブキ)』は天才。だが、それ故に、同年代に相手が務まる者がいなくてな」


『天才も良し悪しだな。それはそれとして、今後の依頼リストだ。渡しておこう。報酬は弾む』


「……人遣いが荒いな。だが、報酬は良いからな。引き受けよう。そもそも初仕事の報酬が、『冥刀』紫滅刃。まさか『神器』が実在し、しかも報酬に出すとは思わなかった。……まぁ『冥刀』という名からして、冥界絡みとは思っていたが、あなたが所有していたとはな」


『冥界で作られた刀にして、初代死神の愛刀故な。しかし、私は刀など使えん。かといって死蔵するには惜しい。そこに丁度良く、お前が現れたのでな。依頼に対する報酬として支払ったまでだ。何せ、紫滅刃は気位が高い。自身にふさわしい使い手でなければ、すぐ殺す。その点、お前はうってつけだった』


「それは光栄だな。では、私としても期待に応えん訳にはいかんな。リストに有る連中、全て冥界に送ってやろう」


『それは頼もしいな。では、頼んだぞ』


「承知」


 こうして死神ヨミと夜光院 狐月斎は通話を終える。


「……死神ヨミの最高傑作たる上位転生者、か。吹雪にとって良い刺激になれば、ありがたいが。どうなるかな?」


 狐月斎は死神ヨミから聞かされた、彼女の生み出した最高傑作たる上位転生者、そして自身の弟子、吹雪に思いを馳せる。


「……今は依頼に専念するか。どれどれ……ふん、相変わらず、現実とフィクションの区別も付かん、バカ共ばかりか」


 抹殺依頼リストに載っていたのは、ゲームや小説の世界に来たと思い込んでいる下級転生者達。定番の原作知識で無双などと、バカ丸出し。醜い欲望丸出し。


「取るに足らん雑魚共だな。吹雪に任せるか」


 この程度、自分が出るまでもないと判断。弟子に一任決定。


「死神ヨミの生み出した上位転生者よ。いつの日か相見える日を楽しみにしている。ともあれ、現時点では、バカの抹殺に専念するか。まずはリッチ擬きを抹殺して、その次の標的は……こいつにするか。聖女(笑)。わざわざ(笑)を付けている辺り、死神ヨミも意地が悪いな」


 狐月斎は、リストに載っている抹殺対象の内の一人。聖女(笑)を新たな標的に選ぶ。


「聖女召喚術で呼ばれたが、一緒に呼ばれた若い娘の方が聖女扱いされ、自身は追い出された。だが、実際に力が有るのは自分と知り、力を使い、自分こそ聖女と名乗って、好き勝手やっているのか。愚かな。聖女は、ある意味、狂人。徹底的な無私、自己犠牲精神の塊。()()()()()()()()凄まじい癒しと守護の力を使える。くだらん自己顕示欲の塊のアラサー女が聖女を名乗るなど、片腹痛いわ! 紫滅刃の足しにしてくれる」


 自称、聖女のアラサー女。人生の絶頂から、冥界に叩き落とされるまで、後、数日。




異世界転生、三日目。ナナさんの指導の元、魔道について学び始めるハルカ。まずは基本知識を学ぶ。魔力とは何か? 七種類の属性、各種魔法に、魔法の元ネタたる、異能(スキル)


午後からは、実技。魔道の基本中の基本。魔力を感じる事。その為に儀式を行う事に。眠った状態から、ナナさんの放つ魔力を感じ取り、戻ってくるというもの。できなければ、目を覚ます事なく死ぬという、危険な儀式。しかし、ハルカは意を決し、儀式に挑む。


その頃、とある世界では、人食いの巨大蜘蛛になった下級転生者が抹殺された。


手を下したのは、金髪九尾の狐人にして、黒巫女。夜光院 狐月斎。上位転生者の一人にして、死神ヨミから依頼を受ける程の実力者。


その実力は剣士序列二位。多元宇宙において、二番目に強い剣士。そして、『冥刀』紫滅刃の現所有者。元々は初代死神の愛刀。かつて、狐月斎が死神ヨミから受けた初仕事の報酬として受け取った。斬った相手を()=死で蝕み葬り去る。気位も高く、自身にふさわしい使い手でなければ、すぐ殺す、危険な刀。逆説的に、それが狐月斎の実力の証明。


そして、狐月斎の弟子。凍月 吹雪。狐月斎をして天才と言わしめる逸材。死神ヨミは、ハルカと吹雪をいずれ引き合わせるつもり。天才であるが故に、同年代に相手が務まる者がいない吹雪。両者の出会いは何をもたらすか?


次回、ハルカ、魔道開眼


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ