第35話 さらば『魔獣』 はじめまして『魔獣』
星暦193 十二月二十五日。これが俺の『元の世界』における最後の記録だ。この日を最後に俺、ザヤン・ルゲーブは『世界から消えた』。
「クソッ! レディ! どうにか抜けられねぇか?!」
『ごめんなさいザヤン。完全に捕らえられてしまったわ。もはや、脱出は不可能よ」
『ザヤンさん!』
レディの申し訳なさそうな声。通信機からもアカツキの叫び声が聞こえる。……俺もここまでか。こんなヤクザな生き方をしてきたんだ。ろくな死に方をしないとわかっちゃいたが、やっぱり悔しいぜ。
『アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!! 何もかも全て消えてしまえぇぇぇぇぇっ!! アーッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!』
そしてこれまた通信機越しに聞こえてくる、狂気に満ちた笑い声。ある意味、哀れな奴。お前の行き着く先は破滅の二文字だけだぞ、クソ女が。
第二次宇宙大戦。否応なしに巻き込まれた俺は、共和国、帝国、両者相手に大立ち回りを繰り広げた。俺は上にへーコラするなんざ御免だからな。
だが、そんな俺を特に邪魔に思ったのが、共和国の上層部だ。ちなみに帝国は何かと俺に勧誘をしてきた。この辺は共和国、帝国の考え方の差だな。
共和国は建国の祖であるテラ・メサイアの定めた『法』が絶対。『法』に従わない奴は死ね。
対し帝国は、建国の祖であるゼオン・カイゼルの掲げた『力が正義』を信奉している。
そんな訳で、共和国のお偉方は『法』に従わない『魔獣』が大嫌いなのさ。
そんな共和国側はとんでもない兵器を出してきやがった。今の世界を作った、高度な科学技術をもたらした先史文明の遺跡。共和国、帝国共に研究を続けていたが、共和国側が新兵器を作り出した。
空間消滅兵器『イレイザー』。
その名の通り、指定した座標を空間ごと消滅させるという兵器。その性質上、防御は不可能。食らったら終わりだ。
そして、俺自身が捕らえられてしまったって訳さ。何せ奴め、アカツキがいるスラム街を『イレイザー』で攻撃すると脅してきやがったからな。どうにもならなかった。
しかも腹の立つ事に、『イレイザー』の使い手はアカツキの元、同級生な事だ。名前はユウヒ・ヒグラシ。
アカツキから聞いたが、トーリエ女学院に在籍していた頃から、ユウヒはアカツキと成績トップを争い、アカツキを目の敵にしていたらしくてな。……あのエリート揃いのトーリエ女学院で成績トップ争いをしていたとは、マジで天才なんだなアカツキ。
だが、トーリエ女学院内での不要者追放選挙で見事に最下位獲得。追放された。実力はともかく、性格最悪で、人望ゼロを通り越してマイナスに突き抜けていたそうだ。そりゃ、追放されるわ。
ユウヒはその事でアカツキを恨んだ。アカツキが自分を陥れたってな。もっとも、アカツキはそんな事はしていない。単なる自業自得だって言っていたがな。
その後、どこでどうしていたかは知らねぇが、共和国軍入りしたらしく、共和国軍の最新型戦闘機『ガルム』に乗り、帝国軍に多大な被害をもたらした。
で、俺がアカツキと繋がっている事を知るや、躍起になって俺を殺そうと、そりゃもうしつこく狙ってきやがったのさ。アカツキ憎けりゃ、アカツキに関わる全てが憎いってか。全く、確かに嫌われる性格だな。粘着質女め。
そんな粘着質女のユウヒが新しく手にしたのが『イレイザー』な訳だ。奴は手始めに『イレイザー』で帝国軍艦隊を丸ごと消滅させ、更にはあちこちの帝国軍の拠点を消滅させた。犠牲者の数は軽く五桁超え。無茶苦茶しやがる。
ところが、ここで共和国のお偉方にも想定外の事態が起きた。
ユウヒが離反、暴走した。まぁ、そうなるだろうなとは思っていだけどな。
エリート気取りのクソ女が、全てを消滅させる兵器なんてとんでもない力を得たんだ。いつまでもおとなしく従う訳がねぇ。こういう辺り、理論理屈ばっかりで、頭でっかちのお偉方にはわからねぇんだろうな。
ユウヒは共和国首都、メサイアンを『イレイザー』で消滅させ、遂には自身を新世界の神と称し、全人類に対し神の裁きを下すと宣言。
アカツキ曰く、学生時代から異常な自己愛と他者蔑視に満ちたイカれたクソ女だったが、更にイカれてると。それについてレディが、彼女は何らかの強化処置を受けていると語った。恐らくは先史文明の技術。
馬鹿が。共和国め、戦力を求めるあまり、手を出してはいけない事に手を出したな。力を得たは良いが、ろくでもない狂人を作っちまった訳だ。
その後、狂ったユウヒの暴走は続き、『イレイザー』による攻撃で共和国も帝国も崩壊。宇宙は滅茶苦茶に。俺達はユウヒを討つべく、戦いを続けてきたが、遂に奴の『イレイザー』に捕らわれちまったって訳だ。クソが!!
『イレイザー』はまず、対象を拘束、固定し、続いて対象を世界から消し去る。一度捕捉されたら、最後。逃れる術は無い。残された時間は少ない。俺はアカツキに通信を繋ぐ。
「アカツキすまねぇ! 俺達はここまでだ! 厄介事を押し付けて悪いが、後は頼む! ユウヒを! あのイカれたクソ女を倒せ! お前にはお前の戦い方が有る! お前なら勝てる! 頼ん……」
それが最後。俺はアカツキに最後まで言い終える事のできないまま、レディごと『世界から消えた』。
アカツキside
「ザヤンさん! レディ! 返事して!! ザヤンさん!! レディ!!」
そんな…………。ザヤンさんとレディが『世界から消えた』。
思わず椅子にへたり込む。しばらくそうしていたけど…………。
パンッ!!
両頬を叩いて気合いを入れ直す。落ち込んでいる暇なんか無い。ザヤンさんは言った。後は頼むって。お前にはお前の戦い方が有るって。あのイカれたクソ女を倒せって。
「任せてザヤンさん。レディ。私が必ずユウヒ・ヒグラシを倒す。きっちり地獄に送ってやるから」
それから一年半後、私は新たな相棒と共に、多大な犠牲と引き換えに遂にユウヒ・ヒグラシを討ち取った。
しかし、ユウヒの暴走により、世界は滅茶苦茶になってしまった。せっかくの高度な科学技術もそのほとんどが失われてしまった。
「……でも、私達は生きている。『生きてさえいれば、案外、どうにかなる。駄目ならそこまでさ』。ザヤンさんがよく言っていた事なんだ」
「『魔獣』ザヤン・ルゲーブか。一度会ってみたかったな」
「う〜ん。会わなくて良かったと思うよ? ザヤンさん、とにかく荒っぽい人で、よくレディに怒られていたから。戦闘機に乗っている時はともかく、普段のあんたは弱気だからね」
「悪かったね」
「でも、感謝してる。『村正』、あんたと会えなかったら、あのイカれたクソ女を討てなかった」
「どういたしまして。あと、俺の名前は村正じゃなくて、『村田 正』」
「だから略して村正よ。とはいえ、これで終わりじゃないわね。これからが始まりよ」
「そうだね。科学技術のほとんどが失われてしまった今、世界を立て直さないといけない。それは大変な道程になる事、請け合いだ」
「国もへったくれも無くなったから、大変ね。でも、あんたと一緒なら、何とかなるでしょ」
「ご期待に沿えるよう、最大限の努力はするよ」
全てが終わった後。私は自作の移動式ラボ。『ビースト』で相棒の村正こと、村田 正と話していた。
ザヤンさんとレディが世界から消えた後、ユウヒはひたすら暴走。邪魔者は『イレイザー』で片っ端から消し去り、恐怖支配を敷いた。
私はレジスタンスとして戦う中、村正と出会った。彼はメカニック志望だったが、そんな中、起きた『ユウヒの乱』。彼は戦う道を選んだ。ザヤンさんの戦う姿を見て、自分も戦うと決意したそうだ。
そして、彼には実際、戦闘機パイロットの才能が有った。しかし、今や軍はユウヒにより壊滅。乗る機体が無かった。
そんな中、私達は出会った。機体を作れるが乗れない私。機体に乗れるが機体の無い村正。出会うべくして出会ったっていうのかな?
ザヤンさんとレディが世界から消えた後、私はある物を見つけた。それはザヤンさんとレディの戦闘ログ。更に機体データ。もしもの事態に備え、あらかじめ用意されていたそれは、値千金の価値が有った。
私のメカニックとしての力とこれらのデータ。更に資材と機材、施設が有れば、新しい機体を造れる!!
私は急ピッチで新機体建造に取り掛かった。ユウヒによる無差別攻撃が続き、劣悪な環境ながら、半年掛けて新機体は完成した。
フォーチュンレディから得られたデータを元に、更に改良を重ねた新機体。私はこう名付けた。
『狂戦士』
でも、ここで問題発生。性能はフォーチュンレディを上回るけど、殺人的な加速度、機動性もフォーチュンレディを上回る、とんでも機体になってしまった。私じゃとても乗れない。
そんな中、現れたのが村正。彼はぶっつけ本番でベルセルクを乗りこなしてみせた。
そして私達はチーム結成。ユウヒ・ヒグラシを討つべく行動開始。一年後に遂にそれを果たした。
「村正。私はザヤンさんが死んだなんて思ってない。あの『魔獣』ザヤン・ルゲーブよ? たかが世界から消されたぐらいで死ぬもんですか。それにあの『イレイザー』。厳密には対象を世界から消し去るのではなく、対象を別の世界に飛ばす兵器だし。だったら、生きてる。どこかの世界で大暴れしてるわよ」
「アカツキはザヤンさんを信じているんだな」
「そりゃそうよ。両親にすら愛されず見捨てられた私を認め、信じ、頼りにしてくれた、初めての大人なんだから。レディもね」
「凄い人なんだな」
「凄い人よ。『魔獣』ザヤン・ルゲーブは。だから、あんたも頑張りなさい。『凶獣』村正」
「もう少し、マシな異名が良いんだけどな」
「良いじゃない『凶獣』。実際、あんたの戦いぶり見てると、『魔獣』と呼ばれたザヤンさんがまともに思えてくるし」
「そりゃ悪かったね」
お互いに軽口を叩きながら、移動式ラボ『ビースト』は宇宙を駆ける。未来を切り開く為に。
「ザヤンさん。今はどこで何をしてるかわからないけど、頑張ってね」
ザヤンside
愛機フォーチュンレディに空間消滅兵器『イレイザー』の攻撃を受け、滅茶苦茶な衝撃で気を失った俺。
「…………うっ、痛ててて。痛いって事は……俺はまだ生きてるのか? 死んだ事は無いからわからねぇが……」
気が付けば、レディのコクピットの中。身体中、あちこち痛いが、重傷、致命傷は無さそうだ。しかし……。
「こりゃ不味いな……。機体損傷率が七十パーセント超え。いつ爆発してもおかしくない」
俺はともかく、レディがボロボロだった。正直、今こうして飛んでいるのが不思議なぐらいだ。
『……ザヤ……ン…気が……付いた…のね……』
そこへ途切れ途切れながら聞こえてきたのはレディの声。
「レディ!! 大丈夫か?! しっかりしろ!! どうにか修理をできそうな場所を探して」
レディは自らを顧みず俺を守ってくれたんだ。だが、そのせいで、レディはボロボロに。一刻も早く修理をしないと。しかし、俺の言葉をレディは遮った。
『……ザヤン……残念…だけど……この機体は……ここまでね……幸い………この…付近に……生命体の……居住可能…な惑星…を発見………したわ…だけど……自動脱出…システムが……破損………自力で……』
それっきり、レディの声はしなかった。だが、俺のやるべき事は決まった。手動による緊急脱出だ。ジジイにマニュアルを読み込んでおけと言われて、読み込んできたのが今になって役立つとはな。マニュアルに書かれていた通り、手動による緊急脱出に掛かる。
「よし! シートベルト固定。目的地設定。緊急脱出ポッド射出よろし。…………射出!!」
最後、緊急脱出ポッド射出ボタンを押す際に、ためらいが有ったが、一気に押す。強烈な加速度と共に、コクピットが分離。緊急脱出ポッドとして機体から射出される。窓には遠ざかっていくレディの機体。そして……。
レディは大爆発、四散した……。
「……今までありがとよレディ。お前は俺の最高の相棒だ」
だが、感傷に浸っている場合じゃない。緊急脱出ポッドは目的地である惑星の重力に引かれ、猛スピードで落下していく。マニュアルによると、ジジイ特製、アカツキが改良した緊急脱出ポッドは安全な場所を探して落ちるらしいが、実際にはどうなるかわからねぇ。下手すりゃ、大気圏で燃え尽きるか、はたまた、着地の衝撃で木っ端微塵か。
「信じてるからなジジイ、アカツキ!」
俺は神様なんか信じない。この場合、信じるのはジジイとアカツキ。
「ジジイ! 悪いが俺はまだ、そっちに行く気は無いからなーーっ!!!!」
チェシャーside
私の空間操作系異能で火球の座標を把握し、そこから落下地点を予測。更にイナバの情報収集系異能で演算、誤差修正して割り出された座標へと、テレポートで向かう。
着いた先は、各国の領域ではない空白地帯の荒野。空を見上げれば、火球はこちらに向かって落ちてくる。もうすぐ地上に激突するだろう。危なかった。もし、これが市街地に落ちていたら、大惨事になっていた。
そして今ならはっきりわかる。やはり、あの火球は隕石じゃなかった。人工物。厳密には何らかの乗り物。それが地上に向かって落ちてくる。
「イナバ。捕獲の準備は良い?」
「……ん」
現状、正体不明の、乗り物と思しき物体。念の為、捕獲する。地上に激突した際に壊れたり、最悪、爆発する可能性を考え、落下予測地点に衝撃吸収、拘束術式を何層も重ねて展開。
……いよいよ火球が地上に近付いてきた。激突まで秒読み段階。念の為、距離を取り、近くに有った大きな岩の陰に隠れる。
そして……
私達が展開した複層型衝撃吸収、拘束術式により、火球改め、謎の人工物は無事に着地した。もし、まともに地上に激突していたら、この辺り一帯がクレーターになっていたはず。
「上手くいったみたいね」
「……うん。でも、油断しないで。あれは恐らく何らかの乗り物。ならば誰かが乗っていると考えられる」
「だよね~。相手が友好的とも限らないし。とにかく、確認しよう」
着地した、何らかの乗り物と思しき謎の人工物の元へと向かう。念の為、いつでも戦闘に入れるように警戒しつつ。
着地した謎の人工物の元に到着。やっぱり何らかの乗り物。果たして乗っているのはどんな奴なのか?
「……ネコちゃん。そんなに警戒しなくても良さそう。少なくとも下級転生者じゃない。異界よりの来訪者ではあるけど」
警戒する私にそう告げるイナバ。こういう時、情報収集系のイナバがいると助かる。情報は最強の武器であり、防具だからね。情報収集を軽んじる、怠る奴は馬鹿。
とりあえず、警戒はしつつ様子を伺っていると、何やら音がして人工物の一部が開いた。中から出てきたのは、見た感じ人間。やけにピッチリしたボディースーツに、フルフェイスのヘルメット着用。顔は見えない。当然、向こうも私達に気付く。
「…………?…………!!」
何か言っているみたいだけど、わからないな。少なくとも私達の知る言語じゃない。異界の言語か。ま、こういう事態も想定済み。
「イナバ、翻訳術式を使うよ。私が交渉するから、フォローよろしく」
「……ん。わかった」
ギルド本部職員なら、全員習得済みの翻訳術式。こういう未知との遭遇を想定しての事。それを使う。さて、ファーストコンタクトといきますか!
ザヤンside
緊急脱出ポッドが大気圏に突入。大気との摩擦で凄まじい高熱が発生している事をモニターが告げる。頼むぜ、ジジイ、アカツキ。流れ星になって燃え尽きるなんて最期はロマンチックだが、俺は御免だ。
幸い、流れ星になって燃え尽きる事は免れ、モニターに地上が近付いてきたとの表示。そして……。
『落下目標地点到着まで、約三十秒。着地の衝撃に備えてください』
もうすぐ着地する事を合成音声が告げる。いよいよか! 軟着陸ではなく、直撃だからな。衝撃に備える。……最悪、脱出ポッドごと木っ端微塵になるかもしれねぇが。ま、その時は運が無かったって事さ。
だが、予想外の事態が起きた。着地したはずなのに衝撃が来ない。
『目標地点に着地しました。気温、大気成分、重力全て問題なし。生存可能の環境と確認。警告! 周囲に未知のエネルギー反応及び、至近距離に生体反応有り。数、二。注意されたし!』
合成音声のメッセージ。周囲に未知のエネルギー反応に、至近距離に生体反応が二つだぁ? どうなってやがる? ……しゃーない。脱出ポッドに籠城したところで先は無い。ならば外に出るしかねぇな。やれやれ、何がいるんだろうな? 美人で巨乳のおねーちゃんだと良いけどな。意を決し、俺は脱出ポッドのハッチを開け、外に出た。
…………猫耳と兎耳のねーちゃん二人組がいたよ、おい。
宇宙に人類が進出してかなり経つが、未だ人類は人類以外の知的生命体と遭遇していなかった。だが、俺は猫耳ねーちゃんと兎耳ねーちゃんの二人組と遭遇。もしかして俺は人類以外の知的生命体との接触第一号になるのか? ジジイやアカツキがいたら大喜びしただろうな。
ともあれ、ファーストコンタクトを図ろう。
「はじめまして。俺の名はザヤン・ルゲーブ。宇宙から来た遭難者だ。そちらに危害を加える意思は無い。だから、穏便に済ませてもらいたい。あと、ここがどこか教えてもらえないか? 全く知らない場所なんだ」
俺なりに穏便に話し掛ける。対し猫耳ねーちゃんと兎耳ねーちゃんは……。
「………………………」
「……………………」
……何か喋ってるが、何言ってんのかさっぱりわからん。語感から俺の言語と似た感じだが、似て非なるものってか。こりゃ困ったな。会話でコミュニケーションが取れないぞ。あれか、身ぶり手ぶりで伝えるしかないか?
そう考えていたら、猫耳ねーちゃんと兎耳ねーちゃんが何かした。すると……。
『あー、私の言っている事がわかりますか? わかるなら、右手を上げてください』
うおっ! 何かいきなり言葉がわかるようになったぞ! 何が起きたかわからんが、ここは従おう。俺は言われた通り右手を上げる。
『あ、ちゃんと通じた! 良かった〜。え〜、はじめまして。私達はバニゲゼ通商連合に有る冒険者ギルド本部の職員です。私の名はチェシャー・ネコ。こちらはイナバ・ヴォーパル。あなたのお名前は? あと所属は?』
バニゲゼ通商連合? 冒険者ギルド本部? 何だそりゃ? …………おいおい、マジか? もしかして俺は、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界に来ちまったのか?
その手の作品だと定番の冒険者ギルド。まさかマジで聞く羽目になるとは……。しかし、こりゃ不味い。もしこの世界が本当に剣と魔法のファンタジーな世界なら、俺の持つ常識なんざ、クソの役にも立たねぇ。俺のいた世界に魔法なんざ無かったからな。
……急に言葉が通じるようになったのも、ねーちゃん達が魔法を使ったからか? こいつは用心しないとな。魔法使いなんざ敵に回したら、勝てる気がしねぇ。物理法則を無視する奴となんか戦えるか。
幸い、ねーちゃん達はこちらに対し敵意、殺意は無さそうだけどな。とりあえず怒らせたり、警戒されるのは不味いから、おとなしくしておこう。まずは、ヘルメットを外して顔を見せるか。顔を出さないのは失礼だしな。その上で名乗る。
『え〜、はじめまして。俺の名はザヤン・ルゲーブ。フリーランスの賞金稼ぎさ。所属は一応、ゼオン帝国。戦闘の最中、敵の新兵器の攻撃を受けてここに来た。全く知らない場所で困っている。そちらに危害を加える気は無い。だから、穏便に済ませてもらいたい』
とりあえず正直に答える。……全ては言わねぇがな。さて、ねーちゃん達はどう出るかな? 見た感じ、悪人では無さそうだけどな。冒険者ギルド本部の職員だって言っていたしな。
チェシャーside
正体不明の乗り物から出てきた謎の人物。翻訳術式でちゃんと会話が通じたらしく、言葉が通じたなら、右手を上げてほしいと言ったら、ちゃんと右手を上げた。
それから私達が名乗り、向こうにも名乗るように要求。すると、被っていたヘルメットを外して顔を見せた。……悪人面だな〜。金髪を短く刈り込み、浅黒い肌。何より目付きが悪い。眉毛も薄いし、殺し屋みたい。しかし、その悪人面とは裏腹に彼は至って穏便に話をした。
名前はザヤン・ルゲーブ。フリーランスの賞金稼ぎ。所属は一応、ゼオン帝国。戦闘中に敵の新兵器の攻撃を受けて、ここに来たと。
ゼオン帝国。知らない名前。やはり、異界からの来訪者か。だけど、下級転生者じゃない。転移者だ。下級転生者だったら、その場で殺していたけど。
それにしても、このザヤン・ルゲーブ。かなりの実力者。いつでも動ける体勢でなおかつ、油断なく私達を視界に収めて観察している。相当な数の修羅場を潜り抜けてきた証。下級転生者はそれができない。素人だから。所詮、下級神魔から与えられたチートに頼り切りの無能。
何より、下級転生者みたいな性根の腐り切った卑しさを感じない。むしろ荒々しい野生を感じる。言うなれば、『獣』いや、『魔獣』って感じ。凶暴さと知性を兼ね備えた『魔獣』。敵に回すと厄介なタイプ。
まぁ、向こうも事を荒立てる気は無いみたいだし、穏便に済むなら、それが一番。じゃ、本格的に交渉に移るかな。
ザヤンside
『なるほど。そちらの事情はわかりました。では、説明しますね。ここはイメムンイドーメ。あなたからすれば、異世界です。逆に私達からすれば、あなたは異世界よりの来訪者ですね。さて、あなたはこれから、どうなさるおつもりですか? 現状、あなたはこの世界において、無戸籍、無国籍。根無し草です。極めて危険な立場であるといえます』
『ヒュー♪ マジで異世界かよ。……ただし、フィクションじゃなくて現実か。確かに猫耳ねーちゃんの言う通り、俺はこの世界において無戸籍、無国籍の根無し草。孤立無援だ。極めて危険な立場だな。どうしたもんか?』
こちらの事情を話した後、猫耳ねーちゃんから、説明が有った。どうやら、本当に異世界らしい。これは不味い事態だ。この世界において、俺は無戸籍、無国籍の根無し草。孤立無援だ。何とかして早いとこ、自身の立場を得なきゃならん。でなけりゃ、ヤバい。と、そこへ兎耳ねーちゃんからの提案。
『……ザヤン・ルゲーブ。あなたが望むなら、一旦、冒険者ギルド本部であなたの身柄を預かる。現状、最も安全な選択肢は冒険者ギルド本部付きのエージェントになる事。あなたがそれを望むなら、だけど』
兎耳ねーちゃんは、俺が望むなら、冒険者ギルド本部で身柄を預かると。そして現状、最も安全な選択肢は冒険者ギルド本部付きのエージェントになる事だと。
『………………その話、乗らせてもらうぜ。状況が状況だからな。贅沢は言ってらんねぇ。とにかく早いとこ、立場を得なきゃならん。根無し草は不味いからな。ねーちゃん達は冒険者ギルド本部の職員なんだろ? よろしく頼むぜ』
しばし考えた末、その提案に乗ると決めた。このねーちゃん達が信用できるという保証は無いが、俺の直感が彼女達は信用できると告げた。……ま、外したなら死ぬだけさ。
『……わかった。じゃ、少し待って。本部に連絡を取る。上の許可が必要だから』
兎耳ねーちゃんはそう言って、何か小さな端末を出すと、操作する。
『……冒険者ギルド本部、応答願います。こちら、情報部所属、イナバ・ヴォーパル。探索部所属、チェシャー・ネコと行動中、異界よりの来訪者を発見。保護。本人はザヤン・ルゲーブ。フリーランスの賞金稼ぎと名乗っており、ギルド本部による保護を求めています。なお、発見時に未知の乗り物を確認。回収する予定。以上』
ねーちゃん達の所属するという、冒険者ギルド本部へと連絡。そりゃ、無断で事を運ぶ訳にはいかねぇよな。あと、緊急脱出ポッドは回収する気らしい。当然だな。異世界の技術の塊だし。こっちとしては保護してもらうんだ。それぐらいは対価と受け入れるしかねぇ。……レディの形見ではあるけどな。
その後もしばらく話していたが、終わったらしく端末をしまう。
『……とりあえず、この乗り物を回収してから、本部に向かう。本部の最高責任者の本部長が直々に会うと言っている。本部長はギルド最強の実力者だから、くれぐれも失礼のないように』
兎耳ねーちゃん曰く、緊急脱出ポッドを回収してから、冒険者ギルド本部に向かうそうだ。しかも、本部の最高責任者である本部長が直々にお出ましらしい。ギルド最強の実力者だから、くれぐれも失礼のないようにと釘を刺された。こりゃ、気を付けないとな。
『わかった。気を付ける。忠告ありがとな。だがよ。緊急脱出ポッドを回収するにしろ、冒険者ギルド本部に行くにしろ、どうするんだ? ねーちゃん達、手ぶらだろ? 乗り物の類も無いしな』
しかし、気になる事も有る。どうやって緊急脱出ポッドを回収する気だ? あと、どうやって冒険者ギルド本部に行く気だ?
すると猫耳ねーちゃんが答えてくれた。
『それなら大丈夫。私の異能が有るから。まぁ、見てて』
スキル? 何だそりゃ? なんて思っていたら、いきなり緊急脱出ポッドが消えた!
『うおっ?! 緊急脱出ポッドが消えた!!!!』
『……落ち着いて。あれはネコちゃんが自分の異能を使って亜空間に収納しただけ。ネコちゃんは『空間使い』。亜空間収納、空間転移はお手の物。現本部内でもトップクラスの実力者』
突然の事態に驚いていたら、兎耳ねーちゃんから、猫耳ねーちゃんは『空間使い』だと説明。緊急脱出ポッドを亜空間に収納したらしい。他にも空間転移。要はテレポートを使えるらしい。考えてみれば、こんな何も無い荒野に女性職員二人組がいる事自体がおかしい。テレポートで来たのか。だったら、本部にもひとっ飛びってか。便利だな。さすがはファンタジーな世界だぜ。
……ジジイやアカツキにも見せてやりたかったな。絶対目の色を変えるぜ。
ともあれ、冒険者ギルド本部に行くか。今後の身の振り方を考えないとな……。
『!? 危ねぇっ!!』
強烈な殺気を感じ、咄嗟に兎耳ねーちゃんを押し倒す形で突き飛ばし、自分も地に伏せる。間一髪。俺達の向こうに有った大岩(チェシャー達が緊急脱出ポッド着地の際に隠れていた奴)が横一文字に真っ二つに。何だ?! 何が起きた?!
『チッ! 外した! 勘の良い奴』
そこに現れたのは猫耳の女のガキ。しかも、自分の身長程も有る大剣を手にしていた。デカ過ぎんだろ。
『師匠! 獲物ですよ! しかも上物が三人も!』
おまけに訳のわからん事を抜かしてやがる。誰だよ、師匠って? すると男の声がした。
『確かに上物だなキャット! だが男はいらん! 女だ! 女を殺せ! 女の血肉を! 魂を捧げよ! さすれば、お前に更なる力を与えてやる! 殺せ! 女を殺せ!!』
『了解です、師匠!! そういう訳だから、女二人、ここで死ね!! 師匠に捧げる贄になれ!! そうすれば私はもっと強くなれる!! うふ、うふふふ……ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!』
その男の声は、ガキが手にする大剣から聞こえた。マジかよ……。まぁ、俺もレディを知っているから今更感は有るが……。しかし、あの大剣とレディは決定的に違う点が有る。
レディはあんなゲスじゃねぇ。あんなゲス大剣と一緒にしたら、レディに怒られちまう。
しかし、あのガキ、完全にイカれてるな。口から涎を垂らして大笑いしてやがる。色気もへったくれもねぇ。あのクソガキ、ユウヒ・ヒグラシを思い出す。クソッ! 思い出したら、腹立ってきた。それにしてもだ。あれか? あの猫耳のガキ、ファンタジー物によく有る呪われた魔剣に取り憑かれたってか? だからといって、許す気は無いけどな。こちらを殺す気満々だしな。しかし、それ以上に……。
『…………猫族の面汚しが』
猫耳ねーちゃんが滅茶苦茶キレてるからな。おっかねぇ。
『……ネコちゃんが怒った。すぐ終わる』
あ、そうなんだ。じゃ見てるか。剣と魔法のファンタジーな世界。俺の知る常識が通じない世界。そこでの戦い方、とくと学ばせてもらうぜ。
……ジジイ、あんた口癖のように言っていたよな。
『良いか、クソガキ。人間、生涯勉強じゃ。学ばぬ奴に道が開かれる事はない。お前もしっかり学べ。死にたくなければな』
全く、あんたの言う通りだ。学ばなきゃ、道は開かれねぇ。異世界で生きる道、切り開いてみせるぜ。
俺は正義の勇者でも、救世の英雄でもないからな。その手の連中定番の御都合主義展開なんざ有りゃしねぇ。
俺は賞金稼ぎのザヤン・ルゲーブだ。賞金稼ぎらしくやるだけさ!
第二次宇宙戦争勃発。大立ち回りをしたザヤンですが、テラ共和国の新兵器。空間消滅兵器『イレイザー』の攻撃を受けて『世界から消えてしまった』。
正確には、別の世界に飛ばされてしまった。飛ばされた先は、異世界イメムンイドーメ。しかし、無理やりな異世界転移により、愛機フォーチュンレディは甚大なダメージを受けており、機体の意思、レディはザヤンに機体を捨てて脱出するように告げる。幸い、近くに生存可能な惑星を見つけたからと。
断腸の思いでザヤンはその提案を受け入れ、コクピットを切り離し、緊急脱出。その後、機体は爆発四散。悲しみに暮れる暇も無く、緊急脱出ポッドは目的地である惑星へと落下。
着地地点で冒険者ギルド本部の若手コンビ。チェシャーとイナバとのファーストコンタクトを果たす。
二人からここが異世界であると説明を受け、驚きながらも、事実を受け入れ、今後の身の振り方を考えるザヤン。そんな彼に手を差し伸べるギルド若手コンビ。
しかし、そこへ突然の乱入者。喋る大剣を手にした猫族の少女。女を殺せと言う大剣と、その大剣を師匠と呼び、チェシャー、イナバを殺そうとする猫族の少女。
そんな少女と喋る大剣に対し、激怒するチェシャー。
イナバ曰く、「すぐ終わる」
では、また次回。
今回の馬鹿 ユウヒ・ヒグラシ かつて、トーリエ女学院でアカツキと成績トップの座を争っていた才女。しかし、その異常な自己愛と他者蔑視のせいで周囲からの人望皆無どころか、マイナスに突き抜けていた。
そして、トーリエ女学院名物、不要者追放選挙で断トツの一位を獲得。追放された。そして学院を追放された事で、家に恥をかかせたと、勘当される始末。単なる自業自得だが、ユウヒはアカツキが自分を陥れたと、一方的に逆恨み。彼女に復讐を誓う。
だが、その腐り切った性格ではどこからも相手にされず、野垂れ死にしかけていたところを、テラ共和国の研究者に拾われる。実験材料として。そして、様々な強化改造を施される。
普通なら死んでいたであろう、無茶苦茶な強化改造を、アカツキへの復讐の一念で乗り越え、パイロットデビュー。ただし、無理やりな強化の副作用で元々歪んでいた人格が完全に狂った。
常人では過負荷により乗れない特製の機体に乗り、数々の戦果を上げ、共和国軍のエースパイロットに。その中で、賞金稼ぎ『魔獣』ザヤン・ルゲーブがアカツキと繋がっていると知り、執拗に狙うように。
その後、新兵器。空間消滅兵器『イレイザー』が機体に搭載されたことで、更に甚大な被害をもたらす。だが、それだけにとどまらず、遂に暴走。狂気の無差別攻撃を始め、テラ共和国、ゼオン帝国共に壊滅させ、人類社会を崩壊させた。
最終的に、アカツキが製作したフォーチュンレディ二号機。『ベルセルク』に乗る『凶獣』村正こと、村田 正に討たれる。
所詮、無理やり強化された紛い物。本物の天才にはかなわなかった。最期は一人、宇宙の塵と化す。自分は天才だと思い込んだ、愚者の末路。




