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第34話『魔獣』頭を抱える

 ザヤンside


 時は星暦185。ジジイと出会い、戦闘機パイロットデビューを果たして五年。今日も派手に一戦かまして、ジジイのいるドックへとレディと共に帰還。


「ただいまジジイ! 悪いが、レディのメンテ頼むわ!」


 ドックに着いたらコクピットのハッチをオープン。床へと飛び降り、ジジイにただいまを告げ、ついでにレディのメンテを頼む。いや〜、今回のダンスはまた、一段と激しかったぜ!


 ……文字通り、死ぬかと思ったぜ。あの金髪女め。


「何がただいまじゃ! このクソガキが! 毎回毎回荒っぽい操縦をしおってからに! 全く、儂の最高傑作を何だと思っとるんじゃ! あぁ、もう! あちこち傷んどるじゃないか!」


 で、出迎えてくれたジジイは開口一番、ブチ切れ! そりゃまぁ、怒るよなぁ……。マジでボロボロだし。レディにも怒られたからなぁ。


「だから悪かったって! でも仕方ないだろ? 相手は賞金首の『ブロンディ』。ジジイも知ってんだろ? あの『金髪の悪魔』の異名を取る毒婦にして、これまで何人もの軍人、賞金稼ぎを返り討ちにしてきた腕利きの戦闘機乗りだ。はっきり言って、俺の機体がレディじゃなかったら、俺も奴の『殺した奴リスト』に載っていただろうな」


『金髪の悪魔』ブロンディ。本名、年齢、国籍、一切不明。わかっているのは、金髪の美女である事。男女問わず食いまくり、利用しては切り捨ててきた毒婦である事。テロを始め、数々の犯罪に手を染めてきた大犯罪者である事。極めつけがトップクラスの腕前の戦闘機乗りだって事。あと、趣味は殺した奴の名をリストに書く事らしい。


 こいつにはテラ共和国、ゼオン帝国、共に散々煮え湯を飲まされていて、両国から莫大な賞金が掛けられていた。


 俺も奴を追っていてな。遂に仕留めたって訳だ。……代償は高くついたけどな。レディとジジイの激怒って形でな。だから、とりあえず謝る。


「……ふん。わかっているなら構わん。だが、『自分の実力だ』などと抜かしておったら、即座に叩き出しておったわい。そんな馬鹿に儂の最高傑作に乗る資格は無い」


 幸い、ジジイはそれ以上は追求してこなかった。ジジイも『金髪の悪魔』ブロンディのヤバさはよく知ってるからな。


「安心しなジジイ。俺はそこまで自惚れちゃいねぇよ」


「せいぜい、その心掛けを忘れん事だな。儂は軍時代から、ちょっと手柄を上げたばかりに調子に乗って死んだ若造共を何人も見てきたからの。……馬鹿共が。命を粗末にしおって」


 ふと悲しげな顔をするジジイ。元は軍にいたんだからな。自分より若い兵士達が死んでいくのを何人も見てきた訳だ。







「とにかくじゃ、今回機体の受けたダメージは非常に大きい。如何に儂といえども、今回の修理は時間が掛かる。しばらくは、おとなしくしておるんじゃな。……それでなくても、お前は暴れ過ぎた。随分と賞金首を狩ったからの。特に今回、仕留めたブロンディは、長年、共和国、帝国共に追っていた大物じゃ。『魔獣』はより一層、注目される。……良くも悪くもな」


「へいへい。忠告痛み入りますよっと。まぁ、レディが動けないんじゃ仕方ねぇな。おとなしくするさ」


 なんて言ってた頃が懐かしいぜ……。







 それから三年後、星暦188。俺は重大な問題に直面していた。


 ジジイが死んだ。


 元々、高齢だったが、本当に呆気なく逝った。いつものように軽口を叩き、レディのメンテを頼み、別れた翌日。差し入れ片手にラボを見に行ったら、椅子に座ったままジジイは亡くなっていた。机には書きかけのレディの改良案の図面。最後の最後まで技術者、研究者であり続けたジジイ。死因は老衰。ひたすら自身の理想を追い求めて、ずっと無理を続けてきたからな。


「……ありがとなジジイ、いや、ルトビー・シェルポ博士。ゆっくり休んでくれ」


 ジジイには身内はいないと聞いた。かつて結婚はしたそうだが、あまりにも研究、開発一筋で全く家庭を顧みないせいで嫁に愛想を尽かされて、離婚したらしい。子供もいなかったそうだ。親戚付き合いも無かったらしい。


 仕方ないから、俺が喪主となり、簡素ながらジジイの葬儀を挙げた。俺は聖人君子って柄じゃないが、ジジイには散々世話になったからな。そのぐらいの義理は果たす。


 だが、その後が問題だ。レディのメンテができる奴がいない。そもそもレディはジジイが総力をあげて造った最高傑作。ぶっちゃけ、ブラックボックスの塊だ。そんじょそこらの奴にはメンテどころか、手出しすらできない。もちろん、俺にもできない。どうすんだ、これ?


「なぁ、レディ。自分でどうにかならねぇか?」


『無理ね。ある程度なら、私自身でメンテナンスは可能だけど、あくまである程度。本格的なメンテナンスができるとしたら、亡きシェルポ博士ぐらいね』


「……ジジイってマジ天才だったんだな」


『当然よ。私の生みの親よ? そしてエーテル工学の第一人者。彼がいなければ、今の世の中にエーテルリアクターはこんなに流通しなかったでしょうね。私に組み込まれている『ハイパーエーテルリアクター』。あれを設計、開発したのもシェルポ博士。間違いなく、数世代先を生きている人だったわ』


 今の世の中における主要動力源、エーテルリアクター。こいつ自体は星暦元年に発見された先史文明の遺跡から得られた知識、技術を元に造られた。


 だが、初期のエーテルリアクターはとにかくデカかった。大型核融合炉並のサイズで、発電所並のスペースが必要。しかも高コスト。故に、最初はエネルギー供給施設として使われていた。


 その後、改良が進み、小型化されたが、それでも大型艦でなければ組み込めないサイズだった。まぁ、そのおかげで人類は大型艦に乗って宇宙各地に広まったんだけどな。だが、エーテルリアクターが一般に流通するには、まだまだハードルが高かった。


 しかし、ここで一気にブレイクスルーを起こした天才がいた。それがジジイ。ルトビー・シェルポ博士だ。


 ジジイはエーテルリアクターを戦闘機や、作業機械、車に組み込める程、小型化する事に成功しただけでなく、飛躍的に性能アップ、コストダウンを成し遂げた。しかもこれを二十代の時にやったってんだから、とんでもない天才だ。


 ジジイのもたらした新型エーテルリアクターはたちどころに広まり、先史文明の遺跡発見時に続き、文字通り世界を変えた。しかし、そんな天才ジジイも最後に一つ、ヘマをやらかした。


 後継者がいないって事だ。


「そんなに天才だったら、後継者ぐらい育てとけクソジジイ」


『それは仕方ないわよザヤン。天才科学者である彼の後継者足りうる者なんて、そうそういるもんですか』


「だよなぁ……。とはいえ、これからどうすりゃ良いんだ? このままじゃ、賞金稼ぎ廃業だぞ?」


『あらあら困ったわねぇ。どうしましょう?』


「他人事じゃねぇからなレディ! メンテができなきゃ、最終的にスクラップだぞ!」


『でも、私をメンテナンスできる程の技術者なんて、まずいないわよ?』


「クソッ! どうすりゃ良いんだ……」


『魔獣』と呼ばれ恐れられた俺がぶつかった、大問題。その時点では、どうにもならなかった。これじゃ、宇宙に上がれない。本当にどうすりゃ良いんだ?







 イナバside


 ネコちゃんと一緒に入った、ラーメン横縄。この数日間、本部で缶詰めだったから、本当に美味しい。既にチャーシュー麺チャーシューマシマシ、ライス大盛り、餃子三人前、唐揚げ特盛りと全て平らげた。あとは仕上げ。


「……ライス並」


 呼び出しベルを押して店員を呼ぶと締めの注文。ラーメンを食べたら、締めは絶対これ。


「……イナバ。また、あれやるの?」


「……うん。ネコちゃんはやらないの?」


「やりたいんだけどね。ウチの母様と祖母様にバレたら怖い。特に祖母様」


 そこへ店員が運んできた、ライス並。受け取ると、スープの残ったラーメン丼にライスを投入。スープライスの完成。スープとライスをよく混ぜてから、残さずいただく。食べ終わったら、お冷やで口をすっきりさせて、ナプキンで口元を拭く。……ごちそうさま。


 ちなみにネコちゃんはスープライスをやらない。ネコ家は猫族一の名家、猫族を束ねる長。そしてネコちゃんはいずれ、ネコ家当主の座を継ぐ。それだけに礼儀作法を厳しく仕込まれている。食事一つにしても行儀の悪い行いをすると、厳しく叱られたらしい。


「……ネコちゃんも大変だね」


「猫族の長の家だからね。それに私はいずれ、ネコ家当主の座を継がなきゃいけないし。イナバの所はそういう事にはうるさくないね」


「……ヴォーパル家は兎族の長じゃないからね」


 私の家。ヴォーパル家は兎族でも名の知れた一族だけど、兎族の長じゃない。兎族の長は『ハクト家』。ヴォーパル家はその分家筋。


「名家も良し悪しだよね~」


「……それは仕方ない。生まれは選べない」


 貧乏は困るけど、名家に生まれても、それはそれで苦労が有る。そんなに世の中都合良くはない。


「さて、と。食べ終わったし、そろそろ帰ろっか? また明日も仕事だしね」


「……うん」


 怪植物トライフィート絡みの騒動は片付いたけれど、それはそれ。明日もまた仕事。お勘定を済ませて店を後にする。疲れたし、早く寮に帰ってお風呂からの寝るに限る。そう思っていたんだけど……。


 その時。夜空を駆ける、一際明るい流れ星。いわゆる『火球』。


 それを見た瞬間、私とネコちゃんは顔を見合わせた。


「イナバ! 今の『火球』!」


「……うん。私も『聞こえた』。あれは単なる火球じゃない」


 ネコちゃんはその空間操作系の異能で。私は情報収集系の異能で、あれが単なる火球ではないと悟った。あれは新たな騒動の火種だと。私達はすぐさま駆け出す。


「……ネコちゃん、情報リンクよろしく」


「わかってる。空間座標は私が算出するから、イナバは誤差修正お願い。全くもう! 何でまた厄介事が起きるのよ!」


 ギルド本部職員の秘術、相互情報リンク発動。ネコちゃんの異能で火球の軌道、落下位置を割り出し、私が誤差修正。


「……誤差修正完了、目的地座標転送」


「了解、行くよ!『次元魔猫(チェシャーキャット)』!」


 ネコちゃんの異能『次元魔猫(チェシャーキャット)』で現場へと急行。そこで私達は『魔獣』と出会う。それは新たな騒動への第一歩。







 ザヤンside


「…………暇だ。あ〜クソッ! 宇宙上がりてぇ! 」


『残念ながら、現状は無理ね。私の自己診断の結果、メインスラスターを始め、計十八カ所に深刻な損傷、二十二カ所に部品劣化。制御プログラムにもエラーが有るわね。今の状態で宇宙に出たら間違いなく自殺行為よ。シェルポ博士亡き今、どうにもならないわね』


 ジジイが亡くなって、半年。俺とレディは宇宙に上がれず、スラム街のジジイのラボで燻っていた。……賞金稼ぎで金は貯まった。だからといって、今さら小綺麗な都会に越す気にはなれなくてな。汚かろうが、スラム街育ちの俺にはここが一番合う。


 しかし、このままじゃ、いずれ金は尽きる。レディのメンテもできない。詰むのは時間の問題だ。


「あ〜! クソッ! どっかに腕の良いメカニックはいないのかよ?! それもできれば、スタイルの良い美人のおねーちゃんで!!」


『ザヤン、前半はともかく、後半は良くないわね』


「冗談だって!」


 わりと本気でレディが怒ったから、すぐに謝る。だが、本当にどうすりゃ良いんだ……。ジジイに匹敵するメカニックなんて、そうそう見つかるもんじゃない。頭を抱えていると……。


 コンコン


 ラボの玄関ドアを誰かがノックした。ジジイ、インターホンは嫌いらしくてな。付けてないんだ。


「……どちら様で?」


 念の為にジジイ特製のリボルバー式実弾銃。ジジイは光線銃より実弾銃派だった。あと、オートマチックよりリボルバー派。を構えつつ、そう聞く。賞金稼ぎって職業柄、恨みはしこたま買っているからな。これまで何度も襲撃を受けている。用心に越した事はない。


 すると聞こえてきた声は意外にも少女の声。


「賞金稼ぎのザヤン・ルゲーブはいる? 最近、さっぱり姿を見せないから、逃げたんじゃないか? もしくは死んだんじゃないか? って言われてるザヤン・ルゲーブは?」


 だが、言っている内容が聞き捨てならねぇ! 思わず表に出て怒鳴った!


「ふざけんな! 逃げてねぇし! 死んでねぇ!」


「あ、本当にいた。聞いた通りの悪人面。あなたが賞金稼ぎのザヤン・ルゲーブね」


 玄関ドアを開けた先にいたのは、黒髪の女のガキ。もう一度言うがガキ。チッ! どうせ来るなら、スタイル抜群の美人のおねーちゃんが来いよ。まな板娘は守備範囲外だ。


 しかし、このガキ。俺が怒鳴ったのに、全く動じてねぇ。自分で言うのも何だが、俺は悪人面でな。初対面のガキに泣かれた事、度々なんだ。その俺に怒鳴られても堪えないたぁ、大した肝っ玉だ。そもそも、こんなスラム街に何しに来たんだ?


「……おう。俺が賞金稼ぎのザヤン・ルゲーブだ。だがな。お前、こんな所に何の用だ? はっきり言うぞ。ここはスラム街だ。お前みたいな『良い所のお嬢様』が間違っても来る所じゃねぇ。その制服、『トーリエ女学院』のだよな? お前そこの生徒だろ? 悪い事は言わねぇ。スラム街の出口まで送ってやるから、さっさと帰れ。そして二度と来るな」


 小柄なガキだが、着ている服は高級品だ。何せ、名家のお嬢様方が通う名門校。トーリエ女学院の制服だからな。リボンの色が青だから中等部か。つまり、コスプレでなけりゃ、このガキはトーリエ女学院の生徒。エリート中のエリート様だ。


 トーリエ女学院は政界、財界の大物達が作った、エリートのエリートによるエリートの為の学校。幼稚園から大学までのエスカレーター式。


 ただし入学のハードルは滅茶苦茶高い。まず、金。それから家柄、そして本人の実力。全てをクリアして初めてその門をくぐれる。


 しかも、入学してからも、徹底的にエリート教育を叩き込まれ、脱落者は即座に退学。選び抜かれたエリートのみが在籍を許される。


 それだけに、ここの生徒はゆくゆくは、政界、財界の御曹司達と結ばれる。もしくは政界、財界で活躍するのが既定路線。何不自由ない、勝ち組人生が約束されている。このガキもその一人な訳だ。


 繰り返すが、こんな汚いスラム街なんぞに来る人種じゃねぇ。むしろ、生涯無縁のはずだ。しかも、裏稼業の賞金稼ぎである俺の事を知っているときた。……何考えてんだ?


「それなら大丈夫。家は出てきた。学校も辞めた」


 なんて考えていたら、ガキがとんでもない爆弾発言をした。


『家は出てきた。学校も辞めた』


 おいおい! サラッととんでもない事を言うな! こいつわかってんのか?! 家を出るだけでも不味いのに、エリート街道が約束されたトーリエ女学院を辞めただと!


「で、ものは相談なんだけど、私をここに置いてくれない? もちろん、ただでとは言わない。()()()()()必要なんじゃないかな〜? こう見えても私、腕の良いメカニックなんだ」


 驚く俺に、更なる追撃を入れるガキ。()()()()()。確かに今、一番欲しい存在だ。しかし……。


「おいガキ。あんまり大人を、社会を舐めるなよ? 家出ぐらいならともかく、トーリエ女学院を辞めるなんざ正気の沙汰じゃねぇ。約束されたエリート街道をドブに捨てる気か?」


 だからといって、はい、そうですかと受け入れる訳にはいかねぇな。ましてや、約束されているエリート街道をドブに捨てる真似をするなんてな。


 だが、ガキは言い返してきた。


「エリート街道? いらないわよ。何より、あんな監獄みたいな学校にはうんざりしてたの。あと、エリートエリートうるさい両親にも。ちなみに帰らないわよ? 既に両親から勘当されたし。学園長に退学届を叩き付けてバックレたせいで。アッハッハ!!」


「……お前、無茶苦茶するな。そりゃ、帰れねぇよなぁ。俺が親でもブチキレるわ」


 なんとこのガキ、学園長に退学届を叩き付けてバックレた挙げ句、両親から勘当されたそうだ。そりゃ、勘当されるわ。トーリエ女学院は入学するだけでもとんでもない金額を要求されるからな。それが全てパー。他人事ながら、両親が気の毒だぜ。







 まぁ、それはそれとして、ガキは自分は腕の良いメカニックだと売り込んできた。今、俺とレディが一番求めているのが、腕の良いメカニック。しかし、このガキ、俺達が求めるレベルに有るのか? 自称、腕利きじゃあ困る。


『とりあえず、入れてあげたら? いつまでも女の子を立たせておくものじゃないわ』


 どうしたもんか考えあぐねていると、レディからとりあえず入れてやれとの事。その時だった。


「あれ? ここ女の人がいるの?」


 ガキのその言葉に俺はぶったまげ、思わずガキに掴み掛かった。


「おいガキ! お前、レディの声が聞こえるのか?!」


「ちょっ?! いきなり何? 何か聞かれたら不味いの?」


 目を白黒させるガキ。そりゃそうだ。いきなり掴み掛かられたらな。悪い事をした。


「悪い。驚いちまってついな。付いてこい。会わせたい相手がいる。お前をメカニックとして雇うかは、そいつと会わせてから考える」


 俺以外で初めてレディの声が聞こえる奴が現れた。とりあえず、レディに会わせてみる事に。ガキを連れて、ラボの地下ドックへと向かった。







「ここだ。ここにお前に会わせたい奴がいる。お前を採用するかどうかは、そいつ次第だな」


 ラボの地下ドック。レディの待機場所だ。ガキとレディを直接対面させる。……果たして吉と出るか? 凶と出るか?


「レディ! ガキを連れてきたぜ!」


 そう言って地下ドックの扉を開けて中へ。ガキもその後に続く。


「……ちょっと! レディって呼んでいたけど誰もいないじゃない。さっき、確かに女性の声が聞こえたけど」


 地下ドックに入るなり辺りを見渡すガキ。しかし、女性の姿が無い事に不審がる。何せ、戦闘機が一機停まっているだけだからな。そこでレディから挨拶。


『はじめましてお嬢さん。私があなたの探している女性こと『フォーチュンレディ』よ。よろしくね』


「…………え? ちょっと? まさか……この機体が喋っているの?!」


 さすがに驚いたらしい。そりゃ、戦闘機が喋ったら驚くよな。そして、やはりこのガキ、レディの声が聞こえてやがる。生みの親のジジイには聞こえなかったってのにな。どうなってんだ?


 ともあれ、事情を説明するか。でなけりゃ、ガキも何が何だかわからねぇしな。情報共有は大事だぜ。


「まぁ、落ち着けよ。説明してやるから。実はな…………」


 ザヤン、少女に事情説明中……。







「…………てな訳だ」


「……無茶苦茶な内容だけど、認めざるを得ないわね」


 事情説明完了。さすがはトーリエ女学院のエリート様だ。あ、元、トーリエ女学院のエリート様か。ともあれ理解が早くて助かる。


「あのエーテル工学の神と名高いトルビー・シェルポ博士の最高傑作にして最後の機体、か。できれば生きている内に会いたかったな」


「まぁ、こればっかりはな。さて、ここからが本題だ。ジジイが亡くなって以来、俺達はメカニックがいなくて困っている。何せ、レディはジジイが総力をあげて造った、唯一無二の機体。そんじょそこらの奴じゃ、メンテどころか触る事もできねぇ。……お前ならできるのか?」


「……とりあえず、機体を見たい。シェルポ博士の遺した機体をこの目で確かめたい」


「だ、そうだが。レディ、お前が決めてくれ。一番の当事者だからな」


 とりあえず機体を見たいと言うガキ。とはいえ、俺の一存では決められない。一番の当事者であるレディに確認を取る。


『構わないわ。やらせてみて』


「よっしゃ、レディの許可が出た。その代わり、きちんと頼むぜ」


「任せて」


 レディからの許可が出たので、やらせてみる事に。そういえば、まだこのガキの名前を聞いてなかったな。いつまでもガキ呼ばわりは良くないな。


「そういや、お前の名前を聞いてなかったな」


 レディの元に向かうガキに名前を聞いてみた。


「アカツキ。姓は捨てた。家を勘当されたしね」


 振り向きもせずにそう答えるガキ、改めアカツキ。……両親と上手くいってないってな事を言っていたな。


 さて、レディの元に来たアカツキは鞄から端末を取り出すとレディに接続。素早く指を走らせ操作開始。恐ろしく手慣れてやがる。


「…………うわ、ひどいわね、これ。あっちこっちボロボロじゃない。どうにか騙し騙しやってきたみたいだけど、これはもう、一度オーバーホールするしかないわよ。制御プログラムもエラーだらけでガタガタ。直すより、新しく組んだ方が早いわね」


 レディの状況をスキャン。どうやら、俺が考えていた以上にレディの状態は悪かったらしい。アカツキはその間も手を止めず端末を操作。


「まずはプログラムを新しく組むわ。それとオーバーホールの為に資材が必要ね。有る?」


 来て早々、仕切ってやがる。しかし、有無を言わせない凄みが有った。……これがトーリエ女学院のエリート様か。自称エリートとは違う、正真正銘のエリート。


「それなら、二番倉庫だ。ジジイがあちこちからかき集めた資材がたんまり有る。俺にはスクラップにしか見えねぇが、ジジイは宝の山だって言っていたな。付いてきな。案内してやる。あと、ジジイの研究室もな」


「えっ?! シェルポ博士の研究室! 行く行く! うわ~来て良かった〜! あの天才シェルポ博士の研究室を見られるなんて!」


「お前変わってるな〜。トーリエ女学院のエリート様ときたら、普通は金、地位、権力の三点セットが三度の飯より好きってのが相場なんだがな」


 資材置き場の二番倉庫に案内がてら、ついでにジジイの研究室を見せてやると言ったら、アカツキは大はしゃぎ。文字通り飛び跳ねて喜んだ。元、トーリエ女学院生のくせに変なガキだぜ。


「良いでしょ別に。……私ね。小さい頃から機械弄りが好きなんだ。おもちゃを分解したり組み立てたりして遊んでた。それから、どんどん進んで、携帯端末から、壊れたパソコン、最近だと、廃棄処分された民間の小型宇宙船を修理したわね。一人でね」


「へぇ~。その若さで大したもんだな」


 俺は素直に感心する。小型とはいえ、壊れた宇宙船を一人で直せるメカニックはそうそういない。しかもこの歳でだ。まだ十代だろうが。


「ありがと。だから私、本当はメカニックになりたかったの。……両親には全く理解してもらえなかったけどね」


 二番倉庫への道すがら、アカツキの身の上話を聞いた。……機械弄りが好きで、メカニックになりたかった。しかし、両親に理解してもらえなかったと。


 仕方ないっちゃ、仕方ない。両親はアカツキをエリートとして育ててきた。ゆくゆくは政界、財界デビューか、御曹司との結婚か。そんな娘がメカニックになりたいと言ったところで聞く訳ない。


 アカツキがトーリエ女学院に入学した事から考えるに、アカツキの両親もまたエリート。そしてこの手のエリートに家族愛なんか無い。こいつらは金、地位、権力が全てだ。アカツキの両親にとって、娘は立身出世の道具でしかない。胸糞悪い話だがな!


 ……チッ! 気分が悪いぜ。そうこうしている内に、二番倉庫に到着。シャッターを開けると、そこには大小様々なスクラップの山。ジジイがあちこちからかき集めた物だ。


「ここが二番倉庫だ。ここに有るスクラップは全てお前が好きにして良い。どうせ俺にはただのガラクタだからな。だが、お前なら宝の山にできるだろ?」


 俺はそう言ったが、アカツキは既に聞いてねぇ。すぐさまスクラップの山に飛び付いた。


「凄い! これ軍の制式モデルの! こっちは試作段階で廃棄された奴! うわうわ! 本当にもう最高!」


 俺にはガラクタにしか見えない壊れた機械類を手にしては大はしゃぎ。マジで機械好きなんだな。


「盛り上がっているところ悪いんだがな。仕事はしてくれよな? レディの修理頼むぜ。今はお前だけが頼りなんだ」


 はしゃいでいるのは結構だが、今の最優先事項はレディの修理だ。果たして、アカツキにできるのか?


「あ、ごめん。つい。でも、本当に宝の山よ、これ。さすがはシェルポ博士ね。これなら資材面は問題ないわ。あとはシェルポ博士の研究室を見せて。レディに関する詳しい情報が欲しいの」


「おう、わかった。付いてこい。繰り返すがお前だけが頼りだからな。頼むぜ。レディが宇宙に上がれなきゃ、俺は飯の食い上げになっちまう」


「だったら、まともに働いたら?」


「学園長に退学届を叩き付けてバックレたお前には言われたくねぇよ」


 生意気なガキだが、悪くねぇ。さて、ジジイの研究室に連れていってやるか。







 それからがまた凄かった。ジジイの研究室に来たアカツキはジジイの遺した資料やら、設計図やらを片っ端から圧倒的な速さで読み漁り、パソコンを起動させて、今度は凄い勢いで図面を書き、プログラムを組み始める。


「ごめん。私、数日ここに籠るから。差し入れと着替えよろしく」


 パソコンに向かったまま、そう言うアカツキ。完全に仕事モードだ。……ジジイもそうだったな。一度仕事モードになったら、寝食も忘れて没頭していた。だから、俺が差し入れを持っていくのがいつものパターンだった。


「わかった。だが、無理はすんなよ。ちゃんと寝ろよ。良いな?」


「うん。前向きに検討する」


「お前は政治家か」


 ジジイもそうだったが、こういう奴は一度没頭したら、終わるまで止まらない。とりあえず、飯と飲み物。あとは着替えだな。ジャージと作業用にツナギを買ってくるか。







 それからまた、半年。年が明けて星暦189


「速い! 速いぞ! 今回も圧倒的な速さでぶっちぎりの一位!! 今年のS1グランプリ優勝は、半年前にデビュー以来、無敗の王者、『魔獣』ザヤン・ルゲーブ! 機体はフォーチュンレディ! 下馬評通りの完全勝利〜〜〜〜っ!!」


 あ〜! うるせぇ! 仕事柄とはいえ、ナレーターの兄ちゃんテンション高いな! さて、表彰式だな。あとは勝者インタビューも有るんだよな〜。……正直、柄じゃねぇんだがな〜。


「ザヤンさん、嫌そうな顔しない。表彰式に出るんでしょ? あと勝者インタビューも有るんだし」


『諦めなさいザヤン。メカニックをする対価として、宇宙レースに出る。それが契約なんだから』


「へいへい、わかりましたよ。全く、めんどくせぇ……」


 アカツキはマジモンの天才だった。僅か三日でジジイの研究の全てを理解、吸収し、我が物とした。そして、ジジイの使っていた機材とジジイの集めた資材を使い、レディを見事に修理、改良さえしてみせた。


 本人曰く、『シェルポ博士は天才。私は博士が最後に遺した設計図を元にやっただけ』だそうだが、あの設計図、書いている途中でジジイが死んだから、未完成の内容なんだよな。それを元に完成まで持っていったんだから、アカツキは半端ねぇ。


 で、見事パワーアップを成し遂げ、復活したレディ。アカツキの実力は本物だとわかった。当然、ウチの専属メカニックとして採用決定。


 そんなアカツキが専属メカニックとして働く事の対価として要求してきた事。それが、宇宙レースへの出場だった。


「はぁ?! 宇宙レースだぁ? 何でそんなもんに出なきゃならねぇんだよ!!」


「私、機械弄りも好きだけど、宇宙レースも好きなの。あのデッドヒートが堪らないのよね。本当は私が出たいんだけど、私にパイロットの才能は無い。だから、私の造った機体で出場するのが夢だったのよ。そういう訳だから、ザヤンさん。私の代わりに私が整備、改良したレディでレースに出て。それが私への対価。断るなら出て行くわよ? 困るわよね〜? 私以外に、レディのメンテができる人が見つかるかしらね〜?」


「……このクソガキが。チッ! しゃーない! わかったよ。レースに出てやる。レースもまた勝負だからな。何より賞金が出る。なら、これも賞金稼ぎの一環だ」


「さすがザヤンさん。話がわかる!」


「脅迫しといてよく言うぜ」


 こうして、俺は宇宙レースにデビューする事となり、各レースを総ナメにしてやった。それはそれで悪くなかったんだが……。世界はそれを許さなかった。


 四年後、星暦193 四月一日 午前九時十二分。百年の小競り合いを破り、テラ共和国、ゼオン帝国が第二次大戦に突入。宇宙は再び、血で血を洗う地獄へと突入したのさ。もはや、宇宙レースどころじゃなくなった。アカツキも残念がっていたが、こればっかりは仕方ない。そして俺もまた、戦争へと向かう事に。


 だが、まさかあんな事になるとは、思ってもみなかったぜ。




ラーメンを食べ終わり、帰宅の途中、一際明るい流れ星『火球』を目撃したチェシャーとイナバ。二人はその異能であれは単なる火球ではないと悟り、落下地点へと急行。







一方、ザヤンは戦闘機パイロットデビュー。華々しい活躍を繰り広げ、絶好調。しかし、愛機フォーチュンレディの設計開発者。ジジイこと、ルトビー・シェルポ博士が高齢だった事もあり、他界。レディのメンテができなくなり大弱り。


それから半年、燻っていたザヤンの元に現れた一人の少女アカツキ。自身を腕の良いメカニックと売り込んできた。


最初はガキがスラム街に来るなと追い返そうとしたザヤンだったが、アカツキがレディの声を聞いた事に驚き、態度一変。とりあえずレディに会わせてみる事に。


結果、本当にアカツキはレディの声が聞こえると判明。しかも本当に天才メカニックだった。天才科学者シェルポ博士の遺した知識、技術を全て吸収、更に発展させる天才ぶり。


そしてメカニックとして働く対価として、ザヤンに宇宙レースにレーサーとして出場する事を要求。呑ませる。


その後、レースを総ナメしたザヤンだが、宇宙は再び大戦へ。







今回の傑物


トルビー・シェルポ博士 ザヤンの愛機。フォーチュンレディの設計開発者。エーテル工学の第一人者。彼が二十代の時に発明した新型エーテルリアクターにより、人類は新たなステージに進んだと言われる程の天才科学者。


研究の為にやむなく軍入り。軍の科学者として働く。開発コンセプトはコンパクト、ハイパワー。その完成形がフォーチュンレディ。もっとも、性能を追求するあまり、パイロットの命を無視した殺人機体になり、そのせいで軍をクビになった。


だが、めげずにスラム街で研究開発を続け、ザヤンと出会い、フォーチュンレディを託す。最後の最後まで研究に全てを捧げた人生だった。







アカツキ シェルポ博士亡き後、メカニックがいない事に悩んでいたザヤンの前に現れた少女。黒髪、黒目の東洋系。


父は官僚、母は大企業のトップのエリート一家出身で、本人も天才。金、物は与えられたが、愛情の無い家庭で育った彼女はおもちゃの分解をきっかけに機械弄りにハマり、やがて、メカニックを志す。


名家のお嬢様だけが入学できるエリート校。トーリエ女学院に在籍していたが、アカツキはエリート養成教育を強いる校風、メカニックになりたい自分を認めない両親に対し、遂にキレて、学園長の顔面に退学届を叩き付けてバックレかまし、挙げ句、両親から勘当された。


その後、かねてから噂に聞いていた賞金稼ぎ、ザヤン・ルゲーブの元へ。天才メカニックとしての実力を見せ付け、専属メカニックに。その後、レースチーム『ビースト』を結成。レーサーとして、賞金稼ぎとして活躍するザヤンを支えた。


では、また次回。



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