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第33話『魔獣』

 怪植物トライフィートによる一連の騒動が終わった数日後。バニゲゼ通商連合、首都。リーカモマッカに有る、冒険者ギルド本部。本部長室にて。







 チェシャーside


「…………以上、第八十四支部を発端とする、一連の騒動の報告書になります」


 私は今回の騒動に関する報告書。イナバと共同執筆したそれを所長に提出。受け取った報告書を熟読する所長。何度やっても緊張する。受理か? 却下か? 所長の判断は……。


「……うむ。ご苦労だったな、お前達。今回も良い仕事をしてくれたな。特別ボーナスを支給しよう。では、下がって良し」


 報告書から目を上げ、所長はそう言った。よっしゃ! 受理! 良かった〜。却下されたら泣くところだった。イナバと二人して必死に書き上げた報告書だったから……。あ、涙がこみ上げてきた。


「はい。失礼します」


「……失礼します」


 ともあれ、イナバと一緒に退室する。あんまり入りたくないんだよね〜。本部長室は。







「やっと終わった〜!」


「……報告書を提出して受理されるまでが仕事」


 イナバと二人、ギルド本部の廊下を歩く。先日のスタンピードを発端とする一連の騒動。事件は解決したものの、それだけでは済まないのがギルド本部職員の悲しい所。


 事件に関わった者として、当然、報告書を書いて提出しなければならない。


 よく有る安っぽいヒーローみたいに『事件解決、後は知らん』は通らない。今後に備え、事件に関する正確、詳細な情報を提出する義務が有る。情報は最強の武器であり、防具だから。


 この世で最も恐ろしい事は『未知』。知らない、わからないでは、対処のしようがない。いわゆる初見殺し。所長はその事を熟知しているが故に、とにかく報告書に対して厳しい。容赦なく却下を連発してくるから、毎度、提出の度に冷や汗をかいている。ともあれ、今回は一発受理。私とイナバの両名による共同執筆だったけど、あ〜、しんど。


「とりあえず、イナバ、お疲れ〜」


「……ネコちゃんもお疲れ。……今日は上がりだし、帰りに何か食べていく?」


「そうだね。もう、帰って何か作ろうって気にもなれないから、食べていこう。どこ行く?」


「……ラーメン食べたい。チャーシュー麺チャーシューマシマシで」


「良いね。どこにする? 銀龍ラーメン? 魔座? 行々亭? ラーメン横縄?」


 報告書の執筆、事後処理、とにかく疲れた。サッと食べられるのが良い。という訳でラーメンに決定。さて、どの店に行くか? 候補を幾つか上げる。


「……ラーメン横縄で」


「よし、決まり。ラーメン横縄に行くよ!」


 報告書の執筆やら、事後処理やらで、本部に泊まり掛けの日々から、ようやっと解放された。こういう時のラーメンは美味しい。何にしようかな? イナバはチャーシュー麺チャーシューマシマシを頼む気らしい。だったら私は、ダブル煮卵ラーメンにしようかな? あと、炒飯と餃子も付けて……。







 …………と、考えていたその時の私の姿はお笑いだったぜ!







 ラーメンを食べに繁華街に入る。既に時間は午後十時を廻っているのに、人だかりが絶えない。賑わっている。


 道行く人々を躱しながら、歩くと見えてきたのは、横に張られた、大きな『縄』の看板。大手ラーメンチェーン『ラーメン横縄』の看板。本当にわかりやすい。一目でわかる。やっぱり、看板はわかりやすさが一番。意識高い系の訳のわからない看板は駄目だね。


 さて、店に着いた私達。店員に案内されて、席に着く。注文は既に決まっている。


 呼び出しベルを押して店員を呼び、さっそく注文。


「私はダブル煮卵ラーメンに、セットで餃子と炒飯」


「……チャーシュー麺チャーシューマシマシ、餃子三人前、ライス大盛り、あと唐揚げ特盛り」


 注文を終えたら、後は待つばかり。料理が来るまでお喋りタイム。話題は最近、悪い意味で大評判の映画。映画好きで、駄作と言われる作品でも一度は見る先輩が見に行ってみたら、先輩を含めて三席しか埋まっていないわ、先輩以外の二席も途中で帰るわと散々な状況だったらしい。


 ちなみに最後まで見た先輩の感想を翌日、お昼の食堂で聞いたら……。


『元、特級冒険者の私だから耐えられた。でなければ耐えられなかった』


 ……あの時の先輩は今、思い出しても怖い。


「先輩から聞いたんだけど、今、上映中の『底無しのカスーレット』。あれ、ひどいらしいね。公開初日から客が入らなくて映画館の座席がスカスカ。レビューサイトも見たけどさ〜。圧倒的に大不評。終わってる。あと、サクラだらけ。『最高傑作』『感動した』『劇場で見るべき』とか言って褒めているけど、具体的にどこが最高傑作なのか、どう感動したのか、全然書いてないから、サクラなのが丸わかりなんだよね〜。特に劇場で見るべきって書いてるサクラ。売り上げがヤバいからチケットを買わせようって魂胆が丸出し」


 本当にバレバレのサクラだらけ。どうせ雇うなら、もう少しマシなサクラを雇えば? あんなヘボ演技で騙されるのはどうしようもない馬鹿だけ。


「ちなみに批判側は、どこが悪いか具体的に指摘してる。『脚本が完全に破綻している』『話が支離滅裂』『展開が唐突』『見ていて何も伝わってこない』『意味不明』。そりゃ、映画好きの先輩が怒るわ」


 あの時の先輩は本当に怖かった……。怒りで先輩の持つグラスのお冷やが沸騰していたからね。それでもガラスのグラスが何ともない辺り、先輩の実力の凄さがわかる。


「……そもそも、あの監督は無能。所詮、演出家止まり。これまでの作品がヒットしたのは周りの人達のおかげ。それなのに、自分の手柄と錯覚。挙げ句、自分は天才と思い上がり、脚本、監督と出しゃばった。なまじヒットしたから、周りも何も言えないし、本人も聞かない。イエスマンだけで周囲を固めて暴走した結果が今回の大爆死。単なる自業自得。どうせ反省なんかしないけど」


 イナバの言う通り、『底無しのカスーレット』の監督、脚本担当の『ガード・ホソー』は以前から脚本の才能無しと散々に言われてきた男。


 しかし、この『ガード・ホソー』、これまで関わってきた作品がヒットしたせいで、自分は天才と思い上がった。そして脚本家を始め、自分に異を唱える製作関係者を次々と追放。自身を持ち上げるイエスマンだけで周囲を固めた。


 で、自身で脚本、監督を務めて完成したのが『底無しのカスーレット』。自信満々で公開したは良いものの、結果は大爆死。今年最低最悪の作品とボロクソに叩かれ、更には映画史上、最低最悪とまで言われ、ネット上では『底無しのカス』と揶揄されている始末。事実、既にあちこちの映画館が上映打ち切り決定。映画館だって商売。やればやる程、損する映画なんて上映したくない。


 どうせ上映するなら売れる奴。『三百億の女』の名言を生んだ名作『魔滅の刃』とか。先輩に『絶対に見に行きなさい』と言われて見に行ったけど、炎獄姐さんが本当に格好良かった……。皆を最後まで守り抜き、後の事を主人公に託して死んだ最期はマジ泣けた……。実際、周りの観客皆、泣いていたし。見に行って良かった。


 それに引き換え、『底無しのカス』ときたら……。馬鹿本人はつまらないプライドで。スポンサーと配給会社は少しでも資金回収をしたいから、サクラと提灯記事を大量投入。焼け石に水って知ってる? いや、これは火山の大噴火に水だわ。やればやる程、周囲は冷める。見苦し過ぎる。







「下級転生者と同類だからね、あの馬鹿監督。『自分は天才、絶対正義。自分を認めない周りは無能、間違っている』。一番、たちの悪い奴。イナバ。私、こんなレビュー見たんだ。最高評価を付けた上で、『空前絶後の傑作。後世に伝えられるべき名作。こんな素晴らしい作品を批判しているのは教養の無い馬鹿』って書いていてね。これ、どう思う?」


「……書いた奴は頭がおかしい」


「だよね~! でさ、私、誰が書いたかハッキングして調べたんだ〜。そしたらさ、馬鹿監督本人! 他にも複数アカウントを使って自画自賛レビュー書きまくり。恥知らずにも程が有るよね」


「……恥知らずというより、自己愛性人格障害」


「それな!」


 ある意味、幸せだよね~。都合の良い事は自分のおかげ。都合の悪い事は全て他人のせい。……さっさと死ね。本当にこの馬鹿監督のせいで、先輩が不機嫌になったんだからね!


「……今回の大爆死、大赤字確定で、配給会社の宝東はどうするのかな? あと、スポンサー企業」


「ま、ただじゃ済まないわね。確か、製作費三十億って聞いたし。対し、興行収入は十億に満たないだろうって予想されてる。とにかく客が入らないからね。単純に考えても約二十億の赤字。それ以外にも宣伝やら、何やらで諸費用が掛かっている事を考えると、とんでもない大赤字ね。少なくとも私がスポンサーなら、二度と『ガード・ホソー』絡みの作品には金を出さないわね」


「……私も」


 これだけの醜態、大失態を犯した自称、天才『ガード・ホソー』。本人は何の反省もしていないから、どうせ次回作で当てようと考えているのは明白だけど、果たして、どこの映画配給会社が相手にしてくれるかな〜? どこの企業がスポンサーに付くかな〜? 既に『ガード・ホソー』は終わったとまで言われているのにね〜。







 後日談だけど、『底無しのカス』を最後に自称、天才『ガード・ホソー』はどこからも相手にされなくなって、映画業界から完全に消えた。正確には永久追放。


 何せ、最終的に三十億以上の大赤字を叩き出した挙げ句、『俺は天才だ! 俺の作品を否定する奴は全て馬鹿だ! お前ら関係者は無能だ!』と、観客、映画配給会社、スポンサーに責任転嫁して逃げたからね。完全に狂っている。そして、狂っている奴を相手にする程、映画業界関係者は狂っていなかった。


 結局のところ、こいつが関わったこれまでの作品のヒットは脚本有りき。その脚本家の『サトゥーコ・バックテンプル』女史を追放したのが全ての間違い。


 ちなみにバックテンプル女史が脚本を書いた新作映画。『宝国』は大ヒット。売り上げも右肩上がり。『底無しのカス』と違ってね。


 それからしばらくして、大事件発生。バックテンプル女史が刃物を持った男に襲撃された。幸い、バックテンプル女史は無事。男はバックテンプル女史のボディーガードに取り押さえられて、殺人未遂現行犯でそのまま御用。


 で、男は誰かと思えば、自称、天才『ガード・ホソー』。自分が映画業界から追放されたのに対し、バックテンプル女史が称賛されている。その事に対し嫉妬に狂い、バックテンプル女史の殺害を企てた。


 もっとも、その事はとっくにバックテンプル女史にバレていた。なぜなら、数日前からバックテンプル女史のホームページに執拗に誹謗中傷、殺害予告が書き込まれており、調べた結果、『ガード・ホソー』が浮かび上がった。


 だから、バックテンプル女史は自身を囮に『ガード・ホソー』をおびき出し、まんまと捕らえた。かくして自称、天才『ガード・ホソー』は大赤字を出した馬鹿から、犯罪者にめでたく落ちぶれ、晴れて刑務所行き。


 そして獄中でも全く反省せず、天才を自称し、周囲を見下しまくった結果、他の囚人達の怒りを買い、集団リンチを受けて死んだ。最後の最後まで、自分は天才だと錯覚したままだったそうだ。


 馬鹿な男。映画は一人の力で作られている訳じゃない。監督、脚本、演出、役者、各種スタッフに関係者各位、大勢の人達による共同作業。故にヒットしたなら、それは関係者全ての手柄。


 それを自分の手柄。自分以外は全てカスと考えた。そんな思い上がりが『ガード・ホソー』を破滅に追いやった。


 まぁ、馬鹿がこの世から一人減った事は喜ばしい。二度と現れるな。







「お待たせしました。こちら、ダブル煮卵ラーメン、セットの餃子と炒飯になります」


 馬鹿の話で盛り上がっていたら、店員が私の注文した品を持ってきた。よし、馬鹿の話題はここまでにして食べよう。


「どうも」


 店員に礼を言い、料理に手を付ける。


「イナバ、お先に」


「……ん」


 では、さっそく、ダブル煮卵ラーメンの煮卵を一ついただく。私、この半熟味付け煮卵が大好き。


「……ネコちゃん、煮卵好きだね」


「うん。ぶっちゃけ、これが食べたいからラーメン屋に来てる。ラーメンはおまけ」


「……ラーメン屋に喧嘩売る発言」


「良いでしょ別に。注文もしないで騒ぐ馬鹿と違って、ちゃんと注文しているんだから」


 お互いに軽口を叩きながらのラーメン。あ〜、久しぶりに楽しい食事。この数日、本部に缶詰めで報告書を書いたり、事後処理をしたりで、食事なんて単なる栄養補給でしかなかったからさ。


 ……それもこれも全て下級転生者が悪い!!


 先日の騒動を起こした、怪植物トライフィート。こいつが生まれた原因が、下級転生者のやらかし。


『チートで作物を改良して農業改革』


 こんな馬鹿な事を考え、その結果が制御不能の怪植物を生み出す始末。下級転生者の時点で無能なんだから、余計な事をするな! どうせ、ろくな事にならないんだから!


 本当に馬鹿はこれだから困るのよね。凄い力を得る事と、凄い奴になる事は違う。こんな当たり前の事がわからない。馬鹿だから。


「お待たせしました。チャーシュー麺チャーシューマシマシ、餃子三人前、ライス大盛り、唐揚げ特盛りです」


「……ありがと」


 あ、イナバの注文した料理も来たね。しかし、()()()()()()()凄い量。


「相変わらず、食べるねイナバ」


 さっそく、チャーシュー麺チャーシューマシマシを啜りつつ、餃子を食べてライス大盛りをかき込み、唐揚げを頬張るイナバ。


「……私、燃費が悪いから」


「異能の関係上、仕方ないね」


 イナバは異能の性質上、とにかく燃費が悪い。特に炭水化物を大量に必要としている。だから、ご飯、麺類はいつも大盛り。たん白質摂取も欠かさない。


「……ネコちゃんは良いよね。私程、燃費が悪くないし」


「イナバと比べればマシだけど、私も燃費が良い訳じゃないからね。そもそも、私とイナバじゃ異能のタイプが違うし」


 私は空間操作系。対し、イナバは情報収集系。情報収集系は特に脳に負担が掛かる。そして脳は非常に大食い。しかも、脳は糖分しか栄養として使えないし。


 とにかく、異能の行使は多大な負担が掛かる。強い異能であればある程。だからこそ、異能の使い手は皆、鍛錬を欠かさないし、食事にも気を遣う。最悪、命に関わるからね。


 ……ま、そうとも知らずに異能をバカスカ使っては『加護』切れで干からびて死ぬ馬鹿がいる。下級神魔の息が掛かった下級転生者に転移者。そういえば、先日も女子力高めとかいう、男子高校生とやらが干からびて死んだそうだ。


 聞けば、クラスごと異世界転移してきた転移者で、料理を出せる異能を得たらしい。で、その異能で女子達を従えハーレム王に。この手の奴って、ハーレム好きよね〜。盛りの付いた猿かっての。


 ま、オチはいつもの奴。異能の使い過ぎで『加護』切れを起こしてアボン! 本当に馬鹿。何が女子力高めよ。女子力より常識を磨けっての。ただで異能を使える訳ないでしょ。


 ちなみにハーレムの女子達だけど、その後、全員バニゲゼ通商連合の奴隷商人に売り飛ばされた。当たり前。転生者、転移者はこの世界においては、無戸籍、無国籍の根無し草。人として扱われない。単なる物でしかない。よって、あっさり売り飛ばされる。恐ろしい事にね。


 そういう点では、先日のメイドちゃん(ハルカの事)は本当に上手くやった。


 伝説の三大魔女が一角。『名無しの魔女』の弟子となり、その庇護を得た。『名無しの魔女』を敵に回す奴はまずいないからね。この世界における安全と居場所を確保。彼女は異世界に飛ばされる事の恐ろしさ。無戸籍、無国籍の怖さをよくわかっている。


 異世界転生して無双、ハーレム、成り上がりなんか、所詮フィクション。少なくとも、下級転生者如き負け組のクズには断じてできない。


 現実の非情さ、残酷さに潰される


『加護』切れで死ぬ


 界理違反で抑止力に殺される


 ま、この三つが異世界転生、転移したクズの末路。クズは所詮、クズ。勝ち組にはエリートしかなれないの。私やイナバみたいにね。(チェシャーは猫族一の名家出身。イナバも兎族の名家出身)


 名家は伊達に名家じゃないのよ。ガチガチの掟も全ては血筋の発展と繁栄、異能の強化の為に。


 クズとは違うのよ、クズとはね。


 とまぁ、食事を堪能していた私達だけど、この後、また一騒動起きる事となる。


『魔獣』との出会いが。







『魔獣』side


 俺の名は『ザヤン・ルゲーブ』。いわゆる賞金稼ぎだ。遠い昔、人類は母なる大地を離れ、宇宙に進出した。今となっては、母星がどこなのかすらわからねぇ。噂によれば戦争で吹っ飛んじまったとか聞いたけどな


 でだ、宇宙に進出した人類は何やかんやで、居住可能な惑星を見つけ、そこに住み着いた。


 が、ここで大発見。先史文明の遺跡が見つかったんだ。そこには人類を遥かに上回る知識、技術が有った。それのおかげで人類の科学文明は飛躍的に発展。人類は宇宙のあちこちに住むようになった。それを記念してそれまでの『世歴』から『星暦』へと改められた。人類は広大な宇宙を舞台に繁栄、発展していった。


 …………とまぁ、ここで終わっていたなら、ハッピーエンド、めでたしめでたしとなったんだろうが、あいにく、現実ってのはそんなに甘くねぇんだわ。







 当たり前だが、人には欲が有る。先史文明の遺跡がもたらした、高度な科学技術。それは人類の文明を発展させたが、同時に欲望に火を点けた。要はあちこちで戦争が始まった。世の中は戦国乱世に突入さ。


 野心を持つ者が現れては死んでいく中、二人の天才が現れた。『テラ・メサイア』と『ゼオン・カイゼル』。人呼んで『救世主』と『大皇帝』。この二人は圧倒的なカリスマで人々の支持を集め、次々と各勢力をまとめ上げ、取り込み、遂には一代で巨大国家を作り上げた。


 テラ・メサイアが建国した『テラ共和国』


 ゼオン・カイゼルが建国した『ゼオン帝国』


 人類を二分する巨大国家だ。いやはや、大したもんだ。たかが賞金稼ぎの俺には逆立ちしても真似できねぇ。


 だがな、さっきも言ったが、人には欲が有る。二人の天才。テラ・メサイアとゼオン・カイゼル。両者はお互いを邪魔だと感じた。天才はこの世に二人いらないってな。そうなるとどうなるか? 決まってんだろ。戦争だ。


 テラ共和国とゼオン帝国は、人類統一国家の座を賭けて、戦争を始めた。特に最初の三年間。通称『地獄の三年間』は今でも歴史の教科書に載っている程の激戦。この三年間で全人類の約七割が死んだそうだ。ちなみに、テラとゼオンも死んだ。馬鹿だろ。


 そもそもの言い出しっぺであるテラとゼオンが死んだ事で、テラ共和国とゼオン帝国はとりあえずの休戦。あくまで休戦な。終戦じゃねぇ。







 それから百年。テラ共和国とゼオン帝国は小競り合いを続けてきたが、時は星暦193。半年前にとうとう、戦争勃発。再び、宇宙は戦乱の時代に突入したのさ。


 で、俺の話になるんだが、俺はスラム街育ちでな。そんなのだから、まともに学校なんか行けやしねぇ。当然、まともな職に就くなんざ無理。


 だったら、まともじゃない職に就くだけだ。そして選んだのが賞金稼ぎって訳さ。自慢じゃねぇが、俺は腕っぷしには自信が有る。後、戦闘機乗りの才能が有った。


 時は星暦180。俺が十六の頃だ。ゼオン帝国の奴らが来てな。ちょっとしたイベントをやったのさ。要は人気取り、不平不満のガス抜き。その中に戦闘機のシミュレーターが有ったんだ。無料で使えるとあって大人気。俺も長い順番待ちをした末にやっと乗れたんだが、乗った瞬間わかった。


『これだ!!』


 戦闘機乗り。それが俺が生きる道だってな。しかしだ。俺はスラム街育ちの孤児。そんな奴が軍に入るのは無理が有る。コネも何も無いしな。







 しかし、蛇の道は蛇ってな。スラム街には色々な奴らがいる。その中に、かつて軍で戦闘機の研究、開発をしていたってジジイがいた。


 何でも、加速度、機動力を追求しまくった機体を研究していたが、結果、凄まじいGにパイロットが保たない機体になってしまい『そんな機体、乗れるか!』とクビにされたそうだ。そりゃそうだ。パイロット育成はただじゃねぇ。金も時間も掛かる。せっかく育てたパイロットを殺すような機体なんぞ、軍からすればゴミ。


 だが、ジジイは諦めず、スラム街でせっせと機体を組み上げていた。何せ、百年に渡り、共和国と帝国は小競り合いを続けてきたからな。素材となるスクラップは幾らでも有る。だが、肝心のパイロットがいない。何せ、圧倒的な加速度、機動力の代償にパイロットに殺人的なGが掛かる、殺人機体だからな。


 その殺人機体に俺を乗せろとジジイに直談判したのさ。







 当然、ジジイもすぐには首を縦には振らなかった。自分が軍をクビになっても研究を続けてようやっと生み出した機体。俺みたいなスラム街育ちのクソガキなんかに乗られたくないし、乗せたくない。


「おい、ジジイ。はっきり言ってやる。あんたの作った機体は、兵器としては完全に失敗作の欠陥品だ。兵器ってのは訓練すれば誰でも使えて、生産、補給、整備も簡単じゃなきゃならねぇ。なのに、この機体は何だ? 性能を追求するあまり、パイロットを殺したんじゃ意味が無い。あんた、これに乗れるのか?」


 こういう奴には、はっきり言うに限る。事実、ジジイは反論できなかった。そりゃ、乗れないよな。そこで俺は畳み掛ける。


「あんたの作った機体は欠陥品の殺人機体。並の奴には乗れない。……だが、俺ならワンチャン有る。どうだ? 俺を乗せてみないか? それとも……このままあんたの造った機体を置物にする気か?」


 ジジイはしばらく黙っていたが、それから一言。


「……乗ってみろ。そこまで言うならな」


「任せろ」


 ジジイは俺が機体に乗る事を許した。ジジイとしても、自分の造った機体がパイロット不在で置物のまま終わるのは嫌だったらしい。







 ジジイに案内されて、その家へ。更に地下へと案内される。着いた先はドック。そこに一機の戦闘機が佇んでいた。


「……儂の全てを注ぎ込んで造った、唯一無二の機体じゃ。既存の機体なんぞ、こいつと比べたら、カスじゃ。しかし……お前の言う通り、こいつはパイロット殺し。並の奴には乗れん。お前は言ったな? 自分ならワンチャン有ると。ならば証明してみせろ。こいつを乗りこなしてみせろ。できるならな?」


 そう言って不敵にニヤリと笑うジジイ。さっきの意趣返しか。食えないジジイだ。


「上等! バッチリ乗りこなしてやるぜ!」


「言うのう。本来なら、トレーニングを重ね、更にパイロットスーツに着替えろと言いたいところだが、そんな状況ではないからの。ぶっつけ本番じゃ。……覚悟は良いな?」


「言ったろ? 上等だって」


「そうか。ならばもう何も言わん。とりあえず、これがマニュアルじゃ。一時間くれてやる。覚えろ。儂は機体の調整をするでな。あと、マニュアルは常日頃から読み込んでおけ。いざという時、どうすれば良いかわからん、では死ぬぞ?」


 ジジイは俺に分厚いマニュアルを一方的に渡すと、さっさと機体の調整に向かった。やれやれ……勉強は苦手なんだけどな。しゃーない、やるか!


 俺は分厚いマニュアルと格闘する事に。ちなみに、滅茶苦茶強敵だった……。クソジジイ! もっとわかりやすく書きやがれ! 役には立ったけどな。……特に最後の時にな。ありがとよジジイ。あんたの忠告、役に立ったぜ。







 一時間後。


『時間じゃ! さっさと来い!』


 ジジイに渡された通信機から呼ばれ、マニュアル片手にドックに向かう。そこではジジイが機体のそばで待っていた。


「来たな。マニュアル内容は覚えたか?」


「とりあえず、操縦関連はな」


「ふん。まぁ、良いわい。さっさと乗れ。本来なら、ヘルメット始め、パイロットスーツ一式を渡すんじゃが無いからの。そのままで乗れ。ただし、パイロットスーツが無い以上、負荷はまともに掛かる。パイロットスーツ着用でも死ぬ機体じゃ。全く命の保証は無いぞ。最後の確認じゃ。本当に乗るんじゃな?」


「あぁ。俺は戦闘機パイロットになる。だが、スラム街育ちの俺じゃ軍に入るのは無理が有る。何より、組織に入って上にへーコラするなんざ御免だね。俺は俺のやりたいようにやるぜ。目指すは賞金稼ぎだな」


「確かにのう。お前みたいなクソガキ、軍に入っても即、クビじゃな。ならば、もう何も言わん。乗れ。乗ってお前の言葉を証明してみせろ」


「了解」


 ジジイと言葉を交わし、機体のコクピットに乗り込む。シミュレーターと似ているが、微妙に違うな。だが、基本的な所は同じ。マニュアルも読んだし、いける。


 ハッチを閉めると、コクピット内部のあちこちが点灯。そして『声が聞こえた』。


『はじめまして、パイロットさん。長い間、こんな狭っ苦しい場所に閉じ込められて、うんざりしていたのよ。あなたは私のダンスパートナーになれるのかしら? 私のダンスは情熱的よ。……ダンスパートナーを焼き殺してしまう程に、ね?』


 おいおい。こんな機能、マニュアルには無かったぞ? だが、明らかに俺に対する挑発。舐められる訳にはいかねぇな。


「あいにく、社交ダンスの心得は無くてな。せいぜいストリートパフォーマンスぐらいさ。だが、退屈はさせねぇよ。何より、いい女との燃え上がるような逢瀬。男冥利に尽きるってもんだ。このザヤン・ルゲーブ、焼き殺せるなら、焼き殺してみな?『レディ』」


『……フフフ。言ってくれるわね。『魔獣』さん。じゃ、私がダンス初心者のあなたをエスコートしてあげるわ。退屈させないでね?』


「へー。そりゃありがたいな。ご期待以上をお見せするぜ」


 ちなみにこの『声』。ジジイには聞こえなかったらしい。機材にも一切記録されていない。だが、これが、俺の唯一無二のパートナー。『レディ』との出会いだった。ついでに俺の異名『魔獣』が初めて呼ばれた時でもある。







『準備は良いか?』


 通信機越しにジジイの声。スラム街の一角に有るジジイのラボ。その地下から地上に向けて滑走路が展開されていた。ジジイ、ラボを中心に辺り一帯を改造していやがった。無茶苦茶しやがるな。だが、戦闘機を発着させる以上、必要な事だ。


「了解、いつでもいける!」


 ジジイにいつでもいけると返事。柄にもなく緊張する。遂にだ。遂に俺は戦闘機パイロットとして飛び立つ。暗く汚いスラム街から、空へ、宇宙へ。


『緊張しているのかしら? 『魔獣』さん。私が歌でも歌ってあげましょうか?』


 俺の緊張を見抜いた『レディ』がおちょくってくる。


「だったら、メタルを頼むぜ! 爆音でな!」


『あらあら。私はそんな下品な音楽は嫌いなんだけど?』


「悪いな。こちとらスラム街育ちでね。お上品なクラシックとかは縁が無くてね」


『確かに。あなたにお上品なクラシック音楽なんて似合わないわね。だったら、ストリート仕込みのパフォーマンスに期待させてもらうわ。……がっかりさせないでね?『魔獣』さん』


「おうよ! キレッキレのパフォーマンスを見せてやるぜ!」


『何をさっきからゴチャゴチャ言っとるか! 準備ができたなら発進じゃ! まずは成層圏、そして大気圏突破して試験飛行じゃ。良いか? 一時間じゃ。儂のジャミングで軍の探知をごまかせるのは一時間が限度じゃ。それまでに戻ってこい。わかったな? ()()()()()()()()()()


「了解! それじゃ行くぜ……の前に。おいジジイ! この機体に名前は無いのか? 名無しじゃ締まらねぇ」


 いざ、発進と思ったが、ふと気付いた。この機体の名前を知らねぇ。名無しじゃ締まらないな。


『……無い。強いて言えば、試作型高速高機動強襲戦闘機。識別コード、THSAー0001じゃ』


「味気ない名前だな。だったら、俺が決めるぜ。そうだな……決めた!『幸運の乙女(フォーチュンレディ)』だ』


『あら、あなたにしては素敵な名前ね。気に入ったわ。その名前いただくわね』


「おう! よろしくな! 幸運の乙女(フォーチュンレディ)


 ジジイとのやりとりを聞いていた機体も俺が決めた名前を気に入ったらしい。


『……さっきからお前、誰と喋っとるんじゃ? 変な薬でもキメとらんじゃろうな?』


 しかし、機体の声が聞こえないジジイには俺が一人で喋っているとしか思えない。


「安心しな。俺は変な薬なんかやらねぇよ。じゃ、行くぜ!」


『本当に大丈夫じゃろうな? まぁ、良いわい。進路オールクリア! システムオールグリーン! フォーチュンレディ、発進よろし!』


「了解!」


 ジジイに心配されたが、心配無用だっての。そして、ジジイから、進路オールクリア、システムオールグリーンの通達。それに応え、いよいよフォーチュンレディを発進させる。最終確認良し、システムオールグリーン。メインエンジン、エーテルリアクター起動!


 先史文明の遺跡が見つかるまでは、核融合エンジンを使っていた人類。しかし、先史文明はとんでもない物を使っていた。


『エーテル』


 広大な宇宙に満ちる、いわゆるダークマター。こいつを制御、利用する技術を持っていた。その出力たるや、核融合エンジンなんぞの比ではなかった。で、作られた新しい動力源。それがエーテルリアクターだ。当然、フォーチュンレディにも動力源として組み込まれている。ジジイ謹製の最新型がな。


 ……もっとも、出力が凄すぎて、殺人機体になっちまった辺りは笑えねぇ。そのせいで、ジジイは軍をクビになっちまったしな。フォーチュンレディも長い間、置物になっていた。


 だが、それも今日で終わりだ!


 スラム街で燻っていた俺。地下ドックで置物になっていたフォーチュンレディ。共に飛び立つ。


「ザヤン・ルゲーブ! フォーチュンレディで出るぜ!」


 力いっぱい、ペダルを踏み込む。エーテルリアクターが待機状態から、起動状態に変わる。不可視のダークマター、エーテルがスラスターから放出され、莫大な推力を生み出す。それと共に、凄まじい加速度とGが俺に掛かる!


 こりゃキツい!! 殺人機体と呼ばれるのも納得だ!! だが……俺ならいける!!!!


 凄まじい加速度とG。だが、俺は耐えられた。パイロットスーツも無しの生身で耐えた。そして、遥か上空へとフォーチュンレディは飛び立った。


「ハッハーーー!! こいつは刺激的だ!! 最高にイカれてるし、イカしてるぜ!!」


 たちどころに成層圏到達、更には大気圏突破。広大な宇宙へと。全く、とんでもない機体だぜ。そりゃ軍をクビになるさ、あのジジイ。だけど、あんた最高だ。


『あらあら、元気なこと。てっきり即死するかと思っていたんだけど……。どうやら、本当に私のダンスパートナーにふさわしい男みたいね。それじゃ、これからよろしくね。『ザヤン・ルゲーブ』』


「おう、こちらこそよろしくな『レディ』。見てろよ。賞金稼ぎ王に俺はなる!!」


『威勢が良いわね。……私を失望させないでね?』


 これが俺、ザヤン・ルゲーブの戦闘機パイロットデビュー。その後、俺は愛機フォーチュンレディを駆り、数多の戦場を駆け抜ける事となる。そして共和国、帝国双方から『魔獣』と恐れられる事となる。


 ……ま、最後の最後で、ちとドジっちまったがな。




番外編、冒険者ギルドの若手二人。そして『魔獣』ザヤン・ルゲーブ。異なる世界で生きる両者。


片や、冒険者ギルド本部職員。対するや、宇宙戦争をしている世界の賞金稼ぎ。


本来なら、関わる事の無い両者。しかし……。







今回の馬鹿


ガード・ホソー 映画監督にして自称、天才。元は演出担当だったが、製作に関わった作品がヒット。その事で自分は天才と思い上がった。


挙げ句、監督、脚本と出しゃばり、自分に異を唱える製作関係者を次々と追放。暴走した末に莫大な製作費、宣伝費を掛けた新作映画『底無しのカスーレット』。通称『底無しのカス』を発表。


だが、結果は大爆死。最終的に三十億超の大赤字を叩き出した上、周囲に責任転嫁して逃げた。


それが原因で映画業界から永久追放。更に脚本家バックテンプル女史に対し逆恨みをし、殺害を企てるが失敗。刑務所行き。最終的に刑務所内で集団リンチを受けて死亡。







今回の傑物


ザヤン・ルゲーブ 『魔獣』の異名を取る凄腕戦闘機パイロットにして、賞金稼ぎ。愛機フォーチュンレディを駆り、無敵の強さを誇っていた。かつて、チート機体を与えられた下級転生者と戦い、これを圧倒、完全勝利した。


実は人間の上位種『超人』。通常の人間を遥かに上回る頑強な肉体、身体能力を誇る。要は天才。


では、また次回。

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