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第32話 留守番のエーミーヤ3

 不法侵入者のクソガキ共を処分したが、まだ他にもいる。近くの茂みの中から、先程よりこちらを伺う何者かが。クソガキ共と違い、いきなり姿を見せず、こちらの様子を伺う辺り、一味違うと感じさせる。故に私はこう声を掛けた。


「……いい加減、隠れていないで出てきたまえ。いるのはわかっている。五秒やろう。それでも出てこないなら、こちらも考えが有るからな」


 さて、どう出るか? すると……。


「降参だ」


 そう言って両手を上げ、茂みから姿を現したのは、先程殺した浅羽と同じ服装の、金髪の少年だった。私が真っ先に注目したのは、その身体つきだ。贅肉も、無駄な筋肉も付けない、よく練り上げられた肉体。この若さで見事だ。


「奴らのお仲間、という訳ではなさそうだな」


「同じ高校で同学年ではあるけどな。間違ってもお仲間だの、お友達だのじゃない。はっきり言って、あんたが殺してくれて手間が省けた。礼を言わせてもらう。ありがとう」


「私は私の仕事をこなしたに過ぎんがね。感謝の言葉は受け取っておこう」


 お互いに軽く言葉のジャブのやりとり。……ふむ。やはり、先程のクソガキ共と違うな。初対面でのやりとり。両手を上げて降参しつつも、視線は外さず、こちらを隙無く観察している。立ち居住まいも堂に入っている。一朝一夕で身に付くものではない。何者か?


「問おう。君は何者だ?」


 とりあえず、少年に対し何者かと問う。


蓮羅(はすら) (はじめ)。あんたがさっき殺した連中と同じ高校に通う、()()()高校生さ」


「そうか。()()()高校生か」


「「ハッハッハ」」


 お互いに笑い合う。中々にユーモアを解するらしい。できるな、蓮羅 一。


「不法侵入した事は謝罪する。しかし、こちらも見知らぬ島に遭難した身でね。生きる為になりふり構っていられなかった。現状、俺は降伏した以上、捕虜の立場だ。捕虜として、少なくとも最低限度の扱いは保証してもらう」


 更に、不法侵入した事を謝罪。そして、降伏した以上、自分は捕虜であり、故に捕虜として、少なくとも最低限度の扱いは保証しろと要求。やはり、先程処分した馬鹿共とは違うな。ならば、こちらも相応の扱いをしよう。


「確かに。君は降伏した以上、捕虜の立場にある。私としても、降伏した捕虜に対し、無体な真似はせんよ。ただし、武装は解除してもらう」


「了解」


 蓮羅 一。彼はお手製らしい武器で武装していた。ロングソードぐらいの長さの鉄パイプ。長い棒の先に鋭く尖った石を括り付けた槍。同じく、鋭く尖った石を付けた手斧。それらを外し、地面に置く。


「良いだろう。では両手を上げたまま、こちらに来てもらおう。悪いが念の為、拘束させてもらう。その代わり、身の安全は保証しよう」


「お手柔らかに」


 この状況でも一切取り乱さない辺り、大した胆力だ。……浅羽の浅はかさと対照的だな。本当に何者か? ともあれ、手錠を亜空間収納から取り出すと両手を拘束する。更にロープで縛る。


「悪く思わないでくれたまえ。私は万全を期するのでね」


「気にしていない。俺があんたの立場でも同じ事をするさ」


 本当に大した少年だ。普通なら怒るなり、何なりする。拘束が完了し、更に彼の武器を回収。有り合わせの材料によるお手製ながら、実に良くできている。素人にできる芸当ではない。


「では、屋敷に案内しよう。主は留守だがね」


 手錠とロープで拘束した蓮羅を屋敷に連行する。


「そんな事をして、屋敷の主に怒られないのか?」


 主が留守中なのに捕虜を屋敷に連行する行為。その事について、私の事を案ずる蓮羅。……つくづく、浅羽と奴に付き従っていた馬鹿女達と違うな。こんな状況でも他人を気遣えるとは。


「気遣い感謝する。それに関しては問題ない。私は留守中の事を主に任されているからな。主に損害を与える事にならなければ大丈夫だ」


「へぇ。随分と主とやらに買われているんだな、あんた」


「長い付き合いだからね」


 出会って間が無いが、この蓮羅 一という少年、中々の傑物と見た。とりあえず、屋敷でゆっくり話を聞こう。という訳で、私はロープを手に、拘束した蓮羅を連れて屋敷に向かった。


 ……退屈せずに済みそうだな。







 蓮羅side


 そもそもの事の起こりは、修学旅行に向かう最中だ。俺達が乗る旅客機が突然の嵐に巻き込まれて墜落した。だが、その際に妙な声を聞いた。


『異世界に行かせてやろう。特別な力も与えてやろう。その力を持って、異世界無双をするが良い』


 本当に聞いたかどうかはわからない。だが、あまりにも怪しいその内容に俺はこう言い返した。


『いらねぇよ。その手の話はいつだって詐欺と相場が決まっているからな。失せろ、ヘボ詐欺師』


 すると……。


『チッ! 力を与えてやろうというのに断るなんて、下等生物のくせに生意気な! そのまま死ね!』


 舌打ちの音と、口汚い罵倒。その直後、旅客機が墜落。激しい衝撃で俺は気を失った。







 気が付いた時、辺りは地獄絵図だった。墜落した旅客機の機体は大破。辺り一面、機体の残骸と、バラバラになった死体だらけだった。にもかかわらず、俺は奇跡的にかすり傷程度で済んでいた。ちなみに隣の座席に座っていた奴は座席ごといなくなっていた。本当に良く助かったな、俺。


 ともあれ、いつまでもこんな所にはいられない。シートベルトを何とか外し、まずは全身を確認。


 よし、多少、かすり傷は有るが、どこかが痛いとか、動かないとかはない。大丈夫。動ける。


 続いて物資を漁る。ただし、グズグズはしていられない。下手すると、機体が爆発炎上するかもしれないからな。付近を手早く漁る。







「とりあえず、リュックサックと、スナック菓子が見つかったな。あと、鉄パイプ」


 残念ながら、ほとんどの品が墜落時に潰れたり、焼けてしまっており、使える物はろくに無かった。僅かなスナック菓子とリュックサックが一つ。あと、機体の一部の鉄パイプ。これは武器になるな。とりあえず、その場を後にする。長居は危険だ。足早に旅客機から離れる。


「しかし、おかしな所だな。海に流氷や氷山が浮かんでいるぞ。修学旅行の行き先から考えても。旅客機の燃料から考えても、絶対におかしい」


 旅客機の残骸から離れ、しばらく辺りを調べていると海が見えた。しかし、その海には流氷、氷山が浮かんでいた。かなり緯度が高い証拠だ。


「それにだ。何で()()()()()


 おかしい点はまだ有る。流氷、氷山が海に浮かんでいる程の高緯度なんだ。相当寒いはずだ。にもかかわらず、別に寒くない。むしろ快適なぐらいだ。


「…………何らかの人為的な力が働いているのか?」


 普段なら、一笑に付すが、今は状況が状況。訳のわからない事態の真っ只中。もはや、何が起きても驚かないぞ。それこそ、いきなりドラゴンが出てきてもおかしくない……。いたよ、おい!


 海からいわゆる海龍っぽいのが出てきて、続いて現れた巨大イカっぽい奴と戦い始めた。


 海龍と巨大イカは激しく争っていたが、最終的に海龍が巨大イカの胴体を食いちぎり、決着。巨大イカを咥えて、海龍は海に潜っていった。


「……何なんだよ、ここは? 本当に地球か?」


 特撮の怪獣大決戦ばりの光景に唖然としていたが、事態は俺に優しくない。


『ギャオオオオ!』


 空から聞こえてきた叫び声に見上げてみれば、複数のドラゴンが空を飛んでいた。幸い、俺には気付いていないらしく、そのままどこかに飛び去っていった。良かった……。見つかったら、一巻の終わりだったぞ。


「どこだかわからんが、ヤバいぞここは!」


 ここがどこだかわからんが、明らかに地球じゃない。しかも化け物共がいるヤバい所だ。


「叔父さんに色々仕込まれたが、さすがにあんな化け物相手にしてたら、命が幾つ有っても足りないぞ」


 俺は両親共に黒髪、黒目なのに、金髪碧眼を持って生まれてきた。明らかに両親と違う容姿故に両親から疎まれていた。要はネグレクトだ。そして、両親もまた喧嘩が絶えなかった。そんなクソな環境にいた俺を引き取り、育ててくれたのが叔父だ。


 世界中を股に掛ける傭兵だった叔父は、俺に色々と仕込んでくれた。数年前に古傷が元で亡くなったが、事前に各種手続きを済ませており、俺は施設で暮らす事になった。そして今に至る。両親? 知らん。


 しかし、この状況はヤバい。化け物を相手なんかできないぞ。俺はラノベ、ゲームの主人公とかじゃない。最近流行りのチートなんか無い。


 ……その時思い出したのが、墜落時に聞いた声。


「まさか、そういう事か? あいつがこの状況を仕組んだのか?」


 もしかして、俺は最近流行りの異世界転生、いや、死んでないから異世界転移をしたのか? 確証は無いが、少なくともここは俺の知る地球じゃない。別の場所だ。偶然と考えるより、何者かによる作為的と考える方が自然だ。


「クソッ! 力を与えてやる云々はそういう事か!」


 誰だか知らんが、クソッタレが! だが、あの怪しい誘いを誘いを蹴った事に悔いは無い。


「……そりゃ、力は有る方が良いが、あの手の誘いに乗ると絶対にろくな事にならないからな。叔父さんも、都合の良過ぎる話には乗るなって言っていたしな」


 典型的な詐欺だからな。とにかく、生き延びる事を最優先だ。まずは水。そして食料。寝泊まりする場所だ。


 元傭兵の叔父さんの教えだ。最悪、水さえ有れば、生きられる。俺は水を探し、その場を後にする。化け物に出くわさない事を祈りつつ。







 幸い、しばらく歩くと小さな川を見つけた。とりあえず、水場は確保だな。次は食料だが……。


 狩りをしようにも、大した武器は無い。今、手元に有るのは鉄パイプだけだ。やはり刃物が欲しいな。とはいえ、さすがにナイフを持ち歩く訳にはいかなかったからな。


「……石器だな」


 この際、贅沢は言っていられない。叔父さんの教えに従い、川原で良さそうな石を探す。硬く、緻密な石が良い。黒曜石が代表格だが無かったので、できるだけ良さそうな奴を選ぶ。その結果、幾つか見つかった。それらをぶつけて叩き割り、破片を選ぶ。


「これとこれはナイフ代わりに使えるな。こいつは小さいから細工用だな。こいつは……」


 何とか、刃物をゲット。しかし、まだまだ。







「最低限、槍は必要だな」


 接近戦は危険だ。人間は弱いからな。間合いを取って戦うのが上策。手頃な長い棒を探し、先を割り、先程作った石の穂先を付け、丈夫な蔓で括り付けると即席の槍の完成だ。


 続いて短い棒の先を割り、こいつには大きめの石の刃を付けて丈夫な蔓で括り付ける。……石斧だ。間合いを詰められた際の武器はいるし、密林の藪を進むには鉈が必需品と叔父さんは言っていた。さすがに鉈は作れないが、間に合わせの石斧。無いよりは良いだろう。


「そして、食料だな。現在の手持ちはスナック菓子が少し。現地調達しないとな」


 しかし、ここは見知らぬ土地。食べられる物はわからない。だからといって、このままでは餓死確定。


「仕方ない。身体を張って確かめるしかないな」


 食べられそうな植物を幾つか取ってきた。で、まずは少し齧る。


「ペッ! これは駄目だな」


「こいつは……保留」


「こいつも駄目だな」


 原始的だが味見。苦い、辛い、酸っぱい奴は却下。続いて、その汁を肌に少し塗る。で、待つ。


「腫れたな。却下。こっちは大丈夫か? こいつも大丈夫っぽいな」


 アレルギー反応を見る。もちろん、本格的な検査は及ばないが、何もしないよりはマシだ。こうやって、食べられそうな植物を選ぶ。結果、幾つか残った。上出来だ。







「残るは火だな。オイルライターが有れば良かったんだがな」


 サバイバルをする上で必須と言えるのが火だ。しかし、ライターとかは無い。未成年、学生の辛いところだな。


「……もう一度、機体に戻るか? 大人の持ち物からライターが見つかるかもしれない。無けりゃ、普通に火起こしするだけだ」


 あまり近付きたくないが、ライターを探しに機体に戻る事にした。







 墜落現場に戻ってきたが、やはり、ひどい有り様だ。あまり、長居すべきではないな。死体が腐って、悪臭を放つし、死肉を漁る獣も来るだろう。何より、疫病が怖い。薬も無ければ、医者もいない現状、病気はそのまま命取り。


「長居は無用。さっさと探して、さっさと帰る。欲張るな」


 自身に言い聞かせ、墜落現場を漁る。気の滅入る光景だが我慢。生きているだけでも丸儲け。叔父さんのよく言っていた言葉だ。


 それからしばらく、墜落現場を漁った結果、運良く、ライターを見つけた。乗務員の物らしき鞄にタバコと一緒に入っていた。しかもオイルライターだ。試しに着火したら、ちゃんと点いた。よし、使える。どこの誰かは知らないが、ありがたく頂戴する。


 と、その時だった。人の声がした。しかも複数だ。俺は咄嗟に近くの残骸に身を隠し、様子を伺った。


 来たのは俺と同じ高校の奴ら。ほとんどが女子で、男子は一人。どうやら、奴らもここに物資を漁りに来たか。


 連中は散り散りに辺りを漁り始めたが、幸いにもこちらには来なかった。


 その後も様子を伺っていたが、一人、近付いてきた奴がいる。


 やってきた連中の中で唯一の男子。クラスメイトの浅羽。典型的な陰キャの嫌われ者だ。特に女子から嫌われている。陰気で、粘着質で、些細な事ですぐキレる、しかも逆ギレ常習犯のイカれ野郎だからな。


 本来ならば、こんな奴が女子と行動を共にするなどありえないが、どうやら、他に男子の生き残りはいないらしい。女は現金だな。男手が欲しいってか。あと、女子から圧倒的な人気の有る希良梨がいないのを見ると多分、希良梨は死んだな。生きていれば、女子が浅羽なんぞ頼る訳がない。絶対、希良梨を頼る。


 さて、様子を伺っていると、浅羽は付近を漁り始めた。で、見つかったのは希良梨の死体。やはり死んでいたか。まぁ、良いさ。いけ好かない奴だったからな。死んでせいせいした。


 その後も辺りを漁る浅羽だが、幸い、俺の隠れている残骸の方には来なかった。結局、めぼしい物は無かったらしい。腹減ったと愚痴り出す。


 ……とその時だった! 俺は我が目を疑う光景を目にする。何も無い地面に突然、ハンバーガーの紙包みが現れた。本当に突然、何の前触れもなく現れた。声を上げなかった自分を褒めてやりたい。


『如何なる時も動じるな。常に頭は冷たく、心は熱く』


 今は亡き叔父さんの教えが活きた。ありがとう叔父さん。両親? 知らん。


 様子を伺っていると浅羽も驚いていた。そりゃ、驚くよな。いきなりハンバーガーが出てきたら。しかも、今度は飲み物まで出た。本当にどうなってんだ?! ……これもあの怪しい声絡みか? あり得る。特別な力を与えてやるって言っていたからな。その特別な力ってのがあれか? 確かに便利な能力だが……。


 状況から考えるに、あの怪しい声を聞いたのは俺だけじゃなかったようだな。少なくとも浅羽は聞いたみたいだ。で、特別な力を得たと。


 様子を伺っていると、浅羽はマウンテンバイクを始め、色々と出していた。まるで魔法だな。あれだな。最近流行りの異世界転生チート無双物。浅羽は得意の絶頂になり、ハーレム王になると抜かす始末。そりゃ、この状況で、こんな便利な能力が有れば、女子達は生き延びたい一心で浅羽に従うだろう。


 あと、見た感じ、機械類といった複雑な物は出せないらしい。とはいえ、大型のサバイバルナイフを出してきたからな。油断はならない。何より、各種物資を出せるなんて、この状況ではチートにも程が有る。


 ……しかし、世の中そんなに甘い訳がない。あんな便利な能力をただでくれるものか。絶対、ろくでもない裏が有る。まぁ、浅羽がどうなろうが俺の知ったこっちゃない。


 とりあえず、浅羽達に気付かれないように、付かず離れずの距離を保ち、奴らを観察する事にした。上手くすれば、奴らから物資を奪えるしな。







 さて、その後だが、案の定、浅羽は物資を出せる能力を盾に女子達に服従を強制。ハーレムを作り、好き勝手、やりたい放題を始めた。つくづく、予想を裏切らない奴だな。


 浅羽は複数のテントを出し、生活拠点を作り、一番大きく立派なテントを自分の宮殿にし、毎日、毎日、朝から晩まで、女を取っ替え引っ替え、ヤリまくり。一日中、女の喘ぎ声が響いていた。浅羽め、盛りのついた猿か。


 それから二ヶ月程経った。相変わらず、浅羽は女とヤる事に夢中だったが、ここで事態が動く。


 遭難してから数日後に気付いたが、この島、無人島ではないのかもしれない。煙が上がっているのを見た。それも一度や二度じゃない。偶然にしては出来過ぎだ。


 それに関しては、浅羽も同じだったらしい。で、誰か住んでいるのなら、その住居を奪おうと企んだ。女子達を引き連れ、出発した。バレないように距離を置いて俺も後を付ける。







 着いた先は断崖絶壁。煙が見えたのはその向こう。浅羽は登山道具一式を出すと、女子を先行させて、ルート確保に掛かった。


 当たり前だが、所詮、素人。断崖絶壁でルートを確保するなど至難の業。しかし、浅羽は女子達を使い捨てにして、どうにかルート確保、突破した。その時には既に女子達は当初の半分を切っていた。


 浅羽の奴、これまでにも癇癪を起こしては、何人か殺していたが、つくづくクソ野郎だ。嫌われ者の陰キャが突然、力を得るとろくな事をしないな。


 まぁ、奴の王様気取りはその後、呆気なく終わったけどな。奴らを尾行した先に有ったのは立派な洋館。近くの茂みに隠れて見ていたが、そこにいたのは浅黒い肌、白い髪をオールバックにした、若い男。


 浅羽は最初こそ下手に出ていたが、じきに本性を現し、男にサバイバルナイフで襲い掛かったものの、ナイフを弾き飛ばされ、喉に貫手を食らい、足払いで転ばされて、最後は首を踏み折られて死んだ。


 浅羽が素人なのを差し引いても、あの手際の良さ。特に最後の浅羽の首を踏み折った際の容赦の無さ。あの男、殺し慣れている。


 その後、女子達は全ての罪、責任を浅羽になすり付けて命乞いをしたが、男はそれを却下。皆殺しにした。まぁ、浅羽に付き従っていたし、こいつらも男に対し武器を向けたんだ。男からすれば、共犯者、同罪だよな。


 あと、俺の存在がバレていた。下手に抵抗して殺されるのは御免だからな。素直に降伏。捕縛されて屋敷に連行される事に。







 エーミーヤside


 捕縛した少年、蓮羅 一を連れ、屋敷に戻る。詳しい話を聞きたいからな。その上で彼の処遇を決めよう。


 捕縛した状態ではあるが、応接間に通す。話をするにはうってつけの場所だからな。


「まぁ、掛けたまえ。そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はエーミーヤ。しがない家事代行業者さ。今は、この屋敷の主から留守中を任されている」


 ソファーに掛けるように勧め、ついでに名乗る。


「……最近の家事代行業者は殺しもやるのか?」


「炊事、洗濯、掃除が私の主な仕事だが、掃除にはああいう社会のゴミの掃除も含まれていてね」


「なるほど納得だ。確かにゴミの掃除。あんたの仕事だな」


「「ハッハッハ」」


 お互いに笑う。つくづくユーモアを解する少年だな。







 さて、お喋りはこの辺にして、本題に入る。


「とりあえず、お茶だ。では、事情聴取を始める。良いかね? 浅羽から一通りの事情は既に聞いているが、君の話も聞いておきたくてね。別の視点もまた、必要だからな」


 お茶を出し、その上で蓮羅に対して事情聴取を行う事を告げる。


「了解。答えられる限りの事は答えるが、ご期待に添えるかどうかはわからんからな。そこは勘弁してほしい。あと、こちらも聞きたい事が色々有る」


「良いだろう。では事情聴取を始める」


 それに対し、蓮羅は了承。更に蓮羅からも聞きたい事が色々有るとの事。彼とて、知りたい事は多いだろうしな。答えられる範囲内で答えてやろう。







「………………なるほどな。よくわかった。災難だったな」


「全くだ。楽しい修学旅行のはずが、とんだ事になった。こうして生きているのが奇跡だぜ。実際、旅客機に乗っていたほとんどの奴は死んだしな」


「まぁ、飛行機墜落事故ではな。まず、助からん」


 蓮羅から聞いた事情だが、浅羽から聞いた内容と基本的に同じだった。しかし、興味深い内容が有った。墜落時に怪しい声を聞いたと。……下級神魔だな。


「では、聞きたい事は有るかね?」


 蓮羅から、一通りの事情は聞いたので、今度は蓮羅からの質問に答える番だ。


「よし。それじゃ最初は……。ここはどこだ? 少なくとも、俺が知る地球じゃない。地球にドラゴンを始め、化け物達はいないからな」


 蓮羅からの最初の質問は、ここはどこだ? 彼は、ここが自分の知る場所とは根本的に違うと理解しているが、ここがどこなのかまでは知らない。


「その質問の答えだが、ここはイメムンイドーメ。君からすれば、いわゆる異世界だ。世界とは一つではなく、無数に存在する。多元宇宙、わかるかね?」


「聞いた事が有る。まさかマジだったとはびっくりだけどな」


 まずはここが異世界、イメムンイドーメである事。世界は一つではなく、無数に存在する。多元宇宙である事を告げた。幸い、蓮羅はその事実を受け止めた。順応力が高いな。現実を受け入れず騒ぐ馬鹿も多いのに。私は蓮羅 一に対する評価を上げる。その上で話を続ける


「この世界、イメムンイドーメは無数に存在する世界の中でも、極めて神秘が濃く、強い、希少な世界。君が言うドラゴンを始め、様々な魔物、怪物、精霊、神魔等が存在し、魔法を始めとする様々な異能も存在する。私も使える」


「あんた魔法使いかよ!!」


「あくまで使えるだけだ。本職の魔法使いではない。私は家事代行業者さ」


「……はぁ。マジモンのファンタジー世界かよ。もはや、何でも有りだな」


 驚き過ぎて、一周回って落ち着いた感の有る蓮羅。


「とりあえず、君にこの言葉を贈ろう。『異世界は理想郷でも楽園でもない』。くだらん異世界転生無双物を真に受けていると、すぐに死ぬぞ。……浅羽のようにな」


「……忠告痛み入るよ。そうだな、浅羽の二の舞は御免だ」


「理解が早くて結構」







 お茶を飲みつつ、話は続く。


「蓮羅、君は旅客機墜落時に、特別な力を与えるとか言う怪しい声を聞いたと言ったな」


「あぁ、そうだ。恐らく浅羽の奴も聞いたはず。事実、浅羽は物資を出す能力を得ていた。以前から持っていたなら、もっと早くに使っていたはず。エーミーヤさんよ。あんた、怪しい声についてどう思う? そもそも旅客機墜落自体、おかしい。いきなり嵐が起きて墜落して、しかも墜落先が異世界ときた。そんな偶然、有るか。出来過ぎだろ」


 蓮羅が旅客機墜落時に聞いたという、怪しい声。その声は蓮羅に特別な力を与えると言ってきたそうだ。


 蓮羅もその声の正体が気になるらしい。どうやら、その声は浅羽も聞いていたらしく、だからこそ、奴は異能を得ていた。


 更に、旅客機墜落事故自体に疑惑を抱いている。突然の嵐。怪しい声。極めつけが、墜落先が異世界。そんな偶然有るか、出来過ぎだと。


「そうだな。出来過ぎだ。明らかに作為的だ。はっきり言おう。一連の事は下級神魔の仕業だ。馬鹿に力を与え、後程、利息付きで回収する為のな。蓮羅、君は声の申し出を断ったそうだが、実に賢明な判断だったぞ。浅羽のように話に飛び付いていたら、最終的には死んでいた」


 一連の事は下級神魔の仕業である事を告げた。更に、下級神魔の申し出を断った事を賢明な判断だと褒めた。もし飛び付いていたなら、最終的に死んでいたからな。


「……全て下級神魔の仕業ってか。あと、やっぱりあの声は詐欺か。乗らなくて良かったぜ。となると、浅羽は仮にあんたに殺られなくても、どのみち死ぬ運命だった訳か」


「如何にも。そもそも、あんな力をただで使えると思うのかね?」


「思わねぇな。ただより高いものは無いってな。絶対、ろくでもない裏が有る。だから、俺は蹴ったんだ」


「よくわかっているようで何より。正にその通り。全ては下級神魔が自身の強化の為に仕組んだ事。異能を使えるのは、下級神魔が与えた『加護』のおかげ。そして『加護』は異能を使う程、減り、『加護』が尽きたら、それまでのツケが一気に来て、死ぬ。干からびて崩れ去り、塵と化す。私はそんな悲惨な末路を何度も見てきた」


「……ひでぇな。本当に浅羽は馬鹿だぜ」


「同感だな」


 下級神魔の誘いに乗った馬鹿の末路は、常に破滅一択。最近流行りの異世界転生無双物など、空虚な絵空事に過ぎん。


 異世界に行こうが、チートを得ようが、クズは所詮、クズ。下級神魔に使い捨てにされて終わりだ。そうとも知らず、異世界転生無双物を真に受ける馬鹿は後を絶たない。せいぜい、下級神魔の餌になれ。







 蓮羅side


「さて、蓮羅。君は今後どうするつもりだ? ここは異世界であり、この世界において君は無戸籍、無国籍の根無し草。その危険性がわからん訳ではあるまい」


「……嫌な所を突いてくるな、あんた」


「私は事実を述べているだけだがね」


 自称、家事代行業者の男。エーミーヤから、今後どうするつもりだと聞かれた。そう聞かれてもな……。


「悪いことは言わん。元の世界に帰りたまえ。さっきも言ったが、君はこの世界においては根無し草。誰も助けてはくれない。『異世界は理想郷でも楽園でもない』。チートだ、スキルだと浮かれる馬鹿共は皆、死んだ。君も仲間入りしたいかね? 浅羽が向こうで待っているぞ」


「遠慮するよ。とはいえ、帰り方がわからないんじゃな」


 俺としては元の世界に帰りたい。化け物がいる世界なんて御免だ。異世界で無双だの、成り上がりだの、スローライフだの、寝言を言う気は無い。俺は浅羽とは違う。しかし、帰り方がわからない。


「それなら大丈夫だ。この屋敷の主なら、君を元の世界に送り返せるだろう。今は留守だが、数日で戻ってくるはずだ。私からも口添えしよう。君は無為に死なせるには惜しいからな」


 だが、エーミーヤから救いの手が差し伸べられた。今は留守にしている屋敷の主。そいつなら、俺を元の世界に送り返せるらしい。口添えもしてくれると。


「助かる。こんな化け物達のいる世界なんて御免だからな。本当にあんたの言う通りだよ。『異世界は理想郷でも楽園でもない』。異世界で無双だの、成り上がりだの、スローライフだの、馬鹿の戯言だ」


「よくわかっているようで何より。ともあれ、主が帰ってくるまでは、どうにもならん。待つしかない。だからといって、君にただ飯を食わせる気は無い。きっちり働いてもらう。それが対価だ」


「了解。衣食住が保証されて、元の世界に帰してもらえるんだ。それぐらいはやるさ」


「話が早くて助かる。では、主が帰ってくるまで、私の手伝いをしてくれたまえ。家事はできるかね?」


「それなら問題ない。叔父さんから一通り、仕込まれたからな。任せてくれ」


「それは重畳。よろしく頼むよ」


 やれやれ。修学旅行から、突然の嵐による旅客機墜落。異世界に飛ばされ、どうなる事かと思ったが、どうにか安全を確保できたみたいだな。元の世界に帰れる当てもできた。数日ぐらいは辛抱するさ。


 …………それにしてもだ。最近流行りの異世界転生無双物なんざ、所詮、絵空事でしかないな。調子に乗って好き勝手やれば、死が待っている。浅羽の末路がそれだ。


「良い夢見られただろ? 浅羽。もっとも、その代償が死じゃ、割に合わないな。命有っての物種ってな」


 叔父さん、あんたの言った通りだった。命が一番大事。生き延びる事を最優先にしろ。都合の良過ぎる話は全て詐欺。


「元の世界に帰ったら、叔父さんの墓参りに行くからな」


 元の世界に帰ったら、真っ先にやる事ができたな。ま、全てはこの屋敷の主が帰ってきてからだ。




他にもいた、不法侵入者。しかし、浅羽のような愚行はせず、素直に降伏。賢明な判断。もしエーミーヤに攻撃していたら、浅羽同様、殺されていた。


今回の傑物


蓮羅 一


エーミーヤにあっさり殺された馬鹿の浅羽とはクラスメイト。だからといって別に友人でも何でもない。強靭な精神力、高い身体能力、戦闘能力、サバイバル知識、技術を兼ね備えた逸材。特にその鍛え込まれた肉体はエーミーヤも感心する程。


日本人の両親から金髪碧眼の容姿で生まれたが故に、両親から疎まれていた。要はネグレクト。それを見かねた叔父に引き取られる。


叔父はかつて、世界中の戦場を飛び回った傭兵であり、蓮羅に色々仕込んだ。数年前に古傷が元で亡くなったが、事前に各種手続きを済ませており、蓮羅蓮羅は施設に入る事ができた。


墜落事故時に、下級神魔の誘惑を受けるも、詐欺と看破。拒否する。その結果、チートを得られなかったが、結果的には正解。


墜落後も奇跡的に助かり、叔父仕込みのサバイバル知識、技術を活かしてサバイバル生活を送る。


その後、浅羽一行を目撃。浅羽の異能を目の当たりにし、以降、浅羽一行と付かず離れずの距離を保ちながら監視を続けていた。


現在は、エーミーヤに降伏し、捕虜として扱われている。


次回は、冒険者ギルドの面々編。



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