表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

第30話 留守番のエーミーヤ

 時間を遡り、魔女師弟が屋敷を出発した後。


「……行ったな。無事に済むと良いがね」


 バイクに二人乗りし、空へと飛び立っていった魔女師弟。まずは南のバニゲゼ通商連合に有る冒険者ギルド本部に向かうらしい。あの『豚』は敵に回すと厄介だからな。早めに顔合わせを済ませておくのが上策。


「とりあえず、私は私の仕事をするか。幸い、私一人だけだからな。さほどの苦にもならん」


 雇用契約を交わした以上、私には契約を果たす義務が有る。……お嬢さん(ハルカ)から聞いたが、彼女の元いた世界では王侯貴族の『婚約破棄』物とやらが流行りらしい。実にくだらん。契約の何たるか。ましてや王侯貴族における婚約の重要性も知らぬ素人の書いた内容だな。


 契約は極めて神聖かつ重要な物。ましてや、王侯貴族における婚約ともなればな。


『真実の愛』とかいう、くだらん戯言如きで軽々しく王侯貴族の婚約破棄はできん。どうしてもというなら、家から絶縁、廃嫡される。それ程までに重い契約だ。王侯貴族は基本的に政略結婚だからな。全ては家の繁栄と発展の為に有る。


 何より、そう簡単に契約破棄をされたら、契約行為自体が無意味になる。それでは世の中が成り立たん。


「婚約破棄物を書いている連中は契約の何たるかを学ぶべきだな。もしくは自身が一方的に契約破棄をされたら、多少はわかるかも知れんな……無理か。わかるなら、最初から書かんな」


 まぁ、そんな事より仕事だ。朝食後の後片付けに、洗濯、掃除。仕事はきちんとやる。家事のプロとして以前に、社会人としての常識だからな。


 そんな当たり前の事すらわからん馬鹿もいるがね。下級転生者という馬鹿がね。







「今日も良い天気だ。正に洗濯日和。洗濯物がよく乾くな」


 気持ちの良い快晴。実に爽やかな朝だ。私は気分良く洗濯物を次々と干していく。


「さて、洗濯物を干し終えたら、次は掃除だな。昼食は何にしようか?」


 後の予定を考えながら洗濯物を干していた私だが、その時だった。


「おや? あれは……」


 水平線の辺りに、何やら黒い物が見えた。しかもそれは複数かつ、明らかにこちらに向かっている。私は目が良くてね。十キロメートル先のピンすら見える。故に私にはそれが何か見えた。


「艦隊だな。それもかなりの大艦隊。この辺りでは見かけないタイプだ。……また、馬鹿が湧いたか」


 明らかに武装した大艦隊。しかもこの辺りでは見かけないタイプだ。何せ、黒一色の船体に何のつもりか知らないが、幾つもの青い光のラインが走っている。イルミネーションのつもりかね? 少なくとも、戦闘用の艦船には無用の物だと思うがね私は。そして、こういう無駄な事に力を入れるのが下級転生者の特徴だ。


「ふん。『名無しの魔女』を討ち取って名を上げようという魂胆か。救えん馬鹿だ。下級転生者如きに『名無しの魔女』は討てんよ」


 目的の方も簡単に予想が付く。全くもって浅はか、愚か。下級転生者の定番。チートで最強、異世界無双と浮かれているのが目に浮かぶな。


 ……盛大に死亡フラグを立てているだけに過ぎんがね。


 そうこうしている内にも、艦隊は迫ってくる。かなり速いな。既に普通に姿が見える。……来たか。


 轟音と共に、砲撃、更にミサイルが放たれた。先制の飛び道具による攻撃。まぁ、戦術としては間違っていないな。しかし、だ。一つ決定的に間違っている点が有る。


 三大魔女の一角。『名無しの魔女』の住居に対して攻撃を仕掛けた事だ。







「飛んで火に入る夏の虫、か。よく言ったものだな」


 よせば良いのに、大艦隊を率いて『名無しの魔女』の住居に攻撃してきた下級転生者。どんな奴かは知らんが、わざわざ死にに来るとはな。


 下級転生者定番の異世界で最強、無双と浮かれていたのだろうが、下級転生者如きが最強など片腹痛い。


「自らの愚かさ、死を持って思い知るが良い」


 私の視線の先。大海原には、完膚なきまでに破壊され、黒煙を噴き上げ轟沈していく大艦隊の姿が有った。


「まぁ、海洋生物の餌として貢献したまえ。下級転生者にはお似合いの末路だ」


 ここを一体、何だと思っているのか? 三大魔女が一角。『名無しの魔女』の住居だぞ。彼女が外敵対策をしていない訳がない。当然、防衛、迎撃システムが有る。先制の砲撃とミサイルは全てシールドに防がれた。


 そして、突如、発生した黒雲から、激しい雷が豪雨の如く降り注ぎ、艦隊を打ち砕く。続いて無数の巨大な氷柱が降り注ぎ、貫く。更に荒れ狂う竜巻が巻き込み、切り刻み、大艦隊はものの数分で海の藻屑と化した。


 攻め込んできた馬鹿は、下級転生者特有の『自分以外は全て無能』理論で舐めて掛かっていたのだろう。結果はご覧の有り様だがね。無能なのは自分だった訳だ。


「おっと、まだ生き残りがいたか。ゴミはきっちり処分せねばな」


 よく見ると残骸に掴まり、海面に漂う男がいた。間違いない、下級転生者だ。繰り返すが私は目が良い。読唇術も心得ていてね。男が言っている事も読めた。……ふん、下衆め。ハーレムの女達を犠牲にして自分だけ逃げたか。しかし、逃がさんよ。ゴミはゴミ箱(冥界)にだ。


 ブラウニーは家事妖精。炊事、洗濯、()()が主な仕事だが、掃除に関しては、こういう社会のゴミの掃除も含まれていてね。


 という訳で、私は愛用のゴミ処理道具を亜空間収納より取り出す。


黒禍(ブラックディザスター)


 数少ないアーティファクトの一つにして、私の愛用する狙撃銃。使い手の魔力と引き換えに威力と射程が伸びる魔銃だ。使い手の魔力が貧弱だとまるで役立たずだが、強大な魔力の持ち主が使えば絶大な威力を発揮する。それを手に狙撃の姿勢に入る。狙うは眉間。ヘッドショット一発で終わらせる。


「下級転生者よ。遠路はるばるご苦労、さようなら」


 クズの眉間に狙いを定め、引き金を引く。もはや、身体の一部と化した一連の動き。直後に赤い血の華が咲き、クズは海へと消えていった。ゴミ処理完了。今度こそ、海洋生物の餌として貢献したまえ。


 構えを解き、狙撃銃をしまう。後で手入れをしておこう。肝心な時に故障は困るからね。私は下級転生者のように道具に頼り切りはしないが、疎かにもしない。道具には定期的なメンテナンスが不可欠。馬鹿にはわからんようだがね。







「しかし、馬鹿は後を絶たないな。何が『スキルで異世界無双』だ。スキルが無ければ何もできませんと白状しているのと同義とわからないとはな。挙げ句、やり過ぎて抑止力に誅殺されては、世話ないな」


 時間は午前十一時。昼食には少し早い。私はダイニングで新聞を読みながら一息付いていた。多元宇宙に跨るBNC(ブラウニー・ネットワーク・コーポレーション)出版の『ブラウン・タイムズ』。あちこちの世界のニュースが掲載されている新聞だ。その一面には大きく『不死の魔道王(笑)抑止力に討たれる』と書かれていた。ふむ。あの似非リッチめ、遂に討たれたか。所詮、下級転生者だな。ただの自業自得。


「確か名はオウン・ゴールだったか。元はブラック企業の下っ端だったらしいな。やはり負け組が突然、力を得るとろくな事をしないな。際限なく暴走する。その果てに抑止力に討たれる訳だ」


 全くもって救えん連中だ。こいつも実にくだらん。自分のプレイしていたオンラインゲームの世界に、自分のプレイアブルキャラである最高位のアンデッド。リッチとして転生したと思い込んだ。拠点も配下もゲームそのままだったそうでね。そう思い込むのもわからなくはない。


 ……全ては下級神魔の仕組んだ事だがね。







 当たり前だが、ゲームや小説等は全てフィクション。架空の物語に過ぎん。しかし、下級転生者達は自分がゲームや小説の世界に転生したと思い込む。その理由だが、下級神魔の仕業だ。


 最近流行りの異世界転生作品は、大部分が下級神魔の息が掛かっている。下級神魔が作者に異世界の情報を流しているのだ。そうとは知らない作者が、それを自身のアイデアと思ってゲームや小説を作る。


 それをプレイした、読んだ馬鹿が下級神魔より力を与えられて下級転生者になり、最終的に破滅する。そして、下級神魔は下級転生者に与えた力。より増えた力を回収する。神魔は成長できないからな。成長できる人間に力を与えて、成長した力を回収するという訳だ。全ては下級神魔の強化の為に仕組まれた茶番劇。


 要は逆だ。下級転生者達はゲーム、小説等の世界に転生したのではなく、異世界を元ネタにしたゲームをプレイしたり、作品を読んでいた。そして、その元ネタの世界へと下級転生者として送り込まれた訳だ。


 ただし、あくまで元ネタ。ゲーム、小説とはズレが有る。全ての情報を送るのは無理が有る上、作者を介する以上、どうしても情報が歪む。作者には作者の考えが有るからな。何より、情報が古い。数百年、数千年前の情報が当たり前。これでは下級転生者定番の『原作知識ガー』など何の役にも立たん。


 これまた下級転生者定番の、原作ヒロインと恋愛など笑い話にもならん。とっくの昔に死んでいるなどザラだ。


 さて、先の不死の魔道王。オウン・ゴールも正にそう。下級神魔が仕組んだゲームをプレイしていたのだ。そして、ゲームの元ネタとなった世界へと転生した。ゲームの世界だと思い込んだオウン・ゴールは欲望のままに暴走。


 何せ、ゲーム内のオウン・ゴールは最強の魔道士にして不死の王。彼に忠誠を誓う多くの部下の魔物達を率いる独裁者だからな。そのオウン・ゴールになったとあれば、暴走もするさ。


 オウン・ゴールは部下の魔物達を率い、周辺諸国を次々と攻め滅ぼしては征服した。遂には最大国家にして覇権国家である『クリサキッタ聖王国』に戦争を仕掛けた。お題目は、『腐り切った聖王国を滅ぼし、理想国家を建国する』だ。


 結果を言えば、クリサキッタ聖王国はオウン・ゴール率いる魔軍に攻め滅ぼされ、新たに『オウン・ゴール魔道国』が建国された。だがね……。







 ゲームのキャラクターとしてのオウン・ゴールは、最強の魔道士にして不死の王。圧倒的なカリスマ。しかし、この転生者のオウン・ゴールは所詮、ブラック企業の下っ端。そんな奴に国家運営のノウハウなど当然、無い。


 部下の魔物達に至っては、オウン・ゴールの狂信者。オウン・ゴールを絶対視し、忠誠を捧げる反面、仲間意識など皆無。こいつらにとっての最優先事項は、如何に主君であるオウン・ゴールの寵愛を得るかであり、人間なんぞ、虫けら以下、ゴミクズ以下としか思っていない。こんな奴らにまともに国家運営などできん。する気も無い。


 法を敷き、秩序をもたらし、治安を守り、経済を回し、社会を発展、繁栄させるのが国家運営というものだ。突然、力を得た馬鹿が好き放題やるのは国家運営とは言わん。そんな国家運営ごっこは早晩、破綻する。


 事実、オウン・ゴールとその部下達の滅茶苦茶なやり方のせいでオウン・ゴール魔道国はひどい事になった。確かにクリサキッタ聖王国は腐り切っていた。不正が横行し、多くの者達が貧困に苦しんでいた。だが、それでも一応、国家として機能、成立していた。クリサキッタ聖王国の支配層はクズだが、馬鹿ではなかったからな。国が潰れては困ると理解していた。


 対し、オウン・ゴールが建国した理想国家(自称)のオウン・ゴール魔道国は話にならん。


 とにかくオウン・ゴールを崇めよ、讃えよ。オウン・ゴールに従え。逆らう者は死ね。否定する者は死ね。認めない者は死ね。オウン・ゴールこそ唯一無二、究極至高の支配者と徹底的に強要し、従わぬ者は皆殺し。従っても気分次第で皆殺しの恐怖支配。道理もへったくれもない。滅茶苦茶だ。


 そんな有り様だから、法も秩序も無い。政治、経済、軍事はもちろん、日常生活すら破綻してしまった。正にこの世の地獄。街から活気が失われ、流通は止まり、物は買えず、法も秩序も無いが故に、治安も崩壊、病が蔓延、土地も道も建物も荒れ果て、毎日、数え切れぬ程の犠牲者が出た。そして、オウン・ゴールに対する人々の怨嗟が募っていった。


 もっとも、オウン・ゴール当本人は、そんな事はそっちのけ。無理やり建てさせた豪華絢爛な宮殿で、ひたすら自分を持ち上げる美女達のハーレムに囲まれ、贅沢三昧、好き放題していたそうだがね。まぁ、この手の独裁者の定番だ。……その末路もね。







 世界の覇者となったオウン・ゴールはそれだけに飽き足らず、とうとう神を殺し、新たな神になると宣言。……それが自身の破滅をもたらすとも知らずにね。


 神殺しを宣言したオウン・ゴールだが、それは明確な界理違反。遂に抑止力が誅殺に来た。自らを最強の魔道士にして不死の王と驕り高ぶるオウン・ゴールはそれを知ると、身の程知らずにも抑止力に戦いを挑んだ。馬鹿ここに極まれり。下級転生者如きが抑止力に勝てるものか。


 事実、勝負にならなかった。オウン・ゴールは抑止力により、最強の魔道士にして、不死の王の姿から、本来の姿。無力なブラック企業の下っ端に戻されてしまった。抑止力は対下級転生者の能力を持っているからな。


 元の姿に戻されて焦ったオウン・ゴールは部下の魔物達。要はゲーム中のキャラクター達を呼んだが、それも全て土塊と化して崩れ去った。


 当たり前だが、ゲーム中のキャラクターが実在する訳がない。全て、下級神魔が用意した人形に過ぎなかった。抑止力により下級神魔の力が無効化されて、元の土塊に戻った訳だ。


 こうして力を失い、部下も失ったオウン・ゴール。ゲーム中のキャラクターではない他の部下達は奴を見捨てて逃げていった。所詮、下級転生者にカリスマは無いからな。力を失えば、皆、去っていく。最後は抑止力の繰り出したレイピアによる無数の突きで蜂の巣にされて誅殺された。ちなみに、この時来た抑止力は、赤いドレスを纏った金髪の美女だったそうだ。しかも見事なレイピアの腕前だったと。


 どん底のブラック企業の下っ端から、最強の魔道士、不死の王オウン・ゴールになり、絶頂を極めた下級転生者だったが、最後は再びどん底に落ちた挙げ句、抑止力に誅殺された。しかも下級転生者だから、死後は地獄にも行けん。最も恐ろしい処罰。冥界の焼却炉行きだ。焼き尽くされて消滅する。自業自得とはいえ、悲惨な最期だな。同情はせんがね。せいぜい、燃料として役立て。冥界の焼却炉の熱が新たな命を生み出すからな。







「抑止力もご苦労な事だ。多元宇宙を守る為とはいえ、次々と湧く馬鹿を殺して回らねばならんとはな」


 新聞を読み終わり、紅茶を淹れる。正にいたちごっこ。幾ら殺しても、殺しても、下級転生者は次々と湧いて出る。ゴキブリのような奴らだ。いや、ゴキブリの方がまだマシか。ゴキブリは不愉快極まりない戯言を吐かんからな。全く、おとなしくしていれば良いが、あの狂った連中にそんなものは期待できん。


「いずれ、お嬢さんも抑止力デビューするのだろう。若いのに大変だな。だが、それが転生する際に交わした契約である以上、反故にはできん。神魔との契約違反は、ただでは済まないからな」


 繰り返すが契約とはそれ程までに重い。馬鹿には理解できんようだがね。


「馬鹿はそれを理解できない。対し、お嬢さんはそれを理解した上で、契約を交わした。……自ら、血塗られた道を選んだ訳だ」


 お嬢さんの気持ち、考えはわからん。知ろうとも思わん。だが、死神ヨミとの契約、軽々しく決めた訳がない。お嬢さんは上位転生者。虚弱貧弱無知無能の下級転生者とは違う。


「だからこそ、私は確信している。お嬢さんは『正義の味方』にはなれない。『勇者』にも『英雄』にもなれない。あくまで『魔女』にしかなれない。日の当たる場所には決して立てないし、立たないだろう。本人もそれを望まないだろう」


 私はブラウニーという立場上、老若男女問わず、数多くの者達を見てきた。だからこそ、確信する。彼女は正義の味方、勇者、英雄にはなれないし、ならない。あくまで魔女である事を通すだろうと。決して日の当たる場所には出ず、暗い『闇』の中で過ごすだろうと。しかし、私はそれを否定しない。彼女はそれを自らの意思で選んだ。誰に強制された訳でもない。それが血塗られた修羅の道であると理解した上で選んだ。ならば、それを否定するのは彼女に対する侮辱にしかならん。


「彼女が何を成すのか、私は見守るだけだ。……下手に邪魔すれば、私が危ないからな」


 お嬢さんは強くなる。彼女は上位転生者。しかも、あの『名無しの魔女』が弟子に取る程の逸材。その才能は計り知れん。何より、ああいうタイプは好戦的ではないが、必要と有らば躊躇なく殺す。そんな相手を敵に回す愚行はせんよ。命が惜しいからな。


「まぁ、馬鹿にはそんな事はわからんからな。せいぜい、殺されれば良い。馬鹿が減れば、少しはこの世も良くなる」


 馬鹿は害悪だからな。駆除一択だ。人権? 知らんな。少なくとも、私は他人の人権を重んじない奴の人権を重んじる気は無い。







「さて、昼だな。昼食にしよう。何にするかな?」


 時間は昼時。私一人だからな。好きにさせてもらおう。


「だからといって、いい加減な事はせんよ。最低限のラインは守る」


 手を抜ける所は抜くが、だからといって、いい加減な事はしない。最低限のラインは守る。それがプロだ。誰も見ていなくてもだ。


「パスタにサラダ油、クーガリ(ニンニクの様な香味野菜)、レッドクロー(赤唐辛子擬き)に殻付きマール貝(ムール貝擬き)も有るな。ふむ、今日の昼食はシーフードパスタにするか。ワインも開けるとしよう」


 食材、調味料共に揃っている。さて、作るか。







 まぁ、それ程凝った物を作る気は無い。だからといって、不味い物を作る気も無い。とりあえず、手順を間違えない限りは、それなりになる。


 まずはパスタを茹でて、ザルに揚げる。続いてフライパンにサラダ油をひき、潰したクーガリを炒め、香り付け。続いて輪切りにしたレッドクローも。


 クーガリの香りが立ってきたら、殻付きマール貝を投入。白ワインも注ぎ、蓋をして蒸し焼きに。


 殻付きマール貝に火が通ったら、あらかじめ茹でておいたパスタを投入。よく絡めて炒める。


 十分に絡んだら、皿に盛り付け。仕上げにハーブパウダーを一振り。完成だ。ではいただくとしよう。







「ふむ。悪くない。完璧とは言わないが、及第点だな。欲を言えば、サラダ油ではなく、オニキスオイル(オリーブオイル擬き)が有れば良かった」


 シーフードに合う白ワインと合わせて、マール貝のパスタを食べる。シンプルだが、故にごまかしの効かない一品。作り手の腕前がはっきり出る。…………料理で思い出したが、以前、スキルで異世界飯とか抜かしている下級転生者がいたな。死んだがね。


「下級転生者はつくづく救えんな。異能の行使に何の代償も無いと思ったか? 愚かな。そんな訳がないだろう」


 当たり前だが、ただでは何も得られない。何かを得るには、対価が必要。異能の行使には魔力、生命力が対価として必要。強い異能程、対価もまた莫大となる。本来ならば、下級転生者如き無能には異能の行使はできん。それだけの力が無いからな。


 にもかかわらず、無能な下級転生者が異能を使えるのは、下級神魔が与えた『加護』のおかげだ。魔力、生命力の代わりに『加護』を消費して下級転生者は異能を行使する。魔力、生命力を消費しないから、全く疲れない。故に下級転生者は調子に乗って異能を濫用し、最強を気取る。


 しかし『加護』は無尽蔵ではない。異能を行使する度に減少する。補充はされない。所詮、下級転生者は使い捨てだからな。『加護』が尽きた時が下級転生者の命運も尽きる時だ。『加護』の効果は二つ。一つ、魔力、生命力の代替。二つ、異能行使の際の負担の先送り。要はツケだ。故に必ず支払いの時が来る。これまで何度も見てきたが、いつ見ても悲惨の一言に尽きる。


『加護』が尽きた瞬間、これまでのツケが一気に襲い来る。急激に老化。髪も歯も全て抜け落ち、最終的に干からびて死ぬ。その死体すら崩れ去り、塵と化す。自業自得とはいえ、本当に悲惨な最期だ。先に述べた、スキルで異世界飯とか抜かしていた馬鹿も例に漏れず、スキルの濫用の末に『加護』切れで、干からびて死んだ訳だ。繰り返すが下級転生者は本当に救えんな。


「所詮、下級転生者は人間という種の中の劣等種。出来損ない。どうあがいても、上には行けん。踏み台がオチだ」


 本当に優秀ならば、元の世界の時点で活躍している。それができない時点で無能だ。何がチートで異世界無双だ、くだらん。お前達の行き着く先は、チート濫用で『加護』切れからの、冥界の焼却炉だ。


 ちなみに、上位転生者は『加護』を持たない。元から優秀だからな。そんな物は不要。下級転生者とは根本的に違うのだ。


「中でもお嬢さんは別格だがね。あれは上位転生者という事を差し引いてなお、天才だ。元が素人のはずが、僅か数日で魔力の扱いを会得し、高度な扱い方をしてみせた。末恐ろしいな」


 エリート揃いの上位転生者の中でも、別格の才能を誇るお嬢さん。あの『名無しの魔女』が弟子に取るだけはある。


「さて、昼食も済ませたし、後片付けをしよう。…………何やら嫌な気配がするがね」







 後ほど、夕刊で怪植物によるスタンピードが発生した事を知った。嫌な気配はそれか。そして、金毛九尾、夜光院 狐月斎により解決した事も。


「やれやれ、怪植物によるスタンピードに金毛九尾、夜光院 狐月斎登場か。随分と危なかったらしいが、それを解決する辺りは、さすがは金毛九尾だな。お嬢さん達もその場にいたらしいが……。初日から大変な目に遭ったな」


 スタンピード発生の現場にはお嬢さん達もいたらしい。よくよく騒動に縁が有るな。


「しかし、ここでも馬鹿(下級転生者)が足を引っ張ったか。エネルギーを吸収する怪植物に対して魔力をぶっ放し、逆に活性化した挙げ句、喰われたとはな。つくづく害悪極まりない奴らだ。夜光院 狐月斎がいなかったら、どうなっていたか。ゾッとするね」


 夕刊によれば、下級転生者が出しゃばってきて、余計な事をして事態を悪化させた挙げ句、怪植物に喰われて死んだそうだ。主人公気取りで出しゃばったら、最悪の結果になった訳だ。


「まぁ、馬鹿がこの世から一人いなくなったのは良い事だ。できれば全ていなくなってほしいがね」


 下級転生者を筆頭に、いつの世にも馬鹿は一定数いるからな。おとなしくしていれば良いものを、あの手の馬鹿はとにかく出しゃばる。そして事態を悪化させる。私も過去に散々、迷惑を被ったものだ。


「おや、『名無しの魔女』からメッセージが来たな」


 そろそろ夕食の準備に掛かろうとしたところへ、メッセージが届いた。


「ふむ。冒険者ギルド本部へ行き、『豚』と面会できたが、スタンピード発生でえらい目に遭った。解決したから、次は『死の聖女』。その次に『冥医』の元に向かうと」


 スタンピードに巻き込まれたが無事だった辺りは、さすがだな。しかし、その後の行き先がな。『死の聖女』はともかく、『冥医』はな。


「あれは『裏』きっての人でなしだからな。しかし、会わせん訳にもいかんか。あれがお嬢さんの存在に気付かん訳がない。絶対に把握している。会わせなければ、間違いなく怒る。厄介な奴だ」


『冥医』ルーナ・イメナトア。魔女としても医師としても超一流の実力者だが、同時に最悪の人でなしだ。下級転生者を捕らえては、人体実験を繰り返しているそうだ。それ自体は一向に構わんが、上位転生者であるお嬢さんを前にしたら、何をするかわからん。上位転生者は極めて希少種だからな。


「まぁ、『名無しの魔女』が付いている以上、最悪の事態にはなるまいが……」


 とにかく、苦労の絶えないお嬢さんだ。強く生きたまえ。







 明けて、翌朝。昨日に引き続き、気持ちの良い快晴だ。だが、そんな気持ちの良い朝を台無しにする出来事が。


「……何用かね? ここは私有地だ。勝手に入られては困る。早急に立ち去りたまえ。でなければ、実力行使に移る」


 招かれざる客がやってきたからだ。それも団体でね。やれやれ、留守番も楽ではないな。とりあえず、招かれざる客には、お引き取り願いたいがね。……無理だろうな。




魔女師弟以外の面々の様子を書いた、番外編。まずはブラウニーのエーミーヤ編。


留守を預かるエーミーヤ。家事妖精ブラウニーとして、きちんと仕事をこなす。誰も見ていなくても、一切の手抜き無し。それがプロの矜持。


そんな中、下級転生者による襲撃。某アルペジオかぶれの馬鹿。大艦隊を率いて魔女の島(ナナさんの住む島。淡路島ぐらいの大きさ)に攻撃を仕掛けてきた。


もっとも、エーミーヤに言わせれば単なる愚行。ナナさんが自身の住居に外敵対策を施していない訳がない。当然、防衛、迎撃システムが有る。


防衛システムにより全ての攻撃は防がれ、迎撃システムにより大艦隊は数分で壊滅。唯一、逃げ出した下級転生者もエーミーヤにより、ゴミ処理されて死亡。


ブラウニーは家事妖精。炊事、洗濯、掃除といった家事が仕事。そして掃除には社会のゴミ掃除も含まれている。







そしてエーミーヤが語る、下級転生者の真実。下級転生者達がゲーム、小説の世界に転生したと思い込む理由。


ハルカは、フィクションの世界は存在しない。故にフィクションの世界に転生する事はできないと理解している。対し、下級転生者はフィクションの世界に転生したと思い込む。その理由は、下級神魔の仕業。


最近、流行りの異世界転生物は全て下級神魔の息が掛かっている。


下級神魔が作者に異世界の情報を流し、それを自身の考えと思った作者がゲーム、小説を作る。それを読んで真に受けた馬鹿が下級転生者になる。


つまり、ゲーム、小説の世界に転生したのではなく、異世界を元ネタにしたゲームをプレイ。小説を読んでいた。ただし、あくまで元ネタ。作品内容とはズレが有る。何より、現実なので一切の忖度が無い。







今回の馬鹿


不死の魔道王オウン・ゴール


元は某ブラック企業の下っ端。現実逃避にオンラインゲーム『セカイジュオンライン』にのめり込み、その甲斐有って、次々と高難易度クエストをクリア。数々の強力なアイテムを入手。プレイアブルキャラをアンデッド系最強のリッチに育て上げ、不死の魔道王『オウン・ゴール』を名乗る。


その力を持って強力な配下を多数従え、ゲーム中、屈指の大勢力となった。







ある日、『セカイジュオンライン』が遂に配信終了決定。しかし、それを受け入れられず、最後の最後までプレイしていたが、配信終了と同時に『セカイジュオンライン』の元ネタ世界へ自身のプレイアブルキャラ、オウン・ゴールとして転生。暴走開始。ちなみに、転生したのは他にもいたが、お互いに殺し合いとなった。それを制し、最後に勝ち残ったのがオウン・ゴール。


好き勝手絶頂を極めたが、最終的に抑止力に討たれる。所詮、ブラック企業の下っ端。まともに国家運営などできるはずもない。理想国家建国を嘯くも、実態は恐怖支配による独裁国家。仮に抑止力が来なくても、どのみち破綻するのが見えていた。







明けて翌日。気持ちの良い快晴の朝を満喫するエーミーヤの気分を台無しにするのは、招かれざる客達。


では、また次回。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ