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第29話 ハルカ、外の世界へ 冥医編6

 ハルカside


『コードBD』。ブーステッド・ドッペルゲンガー。『強化分身』か。嫌らしい事をしてくる。……ネーミングが文法的に気になるけど。


『さすがは上位転生者。これまでコピーしてきた下級転生者のクズ共とは段違いの優秀さ』


「それはどうも。となると、前のあの少年の姿も下級転生者の誰かをコピーした姿だった訳だ」


 僕の姿に化けたコードBD。下級転生者とは段違いの優秀さと褒めてくれるが、あまり嬉しくない。そして、元の少年の姿は下級転生者の誰かのコピーだった訳か。


『そうだよ。僕は不定形生物。他の存在の姿形をコピーできる。その能力もね。ちなみに前の姿は、少年探偵気取りの下級転生者。身の程知らずにもルーナ様に喧嘩を売ってね。僕が処分したんだ。しかし、人間ってのは馬鹿だね。子供の姿だと油断する。おかげで以後、随分と楽させてもらったよ』


「否定はしない」


 世の中、見た目。相手が子供とあれば、油断してしまうもの。もっとも、こいつは生体兵器なんだけどね。


『上位転生者をコピーしたのも、戦うのも、初めてだよ。何せ、滅多にいない希少種だからね』


「だろうね」


 下級転生者は下級神魔が粗製濫造するから多いけど、上位転生者は上位神魔が素材から吟味して生み出した謹製。一点物。故に数は非常に少ない。滅多に現れない。正真正銘の希少種だ。


『僕の一番の楽しみはね。最強と調子に乗っている馬鹿をコピーして、()()()()()()()()()()を持って、叩き潰す事。いつ見ても本当に笑えるよ。最強と調子に乗っていたら、それを上回るコピーに殺される主人公気取りの馬鹿の最期の顔は』


「それは笑えるね。僕も見てみたいな」


『やっぱり銀髪のお姉さんって、サディストだよね~』


「僕はクズが嫌いなだけだよ。存在自体が害悪。さっさと死ね。この世にクズはいらない」


 強化分身というだけに思った通り、オリジナルをコピーし、更に上回る力を持つのか。自分と同じ能力。しかも更に強いときた。確かに最強、最強とうるさい、主人公気取りの下級転生者には、最高の皮肉だ。


『辛辣だね〜。同感だけど。とはいえ、いつまでもお喋りしている訳にもいかないんだ。これも仕事だからね〜』


「そうだね」


 しかし、いつまでもお喋りしている訳にもいかない。戦わなければならない。同じ姿形の二人。僕と、コードBD。お互いに同じ構えを取る。……僕の戦いをずっと見ていただけは有る。まるで鏡を見ているみたいだ。


『……お姉さん、ずっと鍛錬を積み重ねてきたんだね。わかるよ。下級転生者はそういう積み重ねが無い。所詮、外付けのチート。薄っぺらい』


「ありがとう。伊達に三歳から鍛錬を積み重ねてきた訳じゃないからね」


 御津池神楽。天之川家に代々伝わる神楽舞にして、その本質は神楽舞に偽装した武術。僕も三歳から、ずっと鍛錬を積み重ねてきた。それは異世界に来た僕にとって、大きな助けとなった。


 ……だからこそ、こうもあっさりコピーされるのは、かなり不愉快。


 共に鉄扇を開く。そして繰り出すのは……。


「御津池神楽、蛇尾薙」


『御津池神楽、蛇尾薙』


 御津池神楽、基本の型。蛇尾薙。扇による横薙ぎ一閃。


 ガキィン!!


 お互いの鉄扇がぶつかり、甲高い金属音が響く。しかし……。


 力負けしたのは僕の方。衝撃に手が痺れ、危うく鉄扇を落とすところだった。『強化分身』。その名に違わぬ恐ろしい相手だ。はっきり言って勝てる気がしない。


『驚いた?』


「まぁね」


 ……これが実戦なら、間違いなく詰み。しかし、これはあくまでゲーム。ルーナさんは、ひん曲がった性格だけど、ルールは厳守。絶対に勝てない相手は出さない。それではゲームが成立しないから。


 つまり、攻略法は必ず有る。それを見つけられるかどうか? そこを見られているんだ。とりあえず、相手を見極めに掛かる。







 ナナside


 ブーステッド・ドッペルゲンガー。『強化分身』か。ネーミングが文法的に気になるが、そんな事はどうでもいい。


 問題は奴がハルカに化けた事。相手と同じ姿、能力を持ち、更に力は上回るときた。なるほど、こりゃ下級転生者殺しだわ。


 下級転生者は馬鹿だから、自分より強い存在なんて絶対に認めない。ましてや、自分のコピーが自分より上なんてね。何が何でも自分が上だと誇示したがる。力ずくで倒そうとする。しかし、ブーステッド・ドッペルゲンガーに対し、それは悪手。やればやる程、その上を行かれて負ける。


 自分と同じ能力を、より上回る力で行使する敵相手にどうするハルカ? 少なくとも、ヒントは最初から出されているよ。それに気付くか、否か。気付かなければ、下級転生者同様、ここで死ね。







 ハルカside


 ……とりあえず、試してみるか。実のところ、攻略法は検討が付いている。ただし、確証は無い。だから試す。確かめる。


 まずはこれだ。低空タックルを繰り出す。向こうも同じく、低空タックル。からの……。


 切り上げの技、御津池神楽、天衝蛇。寸分違わぬ二つの技がぶつかる。しかし、威力は向こうが上。またしても力負けした。


『無駄だよ。僕の方が力が上だからね』


「……ならば、これはどうかな?」


 余裕綽々な態度のコードBD。しかし、構わず、次を出す。


「見様見真似狐月剣」


『見様見真似狐月剣』


 燃費が悪いからあまり使いたくないけど、あえての大技。水の三日月を大量に放つ。やはり、寸分違わぬ技で返してきた。こちらを上回る威力で。何とか迎撃できたけど……。


 ただ、わかった事も有る。恐らくコードBDは……。とはいえ、もう少し、情報が欲しいな。推測が外れていたら目も当てられない。そこで試してみた。この技はどうかな?


「御津池神楽、蛇襲突」


『御津池神楽、蛇襲突』


 御津池神楽における突き技。畳んだ鉄扇で繰り出した突きを、やはり寸分違わぬ突きで返してきた。なるほど、二つの推測の内、一つは外れた。ならば、もう一つの推測はどうかな?


 次は自分を中心に周囲に扇を振るう、御津池神楽、蛇円舞。その性質上、攻撃より、防御の技。にもかかわらず、向こうも使ってきた。……やはり、そうか!


 自分の推測が正しいと確信した僕は、構えを解き、鉄扇を腰のホルダーにしまう。


『どういうつもりかな?』


 当然、聞いてくるコードBD。それに対し、僕も返す。


「質問に質問で返して悪いけど、君こそ仕掛けてきたら? ()()()()()()()()


 僕の推測が正しいならば、僕の勝ちだ。……間違っていたら、詰みだけど。とりあえず畳み掛ける。


「君さ、最初から僕の真似ばかりしている。恐らく、相手の繰り出した技や術を即興でコピーして反撃する。それが君の能力なんじゃないかな? 既に見た事の有る技をコピーするのかとも思っていたけど、君には初見の蛇襲突をコピーしてきた時点で違うと思った。しかし、欠点として、相手が手出ししてこないと君は何もできない。カウンター専門だからね。少なくとも今回はそうだ。でなければ、これまでコピーしてきた下級転生者の能力を使わない訳がない」


 そう指摘すると、コードBDは苦笑いを浮かべる。


『……バレたか。降参。ネタバレした以上、僕の負け。その通りだよ。僕の能力は相手の使ってきた内容を即興でコピーする事。あと、ルーナ様から、能力の使用限定も受けてる。でないと、ゲームが成立しないからね。良かったね、銀髪のお姉さん。でなければ、殺していたよ? ま、とにかく、このゲームは銀髪のお姉さんの勝ち。ネタバレしたゲームはつまらないからね。でしょ? ルーナ様』


 コードBDはあっさりと降参。そして僕の指摘にその通りだと認めた。あと、ルーナさんから能力の使用限定を受けているとも。でないと、ゲームが成立しないからと。そりゃそうだ。これまでコピーしてきた能力を使ってこられたら、僕に勝ち目が無い。それではゲームが成立しない。勝ち確定のゲームなんか、ただの作業。つまらない。


 まぁ、そんなつまらない事が大好きな奴もいる。


 下級転生者。なろう系の馬鹿。圧倒的な力で弱者を踏みにじるのが大好き。ありふれた職業で最強のサイコパス野郎とか、魔道王気取りの骸骨とか。


 ま、いずれ、抑止力に誅殺されるのがオチだけど。弱者を踏みにじるばかりで、高みを目指さないクズにはお似合いの末路だ。僕は違う。僕は高みを目指す。目指さねばならない。下級転生者抹殺の任を果たす為に。


 で、今回のゲームの主催者であるルーナさんだけど……。


「そうだね~。あっさり見破られたし、これ以上やっても何も得る物が無い。何よりつまらない。よって、ハーちゃんの勝ち! おめでとう! ルーナ様が祝福するよ! はい、拍手!」


 僕の勝ちと認め、拍手して祝福してくれた。……白々しいにも程が有るな。しかし、余計な事は言うまい。怖いから。


「……相変わらず、ひん曲がった性格してやがる」


 代わりに言っていただき、ありがとうございますナナさん。ともあれ、これでホワイトホスピタル攻略は終わり。本来の目的である顔合わせができる。そう思っていたんだけど。


 そんなに世の中甘くない。全てが丸く納まるなんて事はなかった。


『良かったね、銀髪のお姉さん。とりあえず及第点みたい。で、僕はここでお別れだよ。いや〜、上位転生者なんてコピーするもんじゃないね。体組織が崩壊を始めたよ』


 その声に振り向けば、コードBDの全身が溶け崩れ始めていた。


「ありゃりゃ、やっぱり、上位転生者をコピーするのは無理が有ったか〜。今後に向けて改良の余地有りだね〜」


「個難君!」


 どんどん溶け崩れていくコードBD。いや、個難君に呼び掛けるが、崩壊は止まらない。


『……気に…しなくて……良いよ…。所詮……僕は…生体……兵器…だか…ら……ね……せいぜい……頑張って……銀……髪…………の……』


 最後まで言い終える事なく、コードBD。個難君は溶けて消えてしまった。


「ハルカ。そいつの言う通りだ。気にするな。一々、気にしてたら、この先やってられないよ。あんた正義の味方って訳じゃないんだからね」


「むしろ悪の側だよね~。魔女の弟子だし」


 確かにその通りだけど……。どうにも後味が悪い結末となった。


「ハルカ、覚えときな。世の中、都合の良いハッピーエンドなんか無いんだよ。そんなもん、馬鹿の妄想さ。現実はいつも厳しい」


「……ありがとうございます」


 ナナさんからのありがたい言葉。それに感謝し、改めて異世界転生の厳しさを痛感する。


『異世界は理想郷でも楽園でもない』


「素直で良い子だね〜。ルーナ様、感心!」


 とりあえず、あなたは黙ってくれませんか?







「ハーちゃんお疲れ〜。とりあえず、ルーナ様はハーちゃんに及第点をあげちゃいます! わ〜良かったね〜」


「それはどうも」


 場所は再び、ホワイトホスピタルの院長室。改めて、お茶をする事に。ちゃんとお茶も茶菓子も普通の市販品。ナナさんが先に確認した上で、初めて口にする。……最高級品だそうで、確かに美味しかった。しかし、あまり嬉しくない。


「及第点か。とりあえず、足切りは避けられたみたいだね」


「まぁね〜。少なくとも、下級転生者みたいな強いだけのつまらない馬鹿じゃないとわかったし。口を開けば、スキルガー、チートガー、原作知識ガー、現代知識ガー。……他に言う事無いの? それにしても良い子を弟子にしたね〜。将来楽しみだよ〜。本当に下級転生者って、異世界を理想郷、楽園と勘違いしてる馬鹿ばっかりだからさ〜」


「度し難い馬鹿共だからね」


 もっとも、そんな僕の事は無視して大人二人は話を進める。


「さて、と。ハーちゃん。君は上位転生者。使い捨ての下級転生者と違って、使命が有るはず。それは何?」


 そして、ルーナさんは僕の上位転生者としての使命を聞いてきた。クローネさんにも聞かれたな。内容次第では殺すという事。聞かれて困る内容でもないから正直に答える。


「界理を乱す下級転生者の抹殺です。要はゴミ処理ですね」


 浅ましい欲望のままに生き、界理を乱す社会のゴミ。下級転生者。断じて生かしておけない。見つけ次第、殺してやる。


「そうなんだ〜。頑張ってね〜」


 正直に答えたものの、ルーナさんからのリアクションは薄い。どうでもいいらしい。


「ハルカの使命はわかっただろ? 少なくとも、私達三大魔女の邪魔はしないよ。むしろ、ゴミ処理の手間が省けて助かる」


「ルーナ様としては、殺さずに生け捕りにして、こちらに送ってほしいんだけどな〜」


「すみません。あくまで僕の使命は下級転生者の()()ですので。やらないと契約違反になります」


「それじゃ仕方ないな〜。神魔との契約違反は怖いからね〜。……馬鹿はすぐやるけど」


「自分で言うのも何ですが、僕は馬鹿じゃないんで。契約は遵守しますよ」


 ルーナさんとしては、下級転生者を殺さずに生け捕りにして、送ってほしいそうだけど、それは断った。僕の使命は下級転生者の抹殺。やらなければ契約違反になる。神魔との契約違反は不味い。なろう系定番の安っぽい婚約破棄とは違う。


 まぁ、現実的にも軽々しく契約違反、契約破棄をするのは不味いけどね。そんな事もわからない馬鹿が下級転生者になる訳だ。……死ねば良いのに。







 さて、その後だけど、ルーナさんが今後の参考にと、最近の下級転生者を始めとする馬鹿共に関するレポートをくれた。ざっと目を通したけど、どいつもこいつも狂っている。正気の沙汰じゃない。


 勇者より強いと調子に乗った暗殺者やら、恋仲の皇弟を帝位に就けるべく、その兄である皇帝を暗殺しようとした薬師の女やら、完全回避ヒーラーやら、防御力全振りやら、即死チートやら……。


 まぁ、()()()()()()()()


 勇者より強いと調子に乗り、無双した暗殺者は、『暗殺者の面汚し』として暗殺された。繰り返す。暗殺者が暗殺された。……馬鹿過ぎる。


 ナナさん曰く、裏の世界は決して無法の世界じゃない。裏には裏の厳格なルールが存在し、違反した者は容赦なく制裁される。


 この馬鹿暗殺者の場合、『暗殺者は常に『影』たるべし』という、暗殺者の掟に背いたから。


 暗殺者はその名の通り、闇の存在。決して目立ってはいけない。目立つ暗殺者なんか、暗殺者じゃない。そんな奴は暗殺者の面汚し。故に暗殺者の組織。アサシンギルドより『始末人』を差し向けられた。『始末人』はアサシンギルドの切り札。様々な不都合な物事を消し去るのが務めの凄腕暗殺者。


 勇者より強いと調子に乗っていた馬鹿暗殺者だが、『始末人』の前には無力だった。それ程までに『始末人』は強い。ちなみに『始末人』は正体不明。ナナさんでさえ知らないそうだ。正に暗殺者の中の暗殺者。暗殺者の鑑だ。







 恋仲の皇弟を帝位に就けるべく、現皇帝を暗殺しようとした薬師の女。こいつも馬鹿だ。


 お忍びで街に出ていた皇弟と偶然出会い、恋仲となり、その伝手で宮廷に出入りするようになり、更には宮廷付きの薬師に就任。宮廷の事件に首を突っ込み出した。


 それだけならまだしも、現皇帝を殺害し、恋仲の皇弟を次期皇帝の座に就け、自分は皇妃になろうと野心を抱いた。


 ま、あっさり企みがバレて、皇弟共々、斬首に処されたけど。


 皇帝暗殺計画を阻止したのは、宮廷の厨房で働いていた料理人のおじさん。この人、既に足を洗ったものの、元、プロの暗殺者。凄腕の毒使い。以前から薬師の女を怪しみ、警戒していた。そして薬師の女の皇帝暗殺計画を知り、逆に罠に嵌めた。


 おじさん曰く、『こちとら、嫁と息子を食わせていかなきゃならないんだ、馬鹿女のくだらない野心の為に国を滅茶苦茶にされてたまるか』と。


 自分の欲望の為に行動した薬師の女と、家族を守る為に行動した料理人のおじさん。背負っているものの重みが違い過ぎた。


 余談だけど、この薬師の女、何かといえば出しゃばってきてドヤ顔かますので、恋仲の皇弟以外の宮廷内の人達には嫌われていた。特に女官達からは、蛇蝎の如く嫌われていた。故に処刑された際には、皆、いい気味だ、ざまぁ見ろ等とボロクソに言っていたそうだ。


 ……よくそんなので、皇妃になろうなんて思ったな、薬師の馬鹿女。周囲からの支持も人望も無いのに。これだから下級転生者は。







 完全回避ヒーラーと、防御力全振り。この二人は同じ相手に同じ手段で殺された。


 殺したのは僕と同じく水使い。やり方は単純。結界で相手を閉じ込め、結界内を水で満たして溺死させる。なるほど。このやり方なら、完全回避も防御力も全くの無意味。


 ちなみに完全回避ヒーラーも、防御力全振りも、自身の異能を過信し、自分は最強と自惚れて何の努力もしなかった。……陰では、いつ死ぬか、賭けの対象になっていたそうだけどね。本当に下級転生者は馬鹿だな。







 最後の即死チートに至っては、異能返しを食らって、自分の異能で即死した。即死チートの強力さに浮かれ、異能封じ、異能返しの存在を知らなかったそうだ。


 こいつも先の完全回避ヒーラー、防御力全振りと同じく、自分は最強と自惚れ、何の勉強もしなかった故の破滅。


 こいつら、揃いも揃って、勉強しない。未知たる異世界について学ばない。だから、殺される。正しい知識は最強の武器にして防具なのに。この世で最も恐ろしい事は『未知』。知らない、わからない。これ程、恐ろしい事は無い。対策できないからね。僕は学ぶよ、正しい知識を。死にたくないから。


 とりあえず、下級転生者。お前達は努力をしろ。勉強をしろ。異能に頼るな。実力を付けろ。何もしないくせに、利益だけよこせなんて通じる訳ない。……わからないか、馬鹿だから。


 とにかく、レポートに載っていた連中は本当にどうしようもない馬鹿ばかり。悪役令嬢とか、目立ちたくないと言いながら目立ちまくる奴とか、軽々しく魔法改革とか、盲目だから目を作るとか、他にも色々。







 極めつけが、あの本能寺の変で織田信長を助け、歴史を変えようとした馬鹿。信長による天下統一を企んだが、歴史改変は最大の罪。即座に抑止力が来て、信長共々、跡形もなく消された。まさか、こんな形で本能寺の変の真実を知るとは思わなかった。だから、本能寺の焼け跡から信長の死体が見つからなかったのか。


 あのさ、歴史を下手に変えたら、その後の歴史が狂う。どうなるかわからない。危険極まりない。そんな事すらわからないとは馬鹿過ぎる。何より、こんな馬鹿が歴史を変えたら、間違いなく破滅の未来確定だ。そりゃ、抑止力が即座に抹殺するのも納得。僕でもやる。


 それにしても、まぁ、見事なまでの馬鹿のバーゲンセール。こんなバーゲンセールはいらない。全部まとめて処分一択だ。それが僕の使命。


 繰り返すけど『無能は死ね』。この世に無能はいらない。







「で、ナッちゃんは今後、どうするつもり? 特にハーちゃんの教育方針について」


 院長室でお茶をしながら、ルーナさんはナナさんに対し、今後について聞いてきた。


「そうだね。とりあえず夏ぐらいまでは、基礎を徹底的に叩き込む。元が素人な割には、ハルカはかなりできる子だけど、まだまだ荒いね。そこを直す。それから、実地訓練をさせるつもりさ。実戦に勝る修行は無い」


「まぁね〜。実戦最強。机上の空論は役に立たないし〜」


「下級転生者は机上の空論大好きだけどね」


「馬鹿だからね〜」


 それに対し、夏ぐらいまでは基礎を叩き込む。それから実地訓練と答えたナナさん。僕も聞かされた内容だ。……その割には、色々戦う羽目になったけど。それに関し、ナナさんは、ハルカはかなりできると認めてくれた反面、まだまだ荒いと指摘。そこを直すと。先は長い。







「せっかく来たんだからさ〜。色々見ていきなよ〜。面白いよ〜。特にルーナ様自慢のコレクション集とか、下級転生者の解剖ショーとか」


「ふざけんな! そんなもん、ハルカに見せられるか! 用は済んだしさっさと帰るよ!」


 ルーナさんから嫌なお誘いが有ったけど、ナナさんが即座に却下。帰る事に。色々有ったけど、やっと帰れる。冒険者ギルド本部での、本部長さん達、ギルドの面々との出会いから始まって……。


 怪植物トライフィートによる世界存亡の危機。それに絡んで出会った、金毛九尾とその弟子、銀毛三尾。


 アルトバイン王国屈指の名門、スイーツブルグ侯爵家令嬢と、彼女に仕える執事。


 その後も、『死の聖女』クローネさんの元を訪ね、彼女に挑んだ身の程知らずの下級転生者の末路を見た。


 そして、『冥医』ルーナさんの元を訪ね、彼女主催のゲームをクリアし今に至る。本当に色々有った……。開始直後に世界存亡の危機なんて、ゲームだったら、とんだクソゲーだよ。現実だけどね。

 

「え〜! もう帰るの〜? せっかく、活きの良い下級転生者を捕まえたから、解剖ショーを見せてあげようと思ったのに〜。麻酔無しで死なないように切り刻んでやるのが最高なのに〜」


「だから帰るんだよ! あんたの悪趣味に付き合ってられるか!」


 ナナさんに引きずられ、ホワイトホスピタルを後にする。出てきた先は、大きな湖。禁足地『冥鏡止水』のほとりだった。来た際に置いておいたナナさんのバイクもそのまま有った。この辺り一帯は禁足地として結界で封鎖されているから、まず誰も来ない、来られない。そういう点では安全か。


 逆に言えば、入れる奴は相応の力が有るという事。なるほど、研究素材を求めるルーナさんには好都合な立地条件な訳だ。


 まぁ、下級転生者が幾ら実験台になろうが僕の知ったこっちゃない。せいぜい、実験台として役立て。それぐらいしか価値の無い連中だ。


「とりあえず、今回の顔合わせはこれで終わり。色々有って疲れただろ? さっさと帰るよ。それにあんまり留守が長いと、留守番を任せたエーミーヤに文句を言われる」


 ナナさんからも、今回の顔合わせは終わりとの事。エーミーヤさんに留守番を頼んでいる以上、あまり長々と留守にはできない。……あっ!


「ナナさん! 帰る前にもう一度バニゲゼ通商連合に寄ってください。向こうを出る際に、エーミーヤさんに調味料の類を買ってくると言ったんです」


「そういえば、そんな事を言ってたね。仕方ないね。連合に寄って買い物してから帰るよ。乗りな」


 向こうを出る際にエーミーヤさんにおみやげを買ってくると言った事を思い出した。調味料の類を買ってきてほしいと言われたんだ。色々有って忘れていたよ。買い物をするなら、バニゲゼ通商連合が一番。ナナさんに頼み込む。


 仕方ないねと言いながらも、聞き入れてくれたナナさん。バイクに跨り、僕にも乗るように促すので、後部座席に乗り、ナナさんにしがみつく。


「乗ったね? じゃ、行くよ」


 ナナさんがエンジンを掛け、バイクが走り出す。そして上空へと舞い上がる。見る見る内に、地上が遠ざかる。


「さっさと買い物を済ませて帰るよ。全く、顔合わせのはずがとんだ目に遭ったよ。クソが」


「そこは同感です」


 まさか、世界存亡の危機に巻き込まれるとは思わなかったからね。本当に解決して良かった。……そもそもの原因は下級転生者のやらかしだけど。本当にろくな事をしない連中だ。改めて、下級転生者抹殺の意思を固める。


「頑張りな。下級転生者が減れば、少しは世の中もマシになるさ」


「だと良いんですけどね」


 ナナさんと話しながら、バイクは一路、バニゲゼ通商連合に向かって空を走り続けた。







 とある魔女side


「…………まぁ、これが初めて外に出た時に起きた事だよ」


 弟子のサキにせがまれ、昔の事を話した。懐かしいな……。師と共に外の世界へと出て、様々な出会いを果たした。残念ながら、もうその当時を知る者は僕を含めてもほんの僅か。時の流れの残酷さを感じる。


「初めて外に出たら、世界存亡級の事件に巻き込まれたって、師匠の異世界デビュー、ハード過ぎない?」


「確かにね。あの時は、本当に大変な事になったと焦ったよ。トライフィートはそれ程までに危険極まりない植物だったからね。我が師も、最悪、僕を連れてこの世界から脱出する事も検討されていたそうだし。それもこれも下級転生者が『植物を改良するスキルで農業改革』なんて、浅はかな考えでやらかしたせい。改めて下級転生者抹殺の意思を固める事になったよ」


「本当に解決して良かったよなー。でなかったら私、師匠に会えなかったし。そうなると死んでたし。吹雪さんの師匠に感謝感謝。あと、下級転生者って本っ当にろくな事しないな!」


「全くだよ。あの連中にはその後も散々、迷惑を掛けられた。単に殺して済む話じゃないからね。毎度、奴らのやらかしの後始末で大変だったよ。狂人共が」


 今でもはっきり覚えている、あの時の出来事。怪植物トライフィートによるスタンピード。もし、あの時、狐月斎さんがいなかったら、トライフィートが弱体化していなかったらと思うと、ゾッとする。下級転生者め! 本当にろくな事をしない!


 その後、本格的に下級転生者抹殺の任に就いてからも、下級転生者には散々に迷惑を被った。奴ら、本当に狂っている。


 チートを過信し、滅茶苦茶する。その上、とにかく非を認めない、失敗を認めない。反省しない。改善しない。失敗し、大惨事を招いては、毎度、くだらない言い訳を並べ立て、徹底して自己正当化と周囲への責任転嫁に終始する。当然、全て殺したけどね。生かしておく意味も価値も無い。『無能は死ね』。


 非を認め、失敗を反省し、改善する事で、初めて進歩できる。それができないから、下級転生者はクズなんだ。


「とはいえ、もう、あの当時を知る者は少ない。我が師を始め、ほとんどの方は亡くなった。生き残っているのは、僕と吹雪さんぐらい。時の流れは残酷だね。あの当時は魔女見習いだった僕と、銀毛三尾だった吹雪さんが、今では、大魔女と、銀毛九尾。本当に歳を取ったよ……」


「あ、ごめん師匠」


「謝ることはない。事実だし、仕方ない事。さ、夜も更けてきた事だし、早く寝なさい。明日も厳しくいくよ」


「了解! おやすみ、師匠」


「おやすみ、サキ」


 時の流れは残酷。だからといって嘆いても仕方ない。僕はやるべき事をやるだけ。自室に戻る弟子を見送る。するとサキが振り向いて言った。


「師匠、今回の昔話、面白かったよ。また聞かせてよ」


「……そうだね。また、気が向いたらね」


 弟子から、また昔話を聞かせてほしいとの事。それに対し、また、気が向いたらと返す。そして今度こそ自室に戻るサキ。


「さ、僕も部屋に戻るかな」


 窓に映るのは、黒髪、銀眼のメイド服姿の大人の魔女の姿。


「本当に歳を取った。だが、まだ死ねない。死ぬ訳にはいかない。この『奈落の蛇』、師との最後の約束を果たす、その時までは」


ハルカ、外の世界へ編は今回で終了。各方面との顔合わせのはずが、のっけから世界存亡の危機に巻き込まれるひどい始まりに。


しかし、同時に多くの出会いも。それはハルカの人生における大きな糧となりました。







今回の馬鹿


勇者より強い暗殺者。現皇帝を暗殺し、恋仲の皇弟を次期皇帝に就け、自身は皇妃になろうと企んだ薬師の女。完全回避ヒーラー。防御力全振り。即死チート。色々いますが、一番の馬鹿は……。


タイムスリップし、本能寺の変の最中の織田信長を助け、歴史改変を企んだ奴。


信長による天下統一。更に信長の姪、茶々との結婚、ひいては戦国ハーレムを作ろうと野心を抱いたものの、即座に現れた抑止力により、信長共々『消滅』させられた。信長による天下統一も、茶々との結婚も、戦国ハーレムも全て無に帰した。


歴史改変は最大最悪の界理違反。やろうとしたら、即座に抑止力が来て『消滅』させられる。歴史改変は多元宇宙を崩壊させる最悪の危険行為故に。


そもそもこの馬鹿、下手に歴史改変をしたら、その後、何が起こるかわからない。自身の存在が消える可能性が有る事すら、わかっていなかった。


こんな馬鹿が歴史改変をしたら、破滅の未来確定。抑止力に『消滅』させられるのも当然。


ちなみに明智光秀も抑止力に会っており、その際、『信長はお前が討った事にしろ。余計な事を漏らしたら、お前も消す』と脅された。光秀は生涯、その事を隠し通して世を去った。後に天下統一した豊臣秀吉、徳川家康はその事を知らない。







『奈落の蛇』


最後に登場した魔女。黒髪、銀眼とメイド服姿がトレードマーク。大魔女と呼ばれており、弟子持ち。


次回からは、魔女師弟以外の人物視点。まずは、ブラウニーのエーミーヤ編。


では、また次回。


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