第2話 私が弟子を取った理由
私は『名無しの魔女』。世間一般からはそう呼ばれているね。ま、実際、私に決まった名は無くてね。色々、名乗ったもんさ。え〜と、モルガン、ヒミコ、シェラハザード、キルケー、まぁ、色々名乗り過ぎて、一々覚えてない。で、そんな私は、はっきり言って最強でね。だから、こういう暮らしができるのさ。
私はベッドから起き上がる。この一週間、ヤリまくっていたから、腰が痛いね。とりあえず私に覆いかぶさって邪魔な女を蹴飛ばしてどける。女はベッドから落ちた際に、頭から落ち、床に激突した際にゴキリ! と音がした。見れば、首がおかしな方向に曲がっていた。……死んだか。狼人族の女で、見た目も良いし、何よりアソコの締まりが良い処女で、中々良かったんだけどね。
いやはや、反抗的な女を洗脳して、従順な奴隷に変えて、好き放題に犯すのは実に楽しい。何せ、私の魔力の前には、抵抗、反抗など無意味。
どんな強情な女も、私の魔力で精神を書き換えれば、喜んで股を開き、私に媚びへつらう淫乱な奴隷と化す。涙、鼻水、涎、身体中の穴という穴から液体を垂れ流し、快楽によがり狂う。
そんな女達を犯すのが、私の一番の楽しみ。ま、欠点としては、あまりの快楽にすぐに女達の脳が壊れて使い物にならなくなることだね。まぁ、良いさ。ハーレムからまた別の女を連れてくるし、足りなくなれば、またどこかから、かっさらうだけさ。女なんざ、一山幾ら。代わりなんか幾らでもいる。所詮、私を楽しませる為の使い捨てさ。
最近は獣人族の女で色々遊んだ。全裸で外をお散歩とか、排泄とか。後、完全に理性と知性を壊して、獣に堕落させての対決も面白かったけどね。いやはや、笑ったねぇ。猫族の姉妹だっけ? お互いをかばい合う美しい姉妹愛とやらを見せ付けてくれたけど、洗脳してやったら、あっさり殺し合いを始めてくれちゃって。本当に傑作だったね。
お互いに血みどろになって噛みつき合い、最期は姉が妹の喉を食い破って殺して、あげく、全身の肉を食らい尽くし、勝利の雄叫びを上げていた時は、正に絶頂ものだったよ! アハハハハ!!
とはいえ、さすがにちょっと飽きてきたね。趣向を変えて他の種族にするかね? それとも、美味い酒と飯を楽しむかね? この前は南方から取り寄せた酒をたらふく飲んだからね、今度は逆に北方から名物の酒、猛火酒を取り寄せるか……。あれ、きついけど、それが良いからね〜。それとも、東方から古酒を取り寄せるか? いやいや、西方のワインも……。迷うねぇ。
最強の魔女を目指し、力を追い求め、今や、伝説の三大魔女の一角とまで呼ばれるようになった私。望んでいた最強の座を手にした。
事実、私の力を持ってすれば、やりたい放題、何でもできる。金、権力、酒、美食、女。全てが手に入る。全てが私の思い通りになる。逆らう奴なんかいない。仮にいても即、抹殺。所詮、私の足元にも及ばない雑魚ばかり。私にかなう奴なんて、片手で足りる。
これこそ最強の座。私こそ、世界の頂点に立つ存在なんだ!
…………なんて、思っていた時期が私にも有ったよ。
現在の私は、絶海の孤島に屋敷を構え、基本的に誰にも会わずに暮らしている。ハーレム? あんなもん、とっくの昔に処分したよ。どの女もすぐに脳が壊れて使い物にならなくなるし、意外とハーレムは維持が面倒なんだよ。衣食住の費用やら、何やらさ。
美食、美酒も最初はともかく、しばらく続けていたら飽きた。権力? 面倒。金? 腹の足しにもなりゃしないよ。敵? 雑魚ばかりで論外。
「…………こんなはずじゃなかったのに。最強の座に就けば、何でも私の思い通り、理想の暮らしが手に入ると思っていたのに…………」
今日も今日とて、暇潰しのオンラインゲーム。金は有るからね。最高のオンライン環境を整えてプレイしてるよ。時間も有るからね。他の追随を許さない、不動のランキング一位さ。
「……なにやってるんだろうね、私は……」
かつては最強の座を目指し、ひたすら力を追い求め、立ちはだかる敵達を片っ端からなぎ倒し、その末に遂に最強の座を手にし、正にこの世の絶頂を極めた。
しかし、よく言うよね。頂点に辿り着いたら、後は落ちるしかないと。私は最強の座を目指していた頃は、その言葉をくだらない戯言だと鼻で笑った。
私としては、その当時の私をぶん殴ってやりたいけどね。このバカが! って
正に、その言葉の通りだった。この世の絶頂に辿り着いた私を待っていたのは。力、金、権力、美酒、美食、女。全てを手に入れた私を待っていたのは。
どうしようもない、退屈だった。
確かに最初は良かったさ。愉悦と快楽の限りを尽くしたさ。本当に自分がこの世の頂点に有ると実感し、楽しくて、愉快でたまらなかったさ。
うず高く積まれた金銀財宝に囲まれ、世界中から取り寄せた美酒、美食を味わい、洗脳し、私の意のままに動く美女達を好きなだけはべらせて、手当たり次第、欲望のままに犯し尽くし、壊れたら、また別の女を壊れるまで犯し尽くす。
最高だったさ。何もかもが私の思い通りになる。私は欲望の赴くままに、やりたい放題に生きた。誰も私を止められない。
だけどね。欲望のままに暴走する私を止めたのは、皮肉な事に、他ならぬ私自身だったのさ。
ある日、今日も今日とて、ハーレムの女達を犯しまくり、さすがに疲れて水を飲みに行ったんだけど。そこでふと、窓ガラスに映った私の顔を見たのさ。で、びっくり!
そこには、やつれた女の顔が有った。驚いたよ、美貌で知られる私が、こんなやつれた顔になるなんて。その時、急に冷めてしまったのさ。
『私はこんな事の為に、最強の座を得たのか?』
一度冷めると、何か、全てが虚しくなってきた。力? 使い道無いけど? 金? 腹の足しにもなりゃしない。 美酒、美食? 正直、飽きたね。 女? 同じく飽きてきた。それによく考えたら、洗脳して従わせるなんて、逆に言えば、洗脳しなければ女を従わせられないと言っているようなもんだ。……これが最強の座に君臨する魔女のする事か? なんてみっともない。私がそんなみっともない真似をする奴を見たら、指指して笑うね。
特に、女を洗脳し、欲望のままに犯しては壊してきたことは、本当にみっともないと感じた。これじゃ、性欲剥き出しの、もてないクズ共と変わらないじゃないか。
そして、私は豪華絢爛を極めた屋敷を捨てた。浮かれていた頃ならともかく、頭が冷えた今、見たら、単なる悪趣味の極み。恥ずかしくなるだけだった。
とりあえず、必要な財産だけ持って、旅に出た。そして、手頃な絶海の孤島を見つけた。周囲を岩礁と激しい海流に囲まれ、島自体も全周が断崖絶壁の自然の要害。外部からの侵入者を阻む。何より、この島は大地のエネルギーの流れ。霊脈の要に有るのが良い。私のような魔道に生きる者には、霊脈から魔力を吸収し、魔力の回復が早まったり、魔力を蓄えたりと実に都合が良い。
「こりゃ良いね。ここにするか」
かくして、私はここに新しい屋敷を構える事に。そして三百年の時が流れ、現在に至る。
「あ~ぁ、退屈だねぇ。何かこう、私をあっと言わせてくれるような、刺激的で面白いことは無いもんかねぇ」
オンラインゲームも飽きたので、コーヒーを淹れて一休み。
「……久しぶりに娼館に女を抱きに行くかね? しかし、最近はそれも飽きてきたしね。私好みのいい女なんて、そうそう入らないし」
ハーレムは処分したけど、性欲まで捨てた訳じゃないからね。時々、娼館に行って女を抱いてる。一応、お気に入りは数人いるし、向こうとしても私は金払いの良い太客だから、邪険にはしない。しかしねぇ、面子が代わり映えしなくてね。娼館入りする女は少なくないけど、私好みのいい女となると、そうそういなくてね。実際、私のお気に入りは四人しかいない。
「う〜ん……。決めた! 娼館行こう! 久しぶりに女将を抱こう!」
コーヒーを飲み干し、立ち上がると、着替えて向かうは、大陸四勢力が一つ。南方の『バニゲゼ通商連合』。通称、『連合』。
幾つもの通商ギルドが集まって生まれた、商業国家。特に力を持つ『五大商』を頂点とし、世界一の経済力を誇る。まぁ、厳密には正式な国家とは言えないんだけど、世界一の金持ち国家にそんなケチを付ける奴はいない。で、そんな国の謳い文句がこれ。
『ここでは金さえ払えば、何でも手に入る。この世の全てがここに有る』
ここでは金が全て。金こそ正義。金こそ真理。金さえ払えば何でも買えるし、何でも売れる。それは人だって例外じゃない。奴隷や娼婦が日常的に売買されている。人権? 知らないねぇ。
くどいが、ここは金が全て。特にここの名物。世界一の規模を誇る巨大歓楽街は、酒、風俗、ギャンブルの聖地、この世の欲望の全てが集まる魔界と呼ばれている。私も昔から、よくお世話になっているよ。
しかし、『五大商』はよくわかっているね。風俗街、歓楽街は人の欲望と金が集まる場所であると同時に、『情報』も集まる場所。特に女と二人きり、酒も入れば、バカな奴はあっさり重要な情報を吐くものさ。ハニートラップは、昔からの定番。それだけ有効だからね。こうして得た情報が、『連合』に更なる利益をもたらす。怖いねぇ、がめつい商人は。こいつら、ひたすら金を追い求めるからさ。金は食えないのにね。
それはともかく、テレポートでやってきました、『連合』。本来なら、パスポートがいるけど、私はそんなもん知ったこっちゃない。何より、ここは金が絶対正義。金払いの良い私は、この国ではVIPでね。『連合』に大損害を与えない限り、何をしようが勝手なのさ。
さて、到着次第、私は行きつけの最高級娼館。『黄金の女神亭』に向かう。ここは娼館であり、料亭であり、ホテルでもある。『連合』でも随一の店であり、娼婦達の質、料理の質、設備にサービス。どれをとっても、その素晴らしさは他の追随を許さない。正に絶対王者なんだよ。だから、私も昔から行きつけにしている。
「来たよ!」
「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」
丁寧に三つ指突いて出迎えてくれた、長い銀髪の若い美女。彼女こそ、当代の『黄金の女神亭』の女将。この辺りでは珍しい、東方の衣装。『キモノ』をいつも身に着けている。とても品が良い美女で、とても娼館の女将とは思えない。少なくとも、知らない奴にはわからないだろうね。
この店、『連合』随一の店だけに、滅茶苦茶高い。しかも完全予約制であり、予約が一年先まで一杯という程の大人気店。本来なら、私みたいな飛び入り客など、絶対相手にせず、門前払い。
だが、私は『連合』のVIP。それはこの『黄金の女神亭』であっても例外じゃない。で、さっそく指名。
「シロガネを指名するよ。一晩完全貸し切りで。部屋はいつもの」
すると、女将は白い頬をほんのりと染め、答える。
「かしこまりました。少々、お待ちを」
それから女将はどこかに連絡。それが済んだら、私に向き直る。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
女将に案内され、向かうは私専用にあつらえられた、最高級の部屋。その名も紫百合の間。
昔の悪趣味を反省し、紫を基調とした、落ち着いた東方風の内装。そして部屋に用意された最高級の布団。いつ来ても、良い仕事してるね。
さて、向こうもお待ちかねだし、やりますか!
女将、元、一番人気の娼婦にして、私の一番のお気に入り。シロガネは私に抱かれるのを待ち焦がれてか、頬が上気し、内股をこすり合わせている。あ、この匂い。既に濡れてるね。フフ、可愛いねぇ。私もムラムラしてきたよ。
「ほら、さっさと服を脱ぎな。久しぶりに可愛がってやるよ」
「はい……」
既にスイッチが入っている女将、シロガネは何のためらいも無く、キモノを脱ぎ捨て全裸に。私も同じく、服を脱ぎ捨て全裸に。そして、シロガネを布団に押し倒し、まずはディープキス。舌を絡め合い、更にそこからねっとり愛撫。そして、激しくまぐわう。私は魔法でモノを生やせるからね。
シロガネも久しぶりのまぐわいに普段の上品さなどかなぐり捨て、激しくよがり狂い、快楽の叫びを上げる。私もそんなシロガネの乱れっぷりに、久しぶりに征服欲を満たされる。
それから夜が明けるまで、私とシロガネは激しくまぐわい続けた。
明けて翌朝。
一晩中、不眠不休でまぐわい続けたせいか、シロガネは白目を剥いて動かなくなっていた。首筋に指を当て、脈を見る。……無いね。
続いて目を開き、瞳孔にライトの光を当てるが、瞳孔は開きっぱなし。
何より、生気を感じない。……死んだか。まぁ、良いか。こいつも二十七歳。いい加減、娼婦としてはトウが立っていたからね。金を積めば済む話さ。
私はシャワーを浴びてさっぱりすると、服を着替えて、店頭に行き、女将、シロガネが死んだことを伝え、割増料金を払う。シロガネが死んだことに店の奴は驚いたが、私が払った金額を見てすぐに黙った。『連合』では金こそ全て。金さえ出せば全て解決。
シロガネの死体だけど、どうやら、死体マニアに売るらしい。いるからね、死体にしか欲情しない変態。以前から、シロガネが死んだら、死体を欲しいと伝えていたらしい。
じゃあね、シロガネ。楽しませてもらったよ。 私は店を後にした。やれやれ、ちと、乱暴にヤリ過ぎたかね? 反省、反省。さて、次は飲みに行くかね? カジノも悪くないね。
「まぁ、中々楽しめたね。だけどね……」
数日、『連合』の歓楽街に滞在し、豪遊してきた。で、帰ってきたんだけど。所詮、一時しのぎに過ぎなかった。
仕方ないから、またオンラインゲーム。あ〜、巨大ボス討伐イベントが来てるね。
イベントの告知を見て、とりあえず参加。そのフィールドに向かい、巨大ボス討伐戦に参加。暴酸龍アシドラスか。
「チッ! こいつ固いね。全属性、九割カットって! 弱点の頭を狙わないと、まともにダメージを与えられないけど、その為には体勢を崩さないと駄目で、しかし、その為には足元に行かなきゃならないけど、尻尾を振り回して邪魔してきやがる。その尻尾を切るにはレア装備の斬龍剣が必要で……。そのくせ、弱点の頭にはレア装備のメテオハンマーが有効で。クッソ、斬属性と、打撃属性、両方のレア装備と、キャラ操作の腕が無けりゃ話にならないじゃないか! 誰だよ! この設定決めた奴!」
元々、廃人向け超高難易度オンラインゲームとして知られていたけど、最近は更にひどいね。まぁ、勝つけど。役立たずな雑魚プレイヤー共は無視。まずは斬龍剣を装備して、振り回される尻尾を回避しつつ、攻撃チャンスを伺う。まだ……まだ……まだ……今!!
尻尾振り回し攻撃は何回か繰り返すと、しばらく止まる。その時が攻撃チャンス。もっとも、今度は口からしたたる、強酸の涎攻撃が来るから、それを回避しつつ、尻尾の根元に近づく。チャンスは短い。一撃で尻尾を切る。
尻尾切りだが、一撃で切らねばならない。半端に切れば、痛みで怒ったアシドラスに反撃される。しかも一撃で切るには、最高レベルの二十まで上げた斬龍剣が必要で、その為にはレア素材が山のように必要。これ考えた奴は鬼だ。
しかし、残念だったね、私には金と時間が有る。それに物を言わせて、作ったよ、斬龍剣レベル二十。ついでにメテオハンマーもレベル二十。だから、一撃でアシドラスの尻尾を切る。
アシドラスは半端に尻尾を切られると怒るが、完全に切られると、一時的に麻痺する。仕留めるチャンスだ!
「貰ったよ!!」
すかさず足元に行き、爆弾セット。爆破。たまらず転倒したアシドラスの頭に向かい、メテオハンマーでぶん殴りまくる。そして、遂にアシドラスの体力ゲージが無くなる。
勝利のファンファーレが鳴り響き、戦闘終了。MVPとして、私の操作キャラの名が出る。リザルト画面で今回の報酬プラス、MVP報酬として、レア素材が出た。
「ま、こんなもんだね」
その結果に満足。さて、次はどこに行こうかと思っていたら……。
いきなり私の目の前に、見知らぬガキが現れた。
とっさにナイフを抜き、戦闘体勢に。何者?! この私の屋敷にこうもあっさり侵入するとは!!
よく見ると実体じゃない。透けている。立体映像か。しかし、一体、何者? 何しに来た? 恨み憎しみはたんまり買っているからね。命を狙われる心当たりが有り過ぎて困るね。すると、ガキが喋った。
『お前が名無しの魔女だな?』
「そうだけど? あんたこそ、何者だい?」
『私は死神ヨミ。冥界の支配者にして、全ての魂の管理者。今回はお前に一つ頼みが有ってな。聞いてくれるか?』
「……とりあえず、聞くだけは聞いてやるよ」
ガキは自らを死神ヨミ。冥界の支配者、全ての魂の管理者と名乗った。本当かどうかはわからないけど、少なくとも、何重にも結界を張り詰め、今まで一切の不法侵入者を許さなかった私の屋敷に侵入してきた時点で、大変な実力者とわかる。そんな相手にいきなり喧嘩を売ったりはしない。
『実はな。私はこの度、一人の上位転生者を創った。しかし、この者、才能は有るが、戦いや魔法、異能に関しては全くの素人でな。そこで、お前にその者の師になってほしい。容姿、才能、性格共に保証しよう。少なくとも、退屈はしない事もな。さぁ、どうする?』
おいおい、いきなり来たと思ったら、とんでもない事を頼んできたよ。私に、こいつの創った上位転生者の師になれって?
「あんた……。魔女が弟子を取る。その意味を分かって言っているのかい?」
魔女が弟子を取る。それは非常に重大な意味を持つ。魔女はその生涯において、一度だけ、一人だけ弟子を取る事が許される。それは遥か古からの魔女の掟。魔女にとって、弟子取りはやり直しができない、一世一代の重要事項なんだ。ちなみに私に弟子はいない。だから、弟子取りできなくはないけど……。
『知っている。だからこそ、お前に頼むのだ。手前味噌だが、あれは私の最高傑作でな。そんじょそこらの奴では、あれの師は務まらん。後、性格的な相性も考えてな。お前となら、上手くやっていけるだろう。それに……。お前、今のままで良いのか? このままでは、いずれ、お前の全ては無に帰すぞ? 残したくはないか? お前の生きた証を』
嫌な所を突いてくるね、こいつ。しかし、魅力的な提案ではある。だからといって、はいそうですかと受け入れる訳にはいかないね。
「この話、どんな『裏』が有るんだい? それを聞かなきゃ、引き受けられないね」
『それもそうだな。実は……』
「なるほど、そりゃ、大変だ。確かに最近、訳のわからない事を言う気狂いが増えたと思っていたけど、私の考えていた以上に事態は深刻だったか。あのバカ共、好き勝手、やりたい放題するからね。いい加減、駆除しないとまずいか」
死神ヨミから聞かされた、多元宇宙存続の危機。その為に上位転生者を創り、世界を蝕む下級転生者の駆除をさせると。で、その上位転生者の師になってほしいと。
幾ら才能が有っても、使いこなせなければ無意味。しかも、とんでもない天才となれば、それを育てる側にも、相応の実力が必要。私を師に指名するのも納得。むしろ、当然だね。
私としては、世界を救おうだなんて、思っちゃいない。しかし、世界が滅びたら困るのもまた事実。あと、クズが調子に乗っているのも不愉快だ。何より……死神ヨミの最高傑作という上位転生者に興味が湧いた。
伝説の三大魔女と呼ばれる内の一角たる、この私『名無しの魔女』。その弟子となるにふさわしい者か? ぜひ、直接確かめたくなったよ。
よし! 決めた!
「良いだろう。連れてきな。私がこの目で直接確かめてやるよ。有能なら、私の元に置いてやる。衣食住は保証しよう。ただし、役立たずと判断したら、即、追い出すからね」
私は死神ヨミの話に乗ると決めた。いい加減、代わり映えの無い毎日にうんざりしていたんだ。
『わかった。交渉成立だな。だが、準備が必要だ。しばし待て』
そう言って、死神ヨミは消えた。とりあえず待つか。私はまた別口のゲームを始める。
「そろそろ、来てもおかしくない頃だと思うんだけどね」
死神ヨミが消えてからしばらく。何の音沙汰も無い。なんて考えていたのがフラグだったのか。
「やぁあああああああああああっ!!」
いきなり聞こえてきた少女の叫び声。と思ったら、その直後、何かが勢い良く私にぶつかった! 一体、何事だい?!
特に顔面に押し付けられたのは……。毛だね。銀髪だ。だだし、髪の毛じゃない。やや縮れていて、逆三角形型の生え方をしていて、しかも奥に縦方向の筋が有って。…………私は顔面に押し付けられた『何か』に非常に心当たりが有った。これまで何度も見てきたし、触ってきた。何なら、私にも有る。『股間』に。
つまり……私の顔面に押し付けられているのは……。かわいそうだから、指摘するのはやめてやろう。私が同じ立場なら、恥ずかし過ぎる。何せ、素っ裸なんだから。
全裸で突然現れ、私の顔面に股間を直撃させるという、色々な意味で衝撃の出会いを果たした、銀髪碧眼の美少女。
その後、自分が全裸な上、見知らぬ若い女性の顔面に自分の股間を直撃、押し付けてしまった事にショックを受け、泣き出してしまい、泣きやませるのに一苦労する羽目に。まぁ、気持ちはわかるけど……。
そして、私。『名無しの魔女』は、彼女を弟子に取ることに。この出会いが全ての始まり。そして……私の終わりに至る始まりでもあった。
今回はハルカと師となる『名無しの魔女』の出会い。前作でも『名無しの魔女』はかつて邪悪な魔女だったと書きましたが、その邪悪さを多少は書けたかと。
最強の座を得て、好き勝手、やりたい放題してきたものの、最終的には、やる事をやり尽くしてしまい、どうしようもない退屈に悩む日々。娼館で女を抱いても、カジノ、酒場で豪遊しても、満たされない。
そんな『名無しの魔女』にハルカの師となる事を持ち掛けた死神ヨミ。
しかし、魔女にとって、弟子取りは生涯一度きり、一人だけと定められた、極めて重要事項。悩みましたが、承諾。
そして、色々な意味で衝撃的な出会いを果たし、二人は師弟に。それは全ての始まり。同時に『名無しの魔女』の終わりに至る始まりでもあった。
次回、魔女見習いハルカ・アマノガワ