表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

第26話 ハルカ、外の世界へ 冥医編3

 ハルカside


 悪趣味なデザインの敵ばかり出てくる、ホワイトホスピタル。その三階のボス『百面瘡』。


 大腸をモチーフにした身体に大量の人間の顔と腕が生えている巨大芋虫型の怪物。悪趣味にも程が有る。ナナさんの弟子で良かったとつくづく思う。


 こいつが出現した際、ルーナさんからのナレーションが有った。圧倒的再生能力を持っていると。試しに見様見真似狐月剣を放ち、四分割してやったが、全く効かなかった。


 これまでの奴は斬れば死んだけど、こいつは死ななかった。それどころか、断面から無数の手が生えてお互いに掴むと、即座にくっついて再生。挙げ句、全身の顔から溶解液を吐いて反撃してきた。


 単純な力押しでは勝てない。即座に戦略的撤退を決めた。実戦ならともかく、これはルーナさん主催のリアルゲーム。そしてゲームである以上、攻略法は有る。でなければ、ゲームとして破綻している。……世の中にはゲームとして破綻しているクソゲーが有る事はこの際、無視。


 幸い、その巨体と芋虫型故に、百面瘡の動きは遅い。振り切るのは簡単だった。しかし、奴を殺さない限り、先に進めない。







「さて、どうする気だい? ハルカ」


 百面瘡を振り切り、病室の一つへと逃げ込んだ僕とナナさん。そこでナナさんからどうする気か聞かれる。


「攻略法を探します。ナナさんが仰った通り、ゲームである以上、必ず有るはず。でなければ、ゲームとして破綻しています。クソゲーでない限りは、ですが」


 それに対し、攻略法を探すと答えた。ゲームである以上、攻略法は有るはず。クリア不能のクソゲーでない限りは。


「それなら安心しな。ルーナは人でなしだけど、自分が主催したゲームである以上、ルールは厳守する。クリア不能のクソゲーは断じてしないよ」


「それを聞いて安心しました。もっとも、攻略法の有りかも、どんなものかすら、わかりませんけど」


「そこが問題だね。全くのノーヒントって事はないはず」


 幸い、ルーナさんはクリア不能のクソゲーにはしないらしい。ただし、クリアできるとは限らない。攻略法を見つけなければ、詰みだ。ノーヒントで探せは苦しい。せめてヒントが欲しい。


『真実は常に一個!』


 突然聞こえた子供の声。即座に鉄扇を構える。いつの間にか、病室内に子供がいた。黒縁眼鏡に蝶ネクタイ、スーツ姿。……どこぞの少年探偵に似てるな。パチモン臭さが凄い。


『僕は穢土山(えどやま) 個難(こなん)! 真実は常に一個!』


「で? その穢土山 個難君は、何の用?」


 パチモン臭さが凄い、穢土山 個難君。とりあえず、何用か聞いてみる。返答次第では斬る。


『真実は常に一個! 女の股間に有るのはマ○コ!』


「よし、そこを動くな。手足を落としてダルマにしてから、首を刎ねる」


『ちょっと待って! 待って! ジョーク! 軽~~いジョーク! お姉さん達、百面瘡を倒したいんでしょ? だったら、僕のお願いを聞いてよ。聞いてくれたら、百面瘡の倒し方を教えてあげる』


 ふざけた事を言うから冷やかしと判断。斬ろうとしたら、慌てて命乞いしてきた。それだけならともかく、自分のお願いを聞いてくれたら、百面瘡の倒し方を教えてあげると。


 ……怪しいな。ナナさんに相談してみた。


(どう思います? 僕は怪しいと思いますけど……)


(確かに怪しいけどね。恐らくこいつはNPC。この手のゲーム定番のクエストだろう。ボス討伐の為のクエスト。とりあえず乗ってみな)


(わかりました)


 パチモン臭さ全開かつ、下品極まりないクソガキ。穢土山 個難。彼の話を聞く事に。







「わかった。話を聞こう。僕に何をしてほしいんだい?」


『わーい! ありがとう。とりあえずおっぱい揉ませて!』


 ゴシャアッ!!!!


「……何を揉ませてって?」


『ジョーク! ジョーク! イッツジョーク!』


 畳んだ鉄扇で頭を叩き割ってやろうとしたが、躱された。クソが。


「おい、クソガキ。私もその子もつまらないジョークは嫌いでね。取引をするなら、真面目にやれ。次はその子、当てるよ?」


 ナナさんからも援護射撃。次、ふざけた事を抜かしたら、鉄扇で全力で殴る。頭を砕いてやる。


『わーん! 児童虐t……』


 ボッ!!


 クソガキの頭を鉄扇のフルスイングで吹き飛ばす。頭の無くなった身体が床に倒れ、白一色の床が赤に染まる。次は当てるとナナさん、警告したよね?


「すみませんナナさん。いい加減、腹が立ったので。僕もまだまだです」


「仕方ないさ。あれは私でもムカつく。それに……問題ないみたいだね」


「そうみたいですね。……クソが」


 頭の無くなった穢土山 個難。何事も無かったように立ち上がると、瞬時に頭が再生、元通りに。


『ひどいな〜。服が汚れちゃったじゃないか。眼鏡も壊れたし』


 頭を吹き飛ばされたのに、全く効いていないらしい。百面瘡以上の再生能力だ。NPCだから殺せないという事かな?


「僕は真面目に話をしたいんだけどね? そちらの要求は何?」


 とりあえず改めて、要求を聞く。殺せないとわかった以上、無駄な労力は避ける。


『お姉さん達、百面瘡を倒したいんでしょ? 僕もそうなんだ。僕には奴を倒さなければならない理由が有るんだ。ここは生体兵器を開発、製造していた研究所。僕の父さんがここの所長でね。そしてできたのが、あの百面瘡。だけど、奴は暴走し、研究所の人達はみんな殺された。生き残ったのは僕だけ。みんなの敵討ちをしたいんだ。奴を倒す方法は知ってる。父さんの研究していたワクチン。それを打てば、奴の再生能力を封じ、殺せる。でも専用の注射器で奴に直接打ち込まないと駄目なんだ。だから、お姉さん達にはワクチンと専用の注射器。そしてワクチン打ち込みをお願い』


 長々と話してくれた個難君。ゲーム内ではそういう設定らしい。


「ふむ。百面瘡殺しの道筋は見えたね。必要なのは、ワクチン。そして、それを打ち込む専用の注射器。あとは直接、打ち込むだけ。問題は、それらがどこに有るかだね。その辺はどうなんだい? クソガキ」


 確かに百面瘡殺しの道筋は見えた。ただし道筋が見えただけ。まだ実現はしていない。ワクチンとワクチンを打ち込む為の専用の注射器。これらを入手しないといけない。これらはどこに有るのか? ナナさんは個難君に聞いた。


『この階に有る医薬品保管室にワクチンは有るよ。注射器は手術室に有るはず』


 すると明確に教えてくれた。ここで疑問が生じる。場所がわかっているなら、なぜ取りに行かない? ……まぁ、NPCだから、そんな事ができないんだろうけど。したら、ゲーム内容が破綻するし。


 でも、一応、理由を聞いた。


「場所がわかっているのに、なぜ取りに行かないの?」


『医薬品保管室の扉を開けるのにカードキーが必要なんだ。それを持ってない。手術室の方は番人がいる。カードキーを持っているのもそいつ。強力な氷魔法の使い手なんだ』


「なるほどね」


 そういう事か。確かに医薬品保管室ともなれば、セキュリティも厳重だ。手術室の方は番人か。強力な氷魔法の使い手ね。


「そいつの氷魔法って、どんな感じ?」


 氷魔法にも色々有る。最悪なのが、某クソ野郎教祖。氷の微粒子を撒き散らしたり、挙げ句、分身を出したり。


『結界で相手を閉じ込めて、それから凍らせる。あと、いつも本を持ってるよ』


「結界術と氷結術の使い手か。持っている本が要かね?」


『多分、そう。絶対に離さないし』


「氷の微粒子を撒き散らしたりとか、小さな氷の人形を出したりはしなかった?」


『それは無かったね。とにかく結界で閉じ込めてから、凍らせる。それから砕くが、いつものやり口だったよ』


「そうなんだ。情報ありがとう」


 ……結界術と氷結術の使い手。いつも持っている本が要? 結界で閉じ込めてから、凍らせて砕くのがやり口。それ以外は無いっぽい。良かった。あのクソ野郎教祖と比べたら、雑魚だな。あいつ、氷の術の悪質さに加え、術抜きでもとんでもない強さだったから。


「そいつも、ルーナが下級転生者を素材に作った生体兵器だろうね。雑魚じゃないけど、超一流でもない。とりあえず、さっさと殺してカードキーと注射器を回収だね」


「そうですね。さっさと殺して、先に進みましょう」


『……お姉さん達、怖い事言うね〜』


「僕は下級転生者が大嫌いなんだ」

 

「害悪そのものだからね。さっさと殺すに限る」


『まぁ、百面瘡を殺してくれるなら、構わないけど。よろしくね〜』


 個難君に案内され、手術室へ向かう。







『あいつだよ。あいつが番人』


 個難君の案内で手術室の近くまでやってきた。とにかく寒い。辺りには霜が降りている。


「ふん。これ見よがしに力をひけらかしている辺り、馬鹿丸出し。手の内は隠すもんだ。見せびらかすもんじゃない。……しかし、あいつ()()()()()()()()()()


「そうですね。魂の熱が下級転生者素材の連中と違います。馬鹿なのは同じですが」


『あれ? あいつ、何か違うの?』


「まぁ、そんな大した違いじゃないよ。所詮、クズ」


 自分は強いという自己顕示欲丸出し。浅ましい。下級転生者であろうが、なかろうが、クズはクズだな。


 ……しかし、油断はしない。ああいう奴は狂っている。自分は主人公。他者は全てモブ、踏み台。それが共通思考。他者の命を奪う事など屁とも思っていない。それに後先考えず、無茶苦茶な事をする。


 だから、何もさせない。即座に終わらせる。御津池神楽、蛇尾薙で首を刎ねる。そのタイミングを計る……。







 とある男side


 我が力の前に平伏せ、愚民共! 俺こそが、『銀氷の王』! 全てを凍て付かせ、永遠の眠りに付かせてやる!


 元は娼館の下働きだった俺。身寄りも無く、安い給金で毎日こき使われ、出される飯は僅かな残飯。少しでもヘマをすれば殴られ蹴られ、そうでなくても、上の気分次第で、殴られ蹴られた。


 仲間達は何人も死んだ。逃げた奴もいたが、全て連れ戻され、見せしめの拷問の果てに皆、死んだ。


 正に、この世の地獄。金、暴力、権力。そういった力有る者だけが良い思いをし、弱者は奪われ、踏みにじられ、死んでいく。俺もいずれそうなると思っていた。


 ()()()()()()







『クソッ!毎回、毎回、部屋の中を滅茶苦茶にしやがって!』


 冬の寒い日だった。今日も客が盛大に盛り上がった後の部屋の後片付け。性欲発散の場だけに、毎度、滅茶苦茶しやがる。早く片付けないと、また店主の親父に殴られる。この前も遅いと、殴られ蹴られたからな。いまだに腫れが引かない。


 ん、何だこれ? 本だな。忘れ物か?


 ゴチャゴチャと積み上がったゴミの中、一冊の本が紛れていた。忘れ物か、何かの拍子に紛れ込んだか。何となく気になり、その本を開いた。書かれていたのは、奇妙な文字の羅列に、同じく奇妙な図形。


 だが、俺には読めた。これは魔道書だ! 今でこそ、身寄りが無く、娼館の下働きの俺だが、かつては裕福な魔道の名門出身だ。


 だが、親父が権力闘争に敗れ、家は取り潰し。両親は自殺。俺は全財産を奪われ、家から追い出された。幾ら魔道の名門出身とはいえ、魔道書も何も無しでは、ろくに魔法は使えない。そして落ちぶれ続けて、娼館の下働きに。







 だが、遂に魔道書を手に入れた。魔道書は単に魔法が記された書物じゃない。魔法を発動させる触媒でもある。その魔道書に書かれていたのは、氷系の魔法。試しに使ってみたら、ちゃんと発動した。間違いない、本物だ。魔道書ってのは、高価な上、数も少なく、そうそう手に入らない貴重品。そんな物が手に入るなんて。


 どこの誰の物か知らないが……俺にも運が向いてきた! この魔道書が有れば、成り上がれる! 娼館の下働きとも、おさらばできる!


 もう、客にペコペコしたり、店主の親父に殴られたり、不味い残飯を食わなくて良い!


 何せ、魔法を使える人間は限られており、それ故に魔法を使える者は魔道学園へとスカウトされ、エリート街道が約束されている。さっそく、俺は店主の親父の元へと乗り込んだ。







 最初は信じなかった親父だが、実際に氷魔法を使ってみせたら、態度を変えた。その上で、俺は言った。


『氷魔法で殺されるか、俺を魔道学園に入れるか選べ』


 親父は頭の中で損得勘定をしていたらしく、しばらく唸っていたが、最終的に俺の後見人となり、俺を魔道学園に入れる事を選んだ。魔道学園はエリートの集う場所。そこへ自分の息の掛かった奴を入れる。無事、卒業できれば、俺はエリートたる魔道士の仲間入り。そうなれば、後見人たる親父にも箔が付く。


 そりゃもう良い笑顔で、親父は話に乗った。……いずれ用済みになったら、殺してやる。


 しかし……その計画はあっさり破綻した。


 入学したは良いが、中途編入の俺は周囲からのいじめの対象になった。魔道学園に入る奴は、基本、裕福な名家出身揃い。故にそいつらからすれば、中途編入の奴など、気に入らない訳だ。


 陰口、嫌がらせ、暴力。生徒のみならず、教師まで結託してのいじめ。幾ら被害を訴えても、全て却下。


 遂に我慢の限界に達し、魔道書を取り出し、氷魔法を発動。だが、あえなく教師達に取り押さえられた。挙げ句、校則違反。校内で無断で攻撃魔法を使おうとした咎により、退学処分。魔道書も没収された。


 後見人たる娼館の店主の親父は、全ての目論見が台無しになった事に当然、大激怒!


『この役立たずがぁ!! 少しは役立つかと思って大枚はたいたのに、台無しだ! 死ね!! 死ね!! 死ねぇっ!!!!』


 怒り狂った親父はいつも持っているステッキで俺を滅多打ちにした。更に部下を呼び寄せ、全員で徹底的に殴る蹴る。最終的に裏口から叩き出された。


『二度とその面見せるな!! 野垂れ死ね!! クズが!!』


 痛む身体で這いずりながら思った。なぜ、こんな事に? 俺は魔道書を手に入れ、魔道学園に入学し、成り上がるはずだったのに……。(典型的なろう系思考。世の中を舐め過ぎ)


『あ、面白そうなおもちゃ、はっけ〜ん! 』


 だが、そこへ神が現れた。神は俺を救い、新たな魔道書と力を授けてくださった。俺はその力を持って、魔道学園の連中及び、娼館の連中に復讐を果たした。結界で閉じ込め、内部の気温を低下させて凍らせ、粉々に砕く。素晴らしい気分だ!


『頑張ってね〜。せっかく拾ってあげたんだから、ルーナ様の役に立ちなさいね〜。もっぱら暇潰しに』


 神からもお褒めの言葉を頂いた。更には『銀氷の王』の称号まで。そして、重大な任務を与えられた。


『ルーナ様の大事な宝物が有るから、番人やってね〜』


 そして、今は宝の番人を務めている。この俺がいる限り、誰にも宝は渡さん! 全て凍らせて砕いてやる!







 ナナside


「…………聞いてもいないのに、ペラペラよく喋るな」


『誰に向かって話しているんだろうね〜?』


「ああいう自意識過剰の奴は自分語りが大好きなのさ。悲劇の主人公である自分、かっこいいってね」


 手術室の前に居座る番人。若い男だが、隠れて見ていたら、延々とくだらない自分語りをしてくれた。本当にくだらない内容のね。


「あいつの過去ですが、少なくとも学園退学処分から娼館を追い出された辺りは、完全に自業自得です。逆恨みにも程が有る。大体、魔道書を手に入れただけで成り上がれるなら、苦労しませんよ。見通しが甘過ぎる」


「そうだねぇ。魔道書を手に入れて魔道学園に入学したとしても、それで終わりじゃない。そこがスタートライン。そこから如何に上手くやるかだ。それができない奴は上に行けないよ」


『力が有れば成り上がれる』。馬鹿特有の浅い考え方。下級転生者が代表格だね。……そんな訳ないだろうが。


 力はあくまで手段。それをどう扱うかで、そいつのセンスが問われる。


 下級転生者を始めとする馬鹿は、『最強』『無双』『ハーレム』『成り上がり』と、考え無しに力をひけらかし、最終的に破滅する。


 対し、上位転生者を始めとする、できる奴は、そんな馬鹿な真似はしない。下手に手の内を見せたら対策されるからね。ハルカの世界じゃ、こう言うらしいね。


『能ある鷹は爪を隠す』


 逆に言えば、無能は爪剥き出しと。(笑)


 ハルカがよく言う『くだらない』。本当にくだらないねぇ。クズが力を得ても無駄なんだよ。特に下級転生者。お前ら、下級神魔の餌でしかないんだからさ。そんな奴らが最強だの、成り上がりだの、笑わせるな。


『寝言は寝てから言え』


 それも『永眠』でね。







 まぁ、それはそれとして、今は番人攻略だね。私が出れば即、終わるが、今回はルール上、私は手出しできない。あくまでプレイヤーたる、ハルカがやらないと。


 番人は本来ならば雑魚。魔道書が無ければ魔法を使えないなんて、明らかに劣等種。人間ってのは世界によって優等種、劣等種が有る。触媒が無ければ魔法を使えませんなんてのは、典型的な劣等種。


 優等種なら、触媒なんかいらない。有れば便利程度。私やハルカがそうだ。


 しかし、油断はできない。元は雑魚だが、ルーナが一枚噛んでいる。明らかに強化を施されているね。……ま、ルーナからすれば、ほんの暇潰し程度だけど、ハルカにとっては脅威。


 結界で相手を閉じ込め、凍らせて砕く。シンプルだが、故に恐ろしい。こういう幽閉系は、防御、回避が意味を成さないからね。


 以前、こんな奴らがいた。防御力に全振りと抜かす馬鹿。完全回避ヒーラーを名乗るカス。


 共に、とある水使いに殺された。そのやり方が、また、えげつなくてね。結界に閉じ込められ、更にその結界内を徐々に水で満たされて窒息死した。防御力全振りも、完全回避も、幽閉からの水攻めには無力だった。


 不様に泣きわめき、命乞いをしながら。満たされていく水に恐怖しながら、死んでいった。この馬鹿共、自分の異能を過信し、それ以外は全く会得していなかった。結界破りなり、テレポートなり、有れば助かっただろうに。所詮、下級転生者だね。







 で、ハルカだけど……。あっさり終わらせたね。隙を突いての、ダッシュからの鉄扇一閃。斬首。相手に一切、何もさせず、一方的に。本当にあっさり終わらせた。


「……終わりっと」


 事も無げに言うハルカ。首無し死体を漁り、カードキーを入手。


「カードキーが有ったよ。個難君、これで合ってる?」


『うん。合ってるよ。それが医薬品保管室の扉を開けるカードキー。しかし、お姉さん、あっさり番人を殺したね〜』


「ゴミはさっさと処分するに限るからね」


『……引くぅ』


「……君もゴミと見なすよ?」


『ごめんなさい!!』


 カードキーを入手し、念の為クソガキに確認を取るハルカ。結果、当たり。医薬品保管室のカードキーをゲット。それにしても、あっさり番人を殺し、クソガキに対しても舐めた態度を許さない辺り、ハルカの異世界への順応力は極めて高い。優しいだけでは生きていけない。冷酷非情も必要だ。その使い分けが肝心。馬鹿にはできない芸当。……あと、単にクズが嫌いってのも有るか。







 さて、番人を殺し、カードキーは手に入った。次は、手術室に入ってワクチンを打ち込む専用の注射器を探さないとね。手術室に入り、三人で手分けして注射器を探す。


『あ、お姉さん達。注射器だけど、普通の奴じゃないからね。猛獣の鎮圧用の大型注射器なんだ。六本の注射器がセットされた拳銃みたいな奴だよ』


「情報ありがとう」


「ま、化け物相手に使う注射器だからね。それぐらいは必要か」


 大型の特殊な注射器であるとクソガキからの説明を聞き、手術室内を探す。


「……これみたいだね」


「見つかりましたか?」


 棚の中から、ケースに収められた、拳銃型の大型注射器を見つけた。


「クソガキ、これかい?」


『うん、これこれ。この注射器だよ。あとはこれにワクチンを入れて、百面瘡に打ち込むだけ。でも、勘違いしないでね? ワクチンはあくまで百面瘡の再生能力を封じるだけ。殺せる訳じゃない。お姉さん達の頑張りに期待するよ』


 念の為、クソガキに確認を取ったところ、これで合ってるらしい。


「頑張るのはハルカだけどね」


「頑張ります」


『頼りにしてるよ、お姉さん』


 さて、次は医薬品保管室に行ってワクチンを手に入れないとね。







「……あっさり見つかったね」


「もっと手こずるかと思っていましたが」


『見つかったから良かったじゃない』


 次に向かった医薬品保管室。カードキーであっさり扉が開き、ワクチンもあっさり見つかった。あからさまに名前が書いてあったし。専用注射器にワクチンを注入。あとは、百面瘡に打ち込まないとね。


「ハルカ。しくじるんじゃないよ。チャンスは一度きり。確実にワクチンを打ち込め。そしてワクチンが効いている内に殺せ」


「わかりました」


 確かにワクチンを打ち込めば、百面瘡の再生能力を封じる事ができる。ただし、三分間だけ。


 ま、ハルカなら三分有れば、十分。……問題はワクチンを打ち込めるかだけど、ハルカならどうにかするだろう。それだけの成長を見せているからね。







 実際、どうにかしてみせた。まずは接近戦で邪魔な百面瘡の大量の手を、見様見真似狐月剣で片っ端から切断。ついでに全身を切り刻み、膾状態に。当然、百面瘡は再生に掛かるが、それは無防備になるという事。それを見逃すハルカじゃない。


 落ち着いて専用注射器を手にすると、百面瘡にワクチン注入。すると再生能力が封じられ、苦しみだす。既に全身切り刻まれた状態だからね。


「御津池神楽、天衝蛇」


 再生能力を封じ、攻撃が通るようになった事で、一気に決めに掛かるハルカ。低空タックルからの切り上げ一閃。唐竹割り。からの……。


「御津池神楽、八岐の祓」


 鉄扇の高速八閃でバラバラに切断。容赦なく、とどめを刺した。







「三階もクリアだね。よくやったハルカ」


「ありがとうございます」


 三階のボス、百面瘡を倒したハルカをねぎらう。こういう事はきちんとしておかないと。無能ならともかく、天才たるハルカだ。この辺を疎かにすると、必ず後々の禍根となる。私はできる女だからね。


 で、三階のボスを倒した事で、四階への道が開かれた。私達の前に階段が現れる。残り二階。時間は余裕が有る。ハルカ様々だね。出来の良い弟子で助かる。


 ところで……。


「おい、クソガキ。なんで、あんたまで付いてくるんだよ」


 なぜかクソガキが付いてきた。帰れ。


『そんな事言わないでよ〜。ほら、百面瘡退治で役に立ったでしょ? お姉さん達と一緒にいたら面白そうだし』


「どうしましょう?」


 ハルカも困惑気味。余計な奴は連れて行きたくないんだけどねぇ。なんて考えていると、ルーナからのメッセージ。


『ミッション発動! 研究所内唯一の生き残りの少年を連れて脱出せよ! 脱出の鍵は五階の院長室に!』


「……ナナさん。何か、勝手にイベントが追加されました」


「言っただろ? ルーナはルールは守るけど、ルールに無い事、ルール違反ギリギリはやるって。あいつめ、追加ルールをぶっ込んできやがった、クソが」


 ハルカがあっさり敵を倒していくから、つまらないんだろうね。あいつ、根っからのサディストだし。あからさまな妨害をしてきやがって。しかし、ルーナ主催のゲームである以上、仕方ない。


「決まった事は仕方ない。行くよ」


「とりあえず、本人に会ったら抗議します」


「その時は私も手伝ってやるよ。調子に乗りやがって」


 ルーナに会ったら抗議すると言うハルカ。私も手伝おう。とりあえず殴る。







 ルーナside


「う〜ん。あっさりクリアされちゃったね。クズが素材とはいえ、まがりなりにも生体兵器なんだけど、天才の前には無力か〜」


 手術室の番人に据えた、氷魔法の使い手のクズ。そして三階のボスの百面瘡。どちらもあっさり、ハーちゃんに殺された。本当にあっさり殺された。


 特に氷魔法の使い手のクズ。くだらない自分語りに熱中して、ハーちゃんの不意討ちからの、鉄扇一閃、斬首で終わり。何の為にルーナ様が生体兵器にしてあげたと思ってんのよ? は〜、使えない。マジ、使えない。所詮はクズだよね~。


 百面瘡は二回も過労死したくせに、三度目の人生こそスローライフを、なんて考えた馬鹿。同じ失敗を二回した時点で無能。


 番人に据えた奴も、たかが魔道書を手に入れたぐらいで成り上がれると考えたカス。そんな程度で成り上がれる訳無いでしょ。馬〜鹿。(笑)


「それにしても、ハーちゃんは凄いね〜。どんどん成長していく。『レベル九十九の壁』を超えるのも時間の問題」


『レベル九十九』。人間という種族にとっての限界。これを超えられるか否か。そこが、凡人とエリートの差。


 下級転生者はレベル九十九が限界。所詮、クズ。対し、世界に名を馳せるエリート達は皆、レベル百以上。……ま、『裏』だと三百超えだけど。平均レベル三百の最下級悪魔。レッサーデーモンを狩れるか否かが『裏』における評価基準。


「この分だと、年内には三百超えしそうだね〜。ナッちゃんも、既にその辺は視野に入れてるだろうし」


 とにかく凄まじい成長速度。年内には三百超えを果たすと予想。とはいえ、それは単に優れた才能を持つからだけじゃない。本人の強くなろうという意欲有ればこそ。異世界の怖さをナッちゃんから聞いたんだろうね。よくわかっているじゃない。







「さて、次は何を出そうかな〜? 残り二体だからね〜」


 再生能力を封じられたとはいえ、百面瘡をあっさり殺した、ハーちゃん。もう少し強い奴を出すかな? どれにしようかな? 生体兵器のストックの中から、どれを出そうか考える。


「…………よし! 君に決めた! 行ってこ〜い!」


 一体を選び、四階へと送り出す。


「さて、ハーちゃんのお手並み拝見。自慢の『御津池神楽』とやら。封じさせてもらうよ」


 百面瘡が再生能力なら、次の奴は妨害特化。物理攻撃の才能は御津池神楽で見せてもらった。


 ならば、今度はそれ以外の才能を見せてもらおう。御津池神楽無しでどう戦うか? もしくは、どうやって御津池神楽を使える状況に持っていくか? いずれにせよ、ハーちゃんの戦いのセンスが問われる。


「……ま、勝つだろうね〜。どうやって勝つかは知らないけど。とりあえず、お茶の準備ぐらいはしとこうかな」


 四階のボス。『餡泥井戸』。これまで数々の下級転生者を葬ってきた実績有りの生体兵器なんだけど、ハーちゃん相手じゃ、どれだけもつか?


「……別に良いか。幾らでも替えは利くし。希少種たる上位転生者の力を見られるなら、安いもの」


 そもそも下級転生者は、下級神魔が負け組のクズを素材に自身の強化の為に生み出した餌。使い捨ての駒。どうあがいても、三年経ったら強制的に死んで、力を回収される。魂? こんなクズ、輪廻転生させる価値も無いからね〜。冥界の炉の燃料行き。焼き尽くされて消滅。で、この炉の熱が新しい命を生み出す。これが下級転生者の最後の使い道。


 そんなクズでも、上位転生者であるハーちゃんの力を見る分には、役に立つ。


「感謝しなさいよね〜。クソの役にも立たないクズをわざわざ役立ててあげてるんだからさ〜」


 餡泥井戸の素材にしたのは、土を操作する魔法の使い手の下級転生者の男。異世界でのんびり農家なんて抜かしていた。魔法で土を操作し、その結果、二束三文にもならないクズ土地が、実り豊かな農地になった。その結果に本人もご満悦。


 ……でもね、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それまで誰も見向きもしなかったクズ土地。それが突然、豊かな土地になった。しかも、そこの主は下級転生者。力だけ有る馬鹿なんて、絶好のカモ。当然、狙われる。異世界の悪意は馬鹿に容赦なく牙を剥いた。







 ひどい嵐の翌日。突然、二人の美しい少女達が男の家に転がり込んできた。


 聞けば、二人は姉妹で、裕福な家の育ちだったが、家が賊に襲われ、両親は殺され、財産も奪われ、挙げ句、自分達も囚われてしまった。そして奴隷商に売る為に馬車で運ばれていたが、昨日の嵐で土砂崩れが起き、馬車が横転。その隙に逃げてきた。


 追手から逃れる為、ひたすら走り続けて、たまたまこの家を見つけ、助けを求めてきたと二人は語った。


 二人は、両親も家も財産も全て失い、もはや居場所が無い。何でもしますから、ここに置いてほしいと、涙ながらに男に懇願した。


 美少女二人に涙ながらに懇願され、男は二人を手元に置く事を了承。こうして三人暮らしとなった。男は生前は独身で身寄りも無かった事から、三人暮らしになった事を喜んだ。


 しかも、その晩、姉妹から、置いてもらったお礼だと、夜のお相手まで。生前、彼女無し、経験無しの童貞だっただけに、男は行為にのめり込んだ。その後も毎晩。


 ……それが破滅への第一歩とも知らずに。本当に下級転生者は馬鹿ばっかり。(笑)







 さて、その後も次々と若く美しい女達がやってきた。彼女達は口を揃えて、聞くも涙、語るも涙の不幸な身の上話をし、ここに置いてほしいと涙ながらに懇願。そして夜のお相手が定番の流れに。


 男は生前は女と全く無縁だっただけに、次々と若く美しい女達が来る現状に有頂天になった。


 ……でもね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 女達が来てからは、男は更に調子に乗って、『力』を使いまくった。如何に自分の『力』が凄いか、素晴らしいか、女達に見せつけた。女達もまた、男を持て囃し、結果、男は更に調子に乗った。


 ……女達が裏で何をしているか知ろうともせず。







 そして終わりは唐突にやってきた。いつものように、夜、適当に選んだ女を抱いていた時だった。その女が一冊の本を取り出し、開くと男に向けた。そして言った。


強奪(スナッチ)


 それは異能を奪う魔道書『白紙の書』。昔、とある魔道士が異能を奪う為に作った物。最初は白紙なんだけど、異能を奪う度に白紙のページが埋まっていく。ただし、奪うには複数の条件をクリアしないといけない。


 一、相手の異能を全て知っている


 二、相手の体液を自身の体内に取り込んでいる


 三、相手と直接、接触している。


 四、以下の条件を全て満たした上で、『白紙の書』を相手に向け、発動のキーワードを言う。


 ……これ、『裏』の者相手だと、全くの役立たず。だって、『裏』の者は自分の異能を隠す。間違ってもペラペラ喋ったり、わざわざ見せつけたりしない。


 逆に言えば、何かと力をひけらかす馬鹿な下級転生者には、思いっ切り刺さる。


 これまで散々、自分の力を見せびらかし、自慢してきた馬鹿な下級転生者の男は『白紙の書』に全ての異能を奪われてしまった。つまり、元の無能に逆戻り。


 実は女達は全員、グル。下級転生者専門の詐欺師グループ。舌先三寸で下級転生者に取り入り、隙有らば『白紙の書』で異能を奪い、更に財産も奪い、売り捌いていた。今回は男の異能と、男が開拓した土地を奪う為に近付いてきたのが真相。


 異能を奪い、用済みになった男に女達は容赦しなかった。徹底的に袋叩きにした上で、最後は油をぶちまけ、火を点けた。汚物は焼却処分。


 ところが、男はギリギリ生きていた。それをルーナ様が拾って、生体兵器。餡泥井戸に改造したの。性能テストがてら、かつての男の所有していた土地に向かわせたんだけど、案の定、詐欺師グループの女達が占拠していた。


 自分を騙し、異能も土地も奪った女達に餡泥井戸は激怒。ルーナ様が与えた()()()()()で女達を皆殺しに。


 ……そもそも、あんな見え透いた詐欺に引っ掛かるのが悪いとルーナ様は思うんだけどね〜。


 その後も、下級転生者狩りに役立ってくれて、ルーナ様ニコニコ。


 ……ま、ハーちゃんには殺られるだろうけど。


「いい加減、お前にも飽きてきたしね〜。そろそろ処分って事で」


 確かに下級転生者狩りで役立ってくれたけど、いい加減飽きた。だから、処分。


「ハーちゃん頑張れ〜」


 ハーちゃん、ゴミ処理お願いね〜。(笑)







 ハルカside


 …………何か、無性に腹が立ったな。何だろう? いや、今はそれどころじゃないな。ホワイトホスピタル四階に到達。どこかにいるボスを探して、雑魚を蹴散らしつつ探索中。


「また出た……」


 一階で出てきた、三角コーン頭。ここでは雑魚扱いらしく、次々と出てくる。とりあえず斬首。素直に死んでくれる辺り、楽で良い。


 ……しかし、自分の順応力の高さに、我ながら驚く。生前は戦闘とは全く無縁だったのに、今では生体兵器をあっさり斬首している。


 まぁ、ここは異世界。元いた日本とは違う。殺さなければ、殺される。あと、相手が生体兵器。しかも素材はクズ中のクズ、下級転生者だから、遠慮なく殺せる。ナナさんの言葉を借りれば『無能は死ね』。


 ただ、幾ら雑魚とはいえ、何度も相手をしていれば、当然疲れるし、うんざりもする。何より進展が無いのが辛い。さっさと出てこいボス。殺すから。


「個難君は、何か知らない?」


 三階で出会ったNPCの穢土山 個難君。彼に試しに聞いてみた。彼はこの研究所。ホワイトホスピタル唯一の生き残りという設定だし。


『ごめん。僕が知っているのは、百面瘡と番人の奴だけ。でも、この研究所では複数の生体兵器の研究、開発をしていたから、他にもいるのは確かだよ』


 残念ながら、大した情報は得られず。そう都合良くはいかないか。


「ハルカ、また出たよ。頑張りな」


「はい」


 とりあえず、ゴミ処理か。


「ツイホー!」「ツイホー!」「ツイホー!」


 無能故に追放されたクズが素材の生体兵器。頭がメガホンの怪人。ツイホンだ。取るに足らない雑魚だけど、とにかくうるさい! 黙れ!


 こういう無能なくせに口ばかり達者な奴って、本当に殺意が湧くな。とりあえず死ね。……我ながら、本当に異世界への順応力が高いな。鉄扇を振るい、雑魚共の首を刎ねていく。


「本当に斬首が上手いねぇ」


『あのお姉さん、処刑人の一族か何か?』


「水神様を祀る神官の家系らしいけどね」


『死神の間違いじゃないの?』


「……否定できないねぇ」


 外野、うるさい。あと、天之川家は由緒正しい、水神様を祀る神官の家系です。間違っても処刑人じゃないですから!







「……あ〜! 鬱陶しい!」


 とにかく、雑魚、雑魚、雑魚! ちっともボスが出てこない!


「気持ちはわかるけど、落ち着きなハルカ。相手を怒らせて冷静さを奪うのは定番のやり口。そんなんじゃ足元を掬われるよ」


「それはそうですが……」


 ナナさんから落ち着けと言われた。わかるけど、やはり、ストレスが溜まる。時間制限も有るし。

 そんな時だった。


『ちょっとお姉さん達! あれ見て!』


 個難君が先の方を指差して言った。そこには土が見えた。辺り一面、白一色のホワイトホスピタルの中で、明らかにその場所は浮いていた。怪しい。怪し過ぎる。


「怪しいですね」


「あぁ、露骨に怪しいねぇ」


『あれで怪しくないなんて言ったら、頭大丈夫? と思うね』


 あからさまに怪しいけど、あえて進む。するとそこは畑だった。病院内に畑? 訳がわからないよ。で、その畑では一人の男がいたんだけど……。明らかに狂っていた。涎をダラダラと垂らし、鍬を手に滅茶苦茶に振り回しながら、訳のわからない事を言っていた。


『異世界でのんびり農家……ハーレム……成り上がり……俺の土地だ……俺の物だ……俺の理想郷だ……誰にも奪わせない……ウヒ……ウヒヒヒヒヒ……』


『うわぁ、何あれ? 気持ち悪い』


「……下級転生者だね。あの連中は皆、狂っているけど、あれは重症だね。完全に狂ってやがる」


「下級転生者は理想郷が好きですね。そんな物、どこにも無いのに」


 一目で下級転生者で狂人とわかる男。だが、それだけじゃない。


「四階のボスですね」


「間違いない。頭の上にフロアボスの表示が有る」


『お姉さん頑張れ〜!』


 狂っている男の頭上にはフロアボスの表示。つまり、こいつが四階のボス。ならば、さっさと首を刎ねるまで。鉄扇を開き、構えを取る。何もさせない。ダッシュからの一閃で首を刎ねる!


『ウヒヒヒヒヒ……俺の土地だ……俺の物だ……ウヒヒヒヒヒ……』


 狂った男は訳のわからない事を言いながら、鍬を振り回している。鍬が当たったら危ないな。タイミングを計る。………………今!


 ダッシュをすべく踏み込もうとしたが……。突然、足元が沈み込んだ! 咄嗟に予定変更。その場を離れようとするが、辺り一面、ぬかるみと化していた。


 もしや、あの男の異能か? これは、不味い。こんなぬかるみじゃ、ダッシュに必要な踏み込みができない。


『ウヒヒヒヒヒ! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる女は全て殺してやる! ウヒヒヒヒヒ!』


 血走った目で、涎を撒き散らしながら男はわめく。何か知らないけど、女にひどい恨みが有るみたいだ。大方、女に騙されたんだろう。下級転生者は詐欺師のカモだから。


『狂気の泥使い、餡泥井戸! 得意技の御津池神楽を封じられ、絶体絶命のピンチ! 戦えハルカ! 狂人に正義の鉄扇を振るえ!』


 そこへ流れる、ルーナさんのナレーション。今回は泥使いですか。あからさまな御津池神楽潰し。


「気を付けなハルカ。泥系の使い手は戦場で最も恐れられているんだ。妨害のエキスパート。気合い入れな!」


『お姉さん頑張れー! 応援してるからー!』


 ちなみにナナさんは個難君を小脇に抱えて空中に避難。


「わかりました。頑張ります」


『ウヒヒヒヒヒ! 女は皆殺しだぁ〜〜!』


 辺り一面、ぬかるみと化した不利な状況。四階のボスである狂った男。生体兵器、餡泥井戸は狂気を剥き出しにして、襲い掛かってきた。


 ……御津池神楽が使えないから何だ? 僕を舐めるな、下級転生者。きっちり殺してやる。『無能は死ね』。




ホワイトホスピタル三階へと進んだハルカ達。しかし、三階のボス。巨大芋虫型生体兵器、百面瘡の圧倒的再生能力には歯が立たず、戦略的撤退。


逃げ込んだ病室で出会ったのは、某少年探偵のパチモン。穢土山 個難。


彼からの情報を得て、百面瘡の再生能力を封じるワクチンと、それを注入する専用注射器を入手する事に。


ワクチン側は番人がいたものの、くだらない自分語りに夢中になっている所をハルカがダッシュからの斬首で終了。注射器もあっさりゲット。


ワクチンさえ手に入れば、百面瘡如き、ハルカの敵ではない。これまたあっさり終了。四階へ。


そして四階のボス、餡泥井戸登場。泥使いであり、辺り一面をぬかるみに変え、ハルカの御津池神楽における要。踏み込みを潰してきた。御津池神楽無しでどう戦うハルカ?







今回のキャラ紹介。


『ワクチンの番人』元は魔道の名家出身のお坊っちゃん。しかし、父親が権力闘争に敗れ、家は没落。両親共に死亡。屋敷も財産も全て奪われ、娼館の下働きにまで落ちぶれた。


しかし、ある日、客の忘れ物の魔道書を手に入れた事をきっかけに成り上がりを決意。エリートが集う魔道学園に編入するが、周囲からのいじめにキレて事件を起こし、退学処分。後見人の娼館の主人の怒りを買い、袋叩きにされた上で叩き出されたが、ルーナに拾われ、生体兵器に改造された。


最後はハルカに一瞬で斬首されて終了。全く良い所無しで終わった。


『餡泥井戸』元は異世界でのんびり農家などと抜かしていた下級転生者。クズ土地を開拓し、豊かな土地にしたまでは良かったが、そのせいで狙われる事に。


自分の開拓した村に次々と美少女、美女が押し寄せ、ハーレムだと浮かれていたが、実は女達は、詐欺師グループ。最初から、男の異能、土地、財産狙い。徹底的に男のご機嫌取りをし、全てを奪うチャンスを待っていた。


そして、異能を奪う魔道書。白紙の書を使って異能を奪い、男を袋叩きからの、油をぶちまけて火を放ち処分。


しかし、かろうじて生きていた男はルーナに拾われ、生体兵器、餡泥井戸に改造された。


強力な泥使いであり、その力を持って、自分を裏切った詐欺師グループの女達に復讐。皆殺しに。攻防に優れた異能であり、ハルカに対しても、御津池神楽の要である足を潰す。


では、また次回。




追記


魔道書を手に入れ、エリート揃いの魔道学園に編入できたから成り上がれるなど、見通しが甘過ぎる。当然、周りも魔道書を持つエリート揃い。そこから如何に上手くやれるかが要。周囲のいじめにキレて事件を起こす時点で無能。所詮、その程度。


異世界でのんびり農家? とりあえず、世界中の農家に謝れ。最近、よく見る異世界でスローライフ物ですが、はっきり言って、無理。


作中、何度も語りましたが、理想郷、楽園なんて無い。ましてや見知らぬ異世界でそんな温い考えの無能に何ができるものか。野垂れ死ぬか、利用されて殺されるのがオチ。


だからこそ、ハルカはナナさんの保護下に入った。自分だけでは異世界で通用しない。生きていけないとわかっているから。


やはり、なろう系の主人公はクズ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ