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第23話 ハルカ、外の世界へ 死の聖女編3

 ナナside


「はなっから、わかっちゃいたけど、勝負になってないね」


「そうですね。クローネさん、魔力を一切使っていません。物理攻撃だけですね。しかし、酒瓶投げるわ、酒瓶で頭を殴るわ、割れた酒瓶で刺すわ、酔っぱらいの喧嘩ですか?」


 私と並び称される、三大魔女の一角。『死の聖女』クローネの元を訪ねた私とハルカ。


 幸い、クローネはハルカを認め、それなりに歓迎。久しぶりに話し合い。要は情報交換をしていたら、馬鹿が襲撃してきた。


『勇者』マセカ・ヌイ。美少女みたいな外見の男。風使いとして、それなりに知られた奴。その実態は下級転生者。下級転生者に関する情報は『裏』では知れ渡っていてね。奴らの動向は筒抜けさ。


 クローネを討伐しに来たらしいが、無理に決まってんだろうが。誰かにそそのかされたかね? 馬鹿が。所詮、下級転生者は最高でもレベル九十九止まり。確かに普通の人間相手なら、無双できる。しかしクローネのレベルは約七億。もう一度言う。約七億。完全な自殺行為だ。


 雑魚ばかり相手にして、本物の実力者を知らない下級転生者の愚かさよ。当然、クローネは不機嫌。久しぶりのまともな来客中の時間を邪魔されたとあってはね。普段なら、執事の『骨』に任せているところを直々に出た。


 で、結果はお察し。クローネによるただただ、一方的な蹂躙。しかも嫌味な事にクローネは一切、魔力を使っていない。得意の拳闘術すら使っていない。ハルカの言うように、酔っぱらいの喧嘩そのもの。酒瓶を投げるわ、酒瓶で殴るわ、殴って割れた酒瓶で刺すわ、まともに相手をする気が無いね。


 それにしても、マセカのクズっぷりよ。私達はマセカが廃教会を攻撃してきてからの一連の行動を、空中に投影したスクリーンで見聞きしていた。


 まずは女奴隷達に廃教会を攻撃させていたが、びくともしない。そりゃそうだ。見た目はボロいが、曲がりなりにも三大魔女が一角。『死の聖女』クローネの住処だ。極めて強固な守りを誇る。ぶっちゃけ、この星が爆発しても耐える。


 そんな訳だから、下級転生者や、その下僕程度じゃ、無理。幾ら頑張ろうが、傷一つ付けられない。


 だが、下級転生者にそんな事はわからないし、認めない。連中は自分は最強、自分以外は全てカス。そう考えている。故に、できない、無理という事を認めない。絶対に認めない。


 いつまで経っても、廃教会に傷一つ付けられない事に業を煮やしたマセカは、周囲の被害を無視して大技を使おうとし、それを止めようとした女奴隷を殺した。更には、他の女奴隷達まで皆殺しに。……本当にあきれた奴だ。思い通りにならないからって、癇癪を起こして女奴隷達を殺すとは。







 女奴隷達を皆殺しにした後、渾身の風の一撃を廃教会に撃ち込んだマセカ。しかし、結果は同じ。相変わらず、廃教会はびくともしない。くどいが、たかがレベル七十如きにレベル七億の防御を抜ける訳がない。レベル差、一千万倍だからね。


 だが、自身を最強と思い込んでいる馬鹿は、そんな事を知らない。自分の思い通りにいかないからって、バグだ、クソゲーだと、わめき始めた。うるさいね〜。


 と、ここで遂にクローネが出た。いい加減、頭に来たらしい。私達も後に続く。


 表に出たクローネはとりあえず、空になった酒瓶を手に、大きく振りかぶって、マセカの顔面目掛けてぶん投げた! そして見事に顔面直撃! 良いコントロールしてるね。それを皮切りに一方的な蹂躙が始まった。







 とはいえ、これじゃ、ハルカの参考にならないね。単に下級転生者を殺すだけならともかく、今回は超一流の実力者の戦いぶりをハルカに見せる意味が有る。


 という訳で、わざわざマセカを全回復してやるクローネ。


「わざわざクローネが馬鹿を回復してやってまで、あんたに戦いぶりを見せてくれるんだ。ちゃんと見て学ぶんだよ」


「はい。あと、さっきのやり方も一応、覚えておきます」


「まぁ、あれも有りか無しかで言えば、有りだからね。実戦に汚い、卑怯、卑劣は無い。どんな手を使っても勝てば良いんだよ。逆に負けは死を意味するからね」


「……はい」


 ハルカは理解の有る子で助かる。さて、クローネの戦いぶり、ゆっくり見るか。久しぶりに『剛拳聖女』が見られそうだ。







 クローネside


 つまらん。くだらん。不快不愉快極まりない。これだから、下級転生者は……。


『勇者』マセカ・ヌイ。風使いとして、それなりに知られた奴ではある。レベル七十、第二級冒険者クラス。特に力を持たない一般人相手なら無双できるが、第一級冒険者以上相手なら無理だな。第一級はレベル百以上。ましてや、約七億の私の敵ではない。


 まず弱い。構えも、力の使い方もまるでなっていない。素人丸出し。全く努力、鍛錬をしていないのがわかる。単に出力の高さで押し切っていたに過ぎん。だが、それが通じるのは第二級までだ。第一級以上には通用せん。


 異能頼みで通用するのは第二級まで。努力、才能、運。それらを兼ね備えた者だけが、第一級へと至る。はっきり言って、下級転生者程度の力では、第一級には届かん。


 先日も、何でも切れるスキルで異世界無双などと抜かす馬鹿が来た。典型的なスキル頼みの下級転生者だ。定番の複数の女連れでな。わざわざ私が出るまでもないので、『骨』が対処した。


 何より愚かなのが、聞いてもいないのに、何でも切れるスキルとやらがいかに凄いか。更にはそのスキルによる武勇伝(笑)を自慢たらたらで延々と語った事。そして、それを持て囃す女達。


 あまりにも馬鹿過ぎて、言葉が無かった。『裏』において自身の能力を隠すのは常識、鉄則。もし知られたら、対策されるからな。


 よって対策した。『骨』が封印術で異能を封じてやった。『骨』はハイ・スケルトン。術も使える。ちなみにこの程度の術、第二級以上なら普通に使える。所詮、下級転生者。異能を封じられたら、もはや何もできん。


 ちなみに上位転生者では、こうはいかん。奴らは元々優秀。異能を封じても油断ならん。武術の達人やら、何らかの奥の手、切り札を隠している事、多々故な。


 さて、頼みの綱の、何でも切れるスキルが使えなくなり、馬鹿は大慌て。それまでの余裕綽々の態度から一転、不様に泣きわめき、命乞いしてきた。本人曰く、『神に騙された。助けてください。殺さないでください』と。ちなみに女達は状況不利と見た途端に、見事な掌返しをして逃げた。所詮、その程度。クズに従うのもまた、クズ。


 ……当然、下級転生者、女達、全て殺したがな。下級転生者も、下級転生者に与する者も、死有るのみ。


 さて、今回の下級転生者。マセカ・ヌイも殺す事は確定事項だが、あっさり殺しはせん。ハルカに戦い方の手本を見せる為のサンドバッグにしてくれる。将来有望な若手の為の為に役立てよ、クズ。







 マセカside


 クソッ! クソッ!クソッ! 馬鹿にしやがってぇっ!! 俺は勇者なんだ! 最強なんだ! 踏み台の分際で逆らいやがって!


『死の聖女』の卑劣なやり方で、思わぬダメージを受けてしまった。邪悪な魔女め!


 はらわたが煮えくり返る思いだ。しかし、奴は一つ、致命的なミスを犯した。俺を全回復した事だ。馬鹿が! まさか実力で俺を上回ったと思ったか。所詮、不意打ちが成功しただけだ。正面から戦えばお前なんか敵じゃない。俺は勇者、最強なんだからな!







 ナナside


「ハルカ、よく見ておきな。身の程知らず、自信過剰の馬鹿の末路を。そして、クローネの強さを。『剛拳聖女』の戦い、それを見られるなんて、値千金に勝る価値が有る」


「はい」


 クローネに全く歯が立たず、一方的に蹂躙されていたくせに、全回復された途端、調子に乗るマセカ。明らかにクローネにボロ負けしていただろうが。つくづく下級転生者は狂っている。


 自分は優秀、絶対正義。周囲は無能。全て周囲が悪い。これが下級転生者全ての共通思考。無能な上に、こんな思考では、そりゃ嫌われるし、否定されるさ。全ては単なる自業自得。逆恨みにも程がある。


 ま、狂っている奴には何を言っても無駄。殺処分するしかない。でないと被害が広がる。事実、下級転生者はろくな事をしない。過去、こいつらの暴走で幾つもの国や世界が滅びた。私よりひどい。


 ともあれ、今はクローネのお手並み拝見。







 クローネが構えを取る。腰を落とし、右腕を前に、左腕を後ろに引いた半身の姿勢。両踵はやや浮かせる。典型的な格闘の構え。体幹や重心に一切のブレが無い。相変わらず、見事な構えだねぇ。あの構えを取ったクローネは正に無双。阿呆みたいに強い。


 ちなみに普段は構えを取らない。何せ、クローネが強過ぎて勝負にならないから、わざわざ構えを取るまでもないんだよ。それを今回は構えを取った。もちろんマセカが強いからじゃない。ハルカに戦い方の手本を見せる為だ。あいつ、あれで面倒見が良いんだよね。


 それに対し、正真正銘の阿呆。下級転生者。『勇者』マセカ・ヌイ。こいつは剣を抜いてきた。有るならさっさと使え、馬鹿。勇者を名乗るだけに、それなりに良い剣だね。それなりにね。ま、第二級装備ってところか。第一級じゃない。あんな阿呆に第一級装備を売る阿呆はいない。第一級装備は、第一級冒険者の証でもあるからね。


 しかし、ひっどい構えだねぇ。まるでなってない。素人丸出し。異能に頼り切りで、鍛錬なんか全くしてこなかったのがよくわかる。


「……僕、戦いの事はよくわかりませんけど、クローネさんが凄いというのは何となくわかります。何というか、構えに凄みを感じます。それにしても、あの構え。僕の元いた世界でも見ました。特に打撃系の格闘技でよく見た構えですね」


「まぁ、世界は違えど、同じ人間なら、行き着く答えは同じって事さ」


 ハルカはクローネの構えを見て、自分の元いた世界でも見た構えだと言う。世界は違えど同じ人間ならば、必然的に戦い方は収束する。腕が六本とか、顔が三つとかでもない限りはね。


「それに引き換え、あのマセカって奴の構えはまるで駄目ですね。僕から見ても素人丸出し。あれでクローネさんに勝てるつもりですか? さっき、あれだけ一方的にやられたくせに」


 その一方で下級転生者、マセカ・ヌイをこき下ろすハルカ。ハルカの目から見ても、マセカは素人丸出しとわかるらしい。特に先日、最強クラスの剣士。四剣聖筆頭の夜光院 狐月斎を見ているからね。あれと比べたら、マセカなんぞ正にゴミクズ。


「ハルカ。下級転生者は自分は最強、主人公。他人は全て雑魚、モブと考えている。負けても、何かの間違い、不正と決めつけ、絶対に認めないのさ」


「現実逃避にも程が有ります」


「狂っているからね」


「納得です」


 下級転生者特有の狂気の思考。全く、なろう系作品とやらのせいで、こんな馬鹿が増えて困るね。何がチートだ。それが無ければ何もできないクズが。


 何より、クズがチートを得て無双できるなら、天才がチートを得たら無双どころじゃないね。……ハルカみたいに。


 下級転生者の最も愚かな点。それは何の根拠も無く自分が最強と思い込み、自分より上の存在を想定しない。認めない。だから、自分より上の存在が現れたら、即、詰む。今、正にマセカ・ヌイが置かれた状況だ。レベル七十が、どうやってレベル七億に勝つ気かねぇ? ぜひ教えてほしいもんだ。奇跡? 起きるか馬鹿。奇跡は起きないから奇跡なんだよ。







「どうした? 掛かってこいよ? その構えはコケ威しか?」


 さっきまでクローネに一方的に蹂躙されていたくせに、全回復された途端に、再び調子に乗るマセカ。攻撃してこないクローネを侮辱、挑発する。馬鹿過ぎる。


「そうか。ならば遠慮なく」


 次の瞬間、マセカは鼻血を噴き出して吹っ飛んだ。クローネのジャブが鼻っ柱に直撃したのさ。ま、クローネからすれば、ほんの挨拶代わりの一発。もっとも、マセカからすればたまったもんじゃないけどね。地獄はここからさ。せいぜい、ハルカの為のサンドバッグになれ。


「何か、馬鹿がいきなり吹っ飛びましたが……」


 ハルカにはクローネの一撃がわからなかったらしい。そりゃ『剛拳聖女』の一撃だからね。とんでもなく速い一撃だ。基本的に見えない。


「あれはクローネが馬鹿の鼻っ柱にジャブを入れただけさ。滅茶苦茶速い奴をね。ちなみに、限界まで手加減してる。でなけりゃ、今の一発で馬鹿の頭が無くなってた。あっさり殺しちゃ、あんたの手本にならないからね」


「なるほど。確かにジャブは最速のパンチと僕の元いた世界でも言われています。しかし、とんでもない速さですね。見えませんでした。手加減して、あれとは……」


『剛拳聖女』と呼ばれているクローネだが、単に拳の威力が凄いだけじゃない。速さもまた凄いんだ。超高速かつ、凄まじい破壊力の拳を繰り出してくる。だからこそ『剛拳聖女』なのさ。


「ハルカ。狐月斎の時にも言ったけど、本当に強い奴は、小細工抜きで純粋に強いんだ。クローネは拳闘術の達人。徹底的に拳闘術を磨き上げ、拳一つで数多の敵を倒してきた。だから『剛拳聖女』と呼ばれている。あんたの場合は『鉄扇魔女』かねぇ。頑張るんだよ」


「頑張ります。ただ、見えない攻撃を出されても参考にならないんですが……」


「ま、それは仕方ないね。クローネは限界まで手加減して、あの速さなんだから。とにかく見るんだよ」


 たとえクローネの攻撃が速過ぎて見えなくても、構え、立ち回り等、学ぶ所は多い。


「はい」


 ハルカもそれがわかっているから、クローネの動きをよく見る。しっかり学べ。クローネもその為にわざわざ手加減して、馬鹿をサンドバッグにしているんだから。







 マセカside


 痛い! 痛い! 痛いぃいぃぃぃぃぃっ!!!! 鼻が! 鼻がぁああああっ!!!!


 何だ? 何が起きた? 『死の聖女』め! 一体、何をした?! 不意打ちとは卑怯な!(自分が掛かってこいと挑発した事は完全無視。なろう系思考)


 だが、まだ終わりじゃない! 剣を杖代わりに立ち上がる。俺は勇者! 俺こそが正義! 悪は正義の前に滅


「遅い」


 またしても、今度は腹に凄まじい衝撃を受け、吹っ飛ばされる。宙を舞い、地面に落ちて転がった末にようやく止まる。痛いより苦しい! 息ができない! そこへ歩み寄る『死の聖女』。そしてまた、俺を完全回復する。


「どうした? 掛かってこい。その剣はコケ威しか?」


 この魔女がぁ!! 馬鹿にしやがってぇ!! (自分がクローネに言った言葉を、まんま返された事にキレた。なろう系思考)


 絶対に許さない! 絶対に殺し


「だから、遅い」


 またしても強烈な一撃。打ち上げられた。


「吹っ飛べ」


 そして次の一撃で吹っ飛ばされた……。







「どうした? 掛かってこい。その剣はコケ威しか?」


 もう何度目か? またしても全回復。その上でまた、同じ事を聞く『死の聖女』。……ふざけやがって……ふざけやがってぇっ!!!!


「俺は最強の勇者!! マセカ・ヌイだぁああああっ!! お前は俺に殺されるべきなんだぁああああっ!!!!」


 武器商人から大枚はたいて買った聖剣を振り回し、突撃する。殺してやる! 殺してやる!! 殺してやるぅううううううっ!!!!


「無理だな」


『死の聖女』は一言、そう呟く。どんなに剣を振り回しても、かすりもしない。フットワークで避けられる。


「素人が。そんなチャンバラごっこで人が斬れるか」


 挙げ句、俺の華麗な剣技をチャンバラごっこ呼ばわりしやがった。その直後、突然、剣が粉々に砕けた。俺の聖剣が!!


「何が聖剣か。所詮、第二級装備。そんな物では私は斬れん。では、また吹っ飛べ」


 そして、また俺は殴り飛ばされる……。







 ナナside


「ハルカ、見たかい? 見事なボディブローだったろう? 的が大きく、しかも相手が避けにくい胴体狙い。なおかつ、あれは胃の辺りを狙うストマックブロー。食らうと呼吸困難になる上、気絶もできない。地獄を味わう」


「拷問技ですね」


「そうだね。しかし、本当の地獄はこれからだ。クローネの奴、馬鹿を痛めつけては完全回復を繰り返す気だ。馬鹿が死ぬまで」


「へぇ。それは良いですね。せいぜいサンドバッグとして役立ってもらいましょう」


 クローネの奴、馬鹿をサンドバッグに、ハルカに打撃を教えるつもりらしい。手始めに顔面ジャブ。続いてボディブロー。次は何かねぇ? お、今度はアッパーで浮かせてからの、ストレートか。綺麗に入ったね。お〜、真横に吹っ飛んだ。


 そこからまた全回復して、徹底的に打ちのめす。でもって、また全回復。からの、フルボッコ。また全回復、フルボッコ。延々と続く。クローネはタフだからね。


 かつて、魔物の大群相手にたった一人で立ち向かい、七日七夜に渡り戦い続け、勝った事さえ有る。この地獄のハメ技、当分終わらない。さ〜て、あの馬鹿、マセカはいつ折れるかね?


「いい気味ですね。スカッと気分爽快です。下級転生者を始め、調子に乗ったクズは全て死ねば良いんです。クズに存在価値は無いですから」


 ハルカ、ニコニコしながら見てるね。いい性格してるよ。基本的に礼儀正しく、真面目で温厚。こと、目上の相手には礼儀正しい。この子なりの処世術なんだろう。


 その反面、無能、クズには非常に苛烈。冷酷。容赦ない。特に下級転生者は虫酸が走るらしい。まぁ、クズ中のクズだからねぇ。


 まぁ、それはともかく、クローネの動きを見て学んでいるハルカ。


「えっと……こうかな?」


 さっそく、構えや動きの真似を始めた。拳を繰り出したり、前後左右にフットワークで動いたり。クローネと比べればあまりにも稚拙。だが、それで良い。まずは上辺だけでも真似る。模倣こそ、学びの第一歩。


 その間も、クローネはマセカを一方的にぶちのめしては、全回復。ぶちのめしては、全回復の繰り返し。


 挙げ句、マセカは剣を滅茶苦茶に振り回しながらクローネに突撃。もはや、まともな思考すらできないらしい。風使いのくせに、風を使っての遠距離攻撃すらしない。


 もちろん、そんな滅茶苦茶な攻撃、クローネに通じる訳ない。フットワークを駆使して、軽々と避ける。かすりもしない。ま、そもそもが第二級装備。仮に当たってもクローネに傷一つ付けられない。


 しまいにはクローネが超高速拳を繰り出し、剣を粉砕。マセカは武器を失った。女奴隷を失い、クローネに一方的にやられ、今、剣を失った。哀れだねぇ。惨めだねぇ。身の程をわきまえず、三大魔女が一角。『死の聖女』クローネに挑んだ結果がこれだ。馬鹿は救えないねぇ。







 クローネside


「お〜い、クローネ。そろそろ終わりにしないかい? もう、夕方だよ。さすがに見てるこちらも飽きてきた。あと、腹減った。それに、そいつ既にぶっ壊れてるじゃないか」


「僕もお腹が空きました。熱心にご教授してくださるのはありがたいのですが、そろそろ終わりにしてはいかがでしょうか?」


「ふむ。なら仕方ないな。この辺で終わるか。では、これで最後だ。ハルカ、よく見ておけ。このクローネの奥義だ」


 言われてみれば、確かに辺りは夕暮れ。さすがにやり過ぎたか。それに確かに馬鹿は既に壊れているな。たかが、この程度痛めつけたぐらいで壊れるとは情けない奴め。では、ゴミ処分がてら、ハルカに拳打の極意を見せてやろう。


 既に壊れたゴミを上へと放り投げる。そして落ちてくる間に構えを取る。……これを使うのも久しぶりだ。わざわざ使う程の奴がいなかったしな。


「ハルカ、わざわざクローネが奥義を見せてくれるんだ。感謝しな。そして、よく見て学べ。盗め」


「はい」


 落ちてきたな。タイミングを計り、最後の締めの一撃を繰り出す。


 マハリタ教式拳闘術奥義。『魔破利多拳』


 パァーーーンッ!!


 私の繰り返した拳が落ちてきたゴミにクリーンヒット。甲高い破裂音と共に、ゴミは跡形もなく塵と化した。


「…………うわ、跡形もなくなりました」


「お〜、久しぶりに見るけど、やっぱり凄いね『魔破利多拳』は。さすがはマハリタ教の戦闘シスターに伝わる奥義。拳で対象を分子レベルで破壊する。下級転生者如きに使うにゃ過分だけど、締めには良いね。ハルカ、あんたも会得するんだよ?」


「あれをですか?」


「今すぐやれとは言わないけど、いずれはね。会得して損は無い」


 弟子に対し随分と無茶振りをしているな。魔破利多拳はマハリタ教の戦闘シスターに伝わる奥義だぞ? 私も会得するまで大変な努力と苦労をしたものだ。


 しかし、ハルカならば会得するやもしれんな。何せ上位転生者だからな。その才能は計り知れん。下級転生者とは根本的に違う。







『クローネ様、お疲れ様でした。本来なら、私が処理すべき案件でしたが……』


「気にするな『骨』。いつもお前に任せてばかりでは腕がなまる。たまには私も動かんとな。しかし、下級転生者は救えんな」


 廃教会に戻り、ひとまず休憩。『骨』が下級転生者襲撃に対し、自分が処理すべき案件だったと詫びを入れてきたが許す。


 大した手間ではないし、たまには私も動かねば腕がなまる。


「それよりも『骨』。夕食の支度を頼む。秘蔵の酒も出してやれ。ハルカは未成年故、ソフトドリンクもな。食後のデザートも忘れるな」


『は、かしこまりました』


 そんな事より、夕食の指示を出す。久しぶりのまともな来客。しかも将来有望な若手もいる。盛大にもてなしてやろう。







 で、夕食の席。『骨』が存分に腕を振るった料理の数々がテーブルの上に並ぶ。


『此度のメニューは、主菜は、竜肉のロースト、赤ワインソース掛け。副菜に、鬼エビのブイヤベース。季節の野菜のサラダ。バターロールと、ライスも用意してございます。更に、肉料理によく合う、クローネ様秘蔵の赤ワインも。未成年のハルカ様には、ソフトドリンクが有りますので。食後にはデザートもございます』


『骨』は本当に優秀な執事でな。家事から、経理、物資調達、情報収集、外部との交渉、戦闘に至るまで何でもこなす。


「相変わらず、良い腕してるねぇ」


「凄いです」


「さすがは『骨』。見事だ」


『感謝の極みにございます』


 素晴らしい出来栄えの料理に、私達は賞賛の言葉を送り、『骨』は優雅に一礼して、感謝を述べる。では、食べるか。







 大きな塊の竜肉のロースト。食べたい量を言えば、『骨』が切り分け、皿に乗せてくれる。肉好きの『名無しの魔女』は無論のこと、ハルカも皿を手に切り分けてもらっている。口に有ったようで何よりだ。


「さすがはクローネだね。最高級の竜肉を出すとは。しかも一番美味い、尾の肉。熟成具合といい、毒抜き具合といい、本当に良い肉だよ」


「竜の肉って毒が有るんですか?!」


 竜肉の質の良さを褒める『名無しの魔女』。ただ、その中で竜肉には毒が有る事に触れ、ハルカが驚く。竜肉には毒が有る事を知らなかったか。


『おや? ご存じありませんでしたか? いかにも。竜肉には細胞を破壊する毒素が含まれておりましてな。解毒処置をせずに食べると、臓器を破壊されて死に至ります。もっぱら、無知な下級転生者がよく死んでおりますし、また、死なせておりますな。ちなみに、これは私が仕留めた竜の肉。解毒処置も万全でございます。どうぞ、安心してお召し上がりください』


「……びっくりしました。ありがとうございます。それにしても、下級転生者はろくな事をしませんね」


『それは同感ですな。異世界は、元の世界とは違うという事を全く理解しておりません。先程も申し上げた通り、無知な下級転生者が異世界の食材で料理を作って食しては死んだり、提供して死なせたり、愚行が後を絶ちません。あと、元の世界の料理等が異世界でウケるとも限りませんしな』


「そりゃ、異世界ですからね。有毒、無毒はわかりませんし。それに、元の世界の料理等が異世界でウケるとも限りませんし。仮にウケても、それはそれで、周囲の恨みが怖いです」


『さすがはハルカ様。よくおわかりで。数年前にも異世界より来た居酒屋がいましてな。確か……屋号が『なぶ』だか、『にぶ』だか、でしたかな? 大繁盛したは良いのですが、あまりにも客を独占した上、徹底的にレシピを秘匿しましてな。その事で他の店の恨みを買い、最終的に焼き討ちされ、店も主人も灰となりました。下級転生者は愚かですな。物事をやり過ぎる。自身の行動が後先どんな結果をもたらすか、全く考えない。故に破滅する』


「…………忠告痛み入ります」


『いやいや、こちらこそ、食事の場で話す内容ではありませんでした。失礼いたしました』


 竜肉には毒が有る事から、下級転生者の愚かさへと話題が脱線。しかし、その事を教訓として受け止めるハルカ。対し『骨』は食事の場で話す内容ではなかったと謝罪。


「確かに、下級転生者あるあるだね。元、料理人とかが、異世界の事を知らないくせに、元の世界準拠で異世界の食材に手を出して死ぬ、死なせる」


「あと、店を出したが、全く売れずに潰れる。仮に繁盛しても、やり過ぎて周囲の恨みを買い、潰されるパターンもな。『骨』の言った居酒屋『まぶ』とやらもそうだった」


「あぁ、あの店か。私も行ったが、随分、調子に乗っていたよ。その内、潰されると思っていたら、案の定、燃えたね。それも綺麗さっぱり、跡形もなく。買った恨みの深さがよくわかる。馬鹿だねぇ。商売はやり過ぎちゃ駄目なのにさ。儲けは程々にってね。昔からの教訓さ」


「上位転生者ならともかく、下級転生者にそんな頭は無い」


「そうだね、アッハッハ!」


 何だかんだで、久しぶりの楽しい食事の時間だ。







 さて、その後も、ハルカが『骨』に料理を教わったり、私がハルカと軽く手合わせをしてやったりと、実に有意義な時間を過ごせた。そして遅くなった事もあり、今日は泊まりとなった。


 その夜。私は自室で、今日一日を振り返っていた。


 しかし、ハルカの才能は凄まじいな。上位転生者の中でも、上澄み中の上澄み。才能の底が見えん。空恐ろしいものを感じたぞ。実際に手合わせして、改めて実感した。今はまだまだ未熟ながら、間違いなく伸びる。本人も向上心が有るしな。


 だが、それ故に危うい。良い方向へ進めば良いが、道を誤れば、恐るべき災禍となるだろう。


 コンコン


 ドアをノックする音。


「クローネ、いるかい? 暇なら、ちょっと飲みに付き合いな」


『名無しの魔女』か。夜酒の誘い。良かろう。付き合ってやる。


「わかった。付き合おう。『骨』に肴を作らせるか?」


「不要だよ。酒と肴は私が出すさ。泊めてもらった身だしね」


「そうか。ならばダイニングで飲もう」


 こうして、『名無しの魔女』とサシで飲む事に。







「では、乾杯」


「何に対してかは知らんが、乾杯」


 時刻は既に日付が変わり、午前一時過ぎ。ダイニングでのサシ飲み。『名無しの魔女』提供の東方の年代物の古酒と、同じく東方由来の魚のジャーキーで一杯。ふむ、良い酒だな。奮発したとみえる。


「で、クローネ。あんたから見てハルカはどうだった?」


 開始早々、さっそく、弟子についての感想を求めてきた。


「月並みの事しか言えんが?」


「構わないよ。率直な感想を聞きたい」


 そうか。ならば率直な感想を言おう。


「そうだな。一言で言えば天才。元より優秀な上位転生者の中でも、上澄み中の上澄みだ。あれ程の上位転生者は初めて見た。しかも、あの若さにして、確固たる信念が有る。大したものだ」


「うんうん。そうだろう、そうだろう。あの子は正に天才。文字通り、選ばれし者」


 私の感想を聞いてご満悦の『名無しの魔女』。しかし、私の感想は終わっていないぞ。


「だが、それ故に危うくもある。天才といえ、ハルカは若い。まだまだ未熟。その力と信念が良い方向へと進めばともかく、悪い方向へと向かえば、恐るべき災禍となろう。その場合、下級転生者如きの比ではないぞ?」


 確かにハルカは天才。故に恐ろしくもある。下級転生者如き、いつでも始末できるが、上位転生者の上澄み中の上澄みたるハルカとなれば、そうもいかん。


 今はともかく、この先、成長し、そして道を踏み外したなら、想像を絶する恐るべき災禍となろう。それだけの力が有る。


「……まぁね。私自身、複雑な気分でね。もしかしたら、将来、私にとって最も恐ろしい敵を育てているのかもしれない、ってね」


「否定できん可能性だからな」


 ハルカの持つ、底が見えない恐るべき才能。それ故に期待と不安が共存する。『名無しの魔女』も厄介事を抱えてしまったものだな。責任重大だ。下手をすれば、世界を破滅に追いやった元凶になりかねん。


「だが、私はあの子に賭けようと思う。ハルカなら、道を誤る事はないと。大丈夫、ハルカは良い子だ。天才だ。下級転生者みたいなどうしようもないクズとは違う。私は師として、あの子を導き、育てよう。そして私の全てをくれてやる」


 その上で『名無しの魔女』はあの子に賭けようと。ハルカなら、道を誤る事はないと。ハルカを師として導き、育てると。自分の全てをくれてやると。


「……そうか。ならば好きにしろ」


『名無しの魔女』の決意は固い。でなければ、そもそも弟子など取らん。何せ、魔女が弟子を取れるのは生涯一度きり。一人だけ。やり直しは利かん。軽々しく取るものではない。逆にそれだけの逸材と判断したから、ハルカを弟子にした訳だ。


「だが、忘れるなよ? 古来より、道を踏み外した天才は後を絶たん。ハルカとて例外ではない。特にあれは、温厚さの裏に、冷酷さの牙を隠している。心する事だな。正に『蛇』」


「『蛇』か。さすがはネクロマンサー。魂の本質を見る事に掛けちゃ、右に出る者なし。ハルカの本質もお見通しってか」


「まぁな」


 私はネクロマンサー。魂に関する事が専門。故に魂の本質もわかる。ハルカの本質は『蛇』。一見、温厚ながら、その裏には恐るべき牙を隠している。幸い、見境なしに牙を剥く訳ではなさそうだが。下級転生者は見境なしに牙を剥くからな。所詮、狂人よ。







「それにしても、ここ数年で下級転生者が異様に増えたな」


 話題は下級転生者について。あのクズ共、以前からいたが、ここ数年で異様に増えた。しかも、質が極めて低い。以前から無能のクズだったが、最近は無能を通り越して、完全な気狂いばかり。


 口を開けば、チート、最強、ハーレム、成り上がり。大体、これだな。あと、原作知識ガー、現代知識ガー。他に言う事は無いのか? 判で付いたように同じ事しか言わん。


「言っただろ? ハルカの世界では『なろう系』って言うらしいんだけど、クズがチートを得て異世界転生して無双するって作品が、あちこちの世界で流行りだそうでね。それを見て真に受けた馬鹿が下級転生者になっているんだってさ。本当に馬鹿だねぇ。所詮、フィクション。クズが異世界転生したって、無駄。何も成せず、何者にもなれず、犬死にするだけさ」


「そんな有害図書が流行りなのか。随分と平和な世の中らしい」


「同感だね。そんな馬鹿な物が流行るなんて平和な証。もっとも、馬鹿を量産されるのは迷惑だけどね。ハルカが上位転生者になった理由も、増え過ぎた下級転生者の抹殺の為だし」


「ハルカもいい迷惑だな」


 気の毒には思う。別にハルカに非は無い。全て、下級転生者、そして下級転生者を生み出す下級神魔が悪い。







「しかし、最近の下級転生者共はどうしようもないね。昔は無能だけど、まだ話が通じた。しかし、今の奴らは駄目だね。完全に狂ってる。異世界を物語の世界。自分は主人公。他人はモブ。そう思い込んで滅茶苦茶する。なろう系作品を真に受けた馬鹿ばかり」


「使い捨てにするには最高の素材だからな」


 事実、最近の下級転生者はどうしようもない。完全に狂っている。正確には狂っている奴が下級転生者になっている。


『名無しの魔女』がハルカから、なろう系作品はどんな物か聞いたところ、その内容に作者は阿呆かと思ったと。


 最近の流行りは、上位冒険者パーティーから、主人公の補助術師、回復術師が無能として追放される。その後、主人公は大活躍。追放した連中は破滅する。


 嫌われ者の主人公が、王子といった実力者に溺愛される。こういう作品らしい。


 うむ、作者は阿呆だな。こんな物をありがたがる連中も阿呆だ。


 フィクションにツッコむのは野暮とはわかるが、度を越してはいかん。


 上位冒険者パーティーともなれば、回復術師、補助術師の重要性を熟知している。故に、厳選するし、それをくだらん理由でいきなり追放するなどという愚行は断じてせん。


 確かに冒険者なんぞ、大部分が無法者、ならず者だ。ましてや、上位冒険者ともなれば悪党、鬼畜、外道だらけ。綺麗事を言っていては、上位になれん。卑怯、卑劣な手を平然と使えてこそ、上位に到れる。


 だが、無知、無能はいない。そんな奴は死んでいなくなるからな。故に上位冒険者パーティーが、回復術師、補助術師を無能と切り捨てるなどありえん。追放物など、単なる絵空事。







 嫌われ者の主人公が、王子といった実力者に溺愛される? そんな事例、私は見た事も聞いた事も無いな。


 先の追放物もそうだが、周囲が揃いも揃って無能ばかり。そんな訳あるか。


 嫌われ者には、嫌われる理由が有る。それを改善せん限り、何も変わらん。


 何より、突然現れた王子とやらが突然、溺愛してくるなど、どう考えても怪しいだろうが。そういう場合、ろくでもない裏が有るのが定番だ。生贄に捧げたりとかな。


 いずれにせよ、実に安っぽく、薄っぺらい内容だ。


 これだけは言える。生前、何も成せなかった。成そうともしなかった。全ての不都合を周囲、他者のせいにし、逃げ続けてきたクズでは、幾ら力を得ても無駄だ。所詮、下級転生者は下級神魔の餌に過ぎんのだ。最終的には破滅する。







 その後も酒を酌み交わしたが、さすがに夜も更けてきた。そろそろお開きにするか。


「では、この辺でお開きにするぞ」


「そうだね。私がいないと知ったら、ハルカが泣く」


「…………確か、ハルカは十六歳と聞いたが?」


「仕方ないだろ。あの子、極度のマザコンかつ、甘えん坊でね。添い寝してほしいってねだってきたんだから」


「二部屋用意したのに、一部屋で良いとはそういう事か」


 まぁ、師弟仲が良いのは結構な事か。…………その分、師弟である以上、()()()()()()()()()()()が辛くなるがな。


 私の関与する事ではないな。







 ナナside


 明けて翌日。クローネは朝飯までごちそうしてくれた。作ったのは『骨』だけどね。さて、朝飯を済ませた以上、出発だ。次は三大魔女、最後の一人。『冥医』ルーナの所だ。


 出発に辺り、わざわざ表まで見送りに来てくれたクローネと『骨』。


「じゃ、行ってくるよ」


「お世話になりました。ありがとうございます」


「気を付けてな」


『道中の無事を祈っております』


 別れの挨拶を済ませると、バイクに跨る。ハルカがそれに続き、後部座席に跨り、私にしがみつく。


 エンジンを掛け、アクセルを回す。そしてバイクは走り出し、空へと駆け上がる。次の目的地は東。東方最大の湖にして、禁断の地と恐れられる場所。


『冥鏡止水』


 ここにルーナが住んでいる。クローネ以上に久しぶりに会う。油断ならない奴だから、気を付けないと。


「ハルカ。昨日も話したけど、私から離れるんじゃないよ。ルーナは私やクローネ程、甘くない。自分以外は全て実験台としか思ってない。下級転生者寄りの思考の持ち主だ」


「強い下級転生者って感じですか」


「そうなるね」


 とにかく、ルーナは危険な奴だ。本当はハルカと会わせたくないんだけど、下手に隠し立てしたら、何をするかわからない。それこそ、下級転生者ばりに滅茶苦茶する。しかも実力は下級転生者如きの比じゃない。被害は甚大だ。


 よって、会わせるしかない。困ったもんだ。


 その後もバイクは空を走り続け、見えてきたのは、東の大陸、扶桑。ここの中腹に東方最大の湖、冥鏡止水が有る。バイクの進行方向をそちらに向ける。


 ……見えてきた! あれだ!


「大きな湖ですね!」


 ハルカも声を上げる。東方最大の湖、冥鏡止水。そして、東方における最大の禁足地。


「降りるよ!」


「はい!」


 バイクは徐々に高度を下げ、着地。地面を走る。もうすぐ着く。


 久しぶりのルーナとの対面。気合いを入れないとね!







 ルーナside


 アハハハハハハハ! やっと来た! も〜! このルーナ様を待たせるなんて、とりあえず、拷問フルコース行きものだよ! ルーナ様、激おこぷんぷん丸!


 でもルーナ様は優しいから許してあげる。滅多に現れない上位転生者に会えるから。


 あと、面白いおもちゃも有るし。どっかの貴族の三男だっけ? わざわざルーナ様に喧嘩売るなんて、超ありえないんですけど? 下級転生者って頭悪〜い!


 バラバラに解体され、それでも死ねないように処置された下級転生者。どこかの貴族の三男。調子に乗った末路がこれ。首だけにされてもなお、死ねない。


「…………殺して……たの…む………たす……けて……父……上…兄……上…」


「あ、そいつらなら、とっくにバラして処分したけど? あっさり死んじゃって、ルーナ様、つまんない! その点、あんたは下級転生者だから、中々死ななくて最高! もっとルーナ様を楽しませてね♡」


「……悪魔……」


 ゴッ!!


「失礼ね〜! ルーナ様は『冥医』。お仕置きとして、濃硫酸プールに入れてあげる。楽しんでね♪」


「……やめ……」


 ドボン!


 ルーナ様の事を悪魔なんて言うから、下級転生者の首を殴って、濃硫酸のプールに放り込む。もはや悲鳴も聞こえない。


「本当に楽しみ〜♪」


 ハルカとの対面を心待ちにするルーナ。両者の対面まで、あと少し。




三大魔女が一角。『死の聖女』クローネと、下級転生者。『勇者』マセカ・ヌイの対決……というか、クローネによる一方的な蹂躙。


そもそもがマセカ、レベル七十に対し、クローネ、レベル七億。レベル差一千万倍。勝てる訳がない。


徹底的に打ちのめされては、全回復。徹底的に打ちのめされては、全回復。その繰り返し。ハルカに戦い方を教える為のサンドバッグにされた。風使いのくせに風も使えず、挙げ句、滅茶苦茶に剣を振り回して突撃したものの、チャンバラごっこ呼ばわりされた上、剣を粉砕される始末。


最終的に奥義、魔破利多拳で塵と化して終了。もちろん、死後は冥界の焼却炉行き。下級転生者の末路。


翌日、三大魔女、最後の一人。『冥医』ルーナ・イメナトアに会うべく、東の大陸。扶桑に向かう魔女師弟。


東方最大の湖にして、最大の禁足地。冥鏡止水。そこにルーナは住んでいる。ナナさんとしては、ハルカとルーナの対面はさせたくないが、それをやると後が怖い。


一方、魔女師弟到着を待ちわびるルーナ。自分に喧嘩を売ってきた愚かな下級転生者。どこぞの貴族の三男とやらをバラバラに解体、生首にして、暇潰しに拷問中。最終的に濃硫酸のプールに投げ込む始末。





用語説明


マハリタ教:かつてクローネが所属していた宗教。男子禁制、武器使用を禁じる武闘派として知られている。


徹底的な鍛錬により自己を高める事と、魔を討ち倒し、世に貢献する事を教義としている。非常に苛烈な宗教であり、なり手は少ないが、その分、精鋭揃い。マハリタ教の戦闘シスターは恐れられている。


中でも、対象を分子レベルで破壊する、奥義。魔破利多拳を修めた、最高位のマスターシスターは、格段の畏怖と敬意をもって遇される。クローネもその一人。しかし、そのあまりの強さ、周囲への影響力を上層部に疎まれ、冤罪からの破門、火刑を宣告される羽目に。


最終的にキレたクローネにより、マハリタ教総本山は壊滅。マハリタ教も事実上、崩壊。今や、奥義、魔破利多拳を使えるのは、クローネを含めても片手で足りる。


魔破利多拳の名の由来。魔を破り、世に多くの利をもたらす拳。だから魔破利多拳。


では、また次回。

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