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第22話 ハルカ、外の世界へ 死の聖女編2

 ハルカside


「……ふむ。上位転生者か。久しぶりに見る。やはり、下級転生者みたいな使い捨て前提の奴らとは違うな。しかし、まだまだだな」


「……どうも」


 のっけから酒瓶を顔面めがけて投げつけられるという、ひどい初対面となった、『死の聖女』クローネさん。彼女は一目で僕が上位転生者であると見抜いた。とりあえず、自己紹介。


「初めまして。此度、縁有って『名無しの魔女』に弟子入りしました、ハルカ・アマノガワと申します。浅学非才の未熟者ですが、何とぞよろしくお願いします」


「少なくとも、礼儀はわきまえているようだな。大いに結構。下級転生者共は、礼儀のれの字も知らんからな。不快不愉快極まりない」


「心中、お察しします」


 幸い、悪印象は持たれなかったらしい。もっとも、比較対象が下級転生者な時点で、あまり喜べない。まぁ、あんなクズ共より劣るなんて言われたら自殺するね。生き恥。


「で、異世界に転生したお前は何を望む? 最強か? ハーレムか? 成り上がりか? 改革か? 建国か?」


 そして、異世界に転生したお前は何を望む? と聞いてきた。いわゆる、なろう系定番の内容を。


「みくびらないでください。僕はそんな()()()()()()には、一切、興味は有りません」


 それに対し、そんなくだらない事には、一切、興味は有りませんと答えた。僕をなろう系のクズ共と一緒にしないでほしい。不愉快だ。


「ほう、下級転生者共が血眼になって求めるそれらを、くだらない事と切り捨てるか」


 クローネさんは興味深げに僕を見つめる。その眼差しに真っ直ぐに見つめ返す。


「はい。くだらない事です。例えば最強。何の為に最強になるんですか? 最強になって、何を成すんですか? 何より、最強になっても腹の足しにもなりませんよ。ハーレムは維持、管理が面倒。成り上がり、改革、建国もそんな上手くいく訳ないんで興味は無いです」


 本当にくだらない。なろう系作品は主人公最強が定番だけど、最強、最強とうるさいだけ。その後どうするのか答えた作品なんか見た事が無い。何の為に最強になったんだか? 無意味で無価値な最強だ。ハーレムは維持、管理が面倒。成り上がり、改革、建国もそんなに上手くいくものか。そもそも、なろう系なんて無能だし。


「ハハハハハ! 確かにな! 仮に最強になったとして、腹の足しにもならん! ハーレムは面倒。成り上がり、改革、建国は上手くいく訳ないときたか! 言い切ってくれるな!ハハハハハ!」


 僕の答えがクローネさんに大ウケ。大笑い。そんなに面白いかな?


「面白い子だろ? だから、弟子にした」


 ドヤ顔で自慢するナナさん。


「確かにな。さすがは上位転生者だ。下級転生者とは言う事が違う。では、続けて聞こう。ゲームや小説といった、物語の世界への転生は有ると思うか?」


 クローネさんから次の質問。ゲームや小説といった、物語の世界への転生は有ると思うか? ……絶対にわかっていて聞いているな。答えるけど。


「断じてありえません。それらは全て架空の物語。実在しません。実在しない世界に転生するなど不可能です。下級転生者定番の『原作知識で無双』など僕から言わせれば、気狂いの妄言です」


 物語の世界に転生など断じて無い。実在しないんだから。そんな当たり前の事がわからない、なろう系。そんなのだから、生前から負け組なんだ。現実を見ろ。


「……よくわかった。なるほど、『名無しの魔女』が弟子に取るだけはあるな。きちんと現実を直視し、くだらない妄想に逃げたりはせんか。先程の非礼は詫びよう。では、改めて歓迎しよう。よくぞ来た。若き魔女見習いよ」


「ふん。回りくどいやり方するんじゃないよ」


 どうやら、クローネさんから一応の合格を貰えたらしい。一安心。







「『骨』、茶の用意をしろ。三人分だ」


『は、かしこまりました』


 改めて、歓迎の席を設けてくれる事となり、まずはお茶。クローネさんは執事の『骨』さんに三人分のお茶を用意するように指示。


「まぁ、立ち話も何だ。適当に掛けると良い」


 そして僕とナナさんに対し、立ち話も何だから、適当に掛けろとの事。幾つか椅子が有ったので、適当に座る。


「初日からえらい目に遭ったよ。あんたも知ってるだろ? かつて抑止力四人掛かりで宇宙ごと処分された、怪植物トライフィート。あれの生き残りがいてね。しかも、馬鹿がそれを利用しようとして失敗。スタンピードが起きた。更に、あの『金毛九尾』夜光院 狐月斎まで現れやがった。幸い、ぶつかりはしなかったけどね。次はわからない。ぶっちゃけ、勝てる気がしない。ありゃ、聞きしに勝る化け物だよ」


「知っている。随分死んだからな。そいつらから聞いた。わざわざ事態を悪化させた馬鹿までいたな」


「本当に下級転生者はろくな事をしないよ、クソが」


「その言い方はクソに失礼だ。クソは肥料になるが、下級転生者は害悪そのもの」


「違いない」


 初日からえらい目に遭ったと語るナナさん。そしてその事を知っていたクローネさん。犠牲者から聞いたとの事。さすがネクロマンサー。それと下級転生者はクソにも劣る存在。







『お待たせしました。粗茶ですが。それとお口に合うかわかりませんが、私お手製のスコーンでございます』


 執事の『骨』さんがお盆に三人分の紅茶とスコーンを載せて持ってきてくれた。手慣れた様子で配る。


「ご苦労」


「いただくよ」


「ありがとうございます」


 それぞれ礼を言って受け取る。しばしのティータイム。しかし、それをいつまでも許してくれる程、クローネさんは甘くない。


「……で、ハルカよ。お前はどんな役目を持って転生してきた? 使い捨ての下級転生者と違い、お前は上位転生者。上位転生者は必ず、何らかの役目を持っている。それが転生の条件、契約だからな。内容次第では、私にも考えが有る」


 僕が上位転生者と見抜いただけに、その役目について聞いてきた。上位転生者は必ず、何らかの役目を持っている。それが転生の条件、契約。もし、それが自身に仇なす内容なら、僕を抹殺すると言外に語っている。


「どうしましょう?」


 念の為、ナナさんに確認を取る。軽々しく他人に話す内容じゃないから。


「別に構わないだろう」


 許可が出た。少なくとも、クローネさんと直接敵対する内容じゃないし。


「では、お話しします。僕の受けた役目は、界理を乱す下級転生者の抹殺です」


 包み隠さず、正直に話す。下手にごまかしたら、後が怖い。


「そうか。ならば良し。大いに殺せ。あの連中は性根が腐り切った害悪だからな。あと、死体はよこせ。あんなクズ共でも、アンデッドの素体としてなら価値が有る」


 クローネさんからすれば、自身と敵対しなければ良いらしい。あと、下級転生者の死体はよこせと言われた。まぁ、ネクロマンサーからすれば、下級転生者の死体は価値が有る。死んでからの方が価値が有るとは皮肉だね。







「まぁ、せっかく来たのだ。しかも弟子同伴ときた。ゆっくりしていけ。美味い飯と酒を出してやる。久しぶりのまともな客だしな」


「そりゃ、あんたの所に来る奴なんか、基本的に敵だからね。嫌なら、私みたいに絶海の孤島にでも居を構えるんだね」


 久しぶりのまともな客だから、ゆっくりしていけとクローネさん。ナナさんの言う通り、ここに来る奴なんか基本的に敵だろうし。


「最近は特に下級転生者が多くてな。あのクズ共、以前からいたが、この数年で急激に増えた。しかも、訳のわからん妄言ばかり吐く。チート、最強、ハーレム、成り上がり、改革、等々。特に多いのが、原作知識云々と抜かす連中だ。この世界をゲーム、小説等の世界と思い込んでいる。先程、ハルカの言った通り、フィクションの世界など存在せんのにな。愚かな」


「ハルカが言うには最近、そういう作品が流行りらしくてね。なろう系って言うんだってさ。で、それを真に受けた馬鹿が下級転生者になっているらしいよ。ま、確かに下級転生者として使い捨てるには最適の連中だ。現実とフィクションの区別も付かない馬鹿だからね。幾ら使い捨てにしても、全く惜しくない。あと、なろう系作品はとっとと絶版しろ。馬鹿を量産するだけで迷惑だよ」


 クローネさんも下級転生者には迷惑しているらしい。あいつら、現実とフィクションの区別が付かない、頭がおかしい連中だから。間違いなく、なろう系作品が馬鹿の量産に一役買っている。有害図書指定すべきだと思う。







「ところでハルカ。お前に聞きたい事が有る」


「何でしょう?」


「お前は先程、最強、ハーレム、成り上がりといった下級転生者の定番をくだらないと切り捨てたな。では、改めて聞こう。お前は何を求める? 何を目指す?」


 下級転生者の定番、最強、ハーレム、成り上がり等をくだらない事と切り捨てた僕に対し、改めて質問。お前は何を求める? 何を目指す? と。


 これも返答次第では僕を殺す気だな。もちろん、嘘偽りも許さない。ならば、正直に答える。わざわざ嘘偽りを言う理由も無い。


「……僕は転生した今の自分に何ができるのか知りたい。どこまで行けるのか知りたい。そして、師に一人前と認められたい。それだけです」


 本来ならば、既に終わっていたはずの僕の人生。しかし、何の因果か、もう一度生きるチャンスを得た。しかも異世界。


 なろう系のクズ共みたいに、異世界キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! なんて浮かれる気は無いけど、興味は有る。


 異世界はどんな所なのか? 何が有るのか? 果たして、僕は異世界で何ができるのか? どこまで行けるのか? 知りたい。そして師であるナナさんに一人前と認められたい。


「くだらないですか?」


 世界最強とか、建国とかと比べたら、あまりに小さい望み。だけど、これは譲れない事。


「いや、そんな事はない。向上心に溢れていて実に心地良いな。くだらん妄言ばかり吐く下級転生者共に見習えと言いたい」


「ありがとうございます。あと、下級転生者には何を言っても無駄かと。狂っていますから」


「そうだな。狂人には何を言っても無駄だな。事実、一度たりとて話が通じた事が無い」


「……話し合いをした事も有るんですね」


「失礼な。私は戦闘狂ではない。無駄な争いは避けたいからな」


「でも無駄だった訳だ」


 ナナさんが茶々を入れる。でも事実そうなんだよね。下級転生者、なろう系の連中に話し合いは通じない。聞く耳を持たない。狂っているから。


 まともな奴が、最強だの、ハーレムだの、成り上がりだの、言う訳がない。ましてや、ゲームや小説の世界に来たなんて思う訳がない。完全に狂気の沙汰。







「で、次はどこに行く気だ?」


 太い葉巻を取り出し、それに火を点けながら、クローネさんは次の行き先について聞いてきた。……シスターが葉巻を吸っているって、凄い絵面だな。そういえば、この人、ウィスキーを瓶ごとラッパ飲みしていたな。今更か。


「ギルド本部、あんたの所と来たんだ。次はあいつの所だよ。あの人でなしの所さ。避けては通れない相手だからね。下手にごまかしたり、隠し立てしたら、怒る。そうなると厄介だ」


「同感だな。あいつは私やお前のように甘くない。根っからの人でなし。ハルカの事を下手に隠し立てしたら、ただでは済まさんな」


 ……何だか怖い事を話している二人。次の行き先の相手は相当な危険人物らしい。……帰りたい。


「逃げんじゃないよ、ハルカ。下手に逃げたら、あいつは怒る。少なくとも、きちんと顔合わせはしておかないといけない」


 ナナさんから逃げるなと言われた。下手に逃げたら、あいつが怒ると。やはり、会わないと駄目ですか……。


「仕方あるまい。これも世の理不尽。経験と思え」


 クローネさんからも言われた。やっぱり世の中は甘くない。


「……で、次に会う方はどんな方なんですか?」


 残念ながら、避けては通れない相手。ならば、どんな相手か知りたい。


「…………人でなし」


「…………腐れ医者」


 ナナさんは『人でなし』と。クローネさんは『腐れ医者』と言った。魔女とネクロマンサーに『人でなし』『腐れ医者』と言われるって……。


「ハルカ。あんた、私の元に来て本当に良かったよ。あいつ、一応、医師で、腕も確かだけどね。医師になった理由がひどい。『人は死ぬ時こそ、本質が出る。それを見たい』だそうでね。特に下級転生者を捕らえては人体実験材料にして、最後は解剖、サンプル行きにしてる。ましてや、あんたは上位転生者。それどころじゃ済まないね」


「そうだな。極めて希少な上位転生者。それこそ、細胞レベルまで分解してでも調べるだろうな。あいつならやる。絶対やる。間違いなくやる」


「…………危険人物過ぎませんか?」


「否定はしないよ。大丈夫、私が付いている。その代わり、離れるんじゃないよ。本当に解剖される」


 次に会う相手の恐ろしさを語るナナさんとクローネさん。下級転生者を捕らえては人体実験、解剖を繰り返していると。下級転生者が幾ら死のうが構わないけど、僕までやられるのは嫌だ。







「じゃ、次に会う相手について教えよう。名は、ルーナ・イメナトア。人呼んで『冥医』。さっき言ったように医師。そして魔女でもある。仕事柄、医学と薬物、毒物に精通していてね。趣味は新薬開発と人体実験と拷問と解剖。特に希少種のね」


「だから、下級転生者を捕らえているんですね」


「その通り。あいつら馬鹿だし、クズだけど、希少種ではある。ルーナからすれば、人体実験、拷問、解剖のしがいが有るんだよ。あと、人体実験、解剖の際に麻酔なんか使わないよ。切り刻む度に無様に泣きわめくのが面白いってさ。その為に、徹底的に死を引き延ばし、人体実験と拷問と解剖の限りを尽くして使い潰すのさ。恐ろしい奴だよ。私だってそこまではやらない」


 ナナさんから、次に会う相手についての説明。……しかし、これはひどい。ナナさんも私だってそこまではやらないと言う。


「だが、腕は確かだ。散々、人体実験、拷問、解剖を繰り返して経験を積んでいるからな。あいつより腕の良い医師を私は知らん。あいつなら、少なくとも死んでいなければ治せる」


「一応、医師だからね。報酬を出せば、やる事はちゃんとやる。事実、私もクローネもルーナの治療には世話になってる」


「治療費が半端ではないがな。しかし私達でも治せん負傷、病すら治すのだ。それを考えれば決して高くはない」


 クローネさん曰く、あいつより腕の良い医師を知らない。ナナさんも、彼女の治療には世話になっていると。伊達に殺していないという事か。殺す事を追求すれば、必然的に助ける方法もわかるから。単なる殺人鬼とは違うな。


「ルーナの行動理念は『知的探究心』。とにかく知りたい、理解したい。……やり方はひどいけどね」


「人体実験も解剖も突き詰めれば、知りたいが故。加虐趣味なのも事実だがな。奴にとって、人体実験、解剖は知的探究心と加虐趣味を同時に満たせる至高の時間だそうだ」


 やっぱり、ろくでなしかも……。







 その後も色々と話した。生前の事。死神ヨミの事。


「冥界の支配者にして、全ての魂の管理者。死神ヨミか。間違いなく上位神だな。死を司る神は多いが、彼女はその頂点だろう。非常に格の高い神だ。そんな死神ヨミが創った上位転生者。それがお前だハルカ。転生者の力は創った神魔の力に比例する。お前の力は上位転生者の中でも屈指といえよう」


 クローネさんは死神ヨミは上位神。死を司る神の頂点。非常に格の高い神だと。そして、転生者の力は創った神魔の力に比例すると。僕の力は上位転生者の中でも屈指だそうだ。


「しかし、下級転生者抹殺の為に、お前程強力な上位転生者を創るとはな。死神ヨミは下級転生者に対し、相当頭に来ているらしいな」


「気持ちはわかる。あの馬鹿共、チートだ、最強だ、成り上がりだと、無茶苦茶しては界理を乱すからね。そりゃ、頭に来るし、ぶっ殺してやる! となるわ。私でもやる」


「同感だな。あの連中は殺処分するしかない。つい先日もな。下級転生者が来た。闇魔法を極めただの、レベル九十九だの、抜かす小娘でな。しかも私達、三大魔女を倒し、最強の魔女として君臨するなどと大言壮語を吐いた」


「……は? ()()()()()()()()()()()


 先日、下級転生者が来たらしい。なろう系定番の、自称最強の類。闇魔法を極めた、レベル九十九と自称していたらしい。レベル九十九と聞くと強そうだけど、ナナさんは、たかがレベル九十九と馬鹿にした。というか、レベルって有るんだ。


「そうだ。たかがレベル九十九で、この私に。『死の聖女』に挑んできた。不愉快極まりなかったのでな。即座に頭を粉砕してやった。あんな愚か者、アンデッドにする価値も無い」


 で、そのレベル九十九云々の馬鹿は、クローネさんにあっさり殺された訳だ。本当に馬鹿。これだから、下級転生者は……。







「おっと、悪いねハルカ。あんたを置き去りにして。レベルってのはね、様々な情報を元に算出される、実力の目安」


「健康な二十歳の人間の平均レベルが、一から二。特殊部隊員等、鍛え抜かれた者なら三から四。十以上なら、大変な達人だ」


 ナナさんとクローネさんがレベルについて説明してくれた。レベルは実力の目安だと。健康な二十歳の人間の平均レベルが一から二。特殊部隊員なら、三から四。十以上なら、大変な達人だと。


 ならば、レベル九十九を名乗った下級転生者は凄く強いという事になるけど……。でも、ナナさんはたかがレベル九十九と言っていた。つまり、ナナさんは更に上。







「ハルカ。下級転生者は大体、レベル六十から八十。最高で九十九。確かにレベル九十九は普通の人間からすれば、人外の化け物。恐るべき脅威。下級転生者が最強、無双と調子に乗るのもわかる。……ただし、普通の人間相手なら、だけどねぇ。クックック!」


 ナナさん曰く、下級転生者は大体、レベル九十九。普通の人間からすれば、レベル九十九は恐るべき脅威。普通の人間からすれば、だけど。


「下級転生者の愚かしい所の一つが、自身は最強と、何の根拠も無いにもかかわらず思い込んでいる所だ。はっきり言ってやる。レベル九十九なんぞ雑魚に過ぎん。『裏』において、最低限の実力を測る基準とされるレッサーデーモンは、レベル三百前後だ。こいつを狩れるかどうかで評価される」


「レッサーデーモンは悪魔の中じゃ、最下級。雑魚中の雑魚。いずれ、あんたにも狩らせる。拒否権は無いからね。言ったら追い出す」


「わかりました」


 確かに普通の人間からすればレベル九十九は脅威。しかしクローネさんはレベル九十九など『裏』においては雑魚と断言。


 何せ『裏』において、最低限の実力を測る基準とされるレッサーデーモンはレベル三百前後。これを狩れるかどうかで評価される。僕にもいずれ狩らせるとの事。当然、拒否権は無し。


「私の見立てじゃ、あんたはレベル十二前後ぐらいかね」


「そうですか……」


 ナナさんの見立てによると、僕はレベル十二前後ぐらいらしい。普通の人間と比べれば、格段に強い。


「ちなみに私は七億だよ。クローネも同じぐらい」


「恐れ入りました!」


 僕のレベルが十二前後と聞き、普通の人間より強いと思っていたら、ナナさんから『私は七億』と言われた。クローネさんも同じぐらいらしい。そりゃ、たかがレベル九十九と馬鹿にするのも納得。


「悪魔を例に出すと、さっきも言ったが最下級のレッサーデーモンが三百前後。下級が五百前後。中級で千から二千。上級で一万以上。幹部級なら十万以上。悪魔王級となれば、一千万以上だ。そうとも知らず、最強、無双を自称する下級転生者の愚かさよ。調子に乗った馬鹿がレッサーデーモン狩りをしようとして、逆に狩られる事、度々だ」


 更にクローネさんから、悪魔を例にレベルがどれ程か説明。最下級のレッサーデーモンですら三百前後。悪魔王級なら、一千万以上だと。……知らぬが仏って、下級転生者の為に有るような言葉だな。レベル九十九が上限じゃ、レッサーデーモンにも勝てない。狩るつもりが狩られるのも納得。馬鹿が。







「下級転生者を創る下級神魔は大体、レベル一千万から三千万。対し、上位神魔は最低でも億越えだ。何より下級神魔では、どうあがいても上位神魔には勝てん。そのように創られているからな」


「それでも下級神魔は更なる力を求め、その為に馬鹿を下級転生者に仕立て上げ、自身の強化の為の餌にする訳だ。で、下級転生者は下級神魔に踊らされているとも知らず、最強、無双と馬鹿騒ぎ。下級神魔も下級転生者も揃って馬鹿だよ。おとなしく身の程をわきまえてりゃ良いものを。下級神魔は絶対に上位神魔には勝てない。下級転生者は下級神魔の餌」


 クローネさんとナナさんの語る、厳しい現実。上位神魔には絶対に勝てない下級神魔。そして、その下級神魔に踊らされている下級転生者、なろう系の馬鹿。


「確かに力は大事。弱者には何の権利も無い。強者に踏みにじられ、奪われ、殺されるだけ。しかし、力だけでも駄目なんだ。頭脳、カリスマ、運。これらが必要。馬鹿が力を得ても、自滅か、利用されて終わる。よく有るパターンが、下級転生者が奴隷を買ってハーレムを作るって奴。毎度、奴隷に裏切られて終わってる。馬鹿だよねぇ。負け組のクズに奴隷を従える人望なんか無いよ」


「そもそも奴隷を買ってハーレムを作ろうという考え自体が稚拙。これは昔からの教訓だ」


『奴隷を買うのは構わない。利用するのも構わない。だが、信用するな』


 ナナさんは力は大事と語った上で、それだけでは駄目だと。自滅するか、利用されて終わると。よく有るパターンとして、奴隷を買ってハーレムを作るという、なろう系で腐る程見た内容。しかし、実際には奴隷に裏切られて終わっていると。


 更にクローネさんから、昔からの教訓を聞かされた。


「ハルカ、奴隷はな。大概、ろくでもない訳有りだ。例えば、借金のカタで売られた。犯罪者。家が没落した。戦の捕虜。こんな感じだな。ろくな連中じゃない。特にタチが悪いのが、奴隷商人と奴隷がグルのパターン。奴隷が自分を買った馬鹿を殺して金品を奪い、奴隷商人の元に戻り、利益を分け合う。そして、また別の馬鹿を狙う」


「なるほど。参考になります。まぁ、そもそも奴隷を買ってハーレムを作ろうなんて考え自体が浅ましいし、セコいですよね」


「そうだな。所詮、その程度の連中だ。だから、奴隷商人に嵌められる。奴隷商人もわかっていてな。実力者には真っ当な奴隷を売り、下級転生者を始めとする馬鹿には、自身とグルの奴隷を売って狩る」


「……なろう系定番の奴隷ハーレムなんて、死亡フラグと」


「そういう事だ。奴隷商人からすれば、美味しい相手だ」


 異世界の厳しさを改めて痛感する。ご都合主義で塗り固めたなろう系作品なんか真に受けると、死ぬ羽目になる。


 ゲームや小説といったフィクションの世界には行けない。そもそも架空の物語なんだから、そんな世界は存在しない。『原作知識ガー』なんか無意味。


 ましてや、無職、引きこもり、ブラック企業の下っ端、いじめられている奴。こんな負け組のクズが力を得ただけで、異世界無双なんかできる訳がない。所詮、無能。破滅する。


「くだらん妄想をするな。真面目に生きろ。真剣にやれ、ハルカ。馬鹿な真似をしたら、真っ先に師匠に殺されるぞ」


「その通り。馬鹿はいらない。無能は死ね。私の顔に泥を塗るような奴は殺す」


 クローネさんは僕にくだらん妄想をするな。真面目に生きろと。真剣にやれと。馬鹿な真似をしたら、真っ先に師匠に殺されるぞと忠告してくれた。ナナさんもその言葉を肯定する。私の顔に泥を塗るような奴は殺すと。


「忠告痛み入ります。浅学非才の未熟者。若輩の身ですが、精一杯頑張ります」


 僕としては、そんな馬鹿な事をする気は無いけど、改めて努力する意思を示す。


「そうだ。それで良い」


「ま、努力するのは当たり前。結果を出しな。出せなければ無能と見なし、追い出す。場合によっちゃ、殺す」


 ……本当に異世界は厳しい。最強、無双、ハーレムなんて妄言を吐くなろう系じゃ、死ぬのも納得。僕は死にたくないから頑張ろう。







 と、その時だった。


 ドォオオオオオンッ!!


 突然の爆発音が響き渡り、教会の建物を揺るがした。


『敵襲でございます! クローネ様!』


 執事の『骨』さんが敵襲と告げる。その間にも、引き続き爆発音と、振動が響き渡る。


「…………また、下級転生者か。特有の腐敗臭がプンプン臭うな。せっかくの来客中を台無しにした罪は重いぞ」


 どうやら、下級転生者が襲撃してきたらしい。馬鹿だな。完全に自殺行為だ。


「身の程知らずの愚か者に、誰に喧嘩を売ったかわからせてやろう」


 クローネさんが直々に下級転生者を殺す気らしい。


「ほう。こりゃ良いね。久しぶりに『剛拳聖女』クローネが見られるか。ハルカ、超一流の実力者の戦いは最高の学びになる。しっかり見て学ぶんだよ」


「はい」


「ふむ。ならば、私も戦い方を考えんとな。あっさり殺しては学びにならん。参考になるように動こう」


 ナナさんはクローネさんの戦いをしっかり見て学べと言い、クローネさんもまた、参考になるように動こうと。とにかく、下級転生者が死ぬ事は確定。しかし、どんな馬鹿なんだろう? どうせ、チート、最強、ハーレム、成り上がりの類だろう。もうすぐ死ぬけど。


「では、行くか。くだらん夢を見ている馬鹿に現実の厳しさを教えてやろう」


 クローネさんは咥えていた葉巻を灰皿に押し付けて消し、外へと向かう。


「私達も行くよ。さっきも言ったけど、しっかり見て学べ。クローネの強さと、下級転生者の愚かさを」


「はい。勉強させていただきます」


 僕とナナさんもその後に続く。







 下級転生者side


 修学旅行の最中、乗っていたバスが事故を起こし、崖から転落。クラス全員死んでしまった。ところが死後、神が登場。俺はまだ死ぬ運命ではなかったが、間違って死なせてしまったから、お詫びに特典を与えて異世界に転生させてくれると。


 そして望んだのは、美少女のような姿と、圧倒的な強さ。元々が不細工な上、いじめられていたからな。美しい外見と力が欲しかった。不細工な弱者には何の権利も無いと、嫌という程思い知らされたから。


 こうして俺は異世界に転生した。美少女と見間違えられる程の美少年。マセカ・ヌイとして。レベルにして七十。普通の人間が、一から二だそうだから、圧倒的に強い。事実、敵無し。転生早々、野盗に襲われたが、即座に返り討ちにしてやった。


 しかし、本当に強いな。野盗共の動きが余裕で見切れるし、拳や蹴り一発で野盗共がバラバラの肉片になる。生前はいじめられ、暴力を振るわれ続ける日々だったのが嘘みたいだ。


 野盗共を返り討ちにし、わざと残した奴にアジトへと案内させて、襲撃。その場にいた連中を皆殺しにして、貯め込んでいた金品を根こそぎ頂いた。案内させた奴? 用済みになった時点で殺した。本当、雑魚殺しは気分爽快。







 まとまった金も手に入ったし、既に場所を聞き出した街へと向かう事に。この辺りは世界一の経済力を誇るバニゲゼ通商連合というらしく、金さえ有れば、何でも手に入ると聞いた。


 ならば買うのは女奴隷だ。俺好みの若くて美しい女奴隷を買い集めてハーレムを作る。そしてバニゲゼ通商連合の首都。リーカモマッカに向かい、奴隷商人から数人の女奴隷を買った。


 金に物を言わせて、若く美しい、優秀な女奴隷をよこせと言ったら、注文通りの女奴隷達を奴隷商人は用意してくれた。金は偉大だな。







 さて、俺の力だが、風の刃を飛ばす能力。見えない上に、切れ味抜群。何でもバラバラに切り裂ける。美少女のような外見も有り、周囲からは評判上々。女奴隷達も皆、優秀で、なおかつ、俺をご主人様と呼んでくれる。童貞も卒業したし、本当に最高の気分だ。


 その後も野盗狩り、魔物狩りをして名を上げ、一年程経ち、『勇者マセカ』と呼ばれるようになった俺だが、物足りなくなった。雑魚を幾ら倒してもつまらない。最強の俺が倒すにふさわしい奴はいないのか? そう思っていたところ、懇意にしている情報屋から、耳寄りな話を聞いた。


 伝説の三大魔女なる連中がいる。その内二人は居場所がわからないが、一人はわかっている。南のロピルカ大陸。その西方に有る『死の聖域』に住まう『死の聖女』。


 こいつを倒せば、俺の名は世界中に轟き、後世まで伝えられるだろうと。お前なら『死の聖女』を倒せると。なぜなら、お前は選ばれし『勇者』だからと。


 俺は素晴らしい情報を売ってくれた情報屋のおっさんに、謝礼として相場の三倍の料金を支払い、『死の聖女』を討伐すべく南のロピルカ大陸へと向かった。







 情報屋のおっさんside


 マセカ一行が去った後。


「ふん、馬鹿が。お前如き下級転生者に『死の聖女』を討てる訳がなかろうが。もはや、お前は用済み。死ね」


 下級転生者の馬鹿共は知らないが、下級転生者の動向は『裏』では筒抜け。『裏』の情報収集能力を舐めてはいけない。ちなみに今回の勇者気取りの馬鹿、マセカの場合、女奴隷から逐一、情報が送られてきている。そうとも知らずにいい気なもんだ。


 下級転生者は適度に泳がせ、頃合いを見計らい処分。そろそろあの馬鹿も処分時期が来た訳だ。あんまり調子に乗らせると、無茶苦茶な事をして大被害をもたらすからな。『裏』としてもそれは困る。『表』有ってこその『裏』。表裏一体ってな。


「散々、良い思いをしてきたんだ。対価は払えよ。しかし、下級転生者ってのは馬鹿だな。間違って死なせたから、お詫びに特典を与えて転生させるなんて話をなんで信じるかね? どう考えても怪し過ぎるだろうが。あと、ゲームだの、小説だの、フィクションの世界になんか行ける訳ないだろうが。存在しないんだからな。ま、そんなのだから、負け組な訳だ」


 まぁ、馬鹿がどうなろうと知ったこっちゃない。現実は厳しいんだよ。『死の聖女』の強さと自分の愚かさをとくと噛みしめて死ね。







 ナナside


 また、どっかの下級転生者がクローネに喧嘩を売ってきた。本当にどうしようもないね、あの馬鹿共は。元々が負け組のくせに、ちょっと力を得たぐらいで最強、無双と調子に乗る。クローネも久しぶりのまともな来客中に邪魔されてイラついている。普段なら、『骨』に任せていただろうに、直々に出るとは。


 だが、ありがたい事でもある。ハルカに超一流の実力者であるクローネの戦いを見せられる。『剛拳聖女』の戦いを。


 同時に下級転生者の愚かさ、醜悪さもね。さて、どんな無様な最期を見せてくれるかね? しかし、運の悪い奴だ。普段ならワンパンで粉砕、終了だけど、今回はハルカに見せるからね。そんなあっさりとは済ませない。馬鹿は地獄を見るね。……ルーナだったら、もっとひどいけど。ともあれ、ハルカを連れて表へ向かう。


 ちなみにこの間も馬鹿が教会に攻撃を続けている。ドカンドカンうるさいったら、ありゃしない。いい加減、気付かないかねぇ? ()()()()()()()()()()()()()()()()


 無理か。馬鹿だから。







 下級転生者side


「さっさと出てこい、『死の聖女』! 怖気付いたか?!」


『死の聖域』に入った途端、アンデッドの大群に襲われたが、即座に風の刃でバラバラに切り裂き、蹴散らす。最強の勇者であるこの俺、マセカ・ヌイの敵じゃない。


 女奴隷達も存分に活躍し、遂に『死の聖女』の拠点である廃教会へと辿り着いた。とりあえず挨拶代わりに女奴隷の一人。魔道士のフレアに命じ、爆炎魔法を廃教会に撃ち込む。しかし、廃教会は多少、焦げただけ。誰も出てこない。


「おい、フレア。なんだこのザマは? もっと真面目にやれ。殺すぞ?」


「いえ、決して手を抜いた訳では……」


「うるさい! 言い訳するな! もっと撃ち込め!」


 チッ! 使えない奴だな。借金のカタで奴隷商人に売られただけに無能な奴だ。言い訳ばかりしやがって!


 俺に言われてフレアは立て続けに爆炎魔法を放つ。全く、無能な奴隷にイラつかされる。お前ら奴隷は黙って最強の勇者である俺に従えば良いんだ!







 しかし、幾ら攻撃しても廃教会はびくともしない。フレアだけでなく、他の奴隷達。剣士のソーナ。本来ならタンクの斧使いルシーダ。槍兵のスピネルも攻撃に加わり、更に回復、補助魔法の使い手のグーリンヒが仲間に強化、廃教会に弱体化を掛け続けているのに。


「もう良い! どけ! 役立たず共が!」


 いつまで経っても、こんなボロ教会一つ壊せない無能な女奴隷達を下がらせ、俺の全力の風を使う事にした。


「跡形もなく吹っ飛べぇっ!!!!」


 ボロ教会のくせに俺に逆らいやがって!! 俺は最強の勇者なんだ!! 俺に逆らう奴は全て消えて無くなれ!!


「お待ちください!! そんな威力の風を使ったら、この辺り一帯が吹き飛びます!!」


 役立たず一号のフレアがごちゃごちゃ言ってきた。黙れ! 役立たずが!


 風でフレアをバラバラに切り裂く。俺に逆らうからだ。


「もう良い。お前らみたいな役立たずはいらない。死ね!!」


 ついでに他の役立たず共も同じく風でバラバラに切り裂く。役立たずはいらない。また新しい女奴隷を買うだけだ。


「それじゃ、消えて無くなれぇっ!!!!」


 全力全開、これまでで最強の威力の風を廃教会に向かって放った。これで終わりだ!!







「………………ふ、ふざけるなぁーーーーっ!!!!」


 俺の全力全開、最強の威力の風。それが直撃したのに、廃教会は相変わらずそこに有った。傷一つ付いていない。多少、埃が付いたぐらい。


「俺は天才だ! 選ばれしエリートなんだ! 最強の勇者なんだ! こんな事が有ってたまるか! 何かの間違いだ! バグだ! クソゲーだ!」


 こんな事はありえない! 何かの間違いだ! 俺は最強の勇者なんだ! 絶対に勝つんだ! 敗北なんかする訳ないんだ!


 ヒュッ! ゴッ!


「ギャッ!!」


 俺の全力全開、最強の威力の風を撃ち込んだのに、廃教会がびくともしなかった事にブチ切れていたら、いきなり顔面に何かが直撃。あまりの激痛に悲鳴を上げてのたうち回る。鼻柱に直撃したそれは酒瓶。鼻が曲がり、鼻血が止まらない。


「誰だ?! よくも俺の美しい顔を傷物にしやがってぇっ!!」


 美少女と見間違えられる美しい俺の顔を傷物にするとは許せない! 誰だか知らないが、殺してやる!!


「…………うるさいぞ、下級転生者。はっきり言ってやる。幾ら外見を取り繕おうが、その腐り切った性根は変わらんし、お前の醜い本性、見抜く奴は見抜くぞ。ま、今日、ここで死ぬお前には関係ないか」


 いつの間にか、一人のシスターがいた。しかも、そのシスターは酒瓶片手にラッパ飲みしながら、俺を侮辱しやがった!


「お前か! 酒瓶をぶつけやがったのは!」


 酒瓶を持っている事から、ぶつけてきたのはこいつだ。しかし、いまだに鼻血が止まらない。完全に鼻が折れているらしい。この俺の美しい顔が!


「そうだが? お前の醜い本性にふさわしい顔になっただろう? 先程も言ったが、幾ら外見を取り繕おうが、その腐り切った性根は変わらん。お前の醜い本性、見抜く奴は見抜く。その上で体よく利用するだけだ。そして用済みになれば処分する。今のお前のようにな。この私。『死の聖女』クローネにお前如きが挑むなど、ただの自殺行為。どこの誰にそそのかされたかは知らんが、お前は今日、ここで死ぬ。確定事項だ」


 シスターは『死の聖女』クローネと名乗った。こいつがそうか! 俺は今回のターゲットが現れた幸運に感謝する。馬鹿な奴だ、のこのこ現れやがって。たかが卑怯な不意打ちに成功したぐらいでいい気になるな。こちらを惑わせようと戯言を吐くがその手には乗るか。何より、ゴチャゴチャ喋っている間に攻撃の準備は整えた。


「ふん! 卑怯卑劣な魔女め! お前の悪行もここまでだ、この勇者マセカ・ヌイがお前を討つ! 正義の裁きをう」


 そして決め台詞を言おうとしたが、最後までは言えなかった。言い終える直前、クローネが目の前にいた。しかも、酒瓶を大きく振りかぶって。


「私はうるさいと言ったぞ?」


 次の瞬間、酒瓶が思い切り振り下ろされる。脳天から走る激痛。ガラスが砕ける音。酒瓶で脳天を殴られた!


「ついでだ。いらんから、くれてやる」


 更に割れた酒瓶で腹を刺してきた。焼け付くような激痛。


「更におまけだ」


 新しい酒瓶を口にすると、口元にライターの火を寄せ……まさか、こいつ!


 ブーッ!!


 火を噴きやがった! その火は俺の顔を直撃。顔が焼けただれた。


「グァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 熱い!! 痛い!! 目が見えない!! たまらず、倒れてのたうち回る。なぜだ?! なぜ俺がこんな目に遭わないといけないんだ?! 俺は最強なんだ! 勇者なんだ! お前ら異世界の奴らは全て踏み台だろうが! 俺に逆らうな! クソッ! クソッ!


「ルシーダ! 何してる?! さっさと壁になれ! フレア! ソーナ! スピネル! 何ボサッとしている! グーリンヒ! 早く治せ!」


 主人である俺がこんなひどい目に遭っているのに、何もしない役立たず共に、指示を出す。本当に使えない役立たず共にイライラする。


「お前は何を言っている? お前の連れていた女達は全員、お前が殺したんだろうが。馬鹿が」


 ………………そうだった。あの役立たず共の使えなさにイラついて、全員殺したんだった。


「まぁ、私は優しいからな。お前にチャンスをやろう。ご自慢の風で私を殺してみせろ。できるものならな」


 クローネは早くも勝ち誇り、俺にチャンスをやろうと言った。ご自慢の風で私を殺してみせろと。


 …………内心で笑みを浮かべる。馬鹿な奴だ。俺を甘く見やがって。所詮、卑怯な不意打ちしか能がない奴だ。俺の全力全開の攻撃を受けて死ね!! 目が見えないから、無差別広範囲攻撃で辺り一帯ごと消し飛ばしてやる!!


「ならば食らえ!! 極大暴魔壊滅風撃(カタストロフバースト)!!」


 上空から冷たい大気の塊が落ちて、強烈な暴風を起こすマイクロバースト現象。それを魔力で格段に威力を上げた、俺の渾身、全力全開の一撃。遥か上空より落ちてくる極低温かつ、凄まじい圧力の暴風。人間なんかひとたまりもない。俺の最強の一撃がクローネを直撃する。


 凄まじい暴風で辺り一帯が吹き飛ぶ。俺自身は空気のバリアで防いだが、クローネは直撃だ。目は見えなくても、風が直撃を教えてくれる。


「よく言うよな。勝ったと思った瞬間こそ、最大の隙だと。クローネ、お前の敗因は俺を。勇者マセカ・ヌイを舐めた事だ」


 所詮は卑怯卑劣な手しか使えない、邪悪な魔女。正義の勇者である、この俺。マセカ・ヌイの敵ではなかった。


「帰るか。早く治療を受けないとな。あと、新しい奴隷達も買わないと。今度はあんな無能共は買わないぞ」


 とはいえ、さすがは三大魔女か。卑怯な不意打ちではあるが、この勇者マセカ・ヌイがここまでダメージを受けると……。


 ゴッ!!


 いきなり後頭部を殴られた。たまらず倒れたところを、追い打ちの踏みつけ連打。……まさか?!


「つまらん術だな。騒音と埃を巻き上げるだけか?」


 そんなはずがない!! あれは俺の正真正銘、最強の一撃。あれで倒せなかった奴はいない!! なのに……なんでクローネの声がするんだ?!


「なぜ私が生きているのか知りたいか? 単純な事だ。お前の術が貧弱なだけだ。あんな貧弱な術で三大魔女を倒せるか、馬鹿が」


 クローネは俺の最強の一撃を貧弱と馬鹿にした。あんな貧弱な術で三大魔女を倒せるかと。


「愚かな下級転生者よ。楽しい夢の時間は終わりだ。現実を見る時が来た。『死』という現実をな」


 クローネからの死の宣告。ふざけるな!! 俺は最強なんだ!! 勇者なんだ!! お前ら異世界人は全て、俺の踏み台なんだ!!


「うるさいと言ったぞ私は! くだらん思考がダダ漏れでかなわん!」


 次の瞬間、俺は思い切り殴られた。そして胸ぐらを掴んで持ち上げられる。


「ただでは死なせてやらん。戦いの手本を見せてやらねばならんのでな。恨むなら、己の愚かさと、運の無さを恨め。まぁ、お前如きクズでも、使い道は有る。殺した後で、立派なアンデッドにしてやろう」




『死の聖女』クローネと対面したハルカ。幸い、悪印象は持たれなかったらしく、それなりに友好的に迎え入れられました。これが某転生スライムみたいに、タメ口を叩いていたらその場で殺されていました。礼儀は大事。ましてや、相手が圧倒的に格上なら。


その後は穏やかな話し合いという名の情報交換。その中で、ハルカに対し、何が望みか? と聞くクローネ。なろう系定番の最強、ハーレム、成り上がりとかを求めるか? と。


対し、ハルカはそれらをくだらない事とあっさり切り捨てた。


ハルカの望みは、自己研鑽。自分は異世界で何ができるのか? どこまで行けるのか? あと、師であるナナさんに一人前と認められたいと。


くだらないですか? と聞くハルカに、クローネは向上心が有って良いと褒めた。


そして、話題は三大魔女最後の一人について。


『冥医』ルーナ・イメナトア。ナナさん曰く『人でなし』。クローネ曰く『腐れ医者』。


根っからの知的探究心の権化にして、根っからのサディスト。


『人は死ぬ時こそ、本質が出る。それを見たい』


そんな理由で医師になったろくでなし。新薬開発、人体実験、拷問、解剖が趣味の殺人鬼。ナナさんでもそこまでやらないと言う程。


そんなルーナの一番の研究対象は下級転生者。つまり、なろう系のバカ。無駄に力だけは有るから、彼女からすれば最高のおもちゃ。徹底的に解体して調べ尽くす。


そんな中、現れた下級転生者。『勇者』マセカ・ヌイ。女奴隷を買ってハーレムを作り、最強を自称する典型的ななろう系。もう、腐る程見たパターン。


情報屋にそそのかされ、クローネ討伐に来たものの、返り討ち。そもそもが、マセカを処分する為の罠。所詮、なろう系。行き着く先は破滅だけ。


マセカはレベル七十。普通の人間からすれば脅威。しかし、クローネはレベル七億。勝負にならない。


では、また次回。


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