第20話 ハルカ、外の世界へ 冒険者ギルド編6
狐月斎side
第八十四支部に行き、今回の件の原因を知る事はできたが、新手のトライフィートの大群の襲撃を受けた。
しかも、吹雪達の方も敵襲を受けたらしい。巨大なトライフィートが現れたと。ただ、連絡が途絶してしまい、詳しい事はわからん。とりあえず今は、雑草の処分だ。
「クソッ! 鬱陶しい!」
倒しても倒しても新手が湧いてくる状況に声を荒げる『名無しの魔女』。……あれか。
トライフィートが湧いて出る『穴』が有る。トライフィートめ。既に異空間に拠点を作っていたか。ならば潰す。
「私の後ろに下がれ。 大技で消し去る」
この中で最大火力を有するのは私だ。そしてトライフィートは完全に滅ぼさねばならん。一片たりとて残さん。
私の指示に従い、私の後ろに下がる二人。そして紫滅刃の力をある程度解放。横薙ぎの構えを取る。
「……この匂いは……」
「趣味の悪い刀だね」
紫滅刃の力を解放した際の欠点。特有の匂いがする。二人共、その匂いに顔をしかめる。無理もない。特に私は狐人。鼻が利く故、なおさら堪える。吹雪にも嫌な顔をされたものだ。何せ……。
『死臭』がするからな。『冥刀』紫滅刃は、その名の示す通り、死後の世界、冥界製。初代死神の愛刀だ。『死』そのものを司る神器。故にその力を発動すると、死臭がする。だが、贅沢は言えん。今はトライフィートの駆除が全てだ。不快極まりない死臭を我慢し、一気に紫滅刃を横薙ぎに払う。
紫の斬撃一閃、トライフィート達を一刀両断。更にその奥の空間も死で蝕み、葬り去る。
「終わった」
「……さっきも見たけど、凄まじい威力」
「空間さえ死で蝕み、葬り去るか。単なるアーティファクトじゃないね。神器か魔器。さすが四剣聖筆頭。得物からして格が違う」
「いかにも。我が愛刀、紫滅刃は神器だ。やらんぞ」
「いらないよ。普通のアーティファクトでさえ、とんでもない燃費の悪さなのに、神器なんか使えるか。私は死ぬのは嫌でね」
「よくわかっているようで何より。欲しがる身の程知らずが多くてな。迷惑している」
「馬鹿だねぇ。幾ら強い武器だろうが、使えなけりゃ意味が無い。ましてや、下手に触ると死ぬような危険物」
「同感だな」
紫滅刃が単なるアーティファクトではなく、最高位の神器、魔器と見抜いた『名無しの魔女』。やらんぞと言ったら、いらないと返ってきた。死ぬのは嫌だと。よくわかっている。さすがは伝説の魔女。馬鹿は強い武器が有れば勝てると考えるからな。そうして手に負えない品に手を出して死ぬ。
「帰るぞ」
「わかってるよ」
一旦、第八十四支部の外に出てから、念の為、第八十四支部を一帯ごと、紫滅刃の力をもって消し去る。懸念は完全に絶たねばならん。
「さて、吹雪達はどうしているか?」
「私はハルカさえ生きてりゃ良いけど」
ともあれ、元の場所へと帰る。第八十四支部の支部長がやらかした証拠である、書類とレポート一式は確保したからな。それはギルド本部職員の兎に預けてある。後は知らん。それを元に糾弾しようが、証拠隠滅しようが、勝手にすれば良い。所詮、他人事。
吹雪side
少し時間を遡り、吹雪が師に連絡した直後。
「トライフィートの親玉登場ですか」
突如、現れた巨大トライフィート。本当に突如、現れました。どうやら、進化、成長により空間操作能力を得たようですね。もはや完全に植物の域を離れています。
しかも大量に種をばら撒き、更にその種が即座に発芽、成長。トライフィートとなって襲ってきました。狙いはハルカ。次点で私のようです。……大天才たる私を差し置いて、あんな素人を狙いますか?
…………不快、不愉快、極まりないですね!!
この私を! 四剣聖筆頭、夜光院 狐月斎の弟子たるこの私を!! 大天才たるこの、凍月 吹雪を差し置いて、あんな虚弱貧弱無知無能の素人を優先しますか!!!!
断じて許せざる振る舞い!! 私は何より侮辱が嫌いなのです!!
ふざけるな!! この私より、あんな素人を優先するような雑草は根絶やしにしてやる!! 三尾の力を見せてやる!!
獣人族の禁じ手を解放。師匠からは許可なくやるなと言われていますが、知った事か!!
「顕現! 銀毛白面三尾!!」
三尾の力を解放。『本来の姿』になる。私達獣人族は、人型をしている内は本来の力を出せません。人型を維持する為に力を使っていますからね。
逆に言えば、それをやめて本来の姿になった時こそ、本来の力を出せるのです。雑草が!! 私を侮辱した事、とくと悔いて死ね!!
白銀に輝く巨大な三尾の狐となった私は、巨大トライフィートに襲い掛かる。その他の面々? 知りませんね。
チェシャーside
「何やってくれてんの、あの狐!! 二人共、大丈夫?!」
「ありがとうございます! 助かりましたわ!」
「同じく。ありがとうございます。しかし、滅茶苦茶です。どうするんですか、これ? 仮にトライフィートを倒しても大惨事ですよ?」
「ごめん。言わないで」
「やれやれ。これでは、どっちが敵かわかりませんな」
何か知らないけど、巨大トライフィート相手にキレて、巨大な三尾の銀狐に変身した吹雪さん。口から凄まじい冷気を吐き、トライフィート達を片っ端から凍らせ粉砕。でも、見境無しに暴れ回る上、巨大トライフィートも黙っていないから、辺り一帯、滅茶苦茶に。巨大怪獣大決戦だ。そういうのは特撮だけでやってくれないかな?!
チェシャーさんがテレポートを駆使して僕とミルフィーユさんを回収。ひとまず離れた。しかし、どうしよう、この状況。僕じゃ手に負えない。
「仮に巨大トライフィートを処分できたとしても、ただでは済みませんわね、これは……」
「お嬢様の言う通りね。だから嫌なのよ、ああいう阿呆みたいにプライドの高い奴は。プライドを傷付けられると、キレて無茶苦茶するから」
「……僕のせいですよね。やはり」
「ハルカ嬢、あなたのせいではありません。あの狐が勝手にあなたを敵視し、挙げ句、暴走しただけ。やれやれ、かの『金毛九尾』も弟子育成には失敗したようですな」
エスプレッソさんは、僕のせいではない。吹雪さんが勝手に僕を敵視し、挙げ句、暴走しただけだと。かの『金毛九尾』も弟子育成には失敗したと。
確かにそうだろう。何が気に入らないのか知らないけど、彼女は初対面の時点から、やけに刺々しい態度だった。
僕としても、合わない相手だと思っていた。だが、結果的にこの状況。そして、この状況を招いた一因は間違いなく僕だ。僕はなろう系の連中みたいに、自己正当化と他責思考の権化じゃない。
「自分を責めないの。世の中、ああいう面倒くさい奴はいるから。どうしようもない。しいて言うなら、間が悪かった。運が悪かった。そういう事」
チェシャーさんも自分を責めるなと言うけど……。彼女は続ける。
「こういう時は前向きに考えなさい。確かに辺り一帯に被害は出ているけど、逆に言えば、この辺り一帯だけで抑えられてる。最悪なのが、トライフィートが世界中に広がってしまう事。こうなったら、おしまい。現状、足止めはできてる。あなたの師匠と連絡は取れない?」
確かに。辺り一帯に被害は出ているけど、最悪の事態。トライフィートが世界中に広がる事は避けられている。この場に足止めできている。何より、ナナさんに連絡だ!
「ありがとうございます! 状況が状況だけに、考えが及んでいませんでした。すぐ、連絡します!」
あまりの状況に、ナナさんに連絡する事まで気が回らなかった。急いでスマホを取り出し、ナナさんに連絡を……。
「もう来てるよ」
「わっ?!」
いきなり背後からナナさんの声。びっくりしてスマホを落としそうになった。
「ふん。また、えらい騒ぎになってるねぇ。巨大怪獣大決戦かい?」
振り返ればナナさんがいた。帰ってきた!
「ナナさん、大変です! 実は」
「説明しなくても良い。大体、わかる。しかし……弟子の教育がなってないね。金毛九尾?」
「……あの馬鹿が……恥をかかせおって……」
「……金毛九尾をわざわざ煽る辺り、さすが伝説の魔女。性格悪い」
事態の説明をしようとしたけど、しなくても良いと制された。更に狐月斎さんに対し煽る。
で、狐月斎さんは表情を変えずに怒るという、非常に器用な真似をする。
そして金毛九尾をわざわざ煽るナナさんを性格が悪いと評する、イナバさん。
「……我が不肖の弟子が迷惑を掛けてすまない。とりあえず。私が責任を持って終わらせる」
今も暴れ回る三尾の巨大銀狐と、巨大トライフィート。狐月斎さんが責任を持って終わらせると。
「へぇ。そりゃ楽で良いね。さっさとやりな」
「ナナさん! 煽らないで!」
下手に煽って、矛先がこっちに向いたらどうするんですか!
「いや、『名無しの魔女』の言う通りだ」
そう言う狐月斎さんは、暴れ回る巨大トライフィートの方を向き、そして……。
次の瞬間、巨大トライフィートはバラバラに切り裂かれていた。更に……。
「いい加減にしろ、この馬鹿弟子が」
一瞬で巨大銀狐の頭上に移動。
ゴン!!!!
容赦なく、頭に拳骨を落とした。その威力は凄まじく、巨大銀狐の頭を地面にめり込ませた。
あっ! 巨大銀狐の姿が揺らいで、そして、元の吹雪さんの姿に戻った!
「……余計な手間を掛けさせてくれる」
顔色一つ変えず、息一つ乱さず、蟻でも踏み潰すが如く、あっさり事態を鎮めた狐月斎さん。
「……ハルカ、よく覚えときな。本当に強い奴はね。あの狐みたいに小細工抜きで純粋に強いんだよ。下級転生者はチート頼みだから異能封じで完封勝ちできるけど、あいつは無理。巨大トライフィートをバラバラにした攻撃だけど、魔法や異能じゃない。単に刀で敵を斬っただけ。ただし、とんでもなく磨き上げられた剣技の極致。一体、どれ程の年月を掛けて、あの領域に達したのやら? 少なくとも、百年、二百年じゃ無理だね」
「はい」
本当にとんでもない強さだな。初回で見せた、トライフィートの大群を全滅させた技も凄かったけど……。
背中に背負っている鞘に収めた、明らかに扱いにくい大太刀。そんな扱いにくい武器でありながら、一瞬で巨大トライフィートを葬り去った。
抜刀、攻撃、納刀。この一連の動作を一瞬で行い、しかも、いつやったのか、わからなかった。これが剣聖か。一体、どれ程の年月を掛けてあの領域に達したんだろう? そりゃ、たかが、三百年スライムを倒し続けたぐらいで最強を名乗る奴がいたら、怒るし、斬るよ。
チート頼みのなろう系の馬鹿共は、チートを潰せばただのクズだけど、狐月斎さんには通じない。本当に純粋に強いから。
所詮、なろう系は紛い物。本物の実力者には勝てない。メッキはメッキ。本物にはなれない。
「……で、申し開きは有るか? 聞いてやろう」
「申し訳ありません、師匠」
現在、黒巫女師弟による反省の時間。というか、尋問だな。淡々とした口調の狐月斎さんだけど、それが逆に怖い。
「ハルカ、余計な事はするんじゃないよ」
「はい」
ナナさんからも余計な事はするなと言われた。大丈夫、怖いからしません。
「私はお前を信用して留守を任せたのだがな? 破門するぞ?」
淡々とした口調ながら、容赦ない狐月斎さん。吹雪さんに対し、破門をほのめかす。
「本当に申し訳ありません! 破門だけはどうか、ご容赦を!! 何とぞ、何とぞ、ご慈悲を!!」
それに対し、文字通り、地面に額を擦り付けて平謝りの吹雪さん。何だか知らないけど、ひどく怯えている。……まさか、破門って……。
「……破門は『死』か。よく有る奴だね」
ナナさんは、狐月斎さんの言う破門が死を意味すると語る。
「ハルカ、他人事と思ってるんじゃないだろうね? 私も無能だと判断したら、即、追い出すからね」
「はい」
「わかってるなら良し」
僕にとっても他人事じゃない。気を付けよう。で、黒巫女師弟側はというと。
「……まぁ、今回は諸事情を鑑み、破門は勘弁しよう。今回だけはな。次は無い。だが……罰は与える」
ブチッ!!
「ギャアアアアアアアッ!!」
吹雪さんの絶叫。お尻を抱えてのたうち回る。辺りに飛び散る血。そして狐月斎さんの手には銀色のフサフサの尻尾が二本。あれは……。
「えげつないねぇ。複尾族にとって、尾は力の源、ステータス。それを失うのは、一番の屈辱であり、罰」
狐月斎さんは吹雪さんの三尾の内、二尾を引きちぎってしまった。なんて事を!
「あああぁああっ!! 私の尾が!! 尾が!!」
二尾を引きちぎられ、泣き叫ぶ吹雪さん。そんな吹雪さんに狐月斎さんは告げる。
「お前に三尾はまだ早かったようだな。一尾からやり直せ。破門でないだけ、ありがたく思え」
最初から最後まで一切変わらない鉄面皮。弟子にも容赦しない。恐ろしい人だ。……他人事じゃないけど。
「……この非常事態に余計な時間を取らせて、すまなかった。全ては私の不徳によるもの。謝罪する」
そう言って、深く頭を下げる狐月斎さん。
「師匠! 何も師匠が謝罪する必要は!」
その事に抗議する吹雪さん。とりあえず引きちぎられた尾の付け根は止血と消毒を済ませてある。
「吹雪。私はお前の師だ。故に、弟子の不始末をするのは当然だ」
しかし、狐月斎さんは取り合わない。吹雪さんの師だから、弟子の不始末をするのは当然だと。
「しかし!」
「くどい。ならば、最初からくだらん真似をするな」
口論になる黒巫女師弟。だけど、狐月斎さんが一方的に打ち切った。それでも何か言いたげな吹雪さんだったけど、狐月斎さんに一瞥されて黙った。……間違いなく、あれ以上何か言ったら、狐月斎さんは吹雪さんを斬っていた。あれは、そういう目だった。
「ハルカ。私は優しいだろう? 感謝しな」
「少なくとも、あの人よりは」
それにしても、狐月斎さん。
これまで一回も表情を変えてない。
鉄面皮とは言うけれど、あそこまで徹底してるのは初めて見た。……本当にナナさんが師匠で良かった。あの人だったら、斬られていた自信が有る。
「あの、とりあえず、情報の共有をしたいんですが。第八十四支部で何かわかったんですか?」
黒巫女師弟の一悶着も終わったところで、チェシャーさんから情報の共有がしたいと。第八十四支部で何かわかったのか? と。
「それに関してはな……」
狐月斎さんが説明。
「あの野郎!! 案の定、やらかしやがって!! 」
説明を聞いて、キレるチェシャーさん。そりゃ、キレる。案の定、第八十四支部の支部長がやらかしていた。それにしても、トライフィートの始祖か……。
「ぶっちゃけ、始祖さえ抑えりゃ、そこを起点に根絶やしにできる。更に言えば、始祖は捕捉済みだよ。これから処分しに行く。くだらない馬鹿騒ぎも終わりだ」
「やれやれ、一時はどうなる事かと思いましたが、あなたがそう仰るなら、安心ですな」
実は再びお茶の席を用意してくれていた、執事のエスプレッソさん。一連の会話は全て、席に着いた状況で行なわれていた。立ち話する内容ではないし。
「じゃ、行くよ。次は全員で行く。トライフィートの始祖は、手下を通じてこちらを見聞きしている。その始祖を潰すとなれば、向こうも最大限の抵抗をしてくるはずだ。戦力、期待してるよ。……ハルカ以外ね」
いよいよトライフィートの始祖を処分する。ただし、始祖は手下を通じてこちらの情報を得ているとの事。故に、最大限の抵抗をしてくるはず。総力戦だ。ただし、僕は戦力外。……悔しい。
ともあれ、トライフィートの始祖を討伐しに行く。でも、始祖はどこにいるんだろう?
「ナナさん、トライフィートの始祖はどこにいるんですか?」
「鏡面世界。この世界とは少し位相がズレた世界。わかりやすく言えば、鏡の中の世界。そこに隠れてやがった。奴め、進化して、空間操作能力を得ていたのさ。中でも鏡面世界に関する能力はかなり高度な奴なんだけどね」
ナナさんに聞いてびっくり。トライフィートの始祖は空間操作能力を得ていて、鏡の世界に隠れていると。完全に植物の域を超えている。
「さっさと行くよ。また、さっきみたいに馬鹿に割り込まれたら困る」
「そうですね。早く終わらせましょう」
ナナさんの言う通り。また、さっきみたいに馬鹿が割り込んできて事態が悪化したら困る。
ナナside
鏡面世界に隠れているトライフィートの始祖。それを討つには当然、鏡面世界に行かねばならない。
しかし、鏡面世界は極めて厄介な性質を持つ。
『近くて遠い、遠くて近い』
昔から有る、鏡面世界を指す言葉。要は、極めて干渉が難しいんだ。しかも基本、一方通行。入れても出られない。
世界における行方不明の内、幾らかは、鏡面世界に入り込んで出られなくなった連中だよ。
で、そんな干渉の難しい鏡面世界に行く為の方法だけど、狐月斎が名乗りを上げた。
「私が鏡面世界への道を開こう」
「そりゃ、楽で良い。頼むよ。『四剣聖筆頭』」
多少、嫌味込みで言ってやったが、全く動じない。さすがだねぇ、この程度じゃ効かないか。未熟者の弟子とは違う。
で、狐月斎は懐から煙管を取り出す。……黒を基調とし、金色をアクセントにした、一目で高級品とわかる奴。……いや、本当に高級品。何せ、旧世界の希少金属。オブシダイト製だよ、あれ。仮に売りに出たら、天井知らずの値が付くよ。
狐月斎はその煙管を手に、虚空を一閃!
「開いたぞ。早く通れ」
「……久々に化け物を見たよ」
「さっさと通れ」
いともあっさり、現実世界と鏡面世界の境を切り裂き、道を開きやがった。それだけでも凄いが、それよりも……。
「ナナさん。狐月斎さん、魔力を一切使っていませんでした」
「あぁ、そうだよ。あの狐、純粋な剣の腕前だけで、鏡面世界への道を開きやがった」
ハルカは狐月斎が一切、魔力を使わず鏡面世界への道を開いた事を指摘。気付いた弟子の優秀さを嬉しく思いつつ、その指摘を肯定。
全く、とんでもない化け物だよ、あの狐。しかも今は一尾。最低限に力を抑えてこれ。仮に九尾を解放したら、どうなる事か? ……現状、敵に回したくないね。私は下級転生者の馬鹿共みたいに自分は最強とは思ってないからね。
「わかっちゃいたけど、こりゃ、ひどい」
「これが解放されたら、おしまいですよ!」
さすがは狐月斎。出た先は空中。そりゃ、地上には出せないよ。何せ、地上はトライフィートだらけ。始祖め、現実世界に出していたのは、一部に過ぎなかった。本命は鏡面世界で増やした本隊って事か。ハルカの言う通り、こいつらが現実世界に解放されたらおしまいだ。星が食い尽くされる。
「吹雪、ハルカ、ミルフィーユ、三名はここに残れ。私、『名無しの魔女』、執事の三名を主力。ギルドの二名は状況に応じて対応せよ。狙うは、始祖。以上」
狐月斎が指示を出す。妥当だね。ハルカとミルフィーユはともかく、小狐は狐月斎以外の指示には従わないのが目に見えてる。……全く、実力は有れど、弟子の育成はなってないね、剣聖様よ。
ハルカが良い子で良かったよ。つくづくそう思う。
ともあれ、雑草処理といきますか! アーティファクトのナイフを手に、トライフィートの大群に向かう。私の役目は露払い。本命は狐月斎だ。確実に始祖を葬り去る。
「腕がなまっておられない事を願います。足を引っ張られてはたまりませんからな」
「うるさいよ。あんたこそ、なまってないだろうね?」
共に並び立つ執事。まさか、こいつと共闘する事になるとはね。
私は敵対した奴は、理由の如何を問わず殺す主義。事実、殺してきた。しかし、何人か殺し損ねた奴がいる。その数少ない一人がこいつだ。
「最後に殺り合って以来、どこに行ったかと思っていたら、スイーツブルグ家で執事なんかやってたとはね。悪魔界の名門『フェレス家』を捨ててまで。確かあんた、次期……」
「余計なお世話です。それより、やりますよ」
私の言葉を途中で打ち切る執事。ま、確かに今はそんな事、話している場合じゃない。襲い掛かってくるトライフィート達を迎え撃つ。
狐月斎side
「さて、くだらん馬鹿騒ぎはさっさと終わらせるか」
『名無しの魔女』と執事が露払いをしてくれている。ならば、私は元凶たる始祖を討つ。
当の始祖は手下共に足止めをさせて、自身は逃亡を企てたようだが……。無駄だ。
「焦っているな。何せ、鏡面世界から出られない」
私は黒巫女だ。封印術にも通じている。なまじ、鏡面世界に隠れたのが仇になったな。封印術には鏡の中に封じるというものが有ってな。その応用で鏡面世界に封印した。もはや始祖は鏡面世界から出られない。だが、念には念を入れ、きっちり滅ぼす。
「さて、始祖とやらを拝みに行くか」
気配から察するに、大体の見当は付いているが。
『ナゼダ?! ナゼデラレナイ?! コノママデハ、アノキツネニコロサレル!!』
そこには奇妙な奴がいた。ヒマワリ頭の怪人が。こいつが、トライフィートの始祖。そして、第八十四支部の支部長の成れの果て。
始祖は、手近にいた支部長に寄生していた訳だ。全くもって愚か。欲に駆られた挙げ句、このざまか。
で、鏡面世界から出たいらしいが、叶わず、焦っている。そして、そんな隙だらけの状況を見逃す私ではない。無言で紫滅刃を振るい、細切れにする。
ヒマワリ頭の怪人は紫滅刃の『死』の概念攻撃により断末魔の声を上げる間もなく、あっさり滅びた。そしてトライフィートの生みの親である始祖を通じて、手下共も『死』が伝播する。これで今回の騒動は終わりだ。さ、帰るか。
ハルカside
狐月斎さんの指示により、待機を命じられた僕、ミルフィーユさん、吹雪さんの三人。狐月斎さんの張った結界の中で、ナナさんと執事さんの戦いを見ていた。狐月斎さんは先に行ってしまい、どうしているかわからない。……しかし、気まずいな。
「…………私の尾が…………三尾が…………」
狐月斎さんに二尾を引きちぎられて、一尾になってしまった吹雪さん。相当ショックだったらしく、いまだに引きずっている。
「……余計な事は言わないのが賢明ですわよ」
「……そうですね」
お互いにそっと耳打ちを交わす、僕とミルフィーユさん。こういう時はそっとすべし。下手に関わるとろくな事にならない。特に彼女、なぜか僕を敵視しているし。
とりあえず、ナナさん達の戦いを見学。現実世界ではなく、鏡面世界だから、とにかく遠慮がない。大技を次々と繰り出してはトライフィートの大群を蹴散らす。周囲の被害を気にしなくて良いのはありがたいよね。はっきり言って、蹂躙。
それからしばらくすると、突然、トライフィート達が紫に変色。続けてドロドロに溶けて無くなってしまった。……狐月斎さんが最初にトライフィート達を倒した時と同じだ。という事は、狐月斎さんが始祖を倒したんだ。
「終わったようですわね」
「はい」
一時はどうなる事かと思ったけど……。あまりにもあっけない終わり方だった。でも、それで良いんだ。ドラマチックな展開なんかいらない。アニメやゲームなら、盛り上げる為にドラマチックな展開が有るんだろうけど、これは現実。現実にドラマチックな展開なんかいらない。現実と妄想を混同するのは、なろう系の馬鹿だけで十分。
「待たせたな。トライフィートの始祖は、私が討ち取った。奴め、人間に寄生していた。あと、ギルドの二人。これを見てほしい。始祖に寄生されていた奴が持っていた物だ」
トライフィート達が全滅してから程なくして、狐月斎さんが戻ってきた。始祖を討ち取ったと、何でもなさそうに告げる。危険度特級に指定されたスタンピードの元凶を討ち取ったのにだ。普通なら、英雄間違いなしの偉業なのに。
そんな狐月斎さんは、始祖に寄生されていた人間が持っていたという物をギルドの二人に見せる。一枚のカード。あれは身分証かな? チェシャーさんが受け取り、確認する。続けてイナバさんも。
「……間違いないです。第八十四支部の支部長の身分証です」
「……馬鹿な男」
どうやら、寄生されていたのは第八十四支部の支部長だったらしい。……自業自得とはいえ、悲惨な最期。
「さ、帰るぞ。鏡面世界を展開していた始祖が死んだ以上、程なく、ここは消える」
ちょっと! 恐ろしい事をサラッと言わないでください!
狐月斎さんはこんな時も変わらぬ鉄面皮。行きと同じように、煙管を一閃。空間を切り裂き、現実世界への道を開く。
かくして、怪植物トライフィートによるスタンピード騒動は解決した。……本当に、一時はどうなる事かと思った。少なくない犠牲者が出た事は痛ましいけど、世界滅亡という最悪の結果は免れた。
やっぱり、現実は厳しく残酷だ。フィクションみたいなハッピーエンドなんか無いんだ。
「ハルカ。良い勉強になっただろ? 世の中、そんなに都合良くできちゃいないのさ。そんなもんは、フィクションの中だけ。ま、それがわからない馬鹿が下級転生者な訳だ」
「はい。勉強になりました」
今回、僕が生き残れたのは、ひとえに運が良かったから。ナナさんに保護されていたから。もし、何の後ろ盾も無く、一人だったら、死んでいただろう。
「では、私達はこの辺で失礼する。行くぞ吹雪。いつまでウジウジしている? ……破門するぞ?」
現実世界に戻ってきて早々、狐月斎さん達は、別れを告げた。そもそもが単なる通りがかり。むしろ、よく協力してくれた。
「あの、お待ちください! 此度の件、私は、吹雪さんに助けられ、更に狐月斎様はトライフィート始祖討伐の大手柄。ぜひ、そのお礼を」
立ち去ろうとする狐月斎さん達にミルフィーユさんが呼び掛けるが……。
「気持ちだけ受け取っておこう。別に謝礼目当てでした事ではないからな」
「師匠、せめて謝礼を受け取るぐらいは……」
「……破門するぞ?」
「すみません!!」
狐月斎さんは気持ちだけ受け取っておこうと言い、何も受け取らなかった。吹雪さんは謝礼を受け取るぐらいはと言ったものの、狐月斎さんに睨まれ即、謝る始末。
「では、さらばだ。縁が有ればまた会うだろう」
「…………ふん」
「……吹雪」
「…………ごきげんよう」
多少ゴタゴタしたものの、黒巫女師弟は去っていった。何だかよくわからない人達だったけど、それでも今回は助けられた。その事には感謝。……次に会う時が有ったら、敵じゃない事を祈りつつ。
その後、他の面々ともお別れ。
「私達は本部に戻ります。今回の件の報告。それに後始末も有りますので」
「……第八十四支部壊滅の後始末。支部長のやらかし。トライフィートによる被害。ついでに、勝手にトライフィート戦に割り込んできて死んだ馬鹿。やる事が一杯。残業確定」
「イナバ。頼むから言わないで。気が重くなるから」
「……ネコちゃん。現実はいつも厳しい。嫌なら、ギルド辞めたら?」
「……はいはい、降参。仕方ない。やるしかない。どっかの馬鹿受付嬢みたいに『残業が嫌だから、職務規定違反する』なんて事はしないよ私は」
ギルド職員の二人も帰ると。事態が解決した以上、本部に報告しなくてはならない。それと後始末も有る。残業確定と、二人共嫌そう。だからといって、職務規定違反はしないと。二人から聞いたけど、以前、残業が嫌だからと、職務規定違反をした受付嬢がいたそうだ。
結果、処分されたと。しかも、なまじ抵抗したせいで極刑に。ギルド職員はエリートな分、責任もまた重大。故に、厳しい規則、規定に縛られている。そんなに残業が嫌なら、ギルドなんか辞めれば良かった。
エリートたるギルド職員の座は失いたくないが、残業もしたくない。そんなわがままは通らない。
「では、私達はこれで」
「……さよなら」
こうして、チェシャーさん、イナバさんは帰っていった。……残業頑張ってください。
最後に、スイーツブルグ侯爵家の令嬢、ミルフィーユさんと、執事のエスプレッソさん。そもそもこのお二人は完全にとばっちり。
聞けば、近くにスイーツブルグ侯爵家の領地が有り、その視察に来たところをトライフィートによるスタンピードに巻き込まれたそうだ。運が悪かったとしか……。
「とんだ目に遭いましたが、命が有るだけありがたいですわ。死んだら終わりですもの。しかし、お母様に報告するのが憂鬱ですわね。怪植物の大群やら、伝説の三大魔女の一角やら、金毛九尾の黒巫女やら。どう説明したものでしょうね?」
彼女もまた、視察先に関する報告書を当主である母に提出しなくてはならないらしく、今回の無茶苦茶な事件をどう書こうか、困っている。
まぁ、普通は信じてくれないよね。謎の怪植物の大群、伝説の魔女、金毛九尾の黒巫女。ふざけてるのか? と。でも全て、事実なんだよね。とりあえず、頑張って報告書を書いてください。
「それではミルフィーユお嬢様、そろそろ参りましょう。あまり遅くなっては、ご母堂様のお怒りを買いましょう。ショコラ様、エクレア様も心配しておいででした」
「ありがとう、エスプレッソ。お姉様方に連絡してくれましたのね。では、私達もここで失礼いたしますわ。機会が有れば、ぜひ、当家にお越しください。ごきげんよう」
「では、これにて失礼いたします。『名無しの魔女』殿。そして、美しいお嬢さん」
ミルフィーユさんは、貴族らしく上品に優雅に。執事のエスプレッソさんは礼儀正しく一礼し、去っていった。
「……ふん」
「ナナさん、執事さんと知り合いなんですか?」
「まぁね。昔、色々有ってね」
「そうですか」
何が有ったのか知らないけど、余計な事に首は突っ込むまい。……怖いし。
「さ、くだらない馬鹿騒ぎは終わった。当初の予定の挨拶回りに戻るよ」
「はい」
空中からバイクを取り出し跨るナナさん。僕もその後ろに跨り、ナナさんにしがみつく。
「じゃ、行くよ。次は更に南。ロピルカ大陸。そこに私と並び称される魔女が住んでる。そいつの所さ。『死の聖女』って呼ばれててね。腕利きの死霊術師さ」
「……帰りたいんですけど」
「異論反論は聞かないよ。文句言うなら追い出す」
次の挨拶回り先は、ナナさんと並び称される魔女。『死の聖女』と呼ばれている、腕利きの死霊術師だと。アンデッド使いじゃないですか! 嫌ですよ、そんな人と会うのは!
でも、僕に拒否権は無い。バイクは一路、南のロピルカ大陸を目指して、空を走る。
狐月斎side
「……まだまだ未熟。ほんの駆け出しに過ぎん。だが、将来性は感じたな。あれが、死神ヨミの言っていた上位転生者か。ハルカ・アマノガワ。覚えておこう」
くだらない馬鹿騒ぎも終わり、再び、吹雪と二人、旅の空。
「師匠、あれが師匠の仰っておられた『蛇』ですか?」
「あぁ。間違いない。彼女こそが『蛇』。確かに今はまだ未熟。今なら、お前と彼女が百回戦えば、お前が百回勝つ。だが、半年後はわからんぞ。あれは伸びる。才能もさることながら、気性が良い。己の弱さ、未熟さを理解し、周りの者達の戦いの一挙手一投足を見て、学ぼうとしていた。私からも存分に学んでいたぞ。いや、実に愉快愉快」
久しぶりに将来有望な若手に会えた。実に喜ばしい。
「……あれが半年後には私に及ぶと?」
不満そうな吹雪。……我が弟子の欠点。天才。いや、大天才であるが故に、プライドが非常に高く、他者を基本的に認めない。今回の暴走もトライフィートが自身より、ハルカを優先的に狙った事が不愉快だったが故。困った奴だ。
「可能性としてはな。それにもう一人。あのミルフィーユという娘。あれもまた、面白い。あれは『鳥』よ。あの娘もまた、計り知れん。くだらないバカ騒ぎではあったが、良き出会いのきっかけとはなった。……励めよ? 我が弟子。少なくとも、失った尾は取り戻せ」
「言われずとも。宣言します。私は半年以内に四尾に昇格してみせます」
私が自身以外を褒めたのが気に入らなかったらしく、吹雪は半年以内に四尾への昇格を宣言。相変わらずの自信家ぶり。
「そうか。ただし、できなかった場合は破門だ。良いな? 私はできもせん大口を叩く馬鹿はいらんからな」
「ご安心ください。この凍月 吹雪、できない事は言いません」
「ならば良し」
普通の奴ならただの妄言でしかないが、吹雪ならば……。
「さ、行くぞ。そもそもはお前の小太刀の素材を探す旅だからな」
「はい」
くだらない馬鹿騒ぎに付き合ったが、本来の目的は吹雪の新しい小太刀の素材探し。良い素材を求めて、二人旅。
「そういえば。師匠ならお気付きでしょうが、あの『蛇』の持っていた鉄扇。私の小太刀『氷牙』と姉妹でした」
「そうだったな。同じ製作者による品だ。奇遇よな」
「あれもどこかの下級転生者の持っていた品という事ですか」
「お前の『氷牙』と同じくな」
「となれば、彼女が仮に私に並ぶ時が来たら、新しい鉄扇を必要とするでしょうね」
「そうだな」
吹雪め。ハルカの事は気に入らんが、その才能、将来性までは否定していないか。まぁ、そうでなくては我が弟子たる資格は無い。
さて、と。最後の始末を付けるか。
今回のトライフィート騒ぎ。その発端がまだ残っているからな。物事はきちんと終わらせてこそ、初めて終わったと言える。
始祖に寄生された支部長の持っていた身分証。あれから過去の記憶を読み取ってな。今回の件のそもそもの元凶の存在を知った。そいつを始末せねばな。
前支部長の娘side
「あのクズが!! 使えない!! せっかく途中まで上手くいっていたのに!!」
父を左遷し、最終的に死に追いやったギルド本部長、ミシェル・コダギア・キネガスカ。奴へ復讐する為、かつて、奴に冒険者資格を剥奪、追放された元、第一級冒険者の男を第八十四支部の新支部長に仕立て上げた。
そして奴が偶然見つけた植物。それを栽培し、資金源、戦力とし、ギルド本部、そして本部長に復讐する予定だったのに!!
あのクズがヘマをし、植物が暴走。大変な事に。私はどうにか逃げ延びる事に成功。幸い、あの植物の種は持ち出せた。クズは殺られたけど、この種さえ有れば……。
しかし、その思惑さえ崩れた。突然、種が全て溶けて無くなってしまった。つまり、全てが台無しに。
「でも、私は生きている。あの豚め!! いつか必ず復讐してやる!!」
復讐計画は台無しになったけど、私は生きている。ならば、いずれ復讐の機会は来る。その時こそ……。
その直後、視界が突然、回転する。首の無くなった私の身体が見えた。更に首が地面を転がっていくのを感じた。一体、何が……?
その次の瞬間、完全に私の意識は絶たれた。永遠に。
狐月斎side
「後始末完了」
今回の事件の発端。第八十四支部の前支部長の娘の首を刎ねた。更にその首を細切れにして、とどめを刺す。
「これで、本当に終わりだ」
「救えない馬鹿ですね。逆恨みで破滅するなんて」
そもそも、こいつの父親。前支部長がギルドの金を横領していたのが悪い。だから左遷された。完全に逆恨みだ。吹雪もあきれる。
「馬鹿は死なねば治らん。と言うか、殺処分一択だ」
この世に無能はいらん。死ね。生前から変わらぬ私のモットー。少し前にも、スライムを三百年倒し続けて最強とか抜かしていた馬鹿な魔女がいた。
たかが三百年。しかもスライムを倒し続けた程度で最強を名乗るなど、不快、不愉快極まりない。故に斬った。全くもって、話にならん雑魚だった。
最低限、レッサーデーモンを相手にせよ。レッサーデーモンを狩れるか否か。それが、一つの基準。スライム風情、幾ら倒そうが何の足しにもならん。強敵との戦い、正しい指導、それこそが力となる。
雑魚など幾ら倒そうが無意味。間違った鍛錬は無駄。そういえば二十五年、復元スキルを鍛え続けて最強になったと抜かしていた愚か者もいたな。老婆に復元スキルを使い、若返らせたは良いが、その反動で死なせた。
回復術師なら真っ先に叩き込まれる、基礎中の基礎。急激な回復をしてはならない。回復の反動で患者を殺す事になる。この愚か者は二十五年、復元スキルを鍛え続けてきたが、肝心要の基礎を学んでいなかった。二十五年、何を学んできたのか? 単なる時間の浪費だったな。
そういう点では、我が弟子、吹雪。そして『名無しの魔女』の弟子、ハルカ・アマノガワは恵まれている。優れた師の元で学んでいる。
「励めよ、若人達よ」
いやはや、長生きはするものだな。将来が楽しみだ。
怪植物トライフィート騒動、遂に終了。最後は狐月斎が決めてくれました。そして事件解決した事で、黒巫女師弟は去っていった。
トライフィート騒動は終わったものの、その後始末は必要。ギルドの二人は事件解決の報告、事後処理の為、本部に帰還。
スイーツブルグ侯爵家の三女。ミルフィーユと執事のエスプレッソもまた、領地内で起きた事件の顛末を報告すべく、帰還。
魔女師弟は次の目的地。南のロピルカ大陸へ。そこに住む、『死の聖女』と呼ばれている魔女の元へ。
最後に狐月斎がもう一仕事。今回の件の真の元凶。前支部長の娘を斬りに。
トライフィートから運良く逃れ、種を持って逃亡中。種さえ有れば、またトライフィート研究ができる。次こそ、父を左遷し死に追いやった本部長に復讐してやると企むも、狐月斎が始祖を討った事で、肝心要の種が溶けて無くなってしまった。
それでも復讐を諦めないでいたが、結局、狐月斎に斬首されて終了。
追記∶ハルカの鉄扇と吹雪の小太刀は同じ製作者の手による物。第二級以上、第一級未満の性能。中々の高級品。
次回、『死の聖女』編




