第19話 ハルカ、外の世界へ 冒険者ギルド編5
吹雪side
私達が怪植物を退けたのと、ほぼ同じ頃、少し離れた場所でも怪植物との決着が付いたようでした。……あの大量の紫の三日月。師匠の狐月剣ですね。ならば大丈夫。あの師匠が仕損じるなど、ありえませんから。
「何でしょう? あの大量の紫の三日月は……」
ミルフィーユも向こうで発生した大量の紫の三日月が気になる様子。
「一気に怪植物の気配が消えました。ただ、先程の攻撃の気配、覚えが有ります。あれはアーティファクト。……アーティファクトの使い手が現れたというのですか? だとすれば、なんという奇跡」
それに対し、自らの推理を述べる執事。アーティファクトの使用を見抜く辺り、ただ者ではありませんね。当たっています。師匠が愛刀の紫滅刃を使い、狐月剣を放ったのです。紫滅刃はアーティファクトの中のアーティファクト。神器ですからね。
アーティファクトの恐ろしさは、概念攻撃。理論理屈を無視して、強制的に結果を押し付けてくる。ましてや、最高位のアーティファクトである神器。その威力たるや、言うまでもないでしょう。……もっとも、使い手に掛かる負荷もまた、凄まじいのですが。全く、我が師ながら、とんでもない化け物です。さすがは剣士序列二位。四剣聖筆頭。そして金毛九尾。夜光院 狐月斎。
……っと、師匠から連絡です。ウェストポーチから端末(スマホ擬き。性能はスパコン級)を取り出し通話。
「はい、こちら凍月 吹雪。はい、こちらは既に片付けました。生存者は二名。はい、はい、わかりました。ただちにそちらに合流します。はい、では」
師匠は怪植物を殲滅。ギルドから派遣された者達と出会い、合流されたとの事。私にも戻ってこいとの指示。
「失礼ながら、どなたから?」
通話相手が気になるのか、聞いてくるミルフィーユ。
「師匠からです。怪植物と交戦、これを殲滅されたと。それとギルドから派遣された者達も一緒だそうです。私は師匠の元に戻りますが、あなた方はどうします?」
私は通話相手が師匠であると明かし、更にギルドから派遣された者達と一緒だと告げます。師匠の元に戻る事も。その上で、彼女達はどうするのか聞きました。
「私達も行きます。犠牲者が多数出ているのです。事件を解決せねば、顔向けができません。何より、あんな危険な植物を野放しにするなどありえません」
「そうですか。まぁ、好きになさい。ただし、私や師匠の邪魔は許しませんからね。その際には、師匠か私に斬られるつもりでどうぞ」
自分達も行くと即答。私としてはさっさと帰ってほしかったのですが。確かに戦いは数の暴力が物を言いますが、それはあくまで、使える奴である事が前提。
ミルフィーユが無能とは言いません。中々のものとは思いますが、私の求める力量には届いていません。はっきり言って、足手まといです。
とはいえ、本人の意思は固く、帰れと言っても聞き入れないでしょう。ならば、好きにさせます。別に死んだところで、私には何の痛痒もないですからね。……彼女の実家からの謝礼は貰えなくなりますが。まぁ、別に金には困っていませんし。
「では、行きますよ。私に掴まりなさい」
取り出したのは銀色の狐の面の根付。師匠は金色の奴を持っておられます。金銀で一対となっており、お互いの有る場所へ即座に行ける、便利な品なのです。ミルフィーユと執事が私に触れたのを確認し、根付の力を発動。師匠の元へ。
狐月斎side
ヒマワリ擬きを一掃し、その後、話し合いの場を持つ事に。とりあえず、地上に降りる。
まずは自己紹介。私は既に名乗ったからな。今度は向こう。
「……ほう。あなたがかの、『名無しの魔女』か。その名は以前から聞き及んでいた」
「そういうあんたこそ、かの、『金毛九尾』。そして、四剣聖筆頭。夜光院 狐月斎か。聞きしに勝る腕前だね。四剣聖筆頭も納得だよ」
お互いに軽くジャブの応酬。本気で争う気は無い。無駄だからな。
更に他の面々も名乗る。
「はじめまして。『名無しの魔女』の弟子を務める、ハルカ・アマノガワと申します。浅学非才の若輩者ですが、よろしくお願いします」
銀髪碧眼のメイド少女が礼儀正しく名乗り、深々と頭を下げる。……この気配、そうか。彼女が。私は納得し、同時に運命というものを感じた。
続いて事務員風の服装の若い娘二人。猫族と兎族か。
「冒険者ギルド本部、探索部所属。窓口担当。チェシャー・ネコと申します。かの高名な『金毛九尾』にお会いできた事、感無量です」
「……同じく、冒険者ギルド本部、情報部所属。イナバ・ヴォーパル」
ふむ。彼女達もできるな。戦力として十分使えそうだ。それと私の事も知っているか。
「さて、本格的な話をする前に、少し待ってくれるか? 弟子を呼ぶ。向こうに見える廃城の方へ助っ人に出したのでな」
既に向こうも終わったらしい。まぁ、吹雪なら当然か。端末を取り出し通話。吹雪にこっちに来るように指示。その際に、生存者二名がいると伝えられた。吹雪以外で生き残りがいるとはな。
「時間を取らせたな。すぐに来る」
「そうかい」
その後、すぐに吹雪とその連れ。生存者二名が来た。
「師匠、ただいま戻りました」
「ご苦労」
手短に言葉を交わす。無駄口はいらん。
「で、その二人が生存者か」
「はい。怪植物討伐に参加したいとの事です」
吹雪に付いてきた生存者二人。……ふむ。若い娘の方は悪くないがまだまだ。対し、執事の方はできるな。あと、執事は人間ではないな。
「好きにすれば良い。私にとやかく言う筋合いは無いからな。ただし、私や吹雪の邪魔はするな。邪魔するならば斬る」
そもそも、私達は部外者。とやかく言う筋合いは無い。ただし、邪魔をするならば容赦はせん。斬る。私達は正義の味方ではないからな。あくまで自身の為に動く。
「さすが師弟ですわね。吹雪さんにも同じ事を言われましたわ。私達を邪魔と判断した時は、遠慮なく斬っていただいて結構ですわ」
「同じく」
「……ならば良し」
決意は固いか。でなければ、吹雪が連れてくるはずもなし。
その後、合流してきた二人と他の面々の交流。
「はじめまして。『名無しの魔女』の弟子のハルカ・アマノガワと申します」
「私は黒巫女見習い。凍月 吹雪。黒巫女『紫』にして、四剣聖筆頭、夜光院 狐月斎の弟子を務めています。以後、よしなに」
「アルトバイン王国、スイーツブルグ侯爵家、三女。ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグと申します。よろしくお願いいたします」
若手三人がそれぞれ自己紹介。交流している。その一方で……。
「久しぶりだねぇ。まだ生きてたのかい? とっくにくたばったかと思っていたんだけどね」
「その言葉、そっくりあなたにお返ししましょう。相変わらず同性愛にいそしんでおられるようで。非生産的だと、以前申し上げたはずですが?」
「余計なお世話だよ!!」
『名無しの魔女』と執事が揉めていた。どうも以前からの知り合いらしい。険悪な関係らしいが。
「……ネコちゃん、私達はどうする?」
「とりあえず、場が落ち着くまで待とう」
ギルド若手二人組は、待機。特に『名無しの魔女』と執事の間が険悪故な。これはしばらく掛かりそうだな。
それからしばらく。ようやっと場が落ち着き、それぞれ挨拶、自己紹介を済ませた上で、情報のすり合わせを行う。情報の共有は大切。これをおろそかにしては、勝てる戦いも負ける。
「なるほど。事の発端は下級転生者のやらかしか。愚かな」
まずは『名無しの魔女』から、あの怪植物についての説明を聞いた。名はトライフィート。地方領主の娘として転生した下級転生者が生み出した存在。
全くもって愚か。何がチートで農業改革か。その手の企みをする下級転生者は後を絶たないが、成功した者はいない。全て失敗、破滅した。
力や、知識や、技術が有れば全て上手くいく。下級転生者特有の愚劣、稚拙極まりない浅はかな考え。
そんな訳がない。世の中はままならない。思い通りには事は運ばない。所詮、下級転生者はくだらんフィクションを真に受けた愚か者に過ぎん。だから生前から負け組なのだ。
ちなみに私は生前は世界的IT企業の会長だった。世界長者番付にも載ったぞ。今となっては、過去の話だがな。今の私は、金毛九尾の狐人の黒巫女。夜光院 狐月斎だ。
「魔力、生命力を吸収するとの事ですが、お話を聞くにかつてより劣化しているように感じましたわ。私、実際にあの怪植物。トライフィートと交戦し、魔力の炎で攻撃しました。確かに効きは悪いですが、一応有効でしたわ」
続いてミルフィーユから。彼女は実際に今回のトライフィートと交戦している。そんな彼女曰く、トライフィートはかつてより劣化しているように感じたと。 魔力の炎で攻撃したら、効きは悪いながらも、一応有効だったと。
『名無しの魔女』によれば、トライフィートは魔力を吸収する。故に魔力を用いた攻撃は通じないはずが、彼女が交戦したトライフィートは魔力の炎による攻撃が効きが悪いながらも一応、有効だったと。
「でも、さっきの余計な事をした馬鹿の攻撃は吸収しましたよね」
だが、ここでハルカが疑問を呈する。ミルフィーユの炎は効きが悪いながらも、一応有効だったのに対し、先程の馬鹿の放った攻撃は吸収された。その違いは何か?
「……多分、奴らの数。ミルフィーユって言ったね。あんたは、廃城で奴らと戦ったんだね? 屋内でだね?」
「その通りですわ。あぁ、なるほど。屋内だから、必然的に数が限られる。故にですか」
吸収される、されないの違いは数。ミルフィーユの場合、屋内戦で一度に相手にする数が少ない故に、トライフィートの魔力吸収量もさほどではなく、故に吸収しきれなかった分のダメージを受けた。
対し、先程の馬鹿。トライフィートの大群に向かって魔力を放ったが、奴らは数の暴力で吸収した。多少の犠牲は無視してな。
いずれにせよ、時間は無い。一刻も早く、トライフィート出現の原因を突き止め、根絶せねばならない。先程のように、下級転生者を始めとする馬鹿共が出しゃばってきては困る。
「……ナナさん。僕はずっと気になっていた事が有ります。今回のトライフィートは、話に聞いたかつてのトライフィートと違うと。かつてのトライフィートは増える事を優先していたように思います。対し、今回のトライフィートは養分を吸収する事を優先しているように見えました。それで、ふと気付いたんです。あくまで僕の勝手な推論ですが、あいつらは、蟻、蜂に似ているって。まるで女王の為に餌を集める、働き蟻、働き蜂です」
そこでハルカが自身の意見を述べた。今回のトライフィートは増殖より養分吸収を優先している。まるで女王の為に餌を集める、働き蟻、働き蜂だと。
その言葉に『名無しの魔女』は声を上げた。
「ハルカ! それ、当たってるかもしれないよ! だとすれば、色々と辻褄が合う。奴らが弱い訳。増殖よりも養分吸収を優先している訳。あんたの言う通りだとすれば、どこかに女王がいる。恐らく、前回の宇宙ごと処分の際に、別の宇宙に飛ばされたか、逃げ込んだか。ともあれ、ここに辿り着いた訳だ。で、目覚めたばかりで養分を必要としている。その為に兵隊を作り、養分を集めさせている。……あくまで推論だけど、私は支持するよ」
ふむ。確かに確証は無いが、辻褄は合う。もしそうなら、女王を見つけて潰さねばならない。問題は女王がどこにいるかだな。
「……第八十四支部に何か手掛かりが有るかもしれません。ここは以前から、本部に対し叛意有りで、特に、最近就任した新支部長が怪しい動きをしていた事がわかっています。そもそも、第八十四支部管轄エリア内で起きた事件ですし」
それまで黙っていたギルド若手の猫の方から情報提供。なるほど、確かに怪しい。ギルド本部に叛意を抱く支部長とやらが、やらかした可能性は高い。
「調べる価値は有りますな。で、誰が行きます?」
執事がそう言う。さて、調べに行くとしても、誰が行くか? 全員で行く訳にもいかん。もしもの事態に備え、人員を分けねばな。
「……私が行きます。ギルドの支部である以上、セキュリティの関係でギルドの者の権限が必要になる」
ギルド若手の兎の方が挙手。確かにセキュリティの関係上、ギルド本部職員がいれば心強い。
「私も行くよ」
『名無しの魔女』も名乗りを上げる。これで二人。チームを組むなら最低、三人。スリーマンセル。ならば……。
「私も行こう。これで三人。スリーマンセルだ」
私も行くと名乗りを上げる。
「……文句が有るなら言え。聞こう。聞いた後、斬るがな」
「それは、はなっから文句を聞く気が無いと仰ってますよね、師匠」
「私は無駄が嫌いだ」
時間は有限。有意義に使わねばならん。
という訳で、兎、『名無しの魔女』、私の三人で第八十四支部とやらに向かう事に。手掛かりが掴めると良いが……。
ナナside
「それじゃ、行ってくるよ。良い子にしてるんだよ?」
可愛い弟子の頭を撫でながらそう言うと、ハルカが不満そうな声を上げる。
「子供扱いしないでください!」
「そういう事を言ってる内はまだまだ子供だよ」
子供扱いされて怒るハルカを尻目に、テレポートを使い第八十四支部へ。
「……ここです。ここが冒険者ギルド、第八十四支部。……だった所」
「こりゃひどいね」
「…………………………」
テレポートした先。冒険者ギルド、第八十四支部。滅茶苦茶に破壊され、無残な廃墟と化していた。
「……一番怪しいのは支部長の執務室。ただ、その分、セキュリティも厳重。付いてきて」
兎の案内で支部長の執務室を目指す。今回の件で一番怪しいのが、ここの支部長だからね。
兎の案内で第八十四支部の建物の中へ。全員警戒は怠らない。何が出てくるかわからないからね。兎は蹴り技主体。私はナイフを抜き、狐月斎は小太刀を抜いていた。やはり、背負った大太刀以外にも持っているか。
私達は支部長の執務室へと向かう。すると、頑丈な金属製の壁に道を阻まれた。
「……セキュリティが起動していますね。下手に破ると最悪、支部が自爆します」
「証拠隠滅ってか。よっぽど知られたくない事をしていたみたいだね」
「古今東西、この手の輩のやる事は変わらんな」
下手に破ると支部が自爆。まぁ、よく有る手だ。別に自爆されたところで痛くも痒くもないが、情報を得られないのは困る。
「……まぁ、こちらは、本部長権限を与えられています。支部の全てのセキュリティを解除できます」
兎がそう言って取り出したのは、一枚のカード。それをカード読み取りのスリッターに通すと、あっさり壁が引っ込む。さすがは豚。できる奴だよ。必要な物事に対しては一切、ケチらない。とりあえず、先を急ぐかね。
と、思ったら新手だよ。自動人形だ。蜘蛛タイプ。それも人間の大人サイズときた。それが奥からゾロゾロやってくる。間違っても安い買い物じゃない。それをこれだけ大量に配置しているとはね。ここの支部長とやら、明らかに違法な事に手を染めてるね。そして、そのスポンサーがいる訳だ。こりゃ、思ったより根が深いよ。
ま、とりあえず行く手を邪魔する奴は全てぶち壊すだけさ。
兎が蹴りで蜘蛛を粉砕。私はナイフで切り裂く。狐月斎に至っては、蜘蛛が一定の間合いに入った途端、細切れにされる。恐ろしい事に、その太刀筋どころか、いつ斬ったかさえ見えない。これが四剣聖筆頭か。……最盛期の私でも勝てるかわからないね。
敵でなくて良かったよ。……味方でもないけどね。
途中、何度も妨害に遭ったが、全て蹴散らし、どんどん先へと進む。そして辿り着いたのが支部長室。カードでロックを解除。中へ。
「……クリア。安全確認」
「確かに誰もいないね。もぬけの殻か」
「……典型的な成金の部屋だな。金の使い方がなっていない」
まず、兎が手鏡を使い内部を確認後、部屋に飛び込み安全確認。続いて私と狐月斎が入る。部屋は無人。荒らされた様子もない。
しかし、悪趣味な部屋だねぇ。狐月斎の言う通り、典型的な成金の部屋。金に物を言わせて、買い揃えたであろう、美術品、工芸品がズラズラ並べ立てられている。こういうのは集めりゃ良いってもんじゃないんだよ、阿呆。品が無い。
ともあれ、手分けして手掛かりを探す。……有ったよ。書類とレポート一式が。ご丁寧に、金庫にしまわれてた。もっと捻れよ。楽で良いけど……。
見つけた書類とレポートを読む。……事の起こりは支部長が探索先で偶然にも、瀕死かつ休眠状態のトライフィートを発見。回収した事から。
さっさと処分すれば良いものを、第一級冒険者の直感でトライフィートがただ者ではないと察し、これを利用できないかと企んだ。
調査の結果、全体が非常に栄養価が高く、美味。特に種からは非常に高品質の油が大量に取れる。ナッツとしても美味かつ、高栄養。捨てる所が無い。しかも荒れ地だろうが、過酷な気候だろうが、問題なく育ち、栽培は極めて容易。収量も多い。農作物として理想的。
更に生物兵器としても極めて優秀。制御できれば、恐るべき軍団が誕生する。この事に支部長の男は狂喜乱舞。
さっそく、冒険者時代のコネを活かし、バニゲゼ通商連合の商人に話を持ち掛け、トライフィートの栽培、制御の研究を始めた。
レポートによれば、一応、上手くいっていたらしい。最初に見つけた株。これを始祖と呼称し、その始祖からできた種を元にトライフィートの安定栽培、制御の目処が立ったと書かれたところでレポートは終わっていた。
「……多分、その直後にスタンピードが起きた」
「だろうね。トライフィートはずっと機会を伺っていたんだろうね。スタンピードを起こすその時を」
「欲に駆られた愚か者の典型だな」
馬鹿のやらかしにあきれるが、同時にわかった事も有る。最初に見つかった株。始祖。こいつが元凶だ。始祖さえ見つければ、そこを起点に根絶やしにする方法は有る。
しかし、問題は始祖がどこにいるかだ。書類にもレポートにもその場所が書かれていない。機密事項ってか。始祖の気配を探ろうにも隠してやがる。始祖はやはり進化している。もはや、単なる怪植物じゃない。癪だが仕方ない。
「狐月斎。あんた黒巫女だろ? しかも最高位の『紫』。占いぐらいお手の物だろ? 始祖の居場所を占ってくれるかい?」
専門家に頼む。幸い、黒巫女様がいるからね。
「……仕方ないな」
渋々ながら、了承する狐月斎。占札を取り出すとその場で占う。
「……出たぞ。座標はここだ」
結果が出て、その座標を書く狐月斎。
「……すぐ行きましょう」
兎がそう言うが、狐月斎が待ったを掛ける。着信のバイブ音。狐月斎が端末を取り出す。
「どうした吹雪? 何? 敵襲?! 巨大なトライフィートだと!! 詳し……」
そこで通話が切れたらしい。しかし、こりゃ不味い! 思った以上に敵の行動が早い!
「戻るぞ!」
手短に告げる狐月斎。言われるまでもない。すぐさまテレポートしようとするが……。
ここで、トライフィートの大群が湧いて出た。本当に、虚空から突然、湧いて出てきた。
「……奴ら、まさか空間操作能力を!」
兎が叫ぶ。おいおい、どれだけ進化してやがるトライフィートは! しかし、こいつらを放置はできない。
「ハルカ! そっちは頼んだよ! 死ぬな!」
ハルカside
少し時間を遡る。ナナさん達が第八十四支部に向かった後。
「いい加減、機嫌を直してはどうですか? そんなのだから、師から子供扱いされるんです。一時の感情に流され、大局を見失うのは愚か者のやる事。そして、そんな愚か者が周囲を巻き込む大惨事を引き起こす。私はこれまでそんな連中を何人も見てきました。高名な魔女の弟子と聞き、どれ程の者かと思いましたが、買い被りでしたか?」
ナナさんに子供扱いされて不機嫌なところ、銀髪三尾の狐人にして、黒巫女見習い。吹雪さんにたしなめられつつ、こき下ろされた。……喧嘩売ってるのかな?
「おやめなさい。ハルカさん、あなたも機嫌を直しなさい。吹雪さんも正論ですが言い過ぎです。何より、今は非常事態です。揉め事を起こしている場合ではありません。もしもの事態に備えるべきです」
険悪な雰囲気になりかけたところを、貴族令嬢であるミルフィーユさんに止められる。確かに、今は非常事態。揉め事を起こしている場合じゃない。……しかし、この吹雪さん、僕に対し、やけに刺々しいな。
この時点の僕は知らなかった。この銀髪三尾の狐人の黒巫女と、長きに渡る因縁ができる事を。今日、この日がその始まりとなる事を。
そして、金髪碧眼の令嬢。彼女との出会いもまた、僕の人生において、大きな意味を持つ事を。ナナさんとの出会いに続く、重要な出会い。 彼女達との出会いが無ければ、歴史は変わっていただろう。破滅の歴史に。
ミルフィーユさんにも言われたし、とりあえず、険悪な雰囲気を払拭すべく話題を変える。
「ところで吹雪さん。質問が有るんですが、良いですか?」
「何ですか? くだらない事なら答えませんよ」
……本当に刺々しいな。しかし、ここは我慢。
「あなたの師、夜光院 狐月斎さんについてです。あの方『金毛九尾』って呼ばれていましたけど、一尾でしたよね? もしかして、尾の数を変えられるんですか?」
気になっていた事を聞いてみる。『金毛九尾』と呼ばれていたのに一尾の狐月斎さん。複尾族は尾の数が多い程、格が高く強いという。で、吹雪さんは三尾。なのにその師である狐月斎さんが一尾というのはおかしい。三尾がわざわざ格下の一尾に弟子入りする訳がない。となれば、尾の数を変えられるのではないかと。しかし、この質問が地雷を踏む事に。
「……そうですよ。師匠は尾の数を変えられます。複尾族の力は尾の数に比例します。九尾たる師匠の力は強大無比。故に力を抑えるべく、普段は一尾にしておられるのです」
なるほど。力を抑える為に一尾にしているのか。……それであの強さ。仮に九尾を解放したら、どれだけ強いんだろう? となると、三尾の吹雪さんは……あ、不味い! 気付いた時には遅い。
「私は師匠と違い、まだ尾の数を操作できないのです。最低、五尾にならないとできないそうで」
明らかに不機嫌な吹雪さん。尾の数を変えられない事をかなり気にしているらしい。
どうにも気まずくなってしまった所に、救いの神が現れた。
「ただ待つのも、味気ないでしょう。場所柄、簡素ではありますが、皆様、ティータイムなどいかがでしょうか? 幸い、良い茶葉を仕入れまして。大した物は有りませんが、茶菓子も用意してございます」
執事のエスプレッソさん。ティータイムを提案。気を遣ってくれたらしい。ならば乗るしかない。
「はい、喜んで」
「……まぁ、良いでしょう。単に待つのもつまらないので」
「ありがとう、エスプレッソ」
「いえ、執事として当然の務めにございます。ギルドのお嬢さんもご一緒にいかがですか?」
更にギルド本部職員のチェシャーさんにもきっちり声を掛ける辺り、本当にそつがない。
「……では、お言葉に甘えて」
こうして野外ティータイムが始まった。……後でナナさん怒っていたけどね。『私達が苦労している時に、優雅にティータイムなんかしやがって!』って。
エスプレッソさんは、開けた場所に折りたたみ式のテーブル、そして人数分の折りたたみ式椅子を用意し、即席のティータイムの場ができる。
「さしたるおもてなしはできませんが、せめてもの心尽くしでございます。皆様方のお口に合えばよろしいのですが」
確かに即席の場ではあるものの、並べられた茶器一式や、茶菓子を見るに、明らかに高級品とわかる。一切の手抜きが無い。
「さすがですわね、エスプレッソ。いつ見ても、見事な手際ですわ」
「……中々、やりますね」
「本格的なティータイムは初めてです」
「……実家を思い出しますね。お母様、お祖母様どうしてるかな? ったく、あの愚姉のせいで……」
四者四様、それぞれの反応。ともあれ、野外ティータイムの始まり。
話題になったのは、それぞれの武器や戦い方。ティータイムにする話題ではないけど、状況が状況だけに、お互いに情報のすり合わせをしておこうとなった。……全ては明かさないけど。
「とりあえず、私から。私の得物はこの小太刀『氷牙』。氷の魔力を宿すミスリル製小太刀。そして小太刀術、体術、符術を修めています。それと、師匠直伝の狐月剣。三日月型の斬撃を放つ技も使えます。オールレンジに対応できます」
まずは吹雪さんから。彼女は自身の得物の小太刀を取り出し、あっさり手の内を明かす。だからといって、全てを明かしてはいないだろう。僕達はそこまで彼女の信用を得ていない。当然の事。
逆に言えば、やれ、完全回避だの、防御力全振りだの、全てをパリィするだの、自身の能力を明かすなろう系の連中は馬鹿だ。その内、対策されて終わる。
「では続いて私ですわね。私の武器はこの槍。プロミネンスツヴァイ。炎の魔力を宿すミスリル製の魔槍ですわ。武術は槍が一番得意で、それ以外は、剣、弓、銃、格闘を修めていますわ。当家は魔道の名門にして、戦で功を成してきた家門。当然の嗜みですわ。間合いは近接から、中距離ですわね」
続いてミルフィーユさん。彼女の武器は槍。それ以外の武術も修めていると。単なる貴族ではなく、武闘派の家らしい。
で、僕の番。
「え〜っと。僕の武器はこの鉄扇です。厳密にはミスリル製ですから、ミスリル扇が正しいですね。風の魔力を宿す魔扇です。それと、神楽舞をベースにした戦い方を少々。とはいえ、最近始めたばかりなんで……。基本、接近戦から、中距離でしょうか」
嘘はついていない。……本当の事の全ても話していないけどね。手の内の全てを明かしてはいけない。
最後にチェシャーさん。
「トリは私で。武器はこの手甲『白猫』。それと格闘術の組み合わせが基本スタイル。あと、空間操作の異能。『次元魔猫』を使います。私もオールレンジいけます」
「空間操作ですか。これは希少かつ、強力な異能。大したもの。心強い限りです」
「さすがはギルド本部職員ですわね。やはり、一味違いますわ」
「空間操作系は強いと評判ですからね」
彼女は空間操作系の異能持ち。これは強い。さすがはギルド本部職員。エリート中のエリートと呼ばれるのも納得。しかも白兵戦でも強いのは、先のトライフィート戦で証明済み。頼もしいな。
その後、表向きはわりと和やかに。その実、本音を隠したティータイム。あくまで出して良い情報のみ出す。
「師匠に弟子入りして三年になりますが、まぁ、色々有りましたよ。中でも下級転生者のやらかしには度々、迷惑を被りました。あの連中、全く話が通じませんからね。完全に狂っています。先日も巨大な蜘蛛に転生した奴を始末したのですが、人食いを繰り返していました」
「人食いを……。下級転生者の事は私も知っていますが、そこまで狂っているとは……」
「あぁ、あの人食い蜘蛛を始末したのは、あなた方だったんですね。そういえば、狐人の黒巫女が始末したと、ブラウン・タイムズに載っていました」
「……ふん。相変わらず、窃視趣味のブラウニー共が。まぁ、良いでしょう。あと、傑作だったのが、これです。師匠の友人、師匠に引けを取らない達人なんですが、この方、学園を運営しておられましてね。やはり、問題生徒や、教師が出てくるそうで。で、数年前にどうしようもない馬鹿生徒が現れたそうです」
「どんな馬鹿生徒だったんですの?」
「本人曰く、千年前の剣聖の生まれ変わり』」
「……学園に入る前に、病院行けと思います。完全に頭の病気でしょう、それ」
「いるよね〜。その手のイカれた奴。前世は光の戦士とか、最強の賢者とか、王様とか。まぁ、その手の馬鹿は、ギルドじゃ相手にしないし、しつこいなら、殺処分」
話題は下級転生者の害悪ぶりに。先日の人食い蜘蛛を殺したのは、やはり、吹雪さん達だった。で、その彼女から、数年前に起きた一件についての話に。自称、千年前の剣聖の生まれ変わり。……もう、この時点で完全に頭がおかしい。病院に行け。そして死ぬまで出てくるな。
「まぁ、そう思うのは無理もないでしょう。ですが、千年前の剣士の生まれ変わりなのは事実だったそうです。実際、中々の剣の腕前だったとか」
「本当に生まれ変わりだったんですのね」
「自称、光の戦士の類いじゃなかったか〜。まぁ、千年前の剣聖の生まれ変わりなんて自称してる時点で、大差ないけど」
「少なくとも、僕なら言いません」
何と、本当に生まれ変わりだったらしい。恐らく下級転生者。剣の腕前も有ったらしい。……もっとも、頭はおかしいけど。
「さて、この学園、魔法、異能、武術を始めとした教育を行い、将来を担う人材を育てる事を目的とするエリート校。故に非常に厳しい校則に縛られています」
「当然ですわね。力有る者、相応の立ち居振る舞いを要求されます」
「……で、やらかした訳ね。その自称、千年前の剣聖の生まれ変わりが」
「その通り。剣術科に所属していたそいつは、ある日、魔道科の生徒達と揉めまして。ちなみに原因は自称、剣聖が魔道科の生徒に対し、『魔道士なんて、剣士がいなければ何もできない雑魚。剣士こそ最強』と侮辱した事です」
「……本当に頭がおかしいですわね。どうすれば、そんな考えに至るのか、わかりませんわ」
「お嬢様、あなたはエリートに囲まれているからわからないんでしょうけど、世の中には一定数、この手の馬鹿がいるの」
「自称、剣聖の中では、そうなんですよ。自称、剣聖の中ではね」
完全に頭がおかしい、自称、剣聖。
「そして、魔道科と剣術科で決闘をし、雌雄を決する事となりました。剣術科代表は自称、剣聖。対する魔道科代表は、創造魔法の使い手。中でも剣を生み出す事に長ける一族出身の女子生徒。しかし、彼女は一族の中でも蔑まれていました。そんな彼女が決闘相手と知り、自称、剣聖もまた、彼女を嘲りました」
「すみません、質問です。その魔道科の女子生徒はなぜ、蔑まれていたんですか?」
気になったので聞いた。どういう事だろう?
「彼女の一族は、炎や雷といった、属性付きの魔剣を生み出せるのです。しかし、彼女は何の力も無い、ただの鋼の剣しか生み出せなかったのです。故に出来損ない、一族の面汚しと、蔑まれてきたのです」
「なるほど……」
「まぁ、数年後、彼女は一族最強の座に就くのですが」
「えっ?!」
蔑まれていた人が、一族最強に?!
「まぁ、その辺は話の続きを聞けばわかります。で、決闘と相成りましたが。自称、剣聖は完全に対戦相手の女子生徒を舐めていました。当然でしょう。こいつの中では剣士が最強。魔道士は雑魚。ましてや、彼女は出来損ない、一族の面汚しと蔑まれている。自身の勝利は確定していると」
「で、どうなりましたの?」
結果を聞くミルフィーユさん。確かに、どうなったのか?
「女子生徒の勝利です。厳密には自称、剣聖が自滅しただけですが、そもそもの原因が本人の無知、慢心」
それを聞いた、チェシャーさん。思い当たる節が有ったらしい。
「……あ、わかった。そいつ、女子生徒の生み出した剣に触ったわね」
「正解。女子生徒が生み出し、発射した剣。それを次々と叩き落とし、挙げ句、掴み取って、彼女に突き付けた。その際に『借りたぞ』と言って、あからさまに勝ち誇っていたそうですが、次の瞬間、悲鳴を上げてのたうち回る事に。剣を掴んだ手が腐り落ちたのです。確かに彼女は何の力も無い鋼の剣しか生み出せない。しかし、彼女はそれを逆手に取り、剣に術式を組み込む事で、様々な効果を持たせる事に成功。非常に汎用性の高い術へと変えたのです。そうして後に一族最強の座に就きました」
「……なるほど。この場合、剣に腐敗の術式を仕込んでいた。術者に無断で剣に触れると発動するように」
「考えてみれば、実体の有る物を生み出す魔法である以上、生み出した物を敵に奪われ、利用される危険性が有る。ならば対策をするのが当然。少なくとも、僕ならやりますね」
考えてみれば、当たり前。物質を生み出す性質上、敵に奪われ、利用される危険性が有る。ならば、対策するのは当然。しない奴は馬鹿だ。
そして、自称、剣聖はそんな当然の事すらわからない馬鹿だった訳だ。馬鹿過ぎる。
「そういう事よ、メイドちゃん。更に言うと、自称、剣聖だけど、絶対、剣聖じゃないわね。創造魔法の使い手の創造物には触るな、は鉄則よ。本物の剣聖がそれを知らない訳がない」
「確かに」
「ちなみに、自称、剣聖。恥知らずな事に、決闘に際し、校則で禁止されている真剣を使っていました。女子生徒はそれを見抜いていたからこそ、剣に腐敗の呪詛を仕込んでいました。自称、剣聖が校則を守り、決闘用の模造剣を使っていたなら、せいぜい痺れて動けなくなる程度にしていたそうです。要は自業自得」
「無知な恥知らずの末路ですわね」
「その後、自称、剣聖は退学より重い追放処分。更に師匠に聞きましたが、歴代四剣聖にそんな奴はいないと仰っておられました」
「恥の上塗りですわね」
「もはや、お笑いですよ」
「お嬢様、メイドちゃん。世の中には、こういうどうしようもない馬鹿がいるって覚えておきなさい。ギルド受付嬢やってる私からの忠告」
「忠告、痛み入りますわ」
「同じく」
どうしようもない馬鹿っているんだなぁ。悪い意味で感心する。
その後も、冒険者パーティーから追放されたクズの末路やら、異世界でスローライフと舐めた事を抜かしていた馬鹿の破滅譚やら、異世界で奴隷ハーレムを、などと考え、買った女奴隷に寝首を掻かれて死んだ間抜けやら、無能な社会のゴミの無様な最期の話題で盛り上がっていた。
「これも笑えるんですが、たかが二十五年、復元の異能を鍛え続けたぐらいで最強と抜かしていた馬鹿がいましてね。とある老婆に使ったら若返ったそうです。で、最初は老婆も喜んでいたそうですが……程なくして死にました。なぜかわかりますか?」
「老婆を若返らせたら、程なくして亡くなった? ……あぁ、それは当然ですわね。亡くなられた方にはお気の毒ですが」
「……う〜ん」
ミルフィーユさんにはわかったらしいけど、僕はわからない。まだまだ未熟。
「あぁ、なるほどね。そりゃ死ぬわ。急激な変化は大きな負担が掛かる。老婆がいきなり若返ったら、その反動もまた強烈。だから、回復系は難しいし、優れた使い手は重用されるのよ。何が、二十五年鍛え続けたよ。単なる時間の無駄。というか、たかが二十五年鍛え続けたぐらいで最強になんかなれないわよ」
「師匠が聞いたら、その場で斬りますよ、こんな馬鹿。ちなみに似たような奴として、スライムを三百年倒し続けて最強になったと抜かしていた愚か者も。ちなみに師匠が斬りました。一刀両断です」
「『金毛九尾』が聞いたらそりゃ、怒るわ、斬るわ。当然の結果」
「『金毛九尾』は最強の代名詞ですものね」
「そうですねぇ」
わかっていたけど、やっぱり『最強』の二文字はとてつもなく重い。軽々しく、名乗ってはいけない。下手すると殺される。一度死んだ身だけど、二度目は当分、遠慮したい。
「ちなみにその馬鹿。殺人罪で逮捕。獄中で自殺したそうです。老婆を死なせた事に耐えられなかったみたいですね。くだらない。たかが老いぼれ一人死んだぐらいで」
「……そういう考え方は良くないと思います。馬鹿はともかく、お婆さんは悪くないでしょう」
たかが二十五年鍛えたぐらいで調子に乗った馬鹿はともかく、馬鹿が若返らせたお婆さんは悪くない。むしろ被害者だ。被害者に鞭打つ真似は良くない。
「老いぼれは、老いぼれでしょう? さっさと死ねば良い。邪魔です」
「……あなたとは仲良くできそうもないですね」
「吠えないでくれませんか? 素人。全く。これだから、身の程知らずの素人は嫌なんです」
「二人共、やめなさい!」
「チッ! 不味いわね……」
再び、僕と吹雪さんの間で険悪な空気が流れる。……他の人達はともかく、なぜか彼女だけは、最初から気に食わなかったんだ。いるよね。初対面の時点で気に食わない相手。僕にはあまりいないけど、彼女はその数少ない一人らしい。
まぁ、それは向こうも同じだろう。でなければ、初対面の時点から、こうも刺々しい態度じゃない。お互いに相容れない。相性が合わないんだ。しかし、そうも言っていられない状況に。
それまで黙って控えていた、執事のエスプレッソさん。その彼が突然、食事用ナイフ、フォークを取り出したと思いきや、いきなり、僕達に向かって投げてきた!
何を! と言いかけたが、それはできなかった。突然の激しい衝突音。見れば、食事用ナイフとフォークを起点にバリア、結界が張られており、それが巨大な触手を受け止めていた。危なかった! 結界が無かったら、直撃だった。しかし、これは何だ?!
「皆様、早く離れて! 敵襲です!」
エスプレッソさんが叫ぶ。敵襲?! 突然の事態に、上手く対応できない。とにかく、その場を離れる。振り返れば、そこには……。
巨大なトライフィートがいた。
とにかく大きい。その分、触手も長く、大きく、多い。そしてその触手を振り回し、攻撃してきた。
「逃げて!!」
チェシャーさんが叫び、各自、その場から退避。巨大トライフィートは大量の触手を使い、僕達を狙う。吹雪さんは何とか端末を取り出し、連絡を取ろうとするが、巨大トライフィートの触手攻撃で端末を落としてしまった。しかも触手が端末を叩き潰す念入りぶり。
更に巨大トライフィートは種をばら撒く。即座に発芽、出てくるトライフィート達。
大変な事になってしまった。一体、どうすれば……。
第八十四支部に向かった、イナバ、ナナさん、狐月斎。
居残りのハルカ、吹雪、ミルフィーユ、チェシャー、エスプレッソ。
第八十四支部に向かったナナさん一行は、トライフィート出現の原因を知りました。案の定、第八十四支部の支部長がやらかした。偶然、発見したトライフィートを利用しようと企み、失敗。
とりあえず、情報を持ち帰ろうとしたところへ、吹雪から敵襲の一報が入るも途絶。しかも、トライフィート達が襲撃。
一方、居残り組。相性の悪い、ハルカと吹雪。険悪な空気をどうにかすべく、執事、エスプレッソがお茶会を提案。
盛り上がるも、またしても意見の衝突から険悪になるハルカと吹雪。
しかもそこへ、突然の巨大トライフィートの襲撃。種をばら撒き、一気に増殖。戦力が分断されたこの状況、ハルカ達は……。
では、また次回。




