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第1話 僕が異世界転生した理由

 死んだらどうなるのか? それは永遠の謎とされてきた。何せ、死んだら、そこで終わり。『死人に口無し』と言うぐらいだしね。死後の世界。天国、地獄が有るのか、無いのか、それは、誰にもわからない。


 僕自身は無神論者で、死んだら天国も地獄も無い。死ねば終わりと考えていたんだけどね……。有ったよ、死後の世界。冥界が。







 高校に入学して、最初のゴールデンウィーク。夕食にカレーを作ろうとして戸棚を開けたら、カレールーを切らしていた。仕方ないから、カレールーを買いにスーパーに向かい、その帰り。


 横断歩道で信号待ちをしていたら、向こうから滅茶苦茶にスピードを出した暴走車が突っ込んできた! 避ける暇は無かった。暴走車は僕を含めて何人もはね飛ばした挙げ句、電柱に激突。爆発炎上した。


 それが僕が見た最期の光景。ごめん、母さん、姉さん、彼方……。無念の思いを抱え、僕は十六歳でその生涯の幕を降ろした。


 はずだったんだけどね……。







 気が付けば、おかしな所にいた。果てしなく広がる白一色の世界。そして、そんな場所には不似合いな、立派な木製の机と立派な椅子。そしてそこに座る、幼い少女。机の上には名札が立てられていた。ほら、国会議員の席に有る奴。それにはこう書かれていた。


『死神ヨミ』


 死神といえば、黒いボロい衣を纏って、大鎌を持った骸骨が定番だけど。


 この死神は、黒いゴスロリ服を着た、金髪縦ロールの小学校低学年の少女にしか見えない。


 そして彼女は名乗った。


『私は死神ヨミ。冥界の支配者にして、全ての魂の管理者』


 ちなみに、世間一般で言う死神は彼女の部下で、厳密には死神ではなく、死神の使いだそうだ。その仕事は死者の魂を冥界まで導く事だとか。更に、死神の使いが来るのは、良き魂の者だけ。悪人の元には来ない。悪人はきっちり、地獄行きらしい。


 そして死神ヨミから、一つの提案を受けた。


『このまま死ぬか? それとも異世界に転生し、下級転生者を抹殺するか?』


 のっけから、とんでもない二択を迫ってきた死神ヨミ。しかし、そこにはきちんとした理由が有った。


『実はな。我ら神魔は原則として成長できない。基本的に生まれた時点で力が決まる。強者は生まれながらに強者。弱者は生まれながらに弱者。しかしだ。ここ最近、下級神魔が自らの強化の方法を編み出してな。それが下級転生者。下界で死んだ者に力を与え、転生者として異世界に送り出す。そして、ある程度成長したら、殺して力を回収し、自らの強化に充てる。もっとも、所詮、下級神魔のやる事。強化の幅など微々たるものに過ぎん。下級神魔がどうあがいても、上位神魔には届かん。そもそも存在の次元が違う』


ここで一旦、話を区切る死神ヨミ。


『そして、ここからが本題だ。下級神魔が次々と生み出した下級転生者だが、これがいわゆる、粗製乱造で、品性下劣なクズばかり。こいつらが好き勝手、やりたい放題するせいで、世界の理が乱されて困っている。世界の理は世界を成り立たせている骨子。それが乱され、歪めば、いずれ崩壊する。それは、世界の崩壊、滅びを意味する。しかも、一つの世界が崩壊すれば、それは、他の世界にも悪影響を及ぼす。世界崩壊の連鎖反応を引き起こす可能性さえ有る。はっきり言って、多元宇宙存続の危機だ』


 いきなり死神ヨミから聞かされた大変な事実。多元宇宙存続の危機。


「大変な事態だとは、わかりました。だけど、それがどうして、僕がそいつら下級転生者抹殺を抹殺する事と繋がるんですか? 僕は生まれてこの方、武術やら、戦いやら、やった事なんて無いですよ。どうせなら、軍人とか、プロにやらせるべきでしょう?」


 だからといって、いきなり下級転生者の抹殺をしろと言われても困る。僕はただの高校一年生。武術や、戦いなんてやった事が無い。せいぜい、喧嘩ぐらい。


『確かにお前の言う通りだが、こちらにも、色々と込み入った事情が有ってな。大丈夫だ。お前ならできる。それに私も手を貸そう。私の所有する優秀な肉体をお前に与えてやろう。……転生するならば、だが?』


「……転生であって、蘇生ではないんですね」


『蘇生は認められん。あくまで転生だ。新たな肉体を得て、生まれ変わるのだ。本来なら、記憶、人格を消去、魂を浄化した上で転生させるのだが、今回は特例だ。魂はそのままで新たな肉体に宿らせ、転生させてやろう。新たな肉体の容姿、能力共に保証しよう。はっきり言って、ここまでしてやるのは破格の条件。特例中の特例だからな? ……さぁ、どうする? このまま死ぬか? それとも異世界に転生し、下級転生者抹殺の任に就くか? 強要はせん。好きにしろ』


 強要はせん、好きにしろと言うものの、事実上の強制だよね。……決めた。


「異世界転生でお願いします」


 別に世界を救おうとか、大層な事を思った訳じゃない。だけど、母さん、姉さん、彼方が住む世界に危険が及ぶ可能性が有るなら、見過ごす事はできない。僕は異世界転生し、下級転生者抹殺の任に就くことを了承。


『わかった。ならば、さっそく、転生の準備に掛かる。だが、少し待て。お前の送り先に話を付けてくる。お前としても、いきなり異世界に送り込まれては困るだろう? また、向こうにしても、いきなり見知らぬ相手に来られては困るだろうしな』


 死神ヨミは僕の了承の意を受け、転生の準備に掛かると。更に僕の行き先である異世界側にも話を付けると。確かに僕としても、いきなり見知らぬ異世界に送り込まれるのは困るし、向こうだって、いきなり見知らぬ相手が来たら困るだろう。こういう事はきちんとしないと、絶対揉める。意外ときちんとしているな。







 それからしばらく。向こうとの交渉が終わったらしい。


『向こうとの話が付いた。お前を受け入れてくれるそうだ。かなり癖の有る奴だが、実力は確かだ』


「ホームステイみたいなものですか?」


『厳密には、住み込みの弟子だな。とりあえず、衣食住は保証するとの事だ。ただし、役立たずと見なせば、即、追い出すと言っていたがな』


「……いきなり先行き不安なんですけど」


『ならば、自身が有能であると示せば良いだけだ。あれは無能は嫌うが、有能は好むからな。お前が有能さを示し続ける限りは安泰だ』


「……頑張ります」


『頑張れ』







 転生するといってもすぐにはできない。ましてや、今回は特例中の特例。転生待ちをする時間、疑問に思った事を死神ヨミに聞いてみた。


「下級転生者の抹殺の任ですが、その前に、話し合いによる交渉とかできないんですか? 宇宙人とか、異次元の化け物ならともかく、同じ人間でしょう?」


 話の通じない存在ならともかく、同じ人間なら、下級転生者と話し合いによる交渉ができないかと思った。だけど、返ってきた答えは残酷、非情だった。


『下級転生者を同じ人間と思うな。あれは姿形が人間なだけの化け物だ。お前が言う、宇宙人や、異次元の化け物より、ひどいぞ。何せ、お前達、人間の言葉で言えば、サイコパス、アスペルガー、自己愛性人格障害等の複合だからな。全く、話など通じん。よって殺処分一択だ』


「……そうですか」


 どうやら、下級転生者というのは、どうしようもない気狂いばかりらしい。そりゃ、話にならないし、殺処分一択になるな。


『最近ではあの連中を、お前達、人間はこう呼ぶな。『なろう系』と。なろう系とやらが何かは知らんがな』


「あぁ、凄く納得しました。確かに話になりませんね。自己正当化と、周囲への責任転嫁の権化ですから」


 死神ヨミの口から出た『なろう系』という言葉を聞いて、凄く納得。僕も見た事が有るけど、まぁ、ひどい。最低最悪のクズな主人公が異世界転生して、凄い能力やアイテムを得て、無双、ハーレムが定番の奴。確かに話にならないし、ろくな事をしないな、この手のクズは。







「更に質問です。そんなに下級転生者が邪魔なら、わざわざ僕に抹殺させなくても、あなたが処分すれば良いじゃないですか。神なんだから。あと、そもそも、下級転生者なんて存在させなければ良いじゃないですか」


 更に疑問をぶつけてみた。下級転生者が邪魔なら、わざわざ僕にやらせなくても、死神ヨミが直接処分すれば良いはず。神なんだから。何より、最初から下級転生者なんて存在させなければ良いはず。


『そう思うのはわかるがな。神魔にも色々と掟が有ってな。ごく一部の例外を除き、神魔は下界に対し直接干渉はできんのだ。それに、下級転生者にも使い道は有ってな。あのクズ共は死後、その魂を冥界の炉の燃料に使う。心底、腐り切った魂程、よく燃えるからな。燃料に最適なのだ。そして炉の熱が、新たな命を生み出す。そして命の力が宇宙を成り立たせているのだ。ちなみに燃料にしたクズ共の魂は完全に焼き尽くされて消滅する。あんなクズ共に来世など与えてやらん』


「神魔も人間が思う程、良いものじゃないんですね。あと、下級転生者って、とことんクズなんですね。来世すら無いって」


『そういう事だ。神魔は決して自由ではない。相応の義務、責任が有る。そして下級転生者は、最低最悪のゴミだ。存在自体が害悪だ。新たな命を生み出す燃料として役立ててやるだけ、ありがたく思え』


 ちなみに冥界の炉送りは、死後における、最悪の処罰らしい。それと比べたら、地獄行きの方が遥かにマシ。地獄行きは贖罪が済めば輪廻転生が許されるが、下級転生者はそれすら無い。消滅一択。







 さて、そうこうしている内に、僕が転生する準備が整ったらしい。真っ白な空間の中、光る道ができていた。


『準備ができたぞ。覚悟は良いか? 念の為、もう一度言うぞ。あくまで『転生』だ。『蘇生』ではない。日本人、『天之川 遥』は死んだ。これからは、『ハルカ・アマノガワ』と名乗れ。良いな?』


「まんまじゃないですか」


『あまり極端に名前を変えられても困るだろう?』


「確かに」


 幾ら転生するとはいえ、全く違う名前にされても困る。


『では行け。この道を進んでいけば、異世界に着く。そこにお前の受け入れ先の者がいる。向こうに着いたら、こう言え。『死神ヨミに送り込まれた』と。あと、これは餞別だ』


 そう言って渡してきたのは、扇。ただし、紙と竹で作られた折りたたみ式の奴ではなく、銀色に輝く薄い金属板を紐で繋いだ鉄扇だ。表面に細かな彫刻が施され、見るからに高級そう。あと、意外と軽い。


『昔、私の知り合いが処分した下級転生者の持っていた品だ。ミスリル製の魔扇。風を操る魔力を持つ。元の持ち主はろくに使いこなせていないクズだったがな。お前なら使いこなせるだろう』


「ありがとうございます。遠慮なく貰っていきます」


 これから向かうのは異世界。転生する代償は、下級転生者の抹殺。元の世界の法など無意味。弱い者には死有るのみ。戦い方を知らない僕だけど、やるしかない。その為にも、強い武器は心強い。


「しかし、なぜ、鉄扇? 普通、こういう場合、剣とかじゃないんですか?」


 普通、こういう武器を貰う時は剣とか銃とかが定番。鉄扇は変化球過ぎる。それに対し、死神ヨミが答える。


『お前、剣とか銃を渡しても使えるのか?』


「……無理ですね。おもちゃの刀や、木刀ぐらいなら、使った事は有りますけど。銃もせいぜい、銀玉鉄砲ぐらいですね。その点、()()()()()()()()()。しかし、よく知っていましたね」


『言ったはずだ。私は全ての魂の管理者だと。当然、お前に関する事も全て知っている。その上で、お前には扇が良いと判断した。だが、その扇、いつまでも使えるとは思うなよ? 所詮、下級転生者の使っていた品。それなりに高級品だが、いつか、お前の力に耐え切れず壊れる。その時は自分で何とかしろ』


「わかりました」


 死神ヨミ曰く、自分は全ての魂の管理者。だから、僕の事も全て知っていると。ならば、武器として鉄扇を渡してきたのも納得。しかし、気前が良いな。……それだけ危険ということの裏返しなんだろうけど。







 ちなみに今の僕の姿は光る人型。ここから、一体どういう姿に転生するのかな? 死神ヨミは容姿、能力共に保証するとは言っていたけど。容姿は良いに限る。所詮、世の中、見た目が全て。どんなに綺麗事を並べ立てようが、それは絶対。


「それではお世話になりました。行ってきます」


『うむ。行け。わざわざ特例中の特例の転生をしてやるのだ。しっかり務めを果たせ。あっさり死んだら許さんからな』


「頑張ります」


『期待している』


 そうして僕は異世界に通じる道を歩き始める。もう、振り返らない。ひたすら前を見て歩き続ける。止まらない。引き返さない。進む以外に道は無いから。


 やがて、向こうに光が見えてきた。あの光の向こうが異世界なのかな? 正直、ドキドキする。異世界はどんな所なんだろう? 受け入れ先の人はどんな人なんだろう? はたして、僕は異世界で上手くやっていけるのかな? そして何より……死神から告げられた、転生の代償。下級転生者の抹殺。……僕にできるのかな?


 考えれば考える程、不安が増していく。……駄目だ! 駄目だ! こういう時は思い切りが大事。僕は不安、迷いを振り払うべく、一気に出口の光に向かって駆け出す!


「やぁあああああああああああっ!!!!」


 ただ、失敗したのが、前方不注意。後、死神ヨミの奴、()()()()()()()()()()()。餞別に鉄扇は渡したくせに。


 何が起きたかというと……。


 見知らぬ女性と正面衝突。しかも僕は一糸まとわぬ全裸で。更にその、僕の股間が見知らぬ女性の顔面に直撃するという、羞恥プレイにも程が有る内容で……。


 これが僕、天之川 遥改め、上位転生者、ハルカ・アマノガワと、僕の師となる、偉大な魔女との出会い。そして、ここから全ては始まった。もし、この出会いが無ければ、全ては終わっていただろう。


 ちなみに、後々まで師はこの時の事をネタにして、度々、僕をからかってきた。我が人生、最大の黒歴史となった。


 ずっと先において、僕はこの時の事を死神ヨミに抗議したけど、『そこまで知るか』とバッサリ切り捨てられた。おのれ、死神ヨミ……。




前作とはかなり違う内容になりました。いきなりハルカの武器が鉄扇ですし。


前作がベースに有るだけに、話が作りやすい。なおかつ、前作の失敗を踏まえて、書きました。


次回、私が弟子を取った理由




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