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第10話 この世界がゲームではないと僕は知っている

 異世界に転生して、四日目の朝。窓から差し込む朝日。今日も良い天気。初日の夜はナナさんに添い寝をお願いしたけど、二日目の夜からは自室で一人で寝た。ナナさんに一人で寝られるかと心配されたけどね。


 部屋に備え付けの鏡。覗き込んでみれば、そこには銀髪碧眼の美少女の姿が映っている。今の僕の姿が。右手を上げれば鏡の中の姿も右手を上げるし、首を傾げれば鏡の中の姿も首を傾げる。胸元を見れば立派な膨らみが二つ。何より、パジャマのズボンと下着をずらして見れば、十六年付き合ってきた股間の相棒が無い。


「……やっぱり現実なんだよね。夢じゃないか……」


 声すら違う。明らかな女の声。やはり違和感が有るな。ナナさんはその内慣れるとは言っていたけど……。


 なろう系定番の性転換&異世界転生。まさか、我が身に降り掛かるとは……。事実は小説より奇なりとは言うけれど……。性転換転生って、正直、どうにも落ち着かない。姿も声も性別も全て変わってしまったから。こんなものをありがたがるなろう系の連中は、やはり頭がおかしい。


 不細工で嫌われ者な元の姿が嫌だからかな? ちなみに僕は自分で言うのもなんだけど、容姿は整っていた方。……まぁ、女と間違えられる事、度々ではあったけどね。姉さんの友達には妹と思われ、妹の彼方(カナタ)の友達には姉と思われ。…… 不細工よりはマシか。世の中、見た目だからね。


「死神ヨミはそういう点では良い仕事をしてくれたね。どんなに綺麗事を並べ立てたところで、所詮、世の中、見た目。見目麗しい者は持て囃され、不細工は叩かれる。こればっかりはどうしようもない。美少女に転生させてくれた事に感謝しよう」


 美しく優秀な身体を与えて転生させてくれた、死神ヨミ。もちろん善意からではなく、契約に基づいてだけど。


『転生する代償として、下級転生者抹殺の任を引き受ける事』


 それが死神ヨミとの契約。考えてみれば当たり前。上位存在である神が格下の人間相手に、ただで何かを与える訳がない。


 なろう系定番の、『神が手違いで死なせてしまったから、お詫びに特典を与えて異世界転生させる』なんて、僕から言わせればありえない。繰り返すけど、神からすれば下等生物に過ぎない人間に対し、神がそんな事する訳ない。昔からよく言う事に、『うまい話には裏が有る』。ナナさん曰く、僕ときちんと契約をした死神ヨミはかなりの良識派だそうだ。


「契約した以上、僕には下級転生者を抹殺する義務が有る。契約違反は許されない」


 契約は絶対。軽々しく契約破棄はできない。……なろう系定番の婚約破棄物、お前の事を皮肉っているからね。あの手の作者って、婚約を始め、契約を何だと思っているのか? そんな簡単に破棄できるなら、契約の意味が無い。だからこそ、契約は怖くもあるけど。契約はよく考えろとは至言。


「どんなに元の世界とかけ離れていても。魔法や異能が有り、神魔、精霊、魔物、異種族が存在していても。この世界は現実。ゲームや小説の世界じゃない。フィクションの世界は存在しない。現実とフィクションを一緒くたにする馬鹿には、死有るのみ」


 現実無視も甚だしい、くだらないなろう系作品の事はさておき、改めて自分の置かれた状況を思う。僕は現実無視をしないんでね。元の世界とはかけ離れた異世界。正にファンタジー物の定番な世界だけど、れっきとした現実。


「何よりナナさんも再三、言っていたからね。『異世界は理想郷でも楽園でもない』。そうだよね。理想郷だの、楽園だの、存在しない。それこそフィクションだよ」


 エデンの園、桃源郷、アヴァロン、アルカディア等々、理想郷、楽園は世に色々語られるけど、所詮、人が思い描いた空虚な妄想。なろう系作品もその同類。いや、くだらないクズの醜い欲望まみれの妄想な分、なお悪い。不愉快だ。元の世界で負け組のクズのくせに、異世界で成り上がりだの、無双だの、改革だの、そんな事できる訳ない。遠からず破綻して終わる。クズはクズらしく、底辺を這いつくばるのがお似合い。その上で、真剣に頑張っている人達全てに謝れ。


 ともあれ、異世界生活四日目の始まり。まずはシャワーを浴びてこよう。







 シャワーを浴びてさっぱりしてから、メイド服に着替えてキッチンへ。


「おはようございます、エーミーヤさん」


「おはよう、お嬢さん。もうすぐ朝食ができるから、席に着いて待っていたまえ」


 キッチンには既にエーミーヤさんがいて朝食の支度をしていた。今朝は和食か。ご飯に、焼き魚に、味噌汁、梅干し。まさか異世界で見られるとは。


 ブラウニーは多元宇宙を跨いで人材派遣業をしており、独自の流通ルートが有るそうで、そのおかげで多種多様な食材を調達できるとか。で、わざわざ和食の食材を取り寄せてくれたそうだ。故郷の料理が食べたいだろうとの、エーミーヤさんの気遣いに感謝。


「わざわざ食材を取り寄せてまで和食を作っていただき、恐縮です」


「礼には及ばんよ。たまには東方風の料理を作るのも悪くない」


 もちろん、きちんとお礼は言う。礼儀は大事。人間関係の潤滑油。……どこかの元、社会人の転生スライムみたいに、初対面の、しかも圧倒的格上の相手にタメ口を叩くなんて非常識な事はしないよ。


 あの転生スライム、ナナさんに同じ事をしていたら、確実に怒りを買い、その場で殺されていたね。ナナさん、無能も嫌いだけど、それと同じぐらい無礼者も嫌いだそうだし。まぁ、ナナさんは特に苛烈な性格だとしても、あの転生スライムの、あの態度はない。あまりにも失礼。本当に元、社会人? 無職の引きこもりじゃないかな? 非常識過ぎる。


 ……なろう系だからね。主人公補正と言う名の御都合主義が働くと。現実にそんな物無いけど。だから、なろう系作品って嘲笑される。『そんな事、現実に有るか!』 って。フィクションである以上、話を盛り上げる為に御都合主義が必要なのはわかるけど、限度が有る。クズは所詮、クズ。勝ち組にはなれない。何せ、無能な上、努力、苦労が何より嫌いな、怠惰極まりない奴らだから。


 ともあれ、朝食。しっかり食べて、今日も一日頑張るぞ。本当に命が掛かっているからね……。


「おはよう。へぇ、今日は東方風の朝食だね。ハルカに合わせたって訳か。東方出身だそうだし」


 そこへやってきたナナさん。その言葉から察するに、この世界の東方は日本に近い文化みたいだね。確か東には扶桑と呼ばれる大陸が有るそうだし。いつか行ってみたいな。







「さて、今日の予定について話すよ」


 朝食の席。ナナさんから今日の予定についての話。


「昨日は基本の読み書き、この世界の地理、歴史、文化について学んだ。そして、基礎体力を付けるトレーニング。更に魔道開眼を果たした訳だ。だから、今日はもう少し内容を進めてみようと思う。あんたは理解が早くて助かるよ。普通はもっと時間が掛かるからね」


「具体的には何をするんですか?」


「昨日は初歩の初歩の初歩だったからね。今日は初歩の初歩。午前の授業は魔道具に関する事について教えよう。魔道具の扱いもまた、大事な事だからね。使い方次第で良くも悪くも働く。まぁ、この辺は何でも同じだけど。ちなみにあんたが死神ヨミから渡された鉄扇。あれもれっきとした魔道具。さすがに最高級品じゃないけど、中々の品だよ。まずは、あれを使いこなせるようになれ。ただし、勘違いするんじゃないよ。魔道具はあくまで補助に過ぎない。最終的に物を言うのは自分自身だからね」


「わかりました」


「素直で結構。本当にありがたいね。バカはとにかく指示に従わず、勝手な事ばかりするから。昨日も話したけど、魔力の行使は多大な負担が掛かる。相応の実力を身に付けなければ、死ぬ」


「魔法や異能の使い手の死因の代表的な物だな。調子に乗って魔力を濫用し、生命力を使い果たして死ぬ訳だ。実に愚かな事だよ」


 昨日は初歩の初歩の初歩だったので、今日は少し進めて初歩の初歩。午前の授業は魔道具の扱いと、素材について。魔道具の扱いもまた、大事な事。使いこなすには正しい知識と確かな技術が必要。間違った使い方は命取り。まぁ、それは魔道具に限った事ではないけど。何でも同じ。『生兵法は怪我の元』。やはり、ことわざは先人の遺してくれたありがたい教訓。


 エーミーヤさんも下級転生者の死因の代表的な物として、魔力の濫用による生命力の枯渇を指摘。実に愚かな事だとこき下ろす。


 ナナさん曰く、死神ヨミが僕に与えた鉄扇も魔道具。事実、死神ヨミは、風の魔力を宿す魔扇だと言っていたからね。


 ……しかし、ここで少し引っ掛かる。 死神ヨミの行動だ。僕は『水』属性なんだから、水の魔力を宿す魔道具を渡すのが筋。なのに、なぜ、『風』属性の魔扇を渡した? まさか、間違えたとは思えない。ナナさんに聞いてみよう。


「ナナさん、質問良いですか?」


「ん? 何だい?」


  気になる事、わからない事は放置しない。特に今の僕の置かれた状況においては、最悪、死に繋がる。せっかく優れた師がいるんだから、遠慮なく聞く。


「死神ヨミが僕に渡した鉄扇です。あれは、風の魔力を宿す魔扇。ですが、僕は水属性の使い手です。ならば、水の魔力を宿す品を渡すのが筋。まさか死神ヨミが間違えたとは思えません。事実、渡された際に、風の魔力を宿す魔扇だと本人から聞かされました。これは、どういう事だと思われますか? ナナさんの意見を聞きたく思います」


「良いねぇ。そういう所、本当に良いねぇ。気になる事は放置せず、きちんと解決しようとするのは良い事だよ。特にこういう事は、下手すると命取りになりかねないからね」


 僕の質問にナナさんは御満悦。褒められた。事実、命に関わる危険性が有るし。そして、ナナさんは自分の見解を聞かせてくれた。


「じゃ、私なりの見解を述べようか。確かにあんたの言う通り、水属性のあんたに風属性の魔扇を渡すのは、属性が合わず、筋が通らない。本人に確かめた訳じゃないから、あくまで私の私見だけど、恐らくは、()()()()()()()()()()()()だろうね。少なくとも、私が死神ヨミの立場ならやる。『裏』において、自身の手の内を隠すのは常識だからね」


 ナナさんは死神ヨミが水属性の使い手の僕に風属性の魔扇を渡した理由として、僕の真の属性を隠す為ではないかと。『裏』において、自身の手の内を隠すのは常識だからと。なるほど、納得。腑に落ちた。


「僕の世界のとある作品で、こんな事を言っていました。『手の内は見せるな。敵はバカじゃない。見せたら対策されるぞ。見せるなら、他にも複数、手札を持て』と。つまり、死神ヨミは僕が水使いではなく、風使いだと偽装しようとしたと」


「本当に理解が早いね。恐らくそうさ。あんたは死神ヨミが生み出した上位転生者。はなっから使い捨て前提の下級転生者と違い、長期運用が前提の上位転生者だけに、生み出すにあたって相応の手間暇、費用も掛かっているはず。上位転生者は伊達じゃないんだよ。あっさり死なれたら、大赤字確定で困るだろうし。後、あんたが御津池神楽の使い手で、扇の扱いに慣れている事も含めて、渡したんだろうね」


 昔読んだ作品を思い出す。敵に手の内を知られてはいけない。知られたら、対策される。現実は厳しくてね。敵は馬鹿、無能揃いじゃないんだよ。それどころか、とんでもない天才がいるかも。だからこそ、手の内は極力見せず、複数の手札を持つ。


 そう考えると、なろう系の連中は本当に馬鹿だ。あからさまに自分の力をひけらかす。そんな事をすれば、いずれ対策される。まぁ、馬鹿だから、そんな当たり前の事すらわからないか。全く、こんな馬鹿が最強、無双、成り上がり、改革など笑い話にもならない。寝言は寝てから言え。お前達にそんな力は無い。有るなら、生前の時点で成し遂げている。できない時点でお察し。







 さて、朝食を食べ終わり、食後の一服の時間。エーミーヤさんが香り高いコーヒーを淹れてくれて、各々、リラックス中。


「ふむ、また馬鹿が抑止力に始末されたか。本当に愚かな連中だ。おとなしくしていれば、多少は長生きできたものを」


 コーヒー片手に、新聞を読んでいたエーミーヤさん。ちなみに読んでいる新聞はブラウニーが出版している物で、名前は『ブラウン・タイムズ』。多元宇宙を股に掛けて活動しているブラウニーのネットワークを利用して出版された新聞だそうだ。


 あちこちの世界の情報を知る事ができる上、何より情報の正確さ、早さがウリの新聞なんだとか。ただし、一般販売はされておらず、ブラウニー、及び、ブラウニーと特に親しい者だけに出回っているそうだ。で、どうやら、どこかの下級転生者が抑止力に抹殺された事が載っていたらしい。まぁ、馬鹿が死んだのは良い事。邪魔だから、さっさと死ね。しかし、何をやらかした? どうせ、くだらない事だろうけど。


 などと考えていたら、エーミーヤさんが新聞を見せてくれた。


「気になるのかね? 既にコモンワードは学んだそうだし、読めるだろう。ここだよ、下級転生者に関する記事は」


「ありがとうございます。少し借りますね」


 エーミーヤさんから新聞を借りて読んでみた。………………馬鹿だ。馬鹿がいる。いや、既に死んだから、『いた』が正しいか。しかし、馬鹿だ。


 ブラック企業勤めの下っ端OLが巨大な人食い蜘蛛になって異世界転生。まぁ、よく有るなろう系。そして、よく有る成り上がり願望持ち。


 蜘蛛はダンジョンを根城にし、ダンジョンに来る人間を片っ端から食らい、力を増大。やがて迷宮の支配者を名乗り、遂には世界征服を目論んだ。


 ブラック企業の下っ端として踏みにじられ続けてきただけに、反動丸出し。今度は自分が他者を踏みにじりたい、か。くだらない。


 挙げ句、いずれ神、魔王を殺し、自分が取って代わろうと野心を抱いた。昨日聞いた、三百年前の下級転生者。自称、魔王のナグモと同じ。本当にクズの考える事は同じだな。その結果、抑止力に抹殺された。末路も同じ。


「完全に狂っていますね、こいつ。僕なら、蜘蛛の化け物になった時点で自殺しますよ。しかも、平気で人食いまで」


「確かにな。こいつは完全に狂っている。真っ当な感性の持ち主なら、自身が巨大蜘蛛になった時点で耐えられまい。ましてや、人食いなど論外。裏を返せば、こいつは蜘蛛になった事で、内なる狂気が表に出てきたのだろう」


「異種族転生って怖いんですね」


「そういう事だ」


 改めて、異世界転生は恐ろしいと思う。化け物にならなくて本当に良かった。死神ヨミに感謝。







「人食い蜘蛛を殺したのは、金髪の狐人の黒巫女だったそうですね。長い刀を背負っていたと。後、銀髪で三尾の狐人の黒巫女の少女も一緒だったとか」


 話題を新聞の記事の内容に戻す。記事によれば、下級転生者の人食い蜘蛛を殺したのは金髪の狐人の黒巫女との事。それはもう、一方的な完全勝利だったと。


 下級転生者はクズだけど、力は有る。それを相手に一方的に完全勝利したんだから、凄いと思う。少なくとも、今の僕では下級転生者には勝てないし。それはそれとして、黒巫女とは何だろう? 名前からして悪そうな感じだけど。聞いてみよう。


「ナナさん、黒巫女とは何ですか?」


「知らないのかい? まぁ、仕方ないね。魔道と無縁に生きてきたなら。黒巫女はその名の通り、闇の巫女。神聖な力を用いて魔を清め祓う白巫女に対し、魔の力を用いて魔を討つのが黒巫女。悪と断ぜられる存在じゃないけど、その性質上、白巫女からは邪道と呼ばれて嫌われているし、強大な魔の力に酔いしれ、道を踏み外した悪党、外道が多いのも事実。後、数も少ないね。なりたがる奴自体少ない上、力に酔いしれ、破滅する奴が多くてね。その分、生き残っている連中は皆、腕利き揃いさ。特に最高位の『紫』は私でさえ、敵に回したくないね」


 ナナさんは黒巫女について説明してくれた。神聖な力を用いて魔を清め祓う白巫女に対し、魔の力を用いて魔を討つ黒巫女。数は少ないながらも腕利き揃い。最高位の『紫』とやらはナナさんでさえ、敵に回したくないと言う程。……強いな黒巫女。


「さて、お喋りはこの辺にしようか。そろそろ午前の部を始めるよ。ハルカ、さっさと部屋に行って教材を持ってきな。場所は昨日と同じだよ」


「分かりました」


 ナナさんが、朝食後の休憩の終わりを告げる。そして午前の部を始めると。さ、今日もやりますか。教材を取りに自分の部屋へと向かう。







「…………銀毛三尾の狐人の黒巫女の少女か。多分、こいつだろうね」







 去り際にナナさんが何か言っていたみたいだけど……。







「さ、午前の部を始めるよ。既に言ったけど、今回は魔道具と、その扱いについてだ」


 一階の大広間。机に椅子。ホワイトボードが用意されたここが、午前の授業の場。席に着くと早速、授業が始まる。事前に言われたように、今日の授業は魔道具と、その扱いについて。教本とノートを開き、筆記用具を手にする。ナナさんの一言一句を聞き逃すまいと心掛ける。これは学校の授業みたいな甘い物ではない。異世界で生き抜く為のサバイバルだ。


「やる気満々だね。実に結構。教えがいが有るよ。まずは、魔道具とは何か? こいつは文字通り、魔力を宿す物品全般を示す。その性能は、ちょっと便利な程度の品から、世界を滅ぼす危険な奴まで、ピンキリさ。まぁ、この辺は別に魔道具に限った事じゃないけど」


 確かにその通り。そういう点では、元いた世界と変わらない。


 ナナさんの説明は続く。


「で、魔道具は大きく分けて二種類に分かれる。使い捨てと、そうでない奴。使い捨てはあらかじめ魔力を込めておき、使用時に魔力を解放。効果を発揮する。暴発を防ぐ為、決められた動作とか合言葉なんかが必要だけど、それさえ知っていれば基本的に誰でも使える。代表格は呪符だね」


 魔道具は大きく分けて二種類。使い捨てと、そうでない物。使い捨ての代表格は呪符。確かに。


「そして、使い捨てじゃない方。恒久式魔道具。これも二種類有る。一つは、そこそこの性能で、使い手に負担が無く、誰でも使える奴。亜空間収納リュックサックが代表的。冒険者達、御用達の品さ」


 ここで一旦、話を区切るナナさん。


「で、もう一つが、高い性能を誇る代わりに、使い手にも負担が掛かる奴。この手の魔道具は使い手の魔力を消費して、機能を発動する。しかもね、この手の魔道具はオンオフの効くのと効かないのが有るから厄介。効くのはともかく、効かないのは、際限なく使い手の力を吸い取る、非常に危険な奴なんだ。オンオフの効く奴でも、使い手は魔道具を起動、制御、安定して行使できるだけの実力を求められる。それができない奴はその時点で、足切り」


「確かに扱いが難しいんですね」


「難しいけど、それだけの価値は有る。近い内にその為の修行もするからね。さて、次行くよ。次は魔道具の格について。さっきも言ったけど、魔道具もピンキリ。それについて教えよう」







 今度は魔道具の格について。魔道具と一口に言っても、その性能、格は色々。


「大雑把に分けると、下から第三級、第二級、第一級、特級、そして、アーティファクト。世間一般に出回っているのは基本的に第三級と第二級。第一級ともなると、一流と呼ばれる連中、御用達。特級となれば大抵、国が国宝指定したり、実力者が死蔵してるね。当然、上になる程、強力で扱いも難しい。裏を返せば、使い手の実力の証明にもなってる。で、最後にアーティファクト。こいつが問題さ」


 ここでナナさんは話を一旦、区切り、お茶を一口。アーティファクトね。アニメ、漫画、ゲーム、小説とかでよく出る奴。大抵、凄いアイテムだけど、この世界の場合はどういう物なんだろう?







「では、アーティファクトとは何か? について話すよ。よく聞きな」


「はい!」


 いよいよアーティファクトについての話。魔道具の中でも最高位に位置する物だけに、話の内容を聞き逃すまいと意気込む。


「まずはアーティファクトの前に『旧世界』について説明しないといけないね。ハルカ、世界は永久不変って訳じゃない。これまで幾度となく、誕生と滅亡を繰り返している。当然、世界が滅亡すれば、その世界に存在する物も滅ぶが、何らかの理由で残る奴が有ってね。それがアーティファクト。旧世界の遺物。今の世界じゃ、まず作れない。何せ、素材自体が非常に希少。それ自体が旧世界の遺物。仮に手に入っても製法がわからない。私も手に入れたアーティファクトを調べて、そこから得られた情報を元にアーティファクトを作れないかと挑戦した事も有ったんだけど、駄目だった。せいぜい、アーティファクト擬きにしかならなかったよ」


「ナナさんでも駄目だったんですか」


「私を高く評価してくれるのは嬉しいけどね。私でもできない事は有るんだよ。私は全知全能じゃないからね」


「そう言える所が偉いと僕は思います。何かと言えば最強だの、無双だのとうるさい馬鹿と違って」


「まぁね」


 やっぱりナナさんは『できる人』だ。それでこそ、師と仰ぐ価値が有る。あ、価値の無いクズはさっさと死ね。邪魔。







「さて、話を戻すよ。アーティファクトは非常に強力かつ、非常に希少な存在だけに、途方もない価値が有る。魔道に生きる者に限らず、アーティファクト所有を夢見る者は多い。アーティファクトを持つ事自体がステータスになるからね。故に、アーティファクトが見つかると、一大事」


「……争奪戦が起きるんですね」


「そういう事。これまでも幾度となく、壮絶な争奪戦が起きたもんだよ。私も参戦したしね。そのおかげで、幾つかアーティファクトを確保したよ。苦労したけど、それだけの価値は有ったから良し」


「ナナさんでさえ、幾つかしか確保できなかった時点で、争奪戦の激しさがよくわかります」


「本当に大変だったからね……。で、アーティファクトにも格が有る。普通の奴と、『神器』『魔器』だ。神器、魔器はアーティファクトの中のアーティファクト。遥かな太古の神、魔王の魂を宿していて、これを手にする事は、太古の神、魔王の力を手にする事と同義。……もっとも、使いこなせれば、だけど。そんじょそこらの奴が手にすれば、たちどころに消し飛ぶ。そうならなくても、暴走する。最初に言っただろ? アーティファクトには世界を滅ぼす危険な奴が有ると。神器、魔器がそれさ。色々な意味でとんでもなく危険な品なんだ。ちなみに私も神器、魔器は持っていない。さすがに危ないからね」


「怖いですね、アーティファクト」


「そうだよ。アーティファクトは怖い。あれは人智を超えた存在。下級転生者の中にはアーティファクトを作れるなんてほざく馬鹿がいるけど、はっきり言ってやる。お前ら如きに作れる程、アーティファクトは甘くない。あの程度の連中じゃ、第二級に毛が生えた奴しか作れないよ。物作り舐めんな」


「全く、同感です」


 アーティファクトについて色々と教えてくれたナナさん。失われた旧世界の遺物にして、非常に強力かつ、大変希少な品。見つかると壮絶な争奪戦が起きる、はっきり言って厄ネタの類。そして、アーティファクトの何たるかも知らないくせに、アーティファクトを作れるとほざく下級転生者の愚かさよ。


「さて、アーティファクトについてはこんなもんかね。じゃ、次は素材について」


「わかりました」


 まだまだ授業は続く。偉大な師から、大いに学ぼう。全ては異世界で生き抜く為に。


『異世界は理想郷でも楽園でもない』


 ナナさんから度々、言い聞かされてきた言葉。異世界はゲームや小説の世界じゃない。御都合主義なんか存在しない。弱者、愚者には破滅しかない。フィクションは所詮、作り話でしかない。真に受ける奴は馬鹿だ。故になろう系の連中は皆、破滅する。現実を見ない奴に未来は無い。


 後、異世界を見下すのも大概にしろ。クズに見下される程、異世界は甘くない。


『この世界がゲームではないと僕は知っている』



ハルカ、異世界生活四日目。


まずは、ハルカの疑問。死神ヨミは水属性のハルカに何故、風属性の魔扇を与えたのか? その疑問にナナさんは、ハルカの真の属性を隠す為ではないかと。


『裏』において、自身の手の内を隠すのは常識。もし知られたら、対策される故に。ナナさんはその事も考慮した上で、ハルカ育成計画を立てています。







そして本日の授業は魔道具について。魔道具の種類、扱い方、格について学ぶ。その中で語られた最高位の魔道具。アーティファクト。


今では失われた『旧世界』の遺物。非常に強力かつ、非常に希少。それ故に途方もない価値が有り、見つかると壮絶な争奪戦が始まる厄ネタでもある。ナナさんでさえ、確保できたのは数個だけという程。


ナナさんは確保したアーティファクトを調べ、アーティファクトを作れないかと挑戦した事も有ったものの、残念ながらできなかった。それ程までに、アーティファクトとは高度な品。


なろう系転生者の中には、アーティファクトを作れるとほざく馬鹿が時々、現れるものの、こんなクズに作れる訳がなく、所詮、見てくれだけの紛い物ばかり。素材、魔力、知識、技術、設備、アーティファクトを作る為の全てが足りない。そもそも、アーティファクトの何たるかも知らないのだから、論外。


更にアーティファクトの中のアーティファクト。『神器』『魔器』。遥かな太古の神、魔王の魂を宿す品。それを手にする事は、太古の神、魔王の力を手にする事と同義。ただし、その扱いもまた、非常に難しい。要は太古の神魔に匹敵する実力者のみ使える。


ちなみに神器は既に登場済。金毛九尾の狐人の黒巫女。夜光院 狐月斎の持つ『冥刀』紫滅刃がそれ。つまり、狐月斎は太古の神魔級の実力者という事。


では、また次回。


追記。次回は黒巫女師弟も出ます。遂にハルカ達のいる世界にやってきた。ハルカ達との遭遇は近い。



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