第五夜 モンスターメタルセクション
それは、物々しくて、禍々しくて、激しくて、騒がしくて……。
それでいて、とても綺麗な音楽だった。
モンスターメタルセクションの代表曲(だ、そうだ)である「拷問室の哀歌」は、初めて耳にしたわたしにも強烈な印象を植え付けた。
ボーカルを務めるファラオ大関氏の、まるで歌舞伎役者か悪役プロレスラーみたいな顔に似合わぬハイトーンボイスは、驚くほど伸びやかで美しかった。
ほんのわずかな間を耳にしただけで、
「これは、わたしとは次元が違いすぎる」
と、自分との歌唱力の差を思い知らされた。
ツーコーラスが終わり、間奏に入った。
その時、ファラオ大関氏と入れ替わるようにして、ヴァンプ伯爵がギターを持ってステージの最前列に躍り出た。キラキラと輝くような、真っ赤なギター。
全身でリズムを取るようにして、彼はギターを弾いた。伯爵のそのおおきな手が、真っ赤なギターのフレット上を縦横無尽に駆け回る。
そこから奏でられるメロディは、わたしには、清冽な水の流れのように感じられた。
激しいメロディラインのハードロックであるはずなのに、まるで、上質なクラシックやイージーリスニングの曲のような耳触りの演奏。それが、伯爵の……いや「モンスターメタルセクション」の曲を聴いた感想だった。リズミカルに鳴り続けるドラムやベースの凄まじい重低音も、なにやらとても心地良く感じられた。
曲の最後の歌詞は「シャララララララ」をリフレインするという、実にシンプルでキャッチーなものだった。わたしは自分でも気づかないうちに、歌とメロディに合わせて両掌を打ち鳴らし、身体を揺らしていた。周りを見ると、スタジオの中のスタッフも全員が同じような様子だった。村岡ディレクターに至っては、拳を天に突き上げ、バンドと一緒になって歌っていた。……ここ、ライブハウスじゃないんだけれど。
演奏が終わり、それと同時に照明が暗転した。わたしは、ごくごく自然に、おおきな拍手をモンセクのみなさんに送っていた。
「オッケー! いや、やっぱりサイコーだよ。モンセクサイコー!」
フロアにふたたび灯りが点ると、村岡ディレクターは、そう言いながらステージに歩みよった。モンセクのメンバーは、それぞれタオルで汗を拭ったり、ドリンクを飲んだりしながら、村岡ディレクターに笑顔を返した。
「そう思うんなら、毎回ちゃんと呼んでくださいよ。バラエティばっかじゃなくてさぁ」
ファラオ大関氏がニヤリと笑いながら皮肉を言い、村岡ディレクターは、苦笑いして頭を掻いた。その様子に、フロアのあちこちから、どっと笑いが起こった。
「さて、じゃあ、例のヤツ行きますか」
ロン毛の『テラちゃん』さんから違うギターを渡されたヴァンプ伯爵が、ストラップを肩に掛けながら、わたしの方を見てそう言った。
は。
そうだった。
モンセクの演奏に夢中になって忘れてたけど、わたし、これからこのひとたちとコラボするんだった。
「SUMIKAちゃん、じゃあ、こっち」
村岡ディレクターが、わたしをステージに呼びつけた。
わたしは、
「は、はい!」
と我ながら上擦った声で返事をして、小走りに、モンセクの待つそこへ向かった。