第四十六夜 修学旅行
わたしたちは、自分の部屋のドアに、
「今日はお休みします!
花純 文香」
と、書いたメモ用紙を一枚ペタリと貼り付けて、こっそりと、事務所が入ったビルを抜け出した。
朝の街の匂いを嗅ぎながら、カラスやスズメの声を聴きながら。ふたりして、駅まで歩く。
駅に着いたところで、ふたりで、ジャンケンをした。
わたしが勝ったら、東京タワー。
小峯文香が勝ったら、スカイツリーに向かうのだ。
二回のあいこを経て、最後はわたしのチョキを小峯文香の出したグーが粉砕して、勝負が着いた。
恨みっこなし。行き先は、スカイツリー近辺に決まった。
わたしたちふたりは笑いながら、それぞれのSuicaをかざして、改札機を通過した。
そう待たないうちに、電車ががたごととホームに入って来た。まだ、中はガラガラだ。ふたり、弾むようにして乗り込んだ。
どちらからともなく「お腹がすいた」と言い出して、わたしが前々から一度は行ってみたいと思っていた、立ち喰いのそば屋さんに、思い切って入ってみた。
早朝出勤っぽいねずみ色のスーツを着たおじさんと、仕事明けらしい疲れた貌のホスト風のお兄さんの間に挟まれて、わたしたちはふたりでお蕎麦を啜った。
はじめてのコロッケそばは、思っていたよりもずっと美味しかった。満足して隣を見ると、小峯文香も、いつの間にかわかめそばをぺろりと平らげていた。
浅草に着いた。
スカイツリーの開場まで、まだ、時間がある。わたしたちは、その辺を少しお散歩してみる事にした。
ひともまばらな仲見世通りを、きょろきょろしながらふたりで歩く。開店準備中のお団子屋さんの換気扇から、真っ白な湯気が盛大に溢れ出していた。お美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、さっき朝ごはんを食べたばかりなのに、もう、少しだけお腹が空いてきた。
浅草寺に辿り着き、ふたりでお参りをする。広い境内をいろいろと観て周り、スマホで写真を撮ってるうちに、ふと気づくとあちこちのお店が開き始め、それに合わせるように、たくさんのひとが通りの隙間を埋め始めた。
「おー。観光地って感じ」
小峯文香が、嬉々とした声をあげた。
そろそろ、開場の時間になる。
わたしたちは、さっそく、スカイツリーに向けて歩き出した。
*****
「富士山!」
遠くにそびえた、日の光を浴びて煌めく富士山を見たわたしたちは、思わず、揃って声を上げてしまった。
観光客や制服を着た修学旅行生に混ざって、いろんな売店を覗き、ついでに水族館にも入ってみた。わたしたちは色とりどりにライトアップされた水槽の数々に、いちいち歓声をあげ、写真を撮った。
そのあと、原宿に移動した。
わたしはまったくのはじめて、小峯文香も仕事で数回きただけで、プライベートではわたしと同じくはじめての竹下通りだそうだ。
スマホでいろいろと調べながら、いろんなお店を見て周り、いろんな物を食べ歩いた。朝から結構食べているのでカロリーの過剰摂取は気になるところだけど……まぁ、今日くらいは大丈夫。うん、たぶん。
関西弁を話す女の子たちに挟まれて、有名なクレープ屋さんの列に並び、わたしはチョコの、小峯文香はフルーツたっぷりのクレープを買った。ゆっくりと歩きながら、平らげた。
気づけば、夕方になっていた。陽の光が弱まって、歩くひとの数が、さらに増えた。
さて、次はどこに行こうか……と、わたしが考え始めた時、小峯文香がわたしに向けて、
「ね、カラオケ行かない?」
と、提案してきた。




