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わたしのいとしいヴァンパイア  作者: 油布大助


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第四十一夜 二代目登場

 その日は、朝からちょっとドタバタ忙しかった。

 事務所と同じフロアにある、伯爵の個人スタジオブース。今日から数日間、ここで「二代目SUMIKA」の曲がレコーディングされるのだ。


 今日よりすこし前に、伯爵が書いた楽曲に作詞家の先生が歌詞を付けて寄越して来た。


 タイトルは「キスと彗星」。


 ミニアルバムに収録される数曲のうちのひとつで、キラキラした雰囲気の、とてもかわいい曲だった。はじめて聴いた時、わたしが「あ、かわいい曲」と感想を漏らすと、隣の伯爵は、ニヤリとドヤ顔をして見せた。


 編曲と演奏の一部を担当した、伯爵の旧友である黒髪長髪のキーボーディスト、恩田さんもやってきた。ふたりして、朝からあちこちを忙しなく動いている。


 約束の時間の五分ほど前に、チャイムが鳴った。


 わたしがドアを開けると、そこには白井マネージャーと、金髪ボブの小柄な美少女、二代目SUMIKA、小峯文香が立っていた。


「ひさしぶり」


 白井マネージャーが、感情を計れない貌で、わたしにそう言った。


 わたしは、


「あ、おひさしぶりです」


 と、慌てて頭を下げた。


「あ、初号機ちゃんだ!」


 後ろから、小峯文香がそう大声をあげた。


「え……? しょ……ごうき?」


 わけがわからずにわたしが言葉を返すと、


「え? 観てないのエヴァンゲリオン」


 と、小峯文香は笑った。……いや、観とらん(みてない)し。聞いたことくらいはあるけども。


「え……観てないです」


 わたしが言うと、小峯文香は「おもしろいよ。観た方がいいよ」と笑った。そして「ちょっと意味わかんないけど」と、小声で付け足し、ちいさく舌を出した。


 そこに、伯爵が長身をゆらりと揺らすようにして、現れた。


「ご苦労さまです」


 伯爵がそう声を掛けると、白井マネージャーは頭を下げながら、


「おはようございます。今日から、よろしくお願いします」


 と、頭を下げた。それから、にこにことして突っ立っている小峯文香の背中を軽く押して、頭を下げるように促した。


 小峯文香は、


「先生、よろしくお願いしまーす」


 と、極めて軽い口調でそう言い、ペコリと頭を下げた。


*****


「さて。君、譜面は読める?」


 紙束を左手、コーヒーカップを右手に持ったままスタジオ調整室の椅子に腰を下ろして、伯爵は小峯文香に訊いた。


 小峯文香は、ぴしっと真っ直ぐに右手を挙げて、


「読めませーん」


 と笑った。


「オーケー。そしたら、耳で聴いて少しずつ覚えていってもらおう」


「そっちでお願いしまーす」


 あくまで明るく、そして、軽いノリで小峯文香は話す。なんというか、伯爵と恩田さんの事をなめてるというか、軽く見ている彼女の内心が、うっすらと伝わってくる。

 わたしはそれになんとなくイライラしていたのだが、当の伯爵と恩田さんは、特に気にする素振りも見せず、淡々と仕事をこなしていく。うーん、本当の実力者ってのはやっぱり違う。これぞ、プロフェッショナルだ。わたしは、些細なことですぐに乱されてしまう自分の心の脆さを、少し反省した。


「じゃあ、歌ってみようか」


 伯爵がそう言うと、小峯文香は「頑張りまーす」と宣言しながら立ち上がり、踊るようなステップで、録音ブースに入っていった。

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