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わたしのいとしいヴァンパイア  作者: 油布大助


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39/62

第三十九夜 move

「なんなん花純、えらい暗い顔してさ」


 そう言うと、結衣は、わたしの顔を横からついっと覗き込んだ。


 一夜明け、わたしはキャンパスの雑踏を、結衣と一緒にのろのろと歩いていた。

 昨日の張り紙を見てからというもの、気分も足取りもすっごく重い。


「実は……」


 わたしは、ため息混じりの愚痴混じりで、結衣にボヤいた。


「……わたし、来月までに引っ越さなきゃだめになった」


 と、マンションの掲示板に貼られた「お知らせ」の内容を説明する。


「は? なんで」


 結衣は、目を丸くして訊いてきた。


「"老朽化による取り壊し"だってさ。なんか、新しく立派なマンションに建て替わるんだと」


「マジ」


「マジ。"建て替わったあとは、現住民を優先的に入居できるようにする"とか書いてあったけど、そんなのずいぶん先の話だし。そもそも、新築マンションなんか借りられるお金ないし」


 そこまで説明して、わたしはまたため息をついた。


「どうすんの、花純」


 結衣の問い掛けに、ちらっと横目で顔を覗く。


「結衣ん家にしばらく居候……なんて」


「無理。彼氏くるもん」


 ぴしゃりと断られた。


「だよねぇ」


 わたしは、本日もう何度めかもわからなくなった深いため息をまたついた。


「マジで、どうしよう……」


*****


「ウチに来ればいい」


 お稽古が終わったあと、スタジオの椅子に座って愚痴ったわたしに、伯爵はコーヒーカップを傾けながら、なんとも事もなげな調子でそう言った。


「は?」


 ウチ……?

 伯爵の……家に来いと?


 いやいや、わたし嫁入り前の娘ですよ? 男のひとと一緒になんか、住めないですよ。ダメですダメ駄目。


「おれの横、一部屋空いてるだろ」


 あ。隣り?


 そういえば、事務所が入っているフロア。一軒分、未使用空き家っぽい部屋が確かにあった。


「あれ、一応合宿スペースだから。とりあえず、使ってもいいぞ」


 なるほど。


 たしかにここなら学校にも割と近いし、バイトが終わってそのまま眠れるのは、正直かなり魅力的だ。


「……ほんとうにいいんですか?」


 わたしは、こわごわと伯爵に訊ねた。


「いいよ」


 伯爵は、なんとも軽い口調で、そう答えた。


 ……よし、決めた。


 せっかくだし、ここはお言葉に甘えちゃおう。そうして、暇を見て新しい部屋を探せばいいし。


 「あ、ありがとうございます! お世話になります!」


 わたしは、あらためて頭を下げた。

 

 その様を見た伯爵は、ニヤリとちいさく笑って、


「家賃は、給料からしっかり引いておいてやるよ」


 と、そう言った。


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