第二十九夜 好天
あの日の大サバト以来、おれの中でなにかが変わった。
「仕事」と割り切り、一歩引いたところから、どこか他人事の様に接していたモンセクが、しっかりと、今の自分の居場所なのだという意識に変わって来た。
あの高揚感。
あの一体感。
あの万能感。
あれは、いままでの仕事では、決して感じる事の出来なかった感覚だった。
また、あの場所に立ちたい。
シンプルなその思いは、そのまま、おれのモンセクへの接し方を変えた。
ダメ出しされようが、曲を書き溜めた。
より密に、より定期的に他メンバーと連絡を取り、スタジオで音を合わせた。
テレビやラジオでは進んで喋り、存在感を示した。
もともと、ひとと集まって馬鹿話をするのは嫌いじゃない質だった。飲み会や女の子のいる店などでは、話題の中心になっては、爆笑の渦を生む……なんて事はしょっちゅうあった。そのノリをうまくメディア用にアジャストさせ、積極的に披露した。
そのうちに、
「モンセクは、面白いのはファラオ大関だけじゃない」
という雰囲気が業界に拡がって、大関個人ではなく、バンド全体でのメディア露出が増え始めた。
そんなある日。おれは、ディレクターに呼び出され、事務所に顔を出した。
*****
「これ、読んだ? 氷瑞君」
そう言いながら、ディレクターは、開かれた状態の一冊の雑誌を、テーブルの上でおれに寄越した。
「なんすか、これ」
おれは、その雑誌を手に取り、読んでみた。
大手出版社から出されている、月刊のアイドル雑誌だ。男女を問わないさまざまなアイドル歌手のグラビアやインタビュー、読者投稿などが載っている、例のアレ。
開かれていたページは、薗田富希子の特集記事だった。
見開きで、ピンクのワンピースを着た彼女の写真が数枚掲載されていて、その横には、本人直筆の「Q&Aコーナー」なるものがあった。
「そこ。そこ読んで」
ディレクターが、煙草に火を着けながら言う。
なになに。
星座「獅子座です」
血液型「Oです」
好きな食べ物「パフェ、グラタン!」
嫌いな食べ物「納豆。絶対ムリです……」
特技「イラストは得意かも」
……はぁ。
「これが、どうしたんすか」
おれが訊くと、
「いいから、最後まで読んで」
と、ディレクターはそう答えた。……最後まで、ねぇ。
ほかにも、家族構成やら座右の銘やら、好きなスポーツやら苦手なスポーツやら……まぁ、よくある質問がずらりと並んでいた。
そして、最後の質問が「好きな歌手と曲」だった。
そこに薗田富希子が書いた答えは、
「Journey、ドントストップビリーヴィン」
「モンスターメタルセクション、VANISING GROUND」
だった。
「これが、先月号なんだけどね」
ディレクターは、なにやら卑屈な笑みを顔に浮かべながら、言葉を続ける。
「この後、急にシングルが売れ始めて、在庫が底を着いちゃってさ」
「はぁ」
「……でね。せっかくこうして話題になってるんだし、A面とB面を入れ替えて、再プレスしようかって話になってね」
「はい?」
おれは、わけがわからずにそう訊き返した。
ディレクターは、更に卑しく笑いながら、こう答えた。
「つまり、次からは【VANISING GROUND】をA面に……。きみの作品を、前面に出して売って行こうと思ってるんだよ」




