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わたしのいとしいヴァンパイア  作者: 油布大助


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29/62

第二十九夜 好天

 あの日の大サバト以来、おれの中でなにかが変わった。


「仕事」と割り切り、一歩引いたところから、どこか他人事の様に接していたモンセクが、しっかりと、今の自分の居場所なのだという意識に変わって来た。


 あの高揚感。


 あの一体感。


 あの万能感。


 あれは、いままでの仕事では、決して感じる事の出来なかった感覚だった。


 また、あの場所に立ちたい。


 シンプルなその思いは、そのまま、おれのモンセクへの接し方を変えた。


 ダメ出しされようが、曲を書き溜めた。


 より密に、より定期的に他メンバーと連絡を取り、スタジオで音を合わせた。


 テレビやラジオでは進んで喋り、存在感を示した。


 もともと、ひとと集まって馬鹿話をするのは嫌いじゃない質だった。飲み会や女の子のいる店などでは、話題の中心になっては、爆笑の渦を生む……なんて事はしょっちゅうあった。そのノリをうまくメディア用にアジャストさせ、積極的に披露した。


 そのうちに、


「モンセクは、面白いのはファラオ大関だけじゃない」


 という雰囲気が業界に拡がって、大関個人ではなく、バンド全体でのメディア露出が増え始めた。


 そんなある日。おれは、ディレクターに呼び出され、事務所に顔を出した。


*****


「これ、読んだ? 氷瑞君」


 そう言いながら、ディレクターは、開かれた状態の一冊の雑誌を、テーブルの上でおれに寄越した。


「なんすか、これ」


 おれは、その雑誌を手に取り、読んでみた。


 大手出版社から出されている、月刊のアイドル雑誌だ。男女を問わないさまざまなアイドル歌手のグラビアやインタビュー、読者投稿などが載っている、例のアレ。


 開かれていたページは、薗田富希子の特集記事だった。


 見開きで、ピンクのワンピースを着た彼女の写真が数枚掲載されていて、その横には、本人直筆の「Q&Aコーナー」なるものがあった。


「そこ。そこ読んで」


 ディレクターが、煙草に火を着けながら言う。


 なになに。


 星座「獅子座です」


 血液型「Oです」


 好きな食べ物「パフェ、グラタン!」


 嫌いな食べ物「納豆。絶対ムリです……」


 特技「イラストは得意かも」


 ……はぁ。


「これが、どうしたんすか」


 おれが訊くと、


「いいから、最後まで読んで」


 と、ディレクターはそう答えた。……最後まで、ねぇ。


 ほかにも、家族構成やら座右の銘やら、好きなスポーツやら苦手なスポーツやら……まぁ、よくある質問がずらりと並んでいた。


 そして、最後の質問が「好きな歌手と曲」だった。


 そこに薗田富希子が書いた答えは、


「Journey、ドントストップビリーヴィン」

「モンスターメタルセクション、VANISING GROUND」


 だった。


「これが、先月号なんだけどね」


 ディレクターは、なにやら卑屈な笑みを顔に浮かべながら、言葉を続ける。


「この後、急にシングルが売れ始めて、在庫が底を着いちゃってさ」


「はぁ」


「……でね。せっかくこうして話題になってるんだし、A面とB面を入れ替えて、再プレスしようかって話になってね」


「はい?」


 おれは、わけがわからずにそう訊き返した。


 ディレクターは、更に卑しく笑いながら、こう答えた。


「つまり、次からは【VANISING GROUND】をA面に……。きみの作品を、前面に出して売って行こうと思ってるんだよ」

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