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わたしのいとしいヴァンパイア  作者: 油布大助


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26/62

第二十六夜 諦めの決意

 おれたちのファーストシングル【拷問室の哀歌】は、冗談抜きの誇張なしで、かなりの大ヒット曲となった。


 浜屋の作る曲の数々は、客観的に見ても既存の『ジャパニーズヘヴィメタル』とは一線を画していて、とてもキャッチーで面白いものだった。

 それがブラウン管を通して、目新しい音楽に飢えていた若者層にバッチリハマった。


 ファラオ大関のキャラクターだけが先行していたところに、バンドとしての【モンスターメタルセクション】がやっと追いついた……そういう感じを、おれたち全員が覚えた。


 テレビに出て【拷問室の〜】を演奏するたびに、テレビ局には観覧希望のハガキが殺到し、出待ちの【信奉者】が列を成す。


 さらには無数のファンレターやらプレゼントやらが事務所に届き、少ないスタッフでは仕分け片付けが追いつかずに、手がつけられない有様になる。それが、繰り返される。


 これがテレビというメディアの力か……と、おれたちは、骨身に染みて感じさせられた。


 だが、浜屋が書き溜めていた楽曲は、アルバム二枚目にしてそろそろ底を突きそうになっていた。

 次に制作に取り掛かる三枚目のアルバムには、いよいよ、自分たちで作った曲を採用していく事になる。


 おれは、


『やっと、自分の音楽を世に問える』


 と、結構な気合いを入れてその作業に臨んだ。浜屋の作った曲を編み直すだけではない。おれが考えた、おれだけのメロディー。


 だが、その気合を入れて持ち込んだデモテープの十数曲は、ディレクター氏には、どうにもピンと来ていないようだった。


*****


「いや。曲は良いんだよ、曲はさ」


 ディレクター氏はカセットデッキの停止ボタンを押すと、椅子にふんぞり返ったまま、手にした爪楊枝で耳の中をカリカリと掻いた。


「だけどねぇ……、これってさぁ、モンセクでやる意味を感じないんだよねぇ。なんか、やたらお上品でキラキラしててさ」


「いや、しかしですよ」


 おれは、ついムキになって言い返す。


「いつまでも浜屋の曲のイメージに引っ張ってもらうわけにはいかないでしょう。そろそろ、おれたちの色を出していかないと」


「まぁ、それもわかるんだけれどね。伯爵」


 おれが強い口調でそう言っても、ディレクターは『暖簾に腕押し』の体で、こう続けた。


「結局、いまモンセクが人気なのは、なんだかんだで拷問室のお陰なのよ。それを、いきなり方向転換ってのは、ちょっとねぇ」


 それを言われれば、ぐうの音も出せない。 

 たしかにおれは今日、商売というベースではまったく考えていない曲を、提出している。


「その点、いいじゃない。大関くんと中村ちゃんの曲は」


 ディレクターは、おれの剣幕にあたふたしている大関の顔を見て、ニコリと笑った。


「いままでの浜屋くんのに比べればちょっとパンチに欠けるけど、おれは、こっちが良いと思うなぁ」


 そう言いながらディレクターは、ふたりが共作で持って来たカセットを手にして、カチャカチャと室内の皆に振って見せた。


*****


 結局、二枚目のシングルは大関と中村の共作曲がA面に採用され、おれの書いた曲はB面曲に落ち着いた。

 本当はそれすらディレクター氏は渋ったのだが、大関がなんとかそこを説得して、結局、そういう形に収まった。


 おれは、イラついていた。


 自信のある自作曲が、A面には採用されなかった事も。


 プロとして市場及び自分たちの周りの流れを読んでいなかった、自分自身にも。


 おれの曲を求めていない、世間にも。


 自分でもちょっと記憶にないほどイラついて、ムカついて、悔しくて……そして、涙が頬を流れた。


 その夜は一晩中、何軒も梯子をして、酒を飲んだ。


 吐いてはまた飲み、カウンターに突っ伏して気を失っては、また起きて飲み直し……。


 そうしておれは、ある決心をした。


 モンスターメタルセクションに期待をするのは、もうやめよう。


 おれは、あくまでも仕事として、テレビやステージで【ヴァンプ氷瑞伯爵】を演じ切ろう。


 そういう、決心をした。


 それはとても心地よく、そして、とても胸糞の悪い決心だった。


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