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わたしのいとしいヴァンパイア  作者: 油布大助


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第二十五夜 思わぬ再会

「大丈夫っすよ、堂々としてれば」


 そう言って、鏡の前の大関は笑った。

 そして早々に変身を済ませると、たくさんのメイク道具をてきぱきと几帳面に仕舞い始めた。


 こいつは見た目や芸風に依らず、昔から結構細かいところがある男だ。


 今日は、生放送番組に出演するために、おれたちモンセクは、全員でテレビ局にやって来ていた。


 レコードの売り上げやラジオのリクエスト、ハガキによる人気投票などに基づいた番組独自の週ごとのランキングをカウントダウン形式で発表する、まぁ、当時よくあるタイプの音楽番組だ。


 新しくモンセクに加入した、大関以外のおれたち四人は、なんと言っても、生まれて初めての生放送のテレビ出演だ。しかも、全国ネット。……まぁ、はっきり言うと、結構浮き足立っていた。


 ドアがノックされた。


 大関が楽屋を見渡し、メンバー全員が変身済みかどうかを確認して、それから、


「どうぞ」


 と、大声で言った。


 眼鏡を掛けた、まだ若い小太りの男が、


「失礼します」


 と、一礼をして入って来た。


 村岡と名乗るその若いアシスタントディレクターに、ひととおりの番組の流れの説明を受ける。


「モンスターメタルセクションの皆さんは、八時半跨またぎの【今週のニューカマー】コーナーで演奏していただきます」


 村岡ADは、首元に掛けたタオルでしきりに額の汗を拭いながら、そう言った。


 八時半跨ぎと言うと、番組の中では割と良い待遇のはずだ。おれはそれを聞いて、また少し緊張がぶり返してきた。


「ニューカマー枠は、もうひとり、ムーンミュージックの新人さんの、薗田富希子さんも入られてます。順番としては、みなさんと薗田さん、司会者でトークを回して、それから、みなさんの演奏となります」


 え?


 ADの言葉に、おれは思わず耳を疑った。


*****


 村岡ADに誘導されて、おれたちはゆっくりとスタジオに入った。足元は数多のコードやケーブルでごちゃごちゃしているし、照明はギラギラと異様に眩しく、熱かった。


 二百人ほどが座っている観覧席の連中が、登場した珍妙なおれたちの姿を見て、すこしばかりざわついた。大関は手慣れたもので、お客に見得を切ったり煽ったりと、流石のタレント力を存分に発揮していた。おれは、その後ろで腕を組んで笑っていることしか出来なかった。


 それから、テレビでさんざん見て来たアイドルグループや、フォークシンガー、大物演歌歌手などが続々とスタジオに入って来た。変な話しだが、どいつもこいつも、テレビで観るのとそっくりだな……くらいの印象しか抱けなかった。なんというか、あまり現実感を感じなかった。


 そこに、ちいさく一礼をしながら、小柄な少女が入ってきた。


 その子が顔をあげた途端に、スタジオの空気感が明らかに変わったような気がした。


 客席が、明らかにちいさくどよめいた。


 ひさしぶりに見る、薗田富希子だった。


*****


 番組が始まり、おれたちはスタジオ後方のひな壇に腰掛けて、先輩方のトークと演奏を聞いていた。出演者ごとに個別に行われたリハーサル通り、特にトラブルもなにもなく、淡々と、粛々と番組は進んでいく。


 やがて、おれたちの出番がやってきた。


 NHK上がりの人気男性アナウンサーがおれたちと薗田富希子を呼び寄せ、我々は、全員がひな壇から降りた。


「それでは、今週のニューカマー。モンスターメタルセクションの皆さんと、薗田富希子さんです」


 アナウンサーの言葉に、村岡ADが丸めた台本を振りかざす。それを見て、客席から一斉に拍手が巻き起こる。


「ファラオ大関さんは、わたくし何度かお会いしてますが……」


 アナウンサーが、大関に話を振る。


「今回、初めてバンド全体でのご出演という事で。もしよければ、みなさんに自己紹介をお願いできますか」


 会場とひな壇から、また拍手が起こる。


「よろしい。それでは、余が順番に紹介しよう」


 大関が、芸風に則ったダミ声でそう言った。


 ドラムのコンゴウ津川、ベースのパズズ岸和田、ギターのサキュバス中村と、順に、滞りなく自己紹介が進んだ。

 皆それぞれ、事前の練習通りに、モンスターらしく受け応えていく。


 最後に、おれの番が回ってきた。


「最後に。こちらは、我が楽団の音楽の要でもある、ギターのヴァンプ氷瑞伯爵!」


 緊張していたか、それとも、薗田富希子にバレないように、意識をしすぎていたのだろうか。


 その大関の紹介に、おれは思わず、


「氷瑞です」


 と、思い切り素のままで答えてしまった。


 一瞬スタジオが凍りつき、次の瞬間、爆笑と今日最大の拍手が巻き起こった。


 あたふたするおれに、司会者は白いハンカチで涙を抑えながら、


「伯爵は、意外と普通の方なんですね」


 とマイクを向けた。


 おれは、メイクの下の頬を真っ赤に染めて、ぽりぽりと鼻を掻いた。


 その時、横からなにやら強い視線を感じた。


 そちらに顔を向けると、そこには、目をまん丸に見開いた、薗田富希子の姿があった。


 おれは、慌てて彼女から顔を逸らした。


「富希子ちゃん、どうですか。初めてモンスターとお会いした印象は?」


 司会者が、いきなり薗田富希子に話しを振った。


「あ、はい!」


 彼女は、アイドルらしく満面の笑顔を見せて、こう言った。


「とても、素敵だと思います」


 その言葉に、また、スタジオが拍手と笑いに包まれた。

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