第十九夜
まぁ、そんなこんなで。
おれは「ヴァンプ氷瑞伯爵」として、新たにモンスターメタルセクションのギターを担当する事になった。
モンセクのデビューアルバム「ENTER THE MONSTERS〜魔物が来たりて鬼ギグる〜」は、おれたちサークル選抜メンバー四人が加入する前に、大関のボーカル以外を別バンドによる替え玉に演奏させることで、完成してしまっていた。
プロモーションスケジュールの都合上、そうせざるを得なかったらしい。
よっておれは、続いて発売される二枚目のアルバム、及び、そこからシングルカットされる「拷問室の哀歌」の収録からの参加となった。
浜屋の書く曲は、普通ならちょっと有り得ないようなコード進行やスケール構成で作り上げられた、複雑怪奇な物が多い。聴いてる分には面白いが、演奏するには、まぁ、非常に厄介な代物ばかりだった。当時、おれと一緒に新しくモンセクに参加したもうひとりのギタリスト「サキュバス中村」とは、よくふたりして、
「自分で弾けもしないのに、こんな複雑な曲ばかり作りやがって」
と、一緒にスタジオ入りするたびに、互いに愚痴を言い、笑い合いながら練習をしたものだった。
*****
おれが重い足取りで喫煙所に向かうと、そこにはもう先客がいた。
若い女だった。
煙草を吸うでもなく、ジュースやコーヒーを飲むでもなく。ただ、設られた長椅子に腰掛け、俯いていた。髪の毛で遮られ、その表情までは窺えない。
おれは、女から少し離れた位置に腰掛け、咥えた煙草に火を着けた。セブンスターを深く深く吸いつけ、それから、ゆっくりと煙を宙に吐く。
たまった灰を一旦捨てようとしたその時、自分の周りに灰皿がない事に気がついた。
見廻すと、先客の女のすぐそばに、それはあった。女は、まだ、黙って俯いたままだ。
おれは軽く立ち上がると、やや中腰の姿勢のまま、そっと灰皿に近寄った。別にそこまで気を遣う必要もないのだが、なんとなく、その女の邪魔をしない方がいいような……そんな、場の雰囲気だった。
だが、そのおれの気配りも虚しく、女は、近付いたおれの気配を察してパッとその顔を上げた。
おれはついついその動きに連られて、女の顔を真正面から覗き込んでしまった。
女は、とても若かった。十代の半ばか、それを少し越えたぐらい。
当時の流行りだった、国民的なアイドル歌手の名を冠した髪型。
すこし垂れ気味の、黒目がちでおおきな瞳。
よく筋通った高い鼻。ちいさく、薄桃色の唇。
……そして、右眼は白い眼帯で塞がれていた。
「あ、すみません」
女……少女はそう言うと、灰皿の前から少し身体をずらした。おれは、
「あ、ごめん」
と短く言って、おれは伸びた煙草の灰をそこに落とした。
それが、おれと薗田富希子との出会いだった。




