第十二夜
数日後、わたしは渋谷某所のラウンジに呼び出された。もちろんお相手は、モンセクのヴァンプ氷瑞伯爵だ。
待ち合わせ時刻の十分ほど前に、ラウンジに着く。天井がとても高くて、おおきな窓から燦々と陽の光が差している。開放的で、じつに気持ちのいいお店だった。
さて、どこに座ろうか……と、店内をゆっくり見渡してみる。
え、やばい。
わたしを呼び出した伯爵は、もうすでに、端っこの方の席に着いて、連れの男性と談笑しながらコーヒーを啜っていた。わたしは、慌ててそのテーブルに駆け寄った。
「すみません、遅れました!」
頭を下げながらわたしが言うと、伯爵は左手首の時計をちらりと見て「遅れてねぇよ」と笑った。
今日の伯爵は、なにやらお高そうな黒い細身のスーツに身を包んでいた。……おぅおぅ、相変わらずのイケオジっぷりやのう。
伯爵の隣りの席には、同じく高価そうなスーツを着こなした、細身の中年男性が座っている。黒縁眼鏡の奥の瞳は細く鋭く、短めのツーブロックに固められた黒髪と相まって、とっても理知的な雰囲気がビシビシ伝わってくる。
「こっちは、ウチの顧問弁護士の古原。学生の頃のサークル仲間だ。……おおきな声じゃ言えないけど、デビュー前のモンセクでは、一時期ドラムを叩いてた」
伯爵がそう言うと、隣の男性はやおら中腰に立ち上がると、
「古原です」
と名乗り、こちらに名刺を差し出しながらわたしに頭を下げた。うーん、流れるような動き。できるオトナ感すごい。
わたしが慌てて受け取った名刺には、
古原法律事務所
代表 古原徹夫
と記されていた。
「昔はね、ジャガー古原と名乗ってました」
ツーブロックの古原弁護士は、小声でそう言うとニヤリと笑った。……うーん。わたしこれから、吸血鬼と豹男に挟まれながらお茶するのか。そんなことを考えてると、ついつい、わたしの顔もにやけてしまう。
「……ところで、今日はこれからどうするんですか?」
わたしがそう訊くと、
「移籍ってのはな、結構デリケートな問題なんだよ、この業界じゃ。契約云々をきちんとクリアーできてても、一応、仁義だけはきっておかなきゃ大概モメるんだ。後になってな」
と、伯爵は答えた。
……はぁ。そういうもんなのか。
……え?
「あの、それってつまり……」
わたしが言いかけると、伯爵はすっくと立ち上がった。香水の薄く甘い香りが、ふわりと周囲に舞った。
「そうだ。これから、おまえの事務所に挨拶に行く」
毅然とした態度でそう言うと、伯爵は、伝票を手にレジに向かって歩き出した。古原弁護士も、サッと大股でその後に続く。
「……待ってください!」
わたしは、思わずおおきな声をあげた。
「どうした」
立ち止まった伯爵が、わたしに怪訝そうな貌を向けた。
わたしは、深く深呼吸して、
「わたしもなにか飲みたいんですけど。ミルクティーとか」
と、堂々とそう言った。




