第十一夜
「……おんなじ?」
わたしがそう訊くと、伯爵はなにやら大袈裟に肩をすくめる仕草を見せた。
「おんなじだな。……オリコンで一位も獲った。紅白に出た。武道館も満員にした。……それでも、三十年以上も活動してて、いまだに世間では【拷問室の哀歌のモンセク】さ。……おれたち五人も、こいつが学生の頃に書いた一曲を、どうしても、なにをやっても越えられない」
伯爵は、隣に座る浜屋先生を見やって、そう言った。自虐的に笑いながら。
……え?
「あ、あの曲って、浜屋先生が作ったんですか?」
わたしは、びっくりして浜屋先生にそう訊ねた。
浜屋先生はちいさく笑いながら、
「そうだよ」
と、答えた。
「デビューシングルにして、モンスターメタルセクション最大のヒット曲さ。……結局、何枚くらい売れたんだっけ?」
伯爵がそう訊くと、
「最終的には、二十万枚くらいです。おかげで、老朽化してた実家を建て直せました」
浜屋先生は、そう言って微笑んだ。
「……まぁ、そういうわけだ。世の中にはおれたちみたいなのはゴマンといる。それぞれみんな、もがいて足掻いて苦しんで、そして、もう一発を夢見て踏ん張ってる」
伯爵は、ちいさく笑みを浮かべて、しかし、真っ直ぐにわたしの目を見ながらそう言った。
わたしは……
それでも、どうしていいのかわからない。
やる気が完全になくなったのか? と言えば、それは違うと思う。心の隅っこでは、まだ、もう一度でも歌ってみたい、頑張ってみたいという思いもある。確かにある。
だけど……
「でも、事務所との契約が、もう残ってません」
わたしは、俯いたままそう言った。
昨日のあの曲のプロモーション、それがすべて終われば、わたしはもう事務所をリリースされる事になっている。
そして、今後のスケジュールが入ったなんて話は、ひとつも聞いていない。
「もう、どうしようもないです……」
わたしは、振り絞るようにしてそう呟いた。
「あるさ」
伯爵が、あっけらかんとそう言った。
わたしは、ぎょっとして伯爵の顔を見た。
「お嬢ちゃん、これからウチの事務所で働きな」
伯爵は、けろっとした顔でそう言った。
サングラスの奥の三白眼の瞳が、笑っていた。




