第十夜
「……はい」
わたしは、我ながら消えいるようなか細い声でそう答えると、自分の膝小僧に目線を落とした。
「どうしてなのか、よかったら聞かせてくれるか?」
伯爵が言った。なんだか、とっても優しい声だった。
「……もう、やっていく自信がなくなりました。世界の誰も、わたしの歌なんかどうでもいいんだなって」
わたしは、ふたりに目を合わせないままそう言った。
「わたし、一曲目はすごく売れたんです。自分で言うのもアレですけど。……だけど、それから後が全然ダメで。自分では好きで、よく歌えてるなぁって曲でも、まったく聴いてもらえなくて」
振り絞るようにそこまで言った時、わたしの膝にちいさな染みが浮かんだ。知らないうちに、結構な大粒の涙がわたしの目から溢れていた。
その時、向かいに座った伯爵が、ちいさく声を漏らした。
わたしが顔を上げると、伯爵は、顔を伏せて、ちいさく肩を震わせていた。
え……
泣いてる? わたしの話で?
わたしは、他人が自分の悩みをこんなにも親身になって聞いてくれたのは初めてだった。ちょっと、胸がときめいた。
と、
「あはははは!」
次の瞬間、伯爵は手を叩いて笑い出した。
……はぁ?
なに。
つまりいまのって、泣いてたんじゃなくて、笑いを堪えとったってわけ?
「なにがおかしいんですか!」
わたしは、思わず大声を出した。
なんなんこのひと、めちゃくちゃ失礼かやん。
わたしの怒鳴り声にも怯まず、伯爵は、まだ笑い続けていた。
しばらくして、なんとか笑いを治めた伯爵は、もう一度、浜屋先生が淹れたコーヒーを口に含んだ。そして、
「おんなじだな、おれたちと」
と、ニヤリと笑ってそう言った。




