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作者: フクシマ

 真理はこの世に赤裸々な形で来たのではなく、類型とイメージの形で来た。

 ほかのいかなる方法でも、人は真理をけっして受け取れまい……

 花婿はイメージを通り抜け、真理の中に入ってこなければならない。

                 「聖ピリポによる福音書」





 映画館の中は無音に包まれている。画面は暗い。

 右隣に若い男。左隣に中年の女。

 映画が始まった。

 白黒映画。暗い画面の中央から、ゆりかごの中で眠っている小さな赤ん坊が徐々に浮かび上がった。向こう側を向いているので、顔は見えない。どこかの家。

 しばらくすると、赤ん坊は泣き始めた。

 ギャーギャーギャー。

 館内に大きな泣き声が響き渡る。不快な泣き声。

 ギャーギャーギャー。

 不快な音が続く。近所で行われている工事音のようだ。

 ギャーギャーギャー。

 赤ん坊は泣き続ける。自分の存在意義が泣くことであるかのように、赤ん坊は泣き続ける。

 ギャーギャーギャー。


 赤ん坊が泣き止んだ。赤ん坊は細かく体を動かし始めた。

 少しずつ動きが大きくなった。二十回ほど左右に体を動かすと、赤ん坊は寝返りを打った。

 赤ん坊の顔はモザイクのように黒く塗りつぶされていた。口だけが見えた。口はつり上がり不敵な笑みを浮かべていた。

 ニヤリ。

 その音が聞こえたような気がした。

 画面がゆっくりと赤ん坊の顔に寄った。画面が黒く塗りつぶされている赤ん坊の顔で埋め尽くされると、次は赤ん坊の口に近づいた。

 画面全体がニヤリとした、赤ん坊の口になった。また赤ん坊が泣き始める。

 ギャーギャーギャー。

 さっきよりも大きな泣き声。口と泣き声。視覚と聴覚。不快と不快。

 三十秒ほど泣き続けると、泣き声は徐々に小さくなり、音が無くなった。同様に画面も闇に包まれていった。

 

 ドス。ド。ドン。ウッ。ドン。ドン。オエッ。ドン。

 真っ黒の画面。鈍い肉と肉が激しく当たっている音。ラグビーを想像させる。

 画面の中央に現れたのは、歯を強くすり合わせる口。

 画面が引いていき、動く数本の黒い棒の間から、顔を黒く塗りつぶされている少年が現れた。体の大きさからして小学生ぐらい。

「お前は気持ち悪いんだよ」と誰かが言った。

「いつもへらへらしやがって」と違う誰かが言った。

「おい、参ったと言え」とまた違う誰かが言った。

 黒い棒の動きは加速していく。

 ドス。ド。ドン。ウッ。ドン。ドン。オエッ。ドン。オエッ。

 画面がさらに引いていき、この場面の全容が明らかになった。

 砂の上に丸まっている顔が黒く塗りつぶされている少年。その周りを囲む十人ほどの同じ歳ぐらいの少年たち。彼らが罵声を浴びせながら顔を黒く塗りつぶされている少年を蹴っている。

「おい、なあ、参ったか?」とまた誰かが言った。

「参ったって言わないなら、俺たちはもっと蹴るぞ」とまた誰かが言った。

 顔を黒く塗りつぶされている少年は何も言わない。

「もういい、やっちまえ!」と誰かが叫んだ。

 あれからたくさん蹴られたのだろう、顔を黒く塗りつぶされている少年は砂の上に転がっている。周りにいた少年たちはいない。

 黒く塗りつぶされている少年はしばらくすると立ち上がった。すると、急に画面の中にさっき少年を蹴っていた子供たちが現れた。黒く塗りつぶされている少年のいつの間にか包丁を持っている。

 ブス。ブス。ブス。

 黒く塗りつぶされている少年は少年たちを包丁で刺していった。刺した時の音が鮮明に聞こえた。

 ブス。ブス。ブス。ブス。

 刺された少年たちは次々に泣き始めた。だが、刺された少年たちからは血が一滴も出ていなかった。ただ、泣いてお母さんやお父さんであろう名前を呼び続けるだけだった。

 黒く塗りつぶされている少年は全員を包丁で刺すと、どこかに向かって歩き出した。少年は不敵な笑みを浮かべていた。

 暗転。


 ハッハ、ハッハ、ハッハ、ハッハー。

 誰が聞いてもわかるほどの下品な笑い声。

 画面中央に現れたのは、髭が乱雑に生えた数本の歯が欠けた男。男は家のソファに寝転びテレビを見ている。

 散らかった部屋。テーブルの上に、酒の空き缶、新聞、ハチの巣のような灰皿。ソファの周りには男性用下着、お菓子の空箱、酒の空き瓶。

「おい、もう酒はねえのか」と男は叫んだ。

 無音。

 男は腹を立てた様子で立ち上がり、キッチンに向かった。男は冷蔵庫を開けて中を覗いた。男は冷蔵庫を力一杯閉めた。男は家の中を見回してからソファに戻った。

 ガチャ。 

 ドアの開く音。誰かが家の中に入ってきた。男はさっきよりも大きな声で叫んだ。

「おい、もう酒はねえのか!」

 髪がぼさぼさの若い女が男の元に走ってきた。体が不健康に細い女。

「俺は何度もお前を呼んだんだぞ」と男は怒鳴った。「酒がねえし、お前はどこに行っていたんだ?」

「お酒を買いに出ていたんです」と女は言った。「はい、これですよね」

 バシッ。

 男が強く女の頬を叩いた。

 ドン。

 女の手にあった缶ビールが床に落ちた。女が何も言わず酒を拾おうとすると、男は女を蹴った。女は後ろに転がった。

「俺が欲しいときにないとなんの意味もねえだろ」

 男は自分で酒を拾いソファに戻った。ビールを開けまたテレビを見始めた。

 女は起き上がりキッチンに向かった。女は冷蔵庫から食材を取り出した。

 ガチャ。

 また誰かが家の中に入ってきた。二人は誰が入ってきたのか、全く気にしていない。入ってきたのは、黒く塗りつぶされている少年。

 少年はお腹が空いたのだろうか、少年は何も言わず、キッチンにいる女の後ろに立っている。女はしばらくしてから振り向き、少年の存在に気が付いた。女は何も言わなかった。少年は肩を落としソファの近くに向かった。男はまだテレビを見ていた。

「おい、邪魔だ」と男は少年に言った。「テレビを見ているんだから、どこか違うところに行ってくれ」

 少年はまた肩を落とした。少年は自分の居場所がどこかにないか、家の中を何度も見回した。だが、結局それは途方に終わり、少年はまた外に出ていった。少年の口は堅く閉ざされていた。

 暗転。


 パンパンパンパンパンパン。

 何かの音。

 闇の中から布団の中で眠っている顔を黒く塗りつぶされている少年が現れた。物置のような子ども部屋。天井に淡く光る豆電球がぶら下がっている。

 パンパンパン。

 少年はその音で目を覚ましたようで、手で目を擦り辺りを見回す。好奇心に駆られたのだろう、少年はドアに手をかけた。

 少年は音を立てないようにゆっくりとドアを開けた。

 音を出していたのはさっきの男と女。男が上に乗って彼らはソファの上で性行為をしていた。

 少年はドアを隙間からじっと性行為する光景を眺める。二人は少年に気が付くことなく、性行為を続ける。

 パンパンパンパンパンパンパン。

 画面全体に少年が映し出された。音が続いているので、性行為はまだ続いている。少年はじっと男と女を眺めている。しばらくすると少年の口元がゆっくりと上がった。

 暗転。


 銃。大木。鹿の角。卵。裸の女性。太陽。月。水。

 それらの写真が次々に画面に映し出された。

 暗転。


 薄暗い森の中でハンサムな青年が短剣を持って歩いている。青年は遠くに見える大木を目指して歩いているようだ。道は険しく枝が地面まで垂れていることもある。青年は手で枝を避けながら歩いていく。

 満月が出ていた。青年は立ち止まり満月に向かって腕を伸ばした。満月に手は届かなかったが、指先に青紫色の蝶が止まった。青年はゆっくりと腕を縮めて近くで蝶を眺めた。青年は満足気な顔をした。少しすると、蝶は青年の手を離れ満月に向かって飛んで行った。一直線に光を求めて。青年は蝶を見送りまた歩き始めた。

 青年が大木の前に着いた。大木はかなりの高さがあった。青年は短剣を持っていない手で大木に触れた。見上げると葉と梢が何重にも錯綜していた。その間から薄く月の光が差し込んでいた。

 青年は目線を下ろし正面を向いた。そして、十秒ほど見つめた後に、短剣を力一杯大木に突き刺した。短剣は上手く大木に刺さり、刃の半分以上が大木に入っていた。青年は満足気な顔をした。

 暗転。


 キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。

 学校の教室。教室の中に三十人ほどの生徒。制服と背丈からして中学生だろう。顔を黒く塗りつぶされている少年は青年に成長し、窓側の前から三番目の席に座っている。

「明日は全校集会があるから、みんな遅刻しないでね」と若い女の先生が言った。

 生徒たちはドアの方を見て先生の話をほとんど聞いていなかった。

「じゃあ、号令の人、お願いします」と先生は言った。

 帰りの挨拶が終わると、ほとんどの生徒が我先にと教室から出ていった。教室に残ったのは、顔が黒く塗りつぶされている青年、大人しそうな女子生徒が三人。

 青年が教室から出ようとすると、先生が声をかけた。

「ねえ、ちょっといい?」

 青年は教壇の前に向かった。

「あのね、××君。自分が思っていることや自分が感じたことを言葉に出すのはとても大事なことなの。それはあなたにもわかる?」

 青年は黙って肯いた。

「友達のみんなは、あなたと仲良くなりたいと思っているの。でも、あなたが何を言わなければ、あなたと仲良くなるのはとても難しいことなのよ」

 先生は青年の言葉を待った。

「僕はちゃんと話しています」と青年は言った。青年の声は人工的で肉感がなかった。

「ええ、そうね。あなたは話さなくてはいけない時はちゃんと話すわ。でも、私が言いたいのは、そういうことじゃなくて、友達といい人間関係を作るために話してほしいってことなの」

 青年は無言で肯いた。

「わかってくれたなら、もう少し友達と話してみてほしいな。このクラスの子たちはみんないい子だから」

 話が終わると青年は廊下に出た。青年は廊下の窓を開けて窓枠に足をかけた。

 画面が校庭から校舎全体を映し出した。四階の窓から一つの影が地上に向かって落ちていった。

 ドス。

 欅の横に変な方向に曲がった青年の体が映し出された。体から大量の血が流れていた。

 暗転。


 カツン、カツン、カツン、カツン。

 廊下を歩く靴の音。

 真っ白な部屋。ベッド。テレビ。時計。トイレ。洗面台。顔が黒く塗りつぶされている青年はベッドで眠っている。

 ガチャ。

 部屋の中に白衣姿の中年の女が入ってきた。医者のようだ。

「気分はどう?」と医者は言った。

 青年は何も言わなかった。

「もうすぐで退院ね」と医者は言った。「あなたがいなくなると寂しくなるわ」

 青年は肯いた。

「あなたは今年で二十歳になるんだから、これからは自分一人で生きていけるの。自分に合っている世界がきっと見つかるわよ」

 青年はもう一度肯いた。

 医者は部屋から出ていった。

 暗転。


 ザア、ザア、ザア。

 波の音。

 顔を黒く塗りつぶされている青年は一枚の紙を手に持って大きい家の前に立っている。

 青年は拳を出したり引いたりしていた。ドアを叩くか迷っているようだった。しばらく迷っていると、青年の後ろに大きな影が現れた。

「何者だ」、太い威圧的な声だった。

 青年は振り返り、何も言わず紙を男に差し出した。大きな男は紙に目を通すと、一瞬で態度が変わった。

「ああ、君だったのか」、細い優しい声だった。「彼女から聞いているよ。さあ、中に入って」

 二人は家の中に入った。

 二人はテーブルの椅子に向い合せになって座った。テーブルには珈琲が置かれている。

「俺も彼女に世話になったから、君の面倒を見ようと思う。だが、タダで君の面倒を見ることはできない」と大きな男は言った。「それは彼女からも聞いているね?」

 青年は肯いた。

「最初は大変かもしれない。それでもいいかい?」

 青年はもう一度肯いた。

 暗転。


 ザク、ザク、ザク、ザク。

 暗い森。背の低い中年の男がスコップを手に持ち、穴を掘っている。中年の男の隣には全身真っ黒の背が高くほっそりした男が立っている。

「今日こそ見つかるんですかね?」と中年の男は言った。

「必ず見つけるさ」

 ザク、ザク、ザク。

 中年の男は穴を掘り続ける。

 カチンッ。

 スコップが何かに当たった音。中年の男は黒い男の方を見た。

「当たりましたぜ」

「そこからは慎重にやってくれ」

 中年の男は言われた通り、慎重に穴を掘った。

 中年の男が掘り起こしたのは、縦が一メートル、横が五十センチの長方形の銀箱だった。

「ゆっくり上げてくれ」と黒い男は言った。

 中年の男は銀箱を上げ黒い男がそれを受け取った。

 黒い男は緊張した様子で銀箱の縁に手をかけた。そして、ゆっくりと蓋を開けた。

 銀箱の中に入っていたのは、日記、おもちゃ、硬貨、水筒、野球ボールなどの雑貨だった。これは誰かが埋めたタイプカプセルのようだった。黒い男は地面を何度も踏みつけた。腹を立てているようだった。

「これじゃないんですか?」と中年の男は訊いた。

「こんなものじゃない!」と黒い男は叫ぶように言った。「探しているものはもっと大事なものなんだ」

 二人は銀箱に蓋をして、もう一度地面の中に入れた。

「なあ、旦那、一体あんたは何を探しているんだい? それを教えてもらった方が、俺としても仕事が捗ると思うんだけど」と中年の男は銀箱に土をかけながら言った。

「君には関係ないことだ」と黒い男は言った。「今日の給料はここに置いておく」

 黒い男は財布から何枚かの札を出して近くの岩の上に置いた。黒い男はその場から離れようとした。

「旦那、どこに行くんですかい?」

「明日、掘る場所を探すのさ!」

 黒い男は森の中に消えていった。中年の男も土をかけ金をポケットに突っ込むと、黒い男と同じように森の中に消えていった。

 暗転。


 顔を黒く塗りつぶされている青年は船の前方にいて、慣れた手つきで縄を巻いている。大きな男は操縦室にいた。船は港に停泊している。

「お前がこんなにも働き者なんて俺は夢にも思わなかったよ」と大きな男は船から魚を下ろしながら言った。

「ありがとうございます」と青年は言った。その言葉には若者らしい爽やかな響きがあった。

 二人は家に帰ってきて、ご飯を食べている。テーブルの上には刺身や焼き魚が並んでいる。

「もう三年か、お前がここに来てから」と大きな男は言った。

 青年は肯いた。

「時間が進むのは早いもんだ」

 食事を終え、大きな男はソファで眠っていた。青年はテーブルの椅子に座って本を読んでいた。

 コン、コン、コン。

 家のドアを叩く音。青年は本を置きドアを開けた。表にはペンを持っている頭の良さそうな男と女が立っていた。青年は彼らを家の中に招き、彼らの話を熱心に聞き始めた。

 暗転。

 

 パン、パン、パン。

 男と女はまだ性行為を続けていた。

 顔を黒く塗りつぶされている青年は、ドアの隙間から二人の様子を眺めている。青年は包丁を持っていた。

 青年はドアを開けた。男と女は青年に気付かず、性行為を続けている。

 青年は近寄って二人を観察する。青年は男の額に噴き出した汗、絡まった胸毛、女の首の傷跡、垂れた乳房を見る。

 青年はしばらく観察してから包丁で男を刺した。だが、男は包丁を刺されても、顔色一つ変えず性行為を続けている。

 青年は諦めて包丁で女を刺す。だが、男と同じように女は何もなかったかのように性行為を続けている。

 パン、パン、パン。

 音は変わらず鳴っている。

 青年は二人を交互に何度も包丁を刺す。だが、彼らには青年の包丁が届かない。

「うわあああああ」

 青年は奇声を上げて包丁を刺し続ける。だが、いつまで経っても彼らは顔色を変えず性行為を続けている。

 暗転。


 家の中。大きな男と青年はテーブル越しに座っている。テーブルには一枚の紙。

「いつ帰ってきてくれてもいいからな」と大きな男は言った。「お前は俺の家族みたいなもんだ」

 青年は肯いた。

「何か困ったことがあったら、いつでも連絡してこい」。

「大丈夫です」と青年は言った。「家事はここでたくさんやりましたから」

 大きな男は笑みを浮かべた。「お前にはお世話になっちまったな」

「僕の方こそ、お世話になりました」

 二人は家の前に出た。青年はリュックサックを背負っていた。

「お金があるからって無駄使いするんじゃないぞ」と男は言った。「親が残してくれたお金を無駄遣いするやつを俺はたくさん見てきたからな」

「大丈夫です」と青年は言った。「僕には分別がありますから」

 男から手を差し出し二人は握手した。青年はどこかに向かって歩いていった。

 暗転。


 ホテルの一室。顔を塗りつぶされている青年はベッドに寝転んでいる。ベッドの横にはリュックサックが転がっている。

 青年は時計を見た。青年は何かを待っているようだった。

 コン、コン、コン、コン。

 ドアを叩く音。青年は鏡で自分の身なりを確信してからドアを開けた。ドアの前には、化粧の濃い若い女が立っていた。彼女は胸元が大胆に開いた服を着ており、大きい胸の上半分が見えていた。青年は彼女を部屋の中に招き入れた。

 青年と女はベッドで性行為を始めた。女が青年のために体を動かした。体位を何度か変えた。騎乗位で青年が射精した。女は安堵の表情を見せた。

「また呼んでね」と女は服を着ながら言った。

 青年は何も言わなかった。

 女は部屋から出ていった。青年は天井を見てベッドに寝ていた。青年の口は堅く閉ざされていた。

 暗転。


 ザア、ザア、ザア、ザア。

 波の音。黒い壁の一軒家。家の周りを囲む木々。

 家の中で顔を黒く塗りつぶされている青年が料理をしている。フライパンを使い海老と法蓮草を炒めている。鍋にはパスタが茹でられていた。

 青年は四人掛けのテーブルで法蓮草と海老のパスタを食べている。

 青年の視点になった。

 目線をパスタに落としてフォークでパスタを取って口に運んだ。

 くちゃ、くちゃ、くちゃ。

 咀嚼している間は目線を上げる。キッチンの上にある窓から海が見える。しばらく目線は動かなかった。

 パスタを取るためにもう一度視線を落とす。

 パスタを口に運び咀嚼しながら目線を上げると、向かいの椅子に中学校の時の若い女の先生が座っていた。彼女がこっちを見ている。だが、青年はそこに彼女がいないかのように、また同じように海を眺める。

 もう一度目線を落とすと、先生はどこかに消えた。青年はまた海を眺めている。

 視点が戻った。

 青年はキッチンで洗い物をしている。スポンジを使って皿を洗っている。青年は泡が付いた皿を隣の人(画面には映っていないが)に渡そうとした。

 パリンッ。

 皿が床に落ちて割れた。青年は皿の破片を集めてから、洗い物の続きをした。

 暗転。


 ブン、ブン、ブン、ブン、ブン、ブン。

 家の中で回っている扇風機。

 顔を黒く塗りつぶされている青年は裸で海の方に向かって歩いている。

 ザア、ザア、ザア。

 砂浜に立つ青年。青年は海に入っていく。青年はどんどん進んで行き、胸元まで水で浸された。青年は水平線を眺めている。青年は家の方を振り返った。

 青年の視点になった。

 何回も家と水平線を交互に見た。

 水平線の方向で止まった。

 フー。

 息を吐いた。

 スー。

 息を大きく吸い込んだ。

 画面が水面に向かって行く。水面に着く直前で画面が急に真っ暗になった。目を閉じたのだろう。

 バチン。

 水面に顔を打ち付けた。

 暗闇から浮かび上がってきたのは暗い森を上空から眺めている映像。

 森の中にいる二人の男。穴を掘る中年の男、見守る黒い男。画面が二人に近づいていく。

「旦那、ここには何もないですぜ」と中年の男は黒い男の方を見て言った。「今日はこの辺りで……」

「まだだ。きっとこの辺りにあるはずなんだ!」

 男は首を振ってからまた穴を掘り始めた。

「早く見つけないといけないだ」と黒い男は一人呟いた。「全てが手遅れになる前に」

 中年の男は穴を掘っている。黒い男はそれを見ている。その映像が長く続いた。

 画面が闇に包まれた。また目を閉じたのだろう。

 ザア、ザア、ザア。

 暗闇から浮かび上がってきた水平線。青年は振り返り家の方を見た。

 視点が戻った。

 青年は家の方に向かってクロールを始めた。砂浜に着いた。体についた水分を手で落としながら、青年は家の中に入った。

 青年は箪笥からタオルを取り出し体を拭いた。拭き終わると、扇風機の前に座った。

 ブン、ブン、ブン、ブン、ブン、ブン。

 しばらく眺めてから、青年は回っている扇風機の中に左手を突っ込んだ。

 パツンッ。

 左手の中指の先が宙を舞って床に落ちた。血が噴水のように溢れだした。

 青年は棚から救急箱を取り出し、左手の中指に包帯を三重で巻いた。青年はどこかに電話をかけた。

 暗転。


 ギャーギャーギャー。

 床に転がって泣いている赤ん坊。泣いているが赤ん坊の顔には愛嬌がある。

 ギャーギャーギャー。

 赤ん坊の傍に駆け寄っていくハンサムな男。歳は重ねているが、顔立ちから以前大木に短剣を突き刺した青年だということがわかる。

 男は赤ん坊を抱きかかえた。同じぐらいの年齢の髪の長い女が現れた。二人は赤ん坊の顔を覗いて、笑い合っている。

 泣き止むと男は赤ん坊をゆりかごに寝かした。男と女はテーブルに座って、食事を始めた。窓から入り込む光。午前の七時を指す時計。

 女は席を立った。戻ってきた女の手に弁当があった。

「今日はあなたの好物の卵焼きをたくさん入れておいたわ」と女は言った。

「ありがとう」と男は言った。「これで今日の仕事も頑張れる」

 時刻が七時半になった。男はリュックサックを背負い、赤ん坊に近寄った。

「大人しくしているんだぞ」、男はそう言って赤ん坊に接吻した。

 赤ん坊は幸せそうな笑顔を見せた。

 男は玄関で靴を履いている。女は後ろに立っていた。

「できるだけ早く帰れるようにするよ」と男は言った。

「わかったわ」と女は言った。「でも無理はしないでね」

 男は玄関から外に出た。手を振りながら男は仕事に向かった。

 暗転。


 真っ白な部屋。ベッドで寝ている顔を黒く塗りつぶされている青年。彼の左手は包帯が巻かれている。ベッドの傍には前と同じ女の医者。

「寂しいと言ったけれど、こんなに早く帰ってこなくて良かったのよ」と医者は言った。

「僕だって帰って来たくなかったです」と青年は言った。

「もちろんそうだと思うわ。だって、ここはとても退屈な所なんだから」

 医者は青年の手元の紙に何かを書き込む。青年は何も言わず医者の方を眺めている。

「散歩に行きましょう」と医者はしばらくしてから言った。

 青年は無言で肯いた。

 カツン、カツン、カツン。

 真っ白な廊下に響く医者の靴の音。

 開けるのにカードが必要なドアを二つ抜けた。二人は施設の前に出た。丸形の芝生の広場。円を描くように配置された三人掛けの三つのベンチ。広場の向こうには高く聳える壁。

「少し座りましょうか」と医者は言った。

 二人はベンチに座って、公園の中にいる人達を眺めた。芝生に寝転んでいる少年、ボール遊びをする中年の女、何人かで追いかけっこをする若い男と女たち、何もせずに空を見上げている少女などがいた。広場にいるのは老若男女問わず十五人。

「少し変わったでしょう?」と医者は言った。

「ええ、少し変わりました。古い人がどこかに行き、新しい人が入って来たんですね」

「このベンチも新調したのよ」と医者は言った。「気が付いた?」

「新しい人が入って来たんですね」と青年は言った。

「そうなの。新しい人が入ってきたの」

 二人は少しの間、何も話さなかった。

「ねえ、何か楽しかったことはあった?」と医者は言った。

「海が見えないのは残念です」

 医者は何も答えなかった。

「少し体を動かしてみない?」と医者少ししてからは言った。

「僕はさっきまで海で泳いでいました。いや、さっきというよりずっと僕は海で泳いでいるのかもしれない」

 医者はじっと青年の顔を見てから立ち上がった。

「行きましょうか」

 青年は医者に手を引かれベンチから立ち上がった。二人は歩いてきた道を戻っていった。二人は部屋に入った。

「明日も散歩しましょうね」と医者は言った。

 青年は無言で肯いた。

 医者は部屋から外に出た。

 青年はベッドに座り壁の方を見ていた。しばらく青年が壁を眺めていると、壁が変化し始め、白い壁から黒い壁になった。青年は後ろを振り返った。そこにはキッチンがあり、窓から海が見えた。青年はしばらく海を眺めていた。

 暗転。


 ザア、ザア、ザア。

 砂浜に座る顔を黒く塗りつぶされている青年。青年は海を眺めている。遠くに浮かぶ貨物船。餌を求め空を飛ぶ海鳥。綿菓子のような雲。燦然とした太陽。海面を漂う木材。打ち上げられた小魚。砂浜に転がっている帆立て貝。

 太陽が眩しかったのだろう、青年はうつ伏せで砂浜に寝転んだ。

 ワンピースを着ている女の後ろ姿。女は華奢で麦わら帽子を被っている。女は海を眺めている。

 女は砂浜に向かって歩き始めた。砂浜に入ると、女は足を止めた。彼女の視界にうつ伏せで寝転んでいる男が入った。

 辺りを見回してから、女は男に近づいた。距離が五メートルほどになった時、女は男に声をかけた。

「あの、すみません」

 返答なし。

「あの、すみません。お昼寝中ですか?」

 返答なし。

 女は男の傍まで近づいた。男は動かなった。女は男の体に触れた。

「あの、すみません」

 男は驚いて体を起こした。

「どうされました?」、女が何も言わないので顔を黒く塗りつぶされている青年は先に口を開いた。

「あの、今日からあの家に引っ越して来た者なんですけど、この辺りのことが何もわからなくて……」

 女が指で指したのは、男の家から少し離れた場所にある小さな一軒家。

「この辺りに食材を買えるところってありますか?」、女は続けて言った。

「歩いて五分ぐらいのところにありますよ」と青年は言った。「あっちの方角です」

「ご親切にありがとうございます」と女は言った。「このお返しはいつかどこかで」

 女は青年が指した方角に歩いていった。青年はもう一度仰向けに砂浜に寝転んだ。

 暗転。


 青年の家。テーブル、椅子、ソファがどこかに消え、リビングが広く開いている。青年はキッチンから海を眺めている。

 コン、コン、コン。

 ドアを叩く音。

 青年は玄関に向かった。ドアを開けると女の医者が立っていた。

「こんなところに住んでいたのね」と医者は言った。「もっと早く言ってくれればよかったのに」

「本当は言いたかったんですが」と青年は言った。

「いいのよ、気にしないで」

 青年は医者を家の中に入れた。

 青年と医者はキッチンの窓から海を眺めていた。

 コン、コン、コン。

 青年は玄関に向かった。ドアを開けると中学生の時の女の先生が立っていた。

「あの時はごめんね」と先生は言った。

「いいんですよ」と青年は言った。

 青年は先生を家の中に入れた。

 同じようにして、青年は性行為をしていた男と女、ホテルに来た胸の大きい女、ワンピース姿の女、漁師の男を家の中に入れた。

 招かれた人達はリビングに集まった。青年はみんなの前で言った。

「今日は思う存分楽しみましょう」

 青年はカセットデッキで音楽をかけた。

 タッタ、タッタ、タッタ、タッタラー。タッタ、タッタ、タッタ、タッタラー。

 陽気な音楽。

 リビングの中にいる人達は二人一組で踊り始めた。サンバのような踊りだったが、全員が素人の踊り手だった。

 青年は漁師の男と踊っていた。

「これで良かったのかい?」と漁師の男は言った。

 青年は肯いた。

 大きなリビングだったが、これだけの人数が踊るには狭く、人々は肩をすり合わせ、家具や壁を破壊しながら踊りを続けた。

 どれくらい踊ったのかわからないが、人々は疲れた様子で床に座り込んでいる。壁に穴が空き、リビングの端にあったスタンドライトは倒れていた。音楽はまだ鳴り続けていた。

 タッタ、タッタ、タッタ、タッタラー。タッタ、タッタ、タッタ、タッタラー。

 先生が立ち上がりみんなの前に立って言った。

「私は今日死んでもいいわ!」

 無音。

「私は今日死んでもいいわ!」と先生はもう一度言った。

 無音。

 先生は諦めてまた元の場所に座った。

 しばらくして青年がみんなの前に立って言った。

「僕はこれからの予定を決めていないんです。今から何をするかみんなで決めましょう」

「海で魚を取ろう」と漁師の男は言った。

「そんな退屈なことしたくないわ」と性行為をしていた女が言った。「みんなで交わりましょうよ」

「そんな淫らなこと言わないで!」と先生は怒鳴った。「みんなで、話をしましょう。それがきっと一番いいわ」

「あなたたちと話すことなんてないわ」と医者は言った。「だって、話し合いで解決できることなんて一つもないんですから」

「もう言い争うのは、やめませんか?」とワンピース姿の女は言った。「結局、決める権利は彼にあるんだから、彼に決めてもらいませんか?」

 全員が青年の方を見た。

「本当に僕が決めていいんですね?」

 他の人達は無言で肯いた。

「わかりました」と青年は言った。「じゃあ、―――――をしましょう」

 音楽が青年の言葉をかき消した。

 他の人達は茫然と青年の方を眺めている。時計の針だけが動いていた。音楽はまだ鳴っていた。

 青年の口は笑っていた。

 暗転。

 

 砂浜で本を読んでいる上半身が裸のハンサムな青年。雲がないほどの青天。黄金色に輝く海面。沖合に浮かぶ旅客船。

 ブオオーン。

 船の汽笛。甲板に数十人の人影。

 青年の額から汗が噴き出し砂浜に落ちた。

 小さな蟹が砂浜の瓶や木材を避けて青年に近づく。蟹が青年の足首に触れた。

 青年は本に目を向けたまま、手で足首の辺りを触る。蟹は青年の手を避けて、まだ青年の足首に触れている。青年は本から目を上げて、足首の方を見る。その時、女の叫び声が聞こえた。

「誰か助けて!」

 青年は声が聞こえた方を見る。少し高さのある堤防から海を覗く短髪の女。海の中で暴れている小さな子供。

 青年は二人の方に向かって走り出した。青年は全力で腕を振る。堤防が近づいてくる。青年は叫んだ。

「大丈夫ですか!」

 女が青年の方を振り返る。顔に少し皺のある中年の女が泣いている。

「子供が海に落ちてしまったんです」

 青年は堤防に着くと、そのまま海に飛び込んだ。子供は沈み始めていたので、青年は海に潜った。子供は意識を失っていた。青年は子供を抱え水面に上がった。

「ああ」、女はさっきよりも泣いていた。

 青年は勢いよく泳ぎ、子供を抱えながら砂浜に上がった。女は二人に駆け寄った。

「意識が、意識がありません!」と女は叫ぶように言った。

 青年は子供に人工呼吸を行った。すると、四回目で子供は口から水を吐き出し、意識を取り戻した。

「大丈夫かい?」と青年は子供に言った。

「うん、口の中に潮の味がするだけ」

 女は泣きながら子供に抱き着いた。

「だから、私から離れないでって言ったのに」

「ごめんなさい」と子供は下を向いて言った。

 青年は安堵の表情を浮かべながら、少し二人の様子を眺めていたが、すぐにこの場所から立ち去ろうとした。

「じゃあ、僕はこれで」

「ちょっと待ってください!」と女は子供を抱きながら言った。「命を助けて頂いたんですから、何かお礼をさせてください」

「人を助けるのは当然のことですから」と青年は振り返って言った。

「いや、でも……」と女は言った。

「じゃあ、僕に礼をすると思って、今後、もしあなたの前で誰かが助けを求めていたら、見てみぬふりをせずに、助けてあげてください。僕はそれを約束していただけるだけで満足ですから」

「もちろん約束します」と女は何度も肯いて言った。

 青年は笑顔で返事をして振り返り歩いていった。

 暗転。


 誰かの視点。

 天井を向いている。テーブルの足が右にある。床に寝転んでいる。

 ガタン。

 ドアの開いた音。誰かがこの部屋に入ってきた。視点は動かない。

 下の方に人影が現れた。顔を黒く塗りつぶされている青年。青年は黒いビニール袋を持っている。

 体を下に引っ張られている。どこかに運ぼうとしているようだ。

「おもいな」

 青年の声。

 ひっくり返された。目の前が真っ暗になった。

 ガサ、ガサ、ガサ。

「よいしょ」

 画面が上下に揺れる。

 バタン。

 画面が上下に揺れる。

 バタン。

「よいしょ」

 激しい振動。

 バタン。

 しばらくの沈黙。

 ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン。

 エンジンの音。車が発進して左右に揺れる。




 ウゥン。

 エンジンが止まった音。

 バタン。

 画面が上下に揺れる。大きな衝撃の後に止まった。

 ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。

 穴を掘る音。

「これぐらいでいいか」

 上下に揺れる。大きな衝撃の後に止まった。

 バサッ、バサッ、バサッ、バサッ。


 ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン。

 遠くでエンジンの音。

 ヴォン、ヴォン。

 エンジンの音が小さくなっていく。

 ヴォン。

 限りなく小さいエンジンの音。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 カサ。

 何かが動く音。

 カサ、カサ、カサ。

 虫の音。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。

 遠くで穴を掘る音。

「旦那、ホントに穴を掘るだけでお金がもらえるんですかい?」、中年の男の声。

「もちろんさ」、真っ黒の男の声。

 ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。

「それで旦那、俺は何を探せばいいんですかい?」

「それは君が気にすることじゃない」と黒い男は言った。「さっきも話した通り、君は僕が指示する場所を掘ってくれたらいいんだ」

 ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。

 ザク、ザク、ザク、カチンッ。ザク、ザク、ザク、カチンッ。

「初日だし今日はこの辺りにしておこうか」と黒い男は言った。「はい、これ今日の給料ね」

「こんなにも!」

「これは大事な仕事だから」と黒い男は言った。「だから最初にも言った通り、この仕事に関しては他言無用だからね」

「もちろんでさあ」

 トコ、トコ、トコ。

 歩いて行く音。

「まだ始まったばかりだ」と黒い男は言った。「僕は絶対見つけますよ。あなたを救うために」

 トコ、トコ、トコ。

 沈黙。


 森の中にある小屋。小屋の中には、ベッド、キッチン、四人用のテーブル、四つの椅子、他に生活に必要なものが揃っている。

 椅子に座る顔を黒く塗りつぶされている青年。青年はドアの方を見ている。誰かが来るのを待っているようだ。

 青年は椅子から立ち上がり、キッチンに向かう。珈琲を淹れ、二つのコップに注いだ。青年はコップをテーブルに運んだ。

 コン、コン、コン。

 青年はドアに向かった。ドアを開けると、ハンサムな青年がにっこりと笑って立っていた。青年はハンサムな青年を部屋の中に入れた。

 二人は向い合せに座った。

「久しぶりだね」とハンサムな青年は言った。「いつぶりだろ?」

「正確にいつなのか、僕には思い出せないな」と青年は言った。「でも、かなり前だということはわかる」

「そうだね」とハンサムな青年は珈琲を一口飲んでから言った。

 画面が珈琲に近づいていく。

「ここでの暮らしはどうだった?」とハンサムな青年は言った。

「寂しい時もあった。けれど、誰とも会わないというのは、僕にとって、いいことでもあった」

 画面全体が珈琲を映した。珈琲はテーブルに置いた振動で波を打っていた。

「どうしてだい?」

 二人は同じ声だったので、どちらが話しているかわからなくなった。

「誰も傷つけずに済むからだよ。もちろん、それは僕と君も含んでいる」

「外での暮らしはどうだった?」

「楽しいことがたくさんあった。色んな人に出会ったし大切な人もできた」

「でも、君は約束を忘れなかった」

「もちろんさ」

「どうして、僕はそうやって考えることができたんだろう?」

「その答えを知っているのは、僕なのかな?」

「たぶん、僕だと思う」

「大切な人って?」

「君たちには大きな借りがあるからね」

「そろそろ鳥がやってくる頃かな?」

「遠くにいる人と会いたいと思う時がある」

「それは象徴的に捉えていいのかな?」

「洞穴であった少女のことは覚えている?」

「まだわからないことがある。いや、わかることなんてないのかもしれない」

「テレビがずっと付けっぱなしになっている」

「ねえ、あの時のこと覚えている?」

「漁師になった時のことかい?」

「そう、その時だ。たくさん魚を取った時のこと」

「僕は元漁師だ!」

「本を沢山読んだんだね」

「りんごを食べてしまったのは誰だっけ?」

「真っ白な部屋の隅で僕は泣いていた」

「天使と悪魔のことを考えた……、善と悪のことを……、生と死のことを……」

「イメージ……」

「そういえば、海の中に潜ると、そこには違う世界があったんだ」

「この部屋は森の中にある」

「旦那……」

「木に短剣を刺したことは?」

「回っているんだ。でも、円環的な運動って不思議だね」

「それは垂直にも動くのかな?」

「色が無くなってしまったのかい?」

「昔、肩から蛇が生まれてきた人がいたみたいだよ」

「映画館には行った?」

「もちろんさ」

「走り幅跳びの選手に会ったよ」

「僕は君に謝らないといけない」

「みんなで踊ったんだ」

「月の満ち欠けを観察していたの」

「僕はまだ真っ白な部屋にいるの?」

「一緒に歌を歌わないかい?」

「わからない」

「スポーツは?」

「ワンピースを来た女の子さ」

「ホテルの一室」

「楽しかったよ」

「ねえ、そろそろ……」

「時間だね」

 画面がゆっくりと引いていった。部屋の中にはどちらの姿もなかった。

 暗転。


 教室。窓側の一番前の席に座る顔を黒く塗りつぶされている青年。青年は窓から外を眺めている。教室には一人。

 ガタン。

 若い女の先生が教室に入ってきた。先生は青年に話しかけた。

「ごめんね、一人居残りにしちゃって」

 青年は何も言わなかった。

「君と話したいことがあったの」

 先生は青年の隣の席に座った。

「みんな君のことを理解しようとしているの。私も含めてね。でも、君は私たちに対して一切、心を開かない。でもそれはきっと、先生である私にも何か原因があると思うの。だから、何か話してくれないかな? 考えていること、感じていること、何でもいいから」

 青年はしばらくしてから口を開いた。

「僕は難しいんです。色んなことが複雑に絡み合って、僕自身ですら、何が起こっているのかわからないんです」

「私には何もできないのかな?」と先生は言葉を選びながら言った。

「一度先生は失敗しているんです」と青年は言った。

 先生は少しの間、考えていた。

「私、気が付かないうちに何かしちゃったかな?」

 青年は何も言わなかった。

「私は君に自分から話してほしいと思っているの」と先生は言った。「明日から少しずつ努力してみてほしいな」

 青年は無言で肯いた。

「じゃあ、今日はもう帰っていいわ」と先生は言った。「またゆっくりお話ししましょう」

 青年は教室から廊下に出た。廊下の窓を開け窓枠に足をかけた。

「あの、すみません」、女の声が聞こえた。「この辺りに食材を買えるところとかってありますか?」

 青年は声が聞こえた方を見た。廊下にワンピース姿の女が立っていた。女は青年に話しかけていた。

「どうしてここに?」と青年は言った。

「昔、助けてもらったから」

 女は青年に近づいた。青年は窓枠に足をかけたまま動かなった。女が青年の腕を掴んだ。

「そっちに行ったら、また同じことの繰り返しよ」

「でも、僕にはこれ以外の選択肢がない」

「それは誰の言葉なの?」と女は言った。「実は私、自分の家からあなたの家を覗いていたの。だから私はあなたの秘密を知っているの」

「僕の秘密?」

「ええ、あなたの秘密よ」

「僕には君が何を言っているのかわからないよ」

「じゃあ、私と一緒に来て」と女は言った。「あなたに見せてあげるから」

 女は青年の手を引っ張った。青年には力が入っていなかった。二人は教室に戻っていった。

 暗転。


 ザク、ザク、ザク。

 森の中。穴を掘っている中年の男。見守る黒い男。

「旦那、ここで合っているんですかい?」と中年の男は穴の中から言った。

「合っていなくちゃ困るんだ」と黒い男は眉間に皺を寄せながら言った。

「焦っているようですね」と中年の男は言った。「何かあったんですかい?」

「時間がないんだ。さあ、無駄口を叩かずに早く掘ってくれ」

 ザク、ザク、ザク。

 穴を掘り続ける中年の男。だが穴の横にある土の高さが増すばかりで、下からは何も出て来ない。

「早く、早く!」

 遠くから子供の声。

「勝手にどこかに行かないで」

 さらに遠くから女の声。

 黒い男は声が聞こえた方を見た。中年の男も顔を上げたが、黒い男に叱責され穴を掘り続ける。

「こっちだよ、早く!」

 かなり近いところで子供の声が聞こえた。

「もう少しゆっくり!」、女の声。

「ほら、ほら」、子供の声。

「もう何もないじゃありませんか。早くこんな薄気味悪いところから帰りましょう」、女の声。

 タッタ、タッタ、タッタ。

 黒い男は声のする方を見ている。

「うわ、人がいる!」

 黒い男と子供の目が合った。女もすぐに現れた。

「ねえ、こんなところで何してるの?」と子供は言った。

「探し物をしているんですよ」と黒い男は言った。黒い男は全く動揺していなかった。

「何探してるの?」

「とても大事なものです」

 女は黙って二人の顔を交互に見守っていた。中年の男は穴の中から三人を見上げていた。

「ふーん、それで見つかったの?」

「まだ見つからなくて困っているんです」と黒い男は言った。「今も、あの人が一生懸命探してくれているんですが」

 黒い男の声で中年の男が穴から顔を出した。

「僕はその在り処知ってるよ」

「嘘はいけませんね」と黒い男は言った。「一体、僕たちが何を探しているのか、あなたは知っているんですか?」

「埋まっている人間でしょ!」と子供は叫ぶように言った。

 黒い男は目を大きく見開いた。

「なんてこというの!」と女は慌てて言った。

「さあ、こっちだよ」と子供は言った。

「もう本当にすみませんね」と女は黒い男に言った。「きっと悪い冗談なんです、ねえ、そうよね?」

 子供は首を横に振った。

「お母さん、あの人達、困っているんだよ。いいの、ほっておいて?」

 女は少し考えてから言った。

「それは駄目だけど……」

「じゃあ、案内しなきゃ」と子供は言った。「こっち!」

 子供と女は来た道を歩き出した。

「おい、いくぞ」と黒い男は中年の男に言った。

 中年の男はびっくりしていたが、黒い男と一緒に子供を追いかけた。

「ここ!」

 少し歩いたところで子供と女が止まっていた。大きな木の下に掘った形跡があった。四人はその場所を眺めた。

「本当にここなのか?」と黒い男は子供に言った。

 子供は肯いた。それから言った。「ねえ、お母さん、僕、お腹減っちゃった!」

「もう、なんて自由な子なんでしょう」と女は呆れて言った。

「ご案内ありがとうございます」と黒い男は言った。「後は僕たちに任せてください」

「じゃあ、私たちはそろそろ失礼させていただきますね」

 女は子供の手を引いて、来た道を戻っていった。

「おい、あの子供の言ったことは本当かい?」と中年の男は言った。

「君はそんなこと考えなくていいんだ」と黒い男は言った。「さあ、早速ここを掘ってくれ」

 中年の男は言われるがまま、穴を掘り始めた。土が柔らかいのだろう、中年の男はさっきよりも早いスピードで穴を掘っていった。

 一メートルぐらいの穴を掘ると、黒いビニール袋が見えた。

「ちょっと待て」と黒い男は言った。「そこからは慎重にやってくれ」

 中年の男は言われた通り、丁寧に穴を掘り始めた。中年の男は上手くビニールの周りの土を掘った。

「そこでやめてくれ」と黒い男は言った。「スコップを置いて、次はこれをひっぱり上げるのを手伝ってくれ」

 二人はビニール袋を穴から引き揚げた。

「まだ間に合うはずだ」と言って黒い男はビニール袋の紐を解き始めた。

 暗転。


 カツン、カツン、カツン、カツン。

 廊下を歩く靴の音。

 真っ白な部屋。ベッドに座りテレビを見ている顔を黒く塗りつぶされている青年。

 ガチャ。

 女の医者が入ってきた。

「あら、珍しいわね」

 青年はテレビに熱中している。

 テレビ画面が映し出された。

 砂浜。たくさんの人がいる。

 本を読むハンサムな青年。隣には本を読んでいるワンピース姿の女。スコップを使って穴を掘る中年の男。それを見守る黒い男。ソファの上で性行為する男と女。逃げる子供と追う母親。先生と子供達。若い男女。

 ザア、ザア、ザア。

 波の音。

「これはあなたの夢なのかしら?」と医者は言った。「それとも何かの映画なのかな?」

 顔を黒く塗りつぶされている青年は医者の存在に気が付いた。

「先生は実在していますか? それとも僕の幻覚ですか?」

「私は現実の人間よ」と医者は言った。

 青年は少し考えてから言った。

「それが本当である根拠はなんですか?」

「残念ながら根拠はないわ」と医者は言った。「私を信じてもらうしか……」

 青年は医者の方を眺めている。

 医者の体が曲がっていく。体は三十度ほど傾いて止まった。

「あなたは何が現実で、何が幻覚なのかわからなくなっている」、医者は体が曲がったまま話している。「幻覚に惑わされないで。私だけを信じて」

 青年は医者の方を眺めている。

 医者の体がさらに曲がっていく。四十五度。六十度。九十度。最後に上半身と下半身が千切れた。医者は血を吹き出して床に転がっている。

「ねえ、私の声はあなたに届いている?」

 医者は話し続ける。だが、青年は医者から目線を外しまたテレビを眺め始めた。

 暗転。


 綺麗に整頓された家。

 家の中に帰ってきた顔が黒く塗りつぶされている少年。テーブルの椅子に座っている優しそうな男と女。

 女が少年の元に駆け寄った。

「もうこんなに汚しちゃって」

 女は少年の服を脱がした。

「さあ、先にお風呂に入って来ちゃって」

 少年は風呂場に向かった。

 風呂を出ると、女が真っ白なタオルを持って少年を待ち構えていた。女はタオルで少年の体を拭いた。

「もうそんなに強くしないでよ」と少年は言った。

「どうしてよ」と女は言った。「風邪引いたら困るでしょう」

 女は少年に用意していた服を着せた。

「さあ、二人とも早く」、男はテーブルにカレーライスを運んでいた。

「今日はあなたの大好物のカレーライスよ」と女は少年に言った。「いっぱい食べてね」

 少年は跳ねるように椅子に座った。男と女も椅子に座った。

「じゃあ、いただきましょう」と女は言った。

 少年は勢いよくカレーを食べ始めた。

「そんなに食べてくれたら作った甲斐があるなあ」と男は言った。

「おかわり!」、少年はあっという間に食べ終わると叫ぶように言った。

「はい、はい、ちょっと待ってね」、女は椅子から立ち上がり少年の皿にカレーライスを入れた。

「もう食べられない」、少年は椅子にもたれるように座っていた。

「そんなに食べたら十分でしょう」と女は言った。「ほら、こんなにお腹が膨らんでいるわよ」

 女は服の上から少年のお腹を触った。

「もう、くすぐったいよ」と少年は女の手を払いのけた。

「あら、昔はもっと触らせてくれたのに」と女は残念そうに言った。

「もう××は、立派な大人だよな」と男は言った。

「そうだよ」と少年は言った。「僕はもう子供じゃないんだ!」

 女は微笑んだ。「残念ねえ」

 少年は席を立ちソファに移動した。少年はテレビを付け、ソファに座りながらテレビを見始めた。

 男と女は幸せそうに少年を眺めていた。

 暗転。

 

 黒い男がビニール袋の紐を解くと中に、包丁が刺さったハンサムな青年が入っていた。中年の男はびっくりして後ろにひっくり返った。

「これはどういうことですか!」、中年の男は動揺していた。

「君には関係ありません」と黒い男は言った。

「俺は変なことに巻き込まれるのは嫌なんです」と中年の男は言った。「これが誰の死体なのかちゃんと説明してください」

 黒い男は少し考えてから言った。

「説明してもわからないと思うけど、聞きたいかい?」

「ええ、聞きたいです」と中年の男は立ち上がって言った。

「この子はどこにでもいる普通の青年で、見たらわかるように包丁が刺さって死んでいる。だが、他の死体とは違うところがある。それはこれをやったのがこの子自身だというところだ。この子は自分で自分のことを包丁で刺してこの暗い森の中に埋めた。だから、君は変なことに巻き込まれていないし、捕まえるようなことはない。僕たちはただ彼が自分を取り戻せるように力を貸しているだけだ」

 中年の男は中途半端な口を開けたまま動かなかった。

「俺には旦那が何を言っているのか……」

「だから、君は何も気にしなくていいの」と黒い男は言った。「とりあえず、君にはとても感謝している。今まで本当にありがとう。これ成功報酬と今日の給料ね」

 中年の男は数十枚の札を黒い男から受け取った。

「俺は本当に何も悪いことはしていないですよね?」と中年の男は言った。

「安心してください。君は何一つ悪いことをしていません」と黒い男は言った。「だから、それを持って早く家に帰りなさい」

 中年の男は何度か後ろを振り返りながら森の中に消えていった。

 黒い男は中年の男を見送ってから青年に刺さっている包丁を両手で掴んだ。

「僕にできるだろうか?」

 黒い男は体重を後ろにかけて包丁を抜こうとした。だが、包丁は少しも動かなかった。

「やっぱり駄目か」

 黒い男は青年を持ち上げ肩の上に乗せた。黒い男は青年と共に森の中に消えていった。

 暗転。

 

 ガタン。

 ワンピース姿の女と顔を黒く塗りつぶされている青年はドアを開け、教室の中に入った。教室には誰もいなかった。青年と女は後ろの方の席に座った。

「詳しく説明してくれませんか?」と青年が先に口を開いた。「どうしてあなたがここにいるのか、そして、僕の秘密が何であるかを」

「私がここにいる理由は簡単よ」と女は言った。「それは私たちの家が近いから。私たちってご近所に住んでいるでしょ。だから、私がここにいるの」

「それがどういうことなのか、僕には……」

「わからないの?」と女は言った。「それは残念ね」

 青年は少しの間考えてから言った。

「それで僕の秘密っていうのは?」

「あなたが複雑に絡み合った世界に生きていることよ」

 青年は首を傾けた。「複雑に絡み合った?」

「ほら、あれを見て」と言って女は黒板の方に目配せをした。

 黒板はいつの間にか、テレビ画面に変っていた。画面に映っているのは、真っ白な部屋でこっちを見ている顔を黒く塗りつぶされている青年。教室側の顔を黒く塗りつぶされている青年は中途半端な口を開けたまま動かなった。

「あれは誰ですか?」と青年は吐息のような言葉を漏らした。

「あなたよ」

 青年は目を丸くした。「あれが僕?」

「ええ、あなた」

「でも、僕はあんな白い部屋に行ったことがない」と青年は言った。「僕は優しい両親の元で育ち、ずっと、平凡だけど幸せな人生を歩んできた。僕はあんな精神病棟のような場所を知らないよ」

 女は少し考えてから口を開いた。

「あなたはとっても深くて複雑な夢を見ているのよ」

「僕が夢を?」

「ええ」

「僕にはそんな話信じられません」と青年はしばらく考えてから言った。「じゃあ、僕がこれまで生きてきた人生は全て嘘だったと言うんですか? 友達と過ごした学校生活、家族との夕食、それら全てが嘘だったと?」

「残念ながら」

「でも、あそこで全く動かない僕が現実だという証拠はどこにあるんです?」

 女は深刻そうな顔をした。「たしかにそう言われてみればそうね」

「というか、まずあなた誰なんですか?」と青年は言った。「あんな辺鄙なところに引っ越してくる人がいるとは僕には思えないんですが……」

 女は頭を抑えて何かを考えていた。

「実は私はあなたの幻覚なの」と女はしばらくして言った。「だから、私は嘘をつく時がある。どうか私の言葉を簡単に信じないで」

「僕にはもう何がどうなっているのかわからないよ」

 二人はそれから話をせずテレビ画面を眺めた。画面に映る青年はピクリとも動かなかった。

 暗転。


 ザア、ザア、ザア。

 海。空を漂う雲々。雲の間から顔を出す太陽。

 波打ち際で手を重ねて座っているハンサムな青年とワンピース姿の女。二人は穏やかな波のある海を眺めている。

「ねえ、このまま時間が止まってくれたらいいと思わない?」と女は言った。

「もしそうなったら幸せだね」

 ザア、ザア、ザア。

 波が二人の足を浸す。鳥が海の中に入って魚を捕まえた。二人の足元に木片が運ばれてきた。女が木片を拾って海に投げ返した。

 太陽が雲の間から完全に姿を現し、海面に光の道を作った。青年は女の手を離し腰を上げた。

「どこへ行くの?」

「どこに行くんだろ?」と青年は自問自答した。

「ずっと一緒にここにいようよ」と言って女は青年の手を引いた。

 青年は女の顔をしばらく眺めてから手を振り解いた。

「ごめん、僕は行かないといけないんだ」

「どうしても?」と女は懇願するように言った。

「ごめんね」

 青年は海に向かって歩いて行く。女は青年の後ろ姿を眺めている。

 青年の胸辺りまで水が迫ってきた。青年はまだ歩き続ける。

 青年は一度、後ろを振り返った。青年は光に照らされていた。女は手で招く代わりに、両手を胸の前で合わせた。青年はもう一度振り返り、光の道を真っすぐに進んでいった。

 青年の顎辺りまで水が迫ってきた。太陽が雲に覆われ始め、光の道が消えかかる。青年はまだ歩き続ける。光の道が消えたと同時、青年の体は海の中に吸い込まれた。女はまだ両手を合わせていた。

 暗転。


 青年を背負った黒い男は鍵を開けて、森の中にある小屋に入った。ここは前に顔を黒く塗りつぶされている青年とハンサムな青年が話していた小屋だった。

「よいしょ」

 黒い男は青年を部屋の中央に下した。黒い男はもう一度、包丁を抜けるか試したが、包丁は全く動かなかった。

 黒い男は諦めてキッチンで珈琲を入れた。テーブルの椅子に座り、珈琲を飲みながら青年を眺めた。

 包丁は青年の心臓部分に刺さっており、柄だけが体の外に出ていた。両手は腹の前で綺麗に重ねられており、長く細い美しい手だった。包丁を刺されたのにもかかわらず、顔は穏やかな表情をしていた。肌の血色が良くただ眠っているようにも見えた。だが、確実に包丁は刺さっており、青年は死体になっていた。

 時計で時間を確認してから、黒い男は椅子から立ち上がり冷蔵庫を開けた。卵、トマト、レタスを取り出し、キッチンの上にある棚からサンドイッチ用のパンも取り出した。

 黒い男は卵をフライパンで焼き、トマトとレタスを切った。スクランブルエッグ、トマト、レタスをパンに挟み、サンドイッチを作った。珈琲のお代わりを入れ、黒い男はテーブルに座って、サンドイッチを食べ始めた。

 コン、コン、コン。

 三つ目のサンドイッチを食べている時に、小屋のドアがノックされた。黒い男はサンドイッチを口の中に入れ、珈琲で流し込んでから、ドアに向かった。

 ドアを開けると、女の先生が立っていた。

「あなたでしたか」と男は言った。

 先生は頭を下げてから言った。「お邪魔してもいいですか?」

 黒い男は肯き先生を家の中に入れた。先生は青年の死体を見ても驚かなかった。死体がここにあるのを知っていたようだった。

「よく見つけてくれましたね」と先生は言った。

「時間はかかりましたがね」

「たしかに危ないところでした」と先生は言った。「でも、まだ間に合います」

「はい、おっしゃる通りです」と黒い男は言った。「でも急がないといけません」

 先生は青年に近づき、包丁を両手で掴んだ。

「お願いします」と黒い男は言った。

 先生は黒い男と同じように体重を後ろにかけて、包丁を抜き取ろうとした。だが、包丁は動かなかった。

「私では無理なようです」と先生は申し訳なさそうに言った。「私が彼を追い込んでしまったのに」、先生は今にも泣きだしそうだった。

「あなただけのせいではありませんよ。そんなに自分を追い込まないでください」

「でも……」

「さあ、ここに座って少し気持ちを落ち着かせましょう」

 黒い男は先生を椅子に座らせてから、キッチンに向かった。

「珈琲でいいですか?」

「はい、何でも」

「サンドイッチはどうです?」

「じゃあ、少しだけ」

 黒い男はテーブルには珈琲と半分に切ったサンドイッチを運んだ。女は少しずつサンドイッチを食べた。

「あと誰がここに来るんでしょうか?」と女は言った。

「僕にはわかりません。あなたが最初で最後かもしれません」

「そんな……」

 二人はそれから珈琲を飲みながら黙って青年を眺め始めた。

 先生の皿が空になった時、ドアがノックされた。

 コン、コン、コン。

 黒い男は席を立ち、ドアに向かった。ドアを開けると、性行為をしていた女が裸で立っていた。

「よく来てくれましたね」と男は言った。

「義務ですから」と女は言った。

 裸の女は小屋の中に入った。黒い男と先生は女を見守っていた。

「私にできますかね?」と裸の女は青年に刺さった包丁を見ながら言った。

「あなたにできると僕は信じています」と黒い男は言った。

 先生は同意するように肯いた。

 裸の女は包丁を両手で掴んだ。そして、これまでの二人と同様に、包丁を思いっきり引っ張った。だが、包丁は動かなかった。

「これは……」、黒い男は明らかに戸惑っていた。予想が外れたようだった。

「じゃあ、どうすればいいの」と先生は泣きながら言った。

「残念だけど、私には無理だったみたいね」と裸の女は言った。「じゃあ、私はこれで帰らせてもらうわ」

 二人は裸の女にここに留まることを懇願したが、裸の女は二人の言うことを聞かず、足早に小屋から去っていった。二人は途方に暮れた様子で椅子に座った。

「どうしたらいいんでしょう?」、先生は吐息のような声を出した。

「僕にもわかりません」と黒い男は下を向いて言った。「誰かが来てくれることを祈るしか……」

 暗転。


 真っ白な部屋。ベッドで寝転ぶ顔を黒く塗りつぶされている青年。

 カタン、カタン、カタン。

 廊下に響く靴の音。

 ガチャ。

 女の医者が部屋の中に入ってきた。

「散歩の時間よ」と医者は言った。「どう歩けそう?」

 青年は肯いた。

 二人は前に歩いた同じ道を通り、外の広場に出た。公園には十人ほどの人達が遊んでいた。二人はベンチに腰を下ろした。

「昨日よりも天気がいいわ」と医者は言った。「ほら、太陽が雲の間から顔を出してい」

「たしかにいい天気ですね」と青年は言った。「まるで砂浜にいるような気分です」

「砂浜ねえ、たしかにそうかもしれないわ」と医者は言葉を選びながら言った。

 二人が何も話さず広場を眺めていると、青年の足元にボールが転がってきた。青年はボールを拾った。ワンピースを着た高校生ぐらいの女の子がボールを取りに来た。二人は見つめ合っていた。

「ほら、彼女はボールが欲しいのよ」と医者は言った。「××君、ボールを渡して上げて」

 青年はボールを女の子に渡した。女の子は頭を下げて、広場の中央に戻っていった。

「よく出来たわね」と先生は言った。

「もちろんです」と青年は言った。「だって、これは僕の幻覚なんですから」

「あら、本当かしら?」と医者は言った。「じゃあ、どこがあなたの現実って言うの?」

「現実の僕は映画館で映画を見ているんです」と青年は少し考えてから言った。「その映画は少し奇妙で、時間や空間が入り乱れているんです。まるで人の記憶みたいに」

「でも、あなたは幼い時からずっとこの中に……」と医者は言いにくそうに言った。

「その映画はとても象徴的なんです。まるで聖書のように。一本の道が通っているんです。まるで老子の道のように。沈黙があるんです。僕たちはその前で立ち尽くすしかできないんです。闇があるんです。そして、闇は僕たちを見ているんです」

 医者は青年の顔をじっと眺めていた。

「君にはそれがわかったの?」と青年は言った。

 青年は肯いた。

「三百六十度を見回して、僕は話し相手を探している」

 青年は首を横に振る。

「それは受け手の永遠の不在だよ」

「ねえ、いい天気だから広場を一周してみない」と言って医者は青年の顔を覗き込んだ。青年は広場をじっと眺めていた。

「答えなんて見つからないよ。だって、進んでも後退しても、そこは円の中なんだから」

 医者は青年の肩に触れた。青年はそのことにまるで気が付いていないようだった。

「君は答えが見つかった?」と青年は言った。

 医者は肩を落とした。「どうやら今日の散歩は失敗みたいね。そろそろ部屋に戻りましょうか」

「掴めそうで掴めない距離にある。でも、僕はこうやって話すことで、それに近づいている。確実に近づいているよ」

 青年は肯いた。

「帰ってこられないかもしれない」

「はい、早く行きましょうね」、医者は青年の肩を掴み青年をベンチから立たせようとした。

「まだ全ては始まったばかりだ。ここからが僕たちの知らないところ。僕に任せて」

 医者は強引に青年をベンチから立たせた。医者は青年を引きずるように施設の中に戻っていった。青年の口元はまだ動いていた。

 暗転。


 コン、コン、コン。

 黒い男と先生は顔を見合わせた。黒い男は席を立ちドアに向かった。

 黒い男がドアを開けると、顔を黒く塗りつぶされている青年と女の医者が立っていた。

 黒い男は中途半端な口を開けたまま動かなくなった。

「中に入ってもいいですか?」と青年は言った。

「ええ、もちろんですとも」と黒い男は慌てて言った。「あなたが来るなんて夢にも思いませんでした」

 二人は家の中に入った。青年は死体を見ると黒い男に言った。

「探し出してくれてありがとうございます」

「これが僕の役目でしたから」と黒い男は言った。

 医者は辺りを少し回してから言った。

「あそこのベンチに座りましょうか」

 青年と医者はテーブルの椅子に腰を下ろした。

「何がお飲みになりますか?」と黒い男は青年に言った。

「珈琲をお願いします」

 黒い男は肯いてからキッチンに向かった。

「久しぶりね」と先生は青年に言った。

「そうですね。最後に会ったのはいつでしたっけ?」

「あなたが学校から飛び降りた日よ」と先生は言った。「私はあの日のことを考えて、何度も後悔した」

「ねえ、今日もいい天気ね」と医者は言った。

「先生の責任ではありません。僕が難しく考えてしまったたけです」

 黒い男は珈琲を持って戻ってきた。黒い男も椅子に腰を下ろした。

 青年は珈琲を一口飲んだ。

「美味しい珈琲です」と青年は言った。

「あなたも少し体を動かしてみない?」と医者は言った。

 青年は死体の方に顔を向けた。青年は死体の方を見て動かなくなった。

「あなたは何も悪くないわ」と先生は言った。「周りの人があなたを助けなければいけなかったのよ」

「でも……」と言って青年は下を向いた。

「大丈夫よ」と先生は言った。

「まだ間に合うはずです」と黒い男は言った。

「やっぱりあなたじゃないと駄目なのよ」と先生は言った。

 青年は席を立ち、死体に寄ろうとした。医者は慌てた様子で青年の肩を掴んだ。

「どこいくの? そっちは立ち入り禁止の場所でしょう」

 青年は肩を左右に揺らしたが、医者の腕は離れなかった。

「邪魔をしないでください!」と青年は叫ぶように言った。「僕にはやらなければいけないことがあるんです」

 医者は青年の大きな声にびっくりしていたが腕は離さなかった。

「今日の散歩も逆効果だったみたいね」と医者は言った。「さあ、中に戻りましょう」

 医者が青年を引っ張っていこうとしたその時、黒い男と先生が医者の腕を掴んだ。

「ここは任せてください」と黒い男は言った。

 二人は医者の腕を引っ張り、青年と医者を離した。医者は引っ張られた勢いで、後ろに転がった。

「早く、誰か来て!」と医者は叫び声を上げた。

 ゴン、ゴン、ゴン。

 小屋のドアを激しく叩く音。ドアが壊れてしまいそうな勢いだった。

「早く!」と医者はもう一度叫んだ。

 青年は死体に近づき、両手で包丁を握った。

 バン、バン、バン、バタン。

 ドアが壊れ、三人の白い男たちが小屋の中なだれ込んで来た。

 青年は男たちを一瞥したが、また死体の方を見た。青年は両手に力を入れて、体重を後ろにかけた。包丁が少し動いた。

「駄目よ!」と医者は叫んだ。「それより先に言ったら、あなたはもう二度と戻って来られないのよ」

 白い男たちが青年を止めようとした。だが、先生と黒い男が白い男たちを止めた。

「もう少し」、青年はそう言ってさらに力を入れた。

 包丁がぐらぐらと動いていた。もう少しで抜けそうだった。

 転がっていた医者は何とか立ち上がり、青年に駆け寄った。

「待ちなさい!」

 青年は医者の方を見ず、もう一度、体重を後ろに乗せた。すると、深く刺さっていた包丁が死体から抜け、青年が勢い余って後方に転げていった。医者の手はあと少しのところで届かなかった。

 小屋の中にいる全員の動きが止まった。全員が次に何が起きるのか待っているようだった。

 暗転。


 ダンスに呼ばれた招待客たちと顔を黒く塗りつぶされている青年は家から外に出て砂浜にいた。波の激しい海。空を覆う黒い雲。大粒の雨。激しい風。

「ではそこに一列でお願いします」と青年は言った。

 右から、医者、先生、漁師、性行為をしていた男女、ホテルで交わった胸の大きい女、ワンピース姿の女。青年が前に立つ。

「ねえ、やっぱり家の中で何かをする方がいいんじゃない?」、胸の大きい女は言った。

「もう決まったことなのよ」とワンピース姿の女は言った。「文句を言わないで」

「これに一体なんの意味があるんだ」と性行為をしていた男が不満を漏らした。

「これは私たちの義務なのよ」と相手の女はだるそうに言った。

「ねえ、みなさん、ちゃんと集中しましょうよ」と先生は言った。「もうすぐ始まるんですから」

 ブウン、ブウン、ブウン。

 雨が全員の顔を強く打っていた。砂浜には彼らしかいない。

 青年が一人ずつ全員の顔を見た。青年は直立の状態から右手を上げ左足を開いた。一列に並んでいる人々は青年の手に注目した。

 青年の指揮で合唱が始まった。


 

 暗い世界 手を握って 僕たちは歩いていた

 灰色の雲にうんざり 太陽はどこへやら

 カバンの中 キャンディーを見つけ

 君は笑顔で受け取った

 睫毛の長さ 確認して 僕たちは二人で一人

 

 二人の前 熊が現れた それは悪魔のせい

 君は手を離した 真っ暗な世界

 さよならと言った君の背中 太陽と月の距離

 下を向く僕の元 陽気な友達がやって来た

 魚の取り方 恋人の作り方 楽しいことを教えてくれた

 でも君は もうどこにもいなかった


 さあ、光の方へ さあ、光の方へ


 白い部屋 灰色の壁と心のテレビ

 ワンピース姿の少女 僕は彼女を追いかける

 砂浜 波の音 それは涙の数

 窓の外 欅は血で育つ

 鏡に映る 白い部屋 僕は一人

 

 穴を掘る 仲直りの音

 手を握り合う 天使と悪魔

 君の瞳 宇宙があった

 君の涙 血にまみれ

 抱擁を交わす 僕たちは一つになった

 

 さあ、光の方へ さあ、光の方へ

 


 暗転。


 小屋の中にいる人の中で最初に動き始めたのは、死体になっていたハンサムな青年だった。彼は深い眠りから覚めたように、上体を起こし、大きな欠伸を出した。彼は小屋の中を見回してから言った。

「ここはどこだろ?」

「あなたの家ですよ」と白い男たちの下敷きになっている黒い男が言った。

 ハンサムな青年は黒い男の顔を見ると、満面の笑みを浮かべた。

「久しぶりだね。元気だったかい?」

「ええ、この通り」と黒い男は苦しそうに言った。

「君はいつも面白いことを言う男だ」とハンサムな青年は笑って言った。「何だか大変な状況みたいじゃないか」

「あなたの境遇に比べたら、こんなのなんてことないですよ」と黒い男は言った。

「どうして、こんなことに!」、小屋の中に医者の叫び声が響いた。

 全員が医者の方を見た。

 医者は顔を黒く塗りつぶされている青年を抱きかかえ涙を流していた。顔を黒く塗りつぶされている青年は力が抜け死体のように床に転がっていた。

「だから、私は危ないって言ったのに」と医者は泣きながら言った。「ねえ、早く誰か来て」

 白い男たちは顔を黒く塗りつぶされている青年に駆け寄った。

「とりあえず、ここから早く運びましょう。他の人達には刺激が強すぎるから」

 白い男たちは顔を黒く塗りつぶされている青年を円で囲んでから持ち上げた。

「あれは一体、何をやっているんだい?」とハンサム青年は黒い男に言った。

「あれはあなたですよ!」、先生は黒い男が話し出す前に言った。「早く止めないとあなたが運ばれていってしまいます」

 ハンサムな青年は先生の方を見て言った。

「あら、先生もいらっしゃったんですね」

「私のことはいいんです!」と先生は叫んだ。「でも、あなたが、ほら!」

 白い男たちは青年を持って今にも小屋の外に出ようとしていた。

「いいんですよ」とハンサムな青年は言った。「だって、これは僕の夢なんですから」

 ハンサムな青年の言葉と共に、小屋の壁が崩壊を始め、中にいた人達も次々に消えていった。後に残ったのは、全てを飲み込んでしまうような真っ黒な映像だけだった。


 カタン、カタン、カタン。

 廊下に響く靴の音。

 白い部屋。

 ハンサムな青年は白い服を着てベッドに座っていた。

 ガチャ。

 女の医者が現れた。医者は青年の隣に座った。

「どう調子は?」と医者は言った。

 青年は微笑を浮かべて肯いた。

「そう、今日は調子がいいのね」、医者はにっこりと笑った。「ねえ、今日はとってもいい天気なの。どう少しは外に出てみない?」

 青年はしばらくしてから言った。

「今日やめておきます」

「どうして?」

「もうそんな元気がないんです」と青年は言った。「疲れてもう一歩も歩くことができません」

 医者は少し考えてから言った。

「でも、今はまだ朝の十時だし、あなたは二時間ぐらい前に起きたばっかりよ」

 青年は医者の方に向けた。

「僕はたくさんのことをしました。海で泳いで、穴を掘って、子供を助け、そして、死んでしまったんです」

 医者は何も言わず青年の目の前で手を振った。青年の目は瞬きをしなかった。青年は医者ではなく虚空を見つめていた。医者は手元の紙に何かを書き込んだ。

「またあとから様子を見に来るわ」と言って医者はベッドから腰を上げた。

「待ってください」と青年は言った。

 医者は振り返った。「どうしたの?」

「あの人はどこに行ったんですか?」

「あの人って?」

「ワンピースを着た女の子です」

 医者は青年の顔を見つめてから言った。「その話はあとからゆっくり聞くことにするわ」

 医者は部屋から外に出ていった。

 青年はまだ虚空を見つめていた。

「あの人達はどこに行ったんだろう?」

 青年は一人呟いた。

 青年は部屋の中を見回した。

「ここは一体どこだろう?」

 部屋の中にある音は青年の声だけだった。

「そうだ、蝶になればいいんだ」と青年は言った。

 青年は両手を大きく広げ、蝶のように上下に激しく動かした。

 青年は窓に近づいた。鉄格子が嵌められた窓から晴れた空と太陽が見えた。太陽は光を放っていた。

 青年は鉄格子に顔を押し付けた。両手は絶えず上下に激しく動いていた。

「もう少し、もう少し」と青年は呟いた。

 青年は顔を何度も鉄格子に打ちつけた。額から血が流れた。それでも青年は諦めなかった。青年は光を求め、鉄格子に顔を打ちつけることを止めなかった。


 しばらくしてから青年は光に向かって飛んでいった。




 壁に残された言葉


 昔話をしようと思う。僕が蟻だった時の話だ。僕は地面を這いずり回り、必死に餌を見つけ、何とか生きていた。だが、ある日、神(今、考えてみれば、それは人間だが)に棒で体を砕かれた。僕は動くことができなくなり、ただ死を訪れるのを待つことになった……。やがて、僕はあっけなく死んでしまった。

 僕は自分が死んだ時のことを覚えている。だから、僕は飛んでいくことができる。誰よりも遠くまで、そして、誰よりも美しく……。




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