第65話 あら!可愛らしい!
初日の夜はあれからすぐ寝てしまった。
体力的には全然余裕があったが、知らないうちに緊張して疲れてたのかな?
んーっ!体がちょっとだけだるいなぁ。
俺は一度起きて背伸びをする。
周りはもうほんのり明るいし今は朝の6時半頃かな?
ハルもロゼリールも寝ているし…
俺はそーっとテントを出て、朝食の準備をする。
鍋に入っているスープが冷めているので温め直す。それで終わりだ。
まずは火魔法で焚火をつけ、スープを煮ている間に、顔を洗う。
うーん。気持ちが良いな。あとは2匹の食事を用意して終わりっと。
さーて…あの2匹はいつ起きるかなー。
俺は屈伸をしたり、軽くストレッチをしながら2匹を待つ。
「ピィー…」
お。まずはハルが起きてきた。昨日寝たの早かったしな。
なんか心なしが崩れてもそもそと地を這うようにしてテントから出てくる。
「はい。ハルおはよう!」
「ピッ…ピィー…」
ダメなめちゃくちゃ眠そうだ。
「ハルも顔洗う?」
「ピィー…」
俺は水を手に掬いハルに向けてそーっとかける。
「ピィー…ピッ」
ちょっとは目が覚めたようだ。ハルは体をぷるぷると震わせ水滴を払う。
さて…ロゼリールはまだかなぁ。
「ハル。ロゼリール起こしてきてくれるかな?」
「ピッ!」
ハルは先ほどと打って変わって元気に返事をすると、テントに入っていく。
テント内ではハルの鳴き声がほんのり聞こえる。
少し経つとハルを抱えたロゼリールがふらふらとテントから飛んできた。
「ビビー…ビビッ…」
ロゼリールはうとうとした目でふらふら飛んで俺の隣へ座る。ハルはロゼリールの腕から降り、自分のフードの前につく。
「おはよう。ロゼリール。ご飯の準備できてるよ?」
「ビビビーッ…」
ロゼリールももそもそと自分のフードの容器の前に座る。
さぁ、朝食だ。
「じゃ。いただきます!」
「ピッピーピッ!!」「ビッ…ビビッ…」
ハルは夕飯と変わらずパクパクと朝食を摂っていく。ロゼリールは相変わらず眠たいのか動きが遅いが…ミルクをひと口飲むと多少目が覚めたようで、食事を摂るペースが上がっていく。
俺もパンを食べながら温かいスープを飲む。うん。味がより深くなっていて美味しい。
さて、俺達は食事を摂り終え、今日の予定を相談する。
「午前中はエマの巣へ行こうと思うんだけど…今から行っても大丈夫かな?」
「ビッビビッ!」
完全に目が覚めたロゼリールはこくこくと頷く。
とはいえ今は食事を摂り終え時間にすると7時くらいか?
今からテント等片付け野営地を綺麗にしてからの出発になるから恐らく8時くらいには着くだろう。
「うん。じゃあ片付けが終わり次第向かおうか。それとマルスーナの街まではどのくらいかかるかな?」
俺は地図を広げ、再びロゼリールに問う。
「ビッ!」
ロゼリールは地図を見て、ある場所を差す。前回は30分ほど歩いたか。まぁこの距離ならマルスーナの街まで早くて1時間遅くて1時間半くらいかな?
「よし。じゃあ、3,4時間ほど巣に滞在してからマルスーナの街に出かけようか。それでいいかな?」
「ピッ!」「ビッ!」
そして俺達は食事を終え、素早く食器を洗い、テントをしまう。
忘れ物がないかを確認し、ロゼリールの先導でエマの巣へ向かう。
木々の間、道がない草むらを歩いて、見覚えのある1つの大きな木へ到着する。
「ビビッ!」
ロゼリールがそう鳴くと1匹のぬめぬめむしが木から降りて、地面へ潜る。
少しするとソルジャービーが現れて、エマの巣への入口が現れる。
俺達は巣の中へ入っていき、玉座の間に到着すると、既にエマが玉座に座っていた。
「エマさん。お久しぶりです。手紙の返信はすみません。本日伺わせて頂く事になっていましたので、あえて返事は出さなかったのですが…」
「えぇ。と言ってもまだ数週間しか経ってませんわ。よくおいで下さいました。手紙の件は構いませんわ。また、世界樹の木陰に帰り次第無事が分かれば問題ありません。」
エマはにっこりと笑って、俺に言う。
「ロゼリールも元気そうで。ハルも良く来ましたね。」
「ピッ!」「ビッ!」
エマはロゼリールとハルを見ながら、にっこりとした表情のまま話しかける。
ロゼリールもハルも元気そうに返事をする。
「紅茶を楽しみにされているかと思いますが…まずはこれを。」
俺はリナさん、アイナさんとグランさん、そして俺が行きがけに購入したお土産をエマに渡す。
「まぁ。お気遣いありがとうございます。早速ですが開けてもよろしいですか?」
「もちろんです。」
エマはまず、大きな包みを開ける。これはスライズで預かったパンだな。
「あら…これは?」
「それはアイナさんとグランさんからです。エマさんが食べたいと言っていたパンという物です。」
包みを開けると色々なパンが数種類入っている。
「まぁ!美味しそう!それに色々あってどれから食べるか迷ってしまいますわね。それに見た目にも楽しいわ。えーっとこれは…?何かの葉。分かりましたわ!紅茶ですわね!」
「それはリナさんからです。この間はロゼマーリの葉でしたが、今回は紅茶の茶葉ですね。リナさんは、エマさんなら喜んでくれると思うわ!と言ってました。」
「嬉しいわ。それに良い香りもしますわね。じゃあ…今日はこの茶葉で紅茶を頂きましょう。」
「紅茶と一緒にパンも召し上がってはいかがですか?良く合うと思いますよ。」
「あらあら。楽しみですわね!じゃあ最後はスイトさんからかしらね?」
エマは最後の包みを開け、梱包された箱を開ける。
「あら!可愛らしい!これは容器?かしら?」
「紅茶を飲むときに使うティーカップです。可愛らしくて、エマ様にぴったりかなぁ。と思いまして。」
「このミツバチが可愛いですわね!早速皆様から貰ったお土産で紅茶を楽しむとしましょう!スイトさんありがとうございます。それに他の方にも帰った際にはお礼を。」
俺がエマに渡したのはミーリアさん手作りのティーカップ。
全体には可愛らしい淡い水色の花が描かれており、持ち手には可愛い蜜蜂がデザインされている。一目見た瞬間これだ!と思ったが、気に入ってもらえてなによりだ。
エマは部下のソルジャービーに燃料と水を汲むよう促し、それを見て俺はティーセットを用意する。
ソルジャービーが落ち葉と容器を持ってきたので、俺は火魔法で落ち葉に着火し、お湯を沸騰させる。
エマはエマでアイナさん達が作ったパンを見ながらどれを食べようかと思案している。
ハルとロゼリールはいつの間にか玉座の間からいなくなっており、恐らく巣の探検に行ったのだろう。
一旦エマから、お土産のティーカップを受け取り、温める。そして水を再度沸騰させ、リナさんからのお土産の茶葉を入れる。うん。良い香りだ。
そしてティーカップに紅茶を淹れてそれをエマに手渡す。
「この間のロズマーリの葉は爽やかで目の覚めるような香りでしたが、頂いたこの茶葉はなんとも言えない落ち着く香りですわね。」
「そうですね。紅茶といえばこちらの茶葉のようなものを差すんじゃないでしょうか。」
「あぁ…香りだけでも満足ですのに、早速頂きますわ。」
エマはひと口飲み、ふぅーっと息を吐く。
「いいですわね。なんとも言えないほのかな渋みとコク。そしてこの独特な香りも落ち着きますわ。」
「アイナさん達のが作ったパンもまた、紅茶に合いますよ。良かったらどうぞ。」
「もちろん頂きますわ!あぁ…これと決めたのにまた迷ってしまいますわ。スイトさん。よろしければ半分ずつ分けませんか?」
エマは2つのパンを半分にしようと提案してくる。朝食を摂ったばかりだがまだお腹いっぱいという訳でもないので快く承諾する。
さて、エマに聞きたいこと…リナさんのお使いの話とロゼリールについても聞きたいし、聞きたいことはたくさんある。
俺とエマの茶会?が始まった。




