第5話 リフォーム通り越して建て替えですわ。
第5話掲載させて頂きました。
当面の間、1日間隔の18時に掲載を予定しております。
拙い文章かとは思いますが、よろしくお願いします。
ご指導、ご指摘など頂けるとありがたく思います。
ちょっと褒められるとやる気が爆発的に上がります笑
何分…何十分経っただろうか。相変わらず俺はベッドの上で固まり、リナさんは俯いている。
「…飲み物でも淹れましょうか。」
そういってリナさんは腰を上げる。そしてそっと部屋を出ていく。
「――なんか結構大事に巻き込まれた気がするなぁ…」
一人になり、ため息を吐きながらそう呟く。異世界転生ってもっとワクワクドキドキが詰まってる気がしたけど現実は甘くないなぁ。
ぼーっと考えていると、リナさんが飲み物を持ってきてくれた。ふわーっと優しくも爽やかな香りがする。前世でいう紅茶…みたいなものかな?
「どうぞ。温かいうちに飲んでね?お口に合うかどうかはわからないけれど…」
「ありがとうございます。いただきます。」
ひと口飲んで、ふーっと息を吐く。
ほのかな甘みが喉を抜け、心が落ち着く。
温かい紅茶なんて飲んだのは何年振りだろうか。そしてゆっくりと過ぎる時間。前世では考えられないな。
「あたしは最善を尽くしたつもりよ。あたし達にとっても世界にとっても、もちろん翠斗くんにとっても。」
リナさんは紅茶を飲み、そう切り出した。
「さっきあたしは翠斗くんに召喚された理由とか、この世界のいざこざやらは話さないって言ったわ。だってこちらの勝手な理由で転生に巻き込まれただけだもの。そして前世でどのような生活も見せてもらったわ。正直に可哀そうだし、救いたいと思った。だからせめてこっちの世界では好きなように生きてほしい…」
リナさんは悲しい表情をしながら俺に話す。心なしか目が潤んでいる。
俺のことを気にかけてくれた人なんて、前世にいただろうか?
毎日罵倒され、人権の無いような職場環境。帰って寝るだけの小さなワンルーム。そんな生活を続けていたら、友人ともだんだん疎遠になる。
おまけに両親は鬼籍の人。
…誰一人として俺に優しい言葉をかけてくれた人はいなかった。
「リナさんは悪くないでしょう?リナさんの話が本当なら、敵って言ってた奴らが俺を勝手に殺して、こっちの世界へ転生させて利用しようとしていた。それを強引に止めさせただけじゃないですか。」
「だけど翠斗くんが前にいた世界にこちらの世界の者が関与している可能性がある以上、名前だけで狙われる可能性もないとは言い切れないわ。だから当面は私の名前を使ってもらっても良いってこと。自分で言うのもあれだけど結構あたし有名人だし…そうしたら敵をしばらくは欺けるはずだから…転移と違って見た目も変わっているはずだしね。」
え?見た目変わってるの?そういえば、さっき可愛い子って言われたような…
「え…あの…すいません。鏡とか自分の姿が見えるものってありますか?」
「ん?あるわよ?ちょっと待っててね。」
リナさんはまた椅子を立つ。そして手鏡を渡してくれた。
そして俺は手鏡を覗く
…え?これ俺ですか?
鏡には普通に整った顔の黒髪の少年が映っている。前世の名残が一切ありません。
劇的ビフォーアフターもびっくりです。段ボールハウスが軽量鉄骨の3階建て(オール電化・庭付き)になったくらい。
リフォーム通り越して建て替えですわ。
見た目は中高生くらいになって若返っている。
「思てたんと全然違う…」
「…前世はどんな感じだったの…?」
「今の見た目より10から15は歳いってて、顔はもう…説明できないほど別人です。悪い方に。」
「なにそれ!あははは!ならとりあえず見た目では翠斗くんってバレそうもないわね!普通は魂が転生したとはいえ、面影くらいはあるらしいんだけどねー。」
リナさんは先ほどの雰囲気とは打って変わって思い切り笑っている。感情が正直に顔に出る人なんだなぁ…しかし美人なのでどの表情も絵になる。
そして俺は改名を勧められたときから考えていたこと、そしてリナさんと話して決心したことを口にする。
「これからリナさんにはたくさんお世話になることですし、名前も借りることになるんです。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。」
リナさんの目を見て、しっかりと話す。
人生を別世界でやり直したようなもんだ。そして目の前にいる人しか頼れる人もいない。なにより、リナさんが嘘をついているとも俺は思えない。
仮に嘘だとしてもこの先どうやって何も知らない世界で生きていくのか。
前世では上司の下僕のように働き、言いなりになっていた俺だ。だけどもう1回やり直せるチャンスを目の前の人はくれた。手を差し伸べてくれたんだ。俺はこの人を信じたい。
そしてこの世界でも利用されるところを救ってくれたこの人に恩返しがしたい。
「ありがとう…信じてくれて!これからよろしくね!」
リナさんは一瞬驚いた表情をし、満面の笑みでそう言った。笑顔が眩しすぎるんですけど…
ともかく自分はこの世界を生きていく。そのために一日でも早くこの世界に慣れ、順応しなければ。