第45話 ちょっとお姉さん気になるなぁ。
第45話掲載させて頂きました。
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アイナさんはクイーンビーの…ハルの話を訳してくれた。
どうやら、このクイーンビーは新しい女王蜂らしい。元々の巣に女王蜂のクイーンビーがいて、その子供がこいつみたいだ。
子のクイーンビーが成長しすると、育った巣から離れ自分の巣を作るため護衛のソルジャービーを2~4体ほど引き連れ、新しく巣に適した場所を探し、良い土地が見つかればそこに巣を作る。
その道中に複数のビッグフロッグに襲われたそうだ。
護衛のソルジャービーは2体おり、先にビッグフロッグにやられたようだ。
こいつはビッグフロッグ2体は倒したものの残りの2体と戦っていて体力も魔力も枯渇して、万事休すといったところに俺達が現れたそうだ。本当にギリギリのところだったと言っている。
「確かにこの季節は新しい女王蜂が巣を探す時期だな。そこに運悪く雨が降ったせいでビッグフロッグが活動範囲を拡げたところにかち合ってしまったというところか…」
今はお供のソルジャービーもいないので、一旦育った巣に戻り、こいつの母親のクイーンビーに話にいかないといけないらしい。
そりゃ1匹じゃ巣も作れなければ子孫も繁栄していかないしな…
「そうねぇ…この子1匹で帰すのも心許ないわよね。いつまたビッグフロッグに襲われるか分からないし…」
「うーん…1対1だったら勝てるとは思うが複数だとなぁ…」
できれば最後まで見届けてやりたいところだが…俺が勝手に決める訳にもいかないしな。
「ビービビビ」
「ピッ?ピッピピッ」
今クイーンビーの言葉はクイーンビー→ハル→アイナさん→俺達と伝達されていっている。
逆に俺達の言葉はハルが訳してクイーンビーに伝えている。
どうやらクイーンビーの育った巣というのはここから歩いて30分ぐらいの距離にあるらしい。
それならまだ朝も早いし準備して昼前には全て用事が済んで夜には帰宅できているだろう。
「それならこいつを一旦送っていくとするか。それでいいよな?」
グランさんの言葉に俺達3人は頷く。
「ビビビ!」
クイーンビーは嬉しそうに鳴いたあとぺこりと頭を下げた。
女王蜂なだけあって礼儀はしっかりしている…のか?
ともかく、俺達はまだ起きたばかりで準備も何もしていない。
俺はアイナさん達の紅茶を淹れる。
リナさんは
「まぁ今は6時くらいか…7時か8時に出てもなんら問題はないだろう。」
ここから30分ぐらいの距離に巣があるって言ってたし、なにより今日は帰るだけだ。
少し寄り道したところで時間に余裕はある。
「ふぅーすっきり!じゃああたしは着替えとー…準備してこようかな。」
汲んできた水で顔を洗い、そう言い残してリナさんはテントへ向かう。
俺はちょうど湯が沸いたのでアイナさん達に紅茶を淹れる。
「2人共どうぞ。」
「おう。ありがとな。」
「あらあら。悪いわねぇ。いただきます。それよりスイト君。昨日あの後、リナちゃんと何を話していたのかかしら?」
え?見られてたのか…まぁ、普通にたわいもない話だったしなぁ…
俺は少し余った紅茶を自分のティーカップに注ぎ、ひと口飲む。
「なんかリナちゃん泣いてたし、スイト君に寄りかかっていたように見えたけど。」
なっ!?危ない。紅茶を吹き出すところだった…
しかししっかりアイナさん…しっかり見ていたのか…
「まぁその後はリナちゃんも楽しそうだったしねぇ。ちょっとお姉さん気になるなぁ。」
アイナさんはニコニコ俺に語りかけてくるが、俺は気が気ではない。言葉を選ばないと。
ふとグランさんを見ると、目を瞑り紅茶を飲んでいる。俺には振るなよ。といった感じだ。
「…まぁ俺がこっちにきて1ヵ月ぐらいですからね。しみじみ色々なことを話したり…あといっつも隣にはハルがいるじゃないですか。ゆっくり2人で話すのも久しぶりだねー。って感じで別になんらあった訳じゃないですよ?」
よし。ほぼ100点の回答じゃないだろうか。間違ったことも言ってないし、当たり障りないことしか言っていない。
「うーん…でもリナちゃん泣いてたり、普段よりニコニコしてたりしてたわぁー。スイト君と2人きりだったからかしらねぇ。」
アイナさんは攻撃…いや口撃の手を緩めない。誰か…誰か助けてください。
リナさん早く戻ってこないかな。ダメだ。リナさんは余計いじられてしまう。救いの手は…ないのか…
「まぁまぁアイナ。いいじゃねーか。2人が仲違いした訳じゃねーんだしさ。」
おぉグランさん。さすが兄貴。頼りになりやす!
そうなんです。喧嘩したとかじゃないんです。だからアイナさん。俺達の事は温かく見守ってください。
「そうねぇ。仲が悪くなった訳じゃないのは分かってるけど…何があったかはグランも気になるわよね?一緒にテントから見てたんだもの。」
なんだ共犯者か。
グランさんは無言でカップに手をかけ紅茶を啜る。まぁでも2人共俺達の事を心配してくれているんだろうな。まだ20歳にもなってない男女だし。そうだと思いたい…
グランさんはアイナさんの話をスルーし、朝食の準備に取り掛かっている。
「…さぁ、朝飯は昨日の残りのスープとパンだ。それより、そいつずーっとスイトの隣にいるよな?」
あ、話逸らしたな。でも確かに気になるよなぁ。事実俺がテントに行った時も付いてきたしなぁ。
「起きてからずっと隣で座ってたり、後ろを飛んでたりしてますよ。それより元気になって良かったですけどねぇ。」
ふと隣のクイーンビーを見ると紅茶をちびちびと啜っている。
昨日の姿を見ると痛々しく粘液まみれで可哀そうに思えたが、体力も回復し、粘液もない今ではなんというか優雅な雰囲気がある。
「あらあら。もしかしたらスイト君その子に懐かれたのかもねぇ。治療したのはハルちゃんだけれど、抱えてここまで運んだのはスイト君だし、粘液を拭ったのもスイト君だもの。」
「確かにクイーンビーもソルジャービーも賢く知性がある魔物だ。というかカップ持って紅茶飲んでる姿なんて見られると思わなかったぞ…」
魔物について詳しいグランさんでもあまり見た事無い魔物だと言ってたな。ハルとは違うが珍しい魔物なのは間違いない。
言われてみると女王蜂の魔物がティーカップ持って紅茶を飲んでいる姿は…違和感はあるだろうが俺は不思議と絵になっているように思える。
「確かに…違う人が見たら違和感があるかもしれませんね。」
「あら?私はなんだか優雅に見えるわ。違和感なんてないわよ?」
アイナさんはニコッと笑ってクイーンビーを撫でる。
「ビビビ♪」
クイーンビーも撫でられると喜ぶのか…こいつも人懐っこいんだなぁ。
ガサガサッ!
「ビ!?」
草むらから音がした方向を見るとグライアが駆け足で走ってきた。
クイーンビーはいきなりの事に驚きつつ俺の前へ出る。庇ってくれているのか?
「あー大丈夫だよ。仲間だからね?」
「ビィー…」
クイーンビーはふぅーっと息を吐き安堵の表情を浮かべる。そしてまた俺の隣へ腰かける。
「あらあら。この子スイト君を守ろうとしたのかしらね?やっぱり助けて貰ったことを恩に感じているのかしら?」
「そうなのか?ありがとうな。」
俺はクイーンビーを撫でる。やはり嬉しそうだ。
しかしクイーンビーにとってグライアは脅威だろうに…
「おー。おかえり。グライアは毎朝1匹で散歩に行くんだよ。」
グライアはハッハッハッとパンティングをしている。表情もなんだか清々しい。
「よし。グライアも戻ってきたし朝飯にするか。」
「ピッ!」
いの一番に返事をしたのはハルだ。この食いしん坊め。
さて、まだリナさんが戻ってこない訳だが…とりあえずハルの食器などはテントの中だ。
「ははは。ハルは元気だな。俺が朝飯の準備しとくから、ハルの朝飯の準備していいぞ?」
「ありがとうございます。じゃあ食器を取りにテント行ってきます。」
そう言って俺は立ち上がり、テントへ向かう。
後ろからハルとクイーンビーが付いてくる。
テントに着いた。着いたはいいが…ここでテントを開けたらリナさんが着替え中で…ラッキースケベがあるな…うへへ。
いやいや!やっぱり一声かけて入るのが礼儀だろう。
「リナさーん。ハルの食器取りに来ました。入っていいですかー?」
「んー?良いわよー?」
俺はテントの中へ入ると、既に準備をし終えたリナさんの姿があった。無言で入ってもラッキースケベは期待できなかったか…
「スイトも準備してから朝ご飯にしたら?ハルちゃんの食器は洗っといてあげるから。」
そうか。朝ご飯食べたらすぐ出るかもしれないしテントも片付けなきゃいけないのか。
なら自分も今日の服に着替えて、いつでも野営地から出られる準備をしておこう。
「すいません。お言葉に甘えさせてもらいます。」
俺はリナさんに礼を言い、今日着ていく衣類を出す。
「いいのよ。一緒に生活してるんだし。ね?」
なんだか昨日今日でリナさんとの距離が縮まった気がする。
というか手繋いで並んで寝てる時点で縮まってるか。いかん。気を抜くと表情が緩みそうだ。
「ありがとうございます。俺も準備が出来たらすぐ行きますね。」
リナさんははーい。と言ってテントから出ていく。
俺が着替えている間、ハルとクイーンビーはなにやら話しているようだ。
ハルも本当に人懐っこくて人見知りしないよなぁ。
俺は素早く衣類を着替え、最後にベルトを締める。
よし。今日も一日頑張ろう。
テントから出ると焚火の方からいい匂いがする。恐らく昨日のスープだろう。
「すいません。お待たせしました。」
焚火のある場所に行くと既にアイナさん達も準備が出来ており、イエルムとリフルもいる。




