第38話 あかん。俺に飛び火した。
第38話掲載させて頂きました。
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俺達3人は石に腰かけ、休憩をしている。
アイナさんは持ってきた松明に火魔法で火を灯し、松明を地面に差している。
「イエルムお疲れ様ー。休憩にしましょう。」
「ピィ!」
アイナさんがそう言うとイエルムから光が放たれなくなり、松明の灯りだけになる。
おそらく光を放っている間イエルムは魔力を消耗し続けていたのだろう。それにしても、未だ元気に返事をしているので、イエルムもなかなかに魔力を持っているんじゃないか。
「スイト君がこっちに来てから約1ヵ月かしらねぇ。どう?生活には慣れたかしら?」
アイナさんは俺に問いかける。
今日はアイナさんと一緒にいることが多いなぁ。水汲みも二人きりだったし、そもそもリナさん以外の女性と二人きりと言うのはこっちの世界に来て初めての経験だ。
とはいえアイナさんはグランさんの奥さん…人妻か…人妻なぁ…響きが…えへへ。
「そ…そうですね。生活には慣れてきましたが冒険者としてはまだまだで…」
「あらあら。スイト君は真面目ねぇ。そんなに型にはまろうとか、こうしなきゃってことは案外少ないのよ?ねぇリナちゃん。」
今度はアイナさんはリナさんに話を振る。
うーん…やっぱりこうしなきゃ。ああしなきゃ。ってのは前世から染みついてしまってるのかもしれないな。
もっとのびのび楽に生活や冒険をした方がいいのかなぁ。
確かに今回の冒険は緊張はしているけど…
「うーん。スイトは真面目だからなぁ。そこは凄いスイトの良い事よ?でも慣れてきたら冒険を楽しんだりできるんじゃないかしら?」
冒険を楽しむ…か。いずれできるようになれればいいなぁ。
しかし、前世からこの世界に転生してきて約1ヵ月。まだ1ヵ月だ。この世界がどんなものか、冒険がどんなものかまだ知らない事がたくさんある。
言ってしまえば、ゴトウッドの子供の方がこの世界の事は俺より知っているだろう。
「ぶっちゃけ今日は結構緊張してました…何分初めての事が多くて…」
初めての事が多いというか初めての事だらけだ。
それに俺1人ならいいけど…ハルもいる。その分やはりハルに何かあっては…と責任などを感じてしまっているのも間違いではない。
「まぁ緊張しない方がおかしいわね。まだこっちにきて1ヵ月だし、分からない事だらけだもの。冒険も生活も慣れてこれば、日々楽しめる事だってすぐだわ。」
「そうねぇ。それにすっごく美人で頼りになる冒険者さんと一緒に住んでるものね。街の男の子ならスイト君恨まれるくらい羨ましい生活をしてると思うわよ?」
「ちょっ!?アイナさん!」
確かに…リナさんと一つ屋根の下…そういえばゴトウッドに来て今でこそ少なくなったものの、男性から何やら視線を感じていた気が…
まぁ、リナさんはすっごいキレイだし、性格も良い。モテないはずがないよな。
そして、いきなり現れて毎日一緒に生活している俺は恨まれても仕方ないか…
逆にこの生活って…街の男性陣が羨むほど幸せなものなんじゃないのか?
なんか今になってドキドキしてきたぞ。というか俺が多少の経験もあったら下心が芽生えていて、リナさんにほっぽり出されてたかも…
その辺は変に女性経験なくて良かったな。童貞万歳!
「あらあら。リナちゃんも自覚持った方がいいわよぉ?」
「うーん…とは言ってもあたしにはどうしようもできないもんなぁ…」
「そうねぇ。下手にリナちゃんに手出したら返り討ちに遭うのが目に見えるものねぇ。というかリナちゃん私達と出会って、今まで男の影なんて全くなかったし…」
「うー…だって…」
リナさんがアイナさんの猛攻に遭っている。
確かにこの1ヵ月リナさんと生活していて、話したことがある男性といえばグランさん。それに門番のダルカさん。あとは武器と防具屋のガルドさん…くらいだ。
ダルカさんは門番で分け隔てなく接してくれる気のいいおじさんだし、そもそも奥さんがいると言っていた。
それはガルドさんも一緒で、俺にも良くしてくれている。しかし職人気質で、気に入った人物にはとことん良くしてくれるらしいが、気に入らなかった人物には相当厳しいと後に聞いた。
そしてグランさんはそもそもアイナさんの旦那さんだ。
と考えるとリナさんに男の影なんてないよな。そもそも恋人だの旦那だのいたら俺は同居していないだろうし。
「まぁ今はスイト君がいるから大丈夫よねぇ。スイト君普通にカッコいいし、それに素直でいい子だもの。」
「なっ!?」
あかん。俺に飛び火した。
というかリナさんは俗にいういじられキャラなのだろうか?アレイラさんにもいじられてたし…
アイナさんはアイナさんでニコニコしながらリナさんをからかっている。アイナさんは恐らくSだな。
「結構噂になってたわよぉ?そりゃ美男美女が毎朝一緒に歩いているんだもの。まぁでもスイト君が隣にいるだけで更にガードが固くなったというか…街の男性陣は諦めついたというか…」
あー…だから街を歩いてるときに冷たい視線を感じる事があったのはそのせいか…
しかし、リナさんと近づきたいんだったら声でもかけりゃいいのに…ま、童貞の俺にはリナさんみたいな綺麗な人に声をかけるなんて、魔王討伐してこいって言われた方がマシなレベルで無理なんですけれどね。
「アイナさん…スイトの前だからそろそろ…」
「あらあら。リナちゃんはやっぱり可愛いわねぇ。まぁ男性の冒険者にはプライドがあるもの。なかなかリナちゃんクラスの冒険者に声をかけるとか、お付き合いを申し込むってのは勇気がいるわよねぇ。」
あーなるほど。前世でも同じような事があったなぁ。
すっごい美人だけど、彼氏がいない女性の話で学歴とか勤めている会社が優秀すぎるから男性側は頼りないと思われたり、プライドが邪魔して男性からのアプローチが無い…って話。
この世界で言うとそれがリナさんになるのかな?冒険者としては超一流。女性としては見た目は最高。だから男性は周りの目が気になる…プライドが邪魔する…みたいな。
「やっぱりそれはリナさんが冒険者として超一流ってのもあるんですかね?」
俺はアイナさんに聞いてみる。前世と同じ風潮があるのかもしれないが、違うこともあり得る。
「そうねぇ。やっぱり男性ってプライドが高いもの。冒険者が男性だったらなかなかリナちゃんにはアタックしづらいんじゃないかしら?」
やっぱりか。やはりいつの世もそういうところは変わらないんだろうなぁ。俺には分からんけど…
それに忘れがちになるが、俺もぶっちゃけイケメンだ。自分で言うのもなんだが…
そんな男が毎日ほぼリナさんの隣を歩いている。尚更声は掛けづらいだろうな。ま、中身は女性経験皆無の童貞なんですけどね…うぅ…
「もー…いいじゃない…今は今であたしは楽しいんだもん…」
「そうねぇ。リナちゃん最近楽しそうなんだもの。スイト君が来てからかな?」
アイナさんはリナさんへの攻撃の手を緩めない。リナさんもたじたじである。
というか俺も恥ずかしいんですが…どこでアイナさんはスイッチが入ったんだろうか。
しかし、俺がこっちの世界に来る前のリナさん…か。気になるっちゃ気になるなぁ。
「俺がこっちの…世界樹の木陰に来る前のリナさんってどんな感じだったんですか?」
「あらあら。スイト君も気になるわよねぇ。」
ニコニコしたアイナさんが微笑みながら俺に言う。
松明の灯も相まって悪魔の微笑み…といった感じだ。
「もう…スイトまで…もう休憩はいいでしょ!帰るわよ!」
そう言うとリナさんは腰かけていた石から勢いよく立ち上がる。
むぅ。俺は別にただ純粋に気になっただけなんだけどなぁ。
アイナさんもあらあら。続きは野営地でかしら…とニコニコしている。
まぁこれ以上続けていてもリナさんが完全にアイナさんに追い詰められていくだけだよなぁ。
それに俺にも飛び火するし…如何せん女性経験がない俺はなかなか入りづらい空気だし。
「さぁ、じゃあそろそろ歩いて行きましょうか。イエルム?お願いねぇ?」
「ピィ!」
アイナさんがそうイエルムに声をかけるとイエルムはまた光を放つ。
やはり松明よりイエルムの方が視界が明るく広い。
イエルムが光を放つと、アイナさんは松明の火を消す。
「ピッ!ピッ!」
腕の中にいるハルが何やら訴えかけてくる。
もしかしてハルもイエルムの様に光を放ちたいのだろうか…
「ピー…ピッ!」
腕の中にいるハルがやんわりと光を放ちだす。
「あらあら!ハルちゃんも『光の灯』を唱えられるのねぇ!」
「ピッ!ピッ!」
ハルは光の魔法を唱えられたからか、ぴょんぴょん跳んで喜んでいる。
ふむ…辺りを照らす魔法は『光の灯』というのか…
ちなみにイエルムがハルに教えてくれた攻撃手段のひとつは『光の矢』というらしい。
しかし少し時間が経つとその光は収束し、完全にハルからの光は消えてしまった。
「ピー…」
ハルは光が消えてしまって、落ち込んでいる。まぁイエルムとは年季も違うし、レベルだって違うだろう。イエルムから教えてもらって見様見真似でやった上に、最初にしては十分なんじゃないだろうか…
「ピィー。ピィー。」
イエルムはまたハルに何やら話しかけている。恐らく慰めてくれているんだろうな。
また時間に余裕があるときにイエルムがハルに色々教えてくれるだろう。イエルムは本当に面倒見が良い。
「あらあら…まぁなんでもいきなり上手く行く訳ないものねぇ…ハルちゃんも最初にしては頑張ったから落ち込んじゃダメよ?」
アイナさんはハルの前にしゃがみ込み、落ち込んだハルを慰めてくれている。
「それにハルちゃん?イエルムは光の灯を出している間はイエルムは他の魔法が使えないの。だから魔物が出てきたらハルちゃんが倒すのよ?」
「ピッ?ピッ!」
アイナさんがそうハルに言うとハルは急にやる気を出して返事をする。
まぁ魔法が使えないのは定かではないが…イエルムにはとりあえず光源になっていてもらうのが得策なんだろう。
それにハルの練習も兼ねて…そして俺の練習も兼ねて…かな。
「あらあら。ハルちゃんのやる気が出たわねぇ。じゃあ先に進みましょう。河原を30分ほど歩いたら、小さな橋が架かっている場所に出るわ。それを橋を渡らずに左へ曲がれば、野営地への横道がある道に出るわ。」
アイナさんがそう言い、先ほどと同じようにイエルムとハルが先頭に立つ。その後ろに俺達3人、アイナさんはリフルを抱いている。
リナさんは相変わらず拗ねているのか、何も話していない。
アイナさんがからかいすぎるから…もしかして最後の俺の質問がダメ押しになったのか…?
原因が俺にもあると思うと俺も焦る。
「リナさん…?」
「なに!?」
あかん。今触れたらどう転んでも良くない方向に転ぶ気がする。
「いえ…なんでもないです…」
「なら先に進むわよ!早く戻りましょ!」
俺はそう言うのが精いっぱいだった。リナさんも完全に気が立っている。
俺に対女性に対するスキルがあれば…〔賢者のコツ〕とかよりも〔対女性 Lv.1〕とかなかったんかな。
まぁこればっかりは前世の俺を呪うしかない…か。




