第26話 いつか…この背中に並べる日が来るといいな。
第26話掲載させて頂きました。
1月中頃まで仕事の方が忙しいので、掲載日が不定期になるかと思いますが、週に2話、多くて3話ほど掲載していきたいと思います。
掲載時間は以前と変わらず18時を予定しております。
なお第27話は1/12日の金曜日に投稿を予定しております。
評価をつけてくれた方。ブックマークをしてくださっている方ありがとうございます。
もしよろしければ感想、アドバイス、ダメ出し等頂ければ嬉しく思います。
「えーっと…話を戻しましょう!ルナリスもあんまりスイトをからかっちゃダメ!」
と、ほんのり赤いリナさんはルナリスに忠告する。
ルナリスは紅茶を飲みながらはいはい。と言っている。
この駄女神め…
「ピッ!」
ハルが俺の足元で鳴いている。庭の探索は飽きたのかな?
俺はハルを持ち上げ、膝の上に乗せる。
「そういえばその子は…スイトさんがテイムしたんですか?」
「えぇ。バイトラビットに襲われていたので保護したら懐かれて、あとは成り行きで…名前はハルって言います。」
「ゴッデスティアですわね。世界樹の上にいるスライムだから地上では滅多に見かけませんわ。まぁ、世界樹の上の方でもあまり見ないのですが…」
ほぅ…世界樹の上でもなかなかいないスライムか…それが誤って地上に降りてきたのかな?
「稀に地上に誤って落ちてしまう事があるんですよ。おっちょこちょいな子は…で落ちてしまった子は…珍しいし、色合いも目立つでしょう?なのでバイトラビットや他の獣系の魔物にやられてしまいますわね。」
「そうなんですか…まさにその場面に直面した訳か…」
「えぇ。ゴッデスティアは見た通り淡い白のスライムですわ。この辺りの森では目立ってしまうのですぐ襲われてしまいます。それにいきなり森に落ちて、右も左も分からないですし…」
なるほど…だからバイトラビットに襲われて…たまたま通りかかって俺とリナさんが保護したから助かったものの、あのままだったらハルはやられていただろう。
「あのままだったら、バイトラビットにやられていたかもしれないんですね…俺らが偶然通りかかって良かったなぁーハル。」
「ピッ!」
ハルは嬉しそうに俺の膝でぷるぷる震えている。
でも帰り道バイトラビットを倒してたよな…
「ゴッデスティアってバイトラビットにやられるんですか?ハルはさっき帰り道で倒してましたが…」
「ゴッデスティアは賢い子が多いみたいですわ。弱点をついて倒してたんじゃないですか?」
あぁ。確かに一撃を避け確実に弱点をついて倒していたな…
元来の賢さに加えて、恐らくハルの負けん気の強さもあるのだろう。
あ!ルナリスならゴッデスティアの事を詳しく知っているかもしれない。
「文献などを読んでもゴッデスティアの事を詳しく書いてある本はなかったんですよね。詳しいこととか駄女…いや、ルナリス様は分かりますか?」
危ない。口を滑らすところだった…ま、ぎりぎりセーフだろう。
「…なんか言いかけてませんでしたか?さておき、世界樹の木陰内について分からない事はありませんわ。教えて差し上げましょう。」
よし、やっぱりセーフだ。
そしてルナリスが言うには、ゴッデスティアは賢い。そして全ての個体が回復魔法が使える。そして魔力を多く保持している。
これは世界樹の上で生活しており、世界樹の恩恵を受けているところからきているそう。世界樹の上には食物などはほとんどなく、雨が降ったりしたときの雫や萎れかけた葉などを食べて生活しているらしい。その雫や葉を食べているおかげで、魔力が多く、回復魔法を使えるのではないかとのこと。
の割にチゴの実やアイナさん直伝のフードなど良く食べている印象だが…
その辺もルナリスに聞くと、地上での個体はまずいないから分からないとのこと。まぁでも嫌がらずに食べているんだから大丈夫だろうと言っていた。
分からない事無いんじゃなかったんかこの駄女神め。
あと負けん気の強さ、好奇心旺盛なところは個体差ではないかと言っていた。
「こんなところでしょうか。まぁ地上でのゴッデスティアの生態についてはなかなか分かりませんが世界樹の上ではそういう子が主でしたわ。」
「なるほど。地上での生態は全く分からないってことですね。世界樹の木陰内では分からない事ないって豪語してた割には。」
「しょ…しょうがないじゃありませんの…地上で長らく生活できた個体は過去を遡ってもいないんですもの。それに世界樹の上では脅威になる魔物もいませんし…」
まぁ例がないならしょうがないか。ハルと生活していく上で、色々分かっていく事が増えそうだ。
しかし魔力を多く保持しているのなら、色々な魔法とか覚えられるかもしれないな。
その辺はアイナさんやグランさんが知っているかもしれない。
「でも分からないなら、ハルちゃんがどんな風に成長するのか楽しみねー。」
リナさんはハルを撫でながらそう言う。
ハルは嬉しそうにぷるぷる揺れている。
リナさんの言ったように、今後ハルはどのように成長するんだろう…
ルナリスが言う賢さが高いのと回復魔法が使えるのは見たが…まだまだ分からない事だらけだ。だけどどのように成長していくかと言うのは非常に楽しみだ。
「まぁそれはそこのつるぺた駄女神がゴッデスティアの事良く分からなかったおかげですね。」
「つるぺたの上に駄女神とは…あぁ神よ。いつかこの者に裁きが下らんことを…」
あんたが神と違うんか。
ともあれ、生活には慣れてきた。そして今後の目標も決まった。辛い事もあるだろうが、リナさんもいるし、ハルだって成長するだろう。もちろん俺自身もだ。
「ふぅ…さて、そろそろ帰りましょうか。そろそろ定期メンテナンスも終わったでしょうし。」
そういえばこの女神はゲーム好きだったな。
ハルにゴッデスティアの名前の意味教えたらへこみそうだ。直訳すると女神の涙だし。
「あ!ルナリス!フラウド教のペンダント持ってる?」
「え?あぁ。持ってきてますわ。スイトさんなら私達に協力してくださると思ってね。スイトさんこれはフラウド教徒でも認められた者しか持てないペンダントです。」
えぇ…そんなもの貰っていいのかな…
熱心な信者って訳でもないし。
「俺が貰ってもいいんですか?」
「もちろん。私とリナに関わって世界を変えていく同志ですもの。持ってない方がおかしいです。」
そうか…なら貰っておこう。
「これを身につけていれば、大概の事は上手く行くでしょう。フラウド教は他の教えのように反感を買うものは少ないでしょうし。」
なるほど。お守りみたいなものなのか。それならばありがたく頂いておこう。
「ルナリス様ありがとうございます。」
「気にしないでくださいな。リナ、私はそろそろ帰りますわ。」
「そう。また何かあったら顔出して。もしくはあたしから連絡するわ。」
「そうね。スイトさんの一件で溜まった仕事も一応目途が立ちましたし。何かあったらまた来ますわ。紅茶も飲みたいですし…あ。スイトさん紅茶美味しかったです。ごちそうさまでした。」
あら…結構素直にお礼を言われたぞ…
「あ、あと賢者を卒業なさっても、賢者のコツは消えませんわ。安心してくださいね。ふふっ」
ルナリスは満面の笑みで言う。
一言余計なんじゃ!
では、また来ますわね。と言ってルナリスはスーッと消えていった。
おぉ…なんか神っぽいな…
さて、ルナリスのカップを片付けて…と、まだ夕方頃だし晩御飯には時間があるなぁ。
「リナさん、もうちょっとお茶でも飲みますか?」
「そうねー…晩御飯には早いし少しだけ飲もうかな…」
「ピッピッピッ!」
ん?ハルも飲み物が欲しいのかな。ミルクでも入れてくるか。
紅茶もあと1杯ずつぐらいでいいか。
俺はミルクをハルの器に入れ、紅茶を淹れなおし、庭へ持って行く。
「ありがとう。でもなんだなぁー…厄介ごとに巻き込んだみたいでスイトには申し訳ないなぁ…」
あぁ…まだリナさんは気にしているのか…
全然気にしなくてもいいのにな。俺が決めた事で、強引に巻き込まれたわけではないし。
むしろ本来の転生先に転生した方が面倒な事になってたっぽいしなぁ。
「全然気にしないでくださいよ。俺が好きでやる事なんで。」
「そうは言ってもねぇ…危険な目に遭うかもしれないもの。」
「だったら、死なないように頑張ります!ハルもいるし、俺を心配してくれる人もいるので…」
やっぱり俺も強くならないとな。リナさんがいるとは言え、どんな強敵が待ち構えているか分からないし。
「そうね。ハルちゃんの為にもスイトも強くならないとね!まぁ…あたしがスイトを守るから安心して!」
情けないなぁ…絶対いつかリナさんに並べるぐらいのレベルにならないと。
俺はモンスターテイマーだから俺だけの力ではどうにもならない事も多いかもしれないけど。
「いつかリナさんに心配かけないくらい強くなりたいです。足手まといにはなりたくないんで…ハルも一緒に頑張ろうな!」
「ピッ!」
ミルクを飲んでいたハルが俺を見てぴょんぴょん跳ぶ。
ハルもやる気だな!俺もしっかりしなきゃだ。
「あらあら。なにやら楽しそうねぇー。」
ん?声の先を見るとアイナさんに、グランさん。
そしてグライア…の上にイエルムとリフルが乗っている。
「あれ?アイナさんにグランさん。どうかされたんですか?」
「いやー、今日店に来た時に言おうと思ってたんだがな…近くを丁度グライア達と散歩してたんでな。来週の休みにふらっと狩りに行こうと思うんだが、リナとスイトもどうかなってな。ほら、スイトは冒険したことないだろう?」
確かに。休みの日はリナさんとこの辺りを散策したくらいだ。
しかし本格的な冒険か…
「足手まといになると思うんですけど…」
「あらあら。冒険と言ってもそんなに大それたものじゃないのよ。屋外で1泊して帰ってくるだけだわ。それに強い魔物もいないわよ。」
うーん…とは言え…なぁ。リナさんはどうなんだろうか。
俺はチラッとリナさんの方を見る。
リナさんは俺の視線に気づき、こちらを見た後、アイナさんに向き直る。
「いい機会だわ!あたしも付いていくわ。だからスイトも付いてきなさい!」
「そうよぉー。私とグランとそれにリナちゃんもいるんだもの。それに良く行く場所だし、危険は無いわ。」
「俺達に気を遣う事はないぞ。後輩の面倒も先輩がちゃんと見るもんだ。なに、最初は失敗することももちろんあるだろうさ。だがそれを気にしてはいけない。失敗して学ぶことの方が多いんだからな。」
そうか。3人とも腕利きの冒険者だし、グランさんは俺を後輩と思ってくれている。色々教わるいい機会だ。
それにアイナさんにはスライムについて聞きたいこともあるし、イエルムやリフルがどう戦うのかも見てみたい。
アイナさんやグランさんが気を遣うなって言ってくれている以上同行しない理由もないな。
「色々と教えてもらう事ばかりかと思いますが…よろしくお願いします!」
俺は2人に向かい勢いよく頭を下げる。
「ははは!だから気にすんなって!俺の師匠はスパルタでなぁ…あぁ…今思い出しても…」
グランさんは俯く。そんなにキツい師匠だったのか…
「だから俺は後輩や弟子が出来たら、厳しくも優しい先輩になろうって決めてたんだ。まぁ今までしっかりしてきた弟子も後輩もいなかった訳だが…」
モンスターテイマーを本職にしている人は少ないって言ってたもんな…
それにテイマーの質も悪いとアイナさんも言っていたし。
「グランさん!当日は色々聞くことがあると思いますが、色々とお願いします!」
「おう!分からない事はすぐ聞けよ!命に関わることだってあるからな!」
グランさんはドンッと胸を叩き、満面の笑みで答えてくれた。
兄貴肌…って言葉がぴったり似合う良い人だ。
「あらあら。なら決定ねぇ。当日朝9時頃に南門に集合にしましょう。持ち物とかはリナちゃんに教えてもらうといいわ。」
「分かりました!当日はお二人ともよろしくお願いします!グライアもよろしくな!」
「ワンッ!」
返事をしてくれたグライアの頭を撫でる。グライアは目を細めて気持ちよさそうだ。
あれ?グライアに乗っていたイエルムとリフルがいない。と思ったらハルと3匹でぴょんぴょん跳んだりぷるぷる揺れている。
…いつの間に移動したんだろうか。
「イエルムもリフルもハルと遊んでるわね…アイナさん、グランさんもお茶でも飲んでいく?」
「そうねぇ。明日の仕込みもあるし、長くはいられないけど…頂こうかしら?」
「仕込みの大半は俺がやるんだけどな…少し頂いていこうかな。」
2人は椅子に腰かける。
「じゃあお二人の紅茶とお菓子持ってきますね。グライアとイエルムとリフルはどうしますか?」
「あー悪いな…グライアは大丈夫だ。さっき自分でバイトラビット狩ってたし…」
「そうねぇ…イエルムとリフルは大丈夫よ。ミルクとミルク用の器は持っているから。」
「分かりました。少し待っててくださいね。」
「あたしも手伝うわ。スイト、行きましょうか。」
そう言って俺とリナさんは家へ入っていく。
俺がお菓子を準備し、リナさんは紅茶を淹れている。
「スイト、付いていきたくなかった?」
突然リナさんは俺に声をかける。
「え?いや…付いていきたくないというか…迷惑かけないかどうかってのが大きくて…」
俺は素直な気持ちをリナさんに言う。
俺の今の経験値では迷惑をかけることは必須だろう。
グランさんにはそんな気を遣うなとは言われたけど…やはり気にしてしまう。
「グランさんも言ってたけれど、気を遣ってはいけないわ。スイトは冒険初心者!失敗は当たり前!サポートするために私達がいるんだから。分からない事は積極的に聞いて、思った通りに動きなさい!」
リナさんはパシッと俺の背を叩く。
「それにスイトにはハルちゃんがいるでしょう。スイトが弱気でどうするの。ハルちゃんが困っちゃうわよ。」
確かに…俺が不安だとハルが心配するし、ハルにも迷惑をかけることになる。
もっと堂々と自信を持たなきゃな。失敗するのは当たり前だし…
前世では失敗しても怒られるだけ。何が原因か何がいけなかったかなんて教えてくれる人はいなかった。
アイナさん、グランさん、それにリナさんは失敗しても何がいけなかったかちゃんと教えてくれるだろう。
「そうですね…リナさんにも迷惑かけることになるかもしれませんがよろしくお願いします!」
「ふふっ。あたしにも気を遣うの?大丈夫よ。スイトが失敗したって気にしないわよ。それより失敗することを恐れて縮こまっては駄目よ。失敗を恐れずに堂々としていなさい。それが成長のコツよ。」
リナさんはそう言って微笑む。
あぁ…本当に転生した先にリナさんがいてくれて良かったなぁ。
前世の上司みたいなやつに召喚されていたら…と思うとゾッとする。
「さて、紅茶も淹れたし庭に戻りましょう。」
リナさんは庭へ向かう。俺はお菓子を持ちリナさんの後を追う。
いつか…この背中に並べる日が来るといいな。
いや、並べるように努力しないと。だ。




