第18話 1匹のスライムがコロコロと転がってきた。
第18話掲載させて頂きました。
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年末年始、出張の為更新ペースが変わることになるかと思いますが、その際はこちらに記載させていただきます。ご了承ください。
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それではよろしくお願いします。
さて、リナさんに呼ばれたので準備をし、自室を出る。
昨日は雨だったからか、地面が少し緩み、草や木の葉はまだ濡れている。
そういえば、リナさんの家もそうだが、世界樹の木陰周辺では他の地方とは違い、雨の降り方が違う。
空から落ちてきた雨が一度世界樹の葉に降るので、他に比べて雨粒が大きい。
だからといってなんら変わらないのだが空が晴れていても、雨が降っている。ということがある。
厳密には世界樹の葉についた雫が降っているのだけども…
「スイトー!準備できたー?」
リナさんが玄関先辺りで俺を呼ぶ。そろそろ行かなきゃ…
「さぁ。行こっか!」
リナさんは朝から元気だ。そしてリナさんの笑顔は俺にも元気を分けてくれる。…気がする。
玄関を出ると世界樹の枝葉の間から光が漏れている。今日は晴れか。
だが前日の雨の影響かまだぽたぽたと雫が落ちている。
「あー…まだ雨が降ってるわね…傘を持って行かないとね。」
雨…という認識でいいんだな。じゃあこれからは雨でいいか…
リナさんから傘を受け取り傘をさして歩いていく。
地面が濡れているが足元を取られるということもなく、少し緩い程度なので、歩く方は問題ない。
「小川沿いの道はどうですかねー?ぐっちゃぐちゃじゃないといいんですけど。」
ただ、雨が降ると多少ながら小川が増水し、小川沿いの道がぬかるむことがある。
1週間ほど前にその様なことがあった際には、橋を渡り、森を経由してゴトウッドへと向かう道があるのでそちらを利用していた。
休みの日にもリナさんと一緒に散策した道なので問題はない。
「そうねー…道をみて判断しましょう。森の方が薬草や木の実も見つかりやすいことだしね。」
リナさんの言葉に俺は頷く。違う点と言えば、出る魔物が違うくらいか。
小川周辺にいる透明な水色のスライムがいなくなり、透明な緑のスライムが現れるようになる。そして、バイトラビットの数が気持ち増えるくらいだ。
緑のスライムも水色のスライムとさほど強さは変わらない。
主食が水の中にいる微生物か、草かの違いなだけとリナさんは言っていた。
木々の間を抜け小川が見えた。あー…結構周りぐちゃぐちゃだなぁ…これは小川沿いじゃなく森の中のルートかなぁ。
「やっぱり結構ぬかるんでるわねー。森の中行きましょっか。」
やっぱり森の中か。小川沿いは見通しはいいけど何分足元が取られるからなぁ…
ちなみにどちらのルートがゴトウッドまで近いかというと小川沿いの方が近い。
森を進むと木の実や薬草も採取するから時間がかかるというのもあるが、バイトラビットの数も森の中の方が多少は多いというのもある。
ちなみに、初めてバイトラビットを倒したあの日から、スライムやバイトラビットを倒すのは俺の役目だ。
もちろん、冒険の練習を兼ねてだが…リナさんが戦っているところを見たことがない。
アレイラさんの話では相当強いらしいけれど…
それにバイトラビットは有無を言わさず倒してはいるがスライムはこちらが攻撃しない限り敵対しないので、ポーションの材料になりそうな物だけを倒している。
判別はリナさんがあのスライムは倒していいわ!とかあれは倒さなくていいわよ。と言ってくれる。
そして俺は相変わらず区別はついていない。
「ふと思ったんですけど、倒していいスライムと倒さなくていいスライムって鑑定スキル使ってるんですか?」
「え?使ってないわよ?」
…一生かかっても区別はつかないだろうな。
「いーい?スキルはスキルで便利だけど頼ってばかりじゃダメよ。努力でどうにかなるものもあるのよ。」
「わかりました…でもリナさんって凄いですよね。アレイラさんも言ってましたし…」
「そうなのかなぁー…分かりそうなもんなんだけどなぁ…」
リナさんはうーんと唸っている。
これもリナさんの努力の賜物…なのだろう。もしくは観察眼がものすごい事になっているとか。
そうして木々の間の道を木の実や薬草を採取しながら歩いていくと、バイトラビットが現れる。
俺は杖を取り出し、向かってきたバイトラビットを横に薙ぎ払う。
そうしてバイトラビットを倒し、リナさんが手際良く解体して皮と肉になる。
残った臓物は他の魔物の餌になったり、植物の栄養になるらしいが、解体をした後はその場に不要な物を残さないようにするのが冒険者の決まりらしい。
ふとした時になんで燃やすのか聞いたところ、強い魔物が出る地域では倒した魔物を放置しておくとアンデット化したり、魔素量が多い魔物だと他の魔物がそれを食い、食った魔物が狂暴化することがあるらしい。まぁこの辺りでは狂暴化したり、問題になることはよっぽどないんだけどね。と、リナさんが言っていた。
リナさんの場合は火魔法を使い内臓を消し炭にする。
俺もそろそろ解体をしてみようかな。今度リナさんに聞いてみよう。あ、簡単な火魔法があれば、内臓とかも処理できるよな…これも聞いてみないと。
バイトラビットの肉と皮をポケットにしまい、ゴトウッドに向かう。
「スイトもバイトラビットを倒すのも慣れてきたわよねー。」
「ほぼ毎日行き帰りで最低1匹は見かけますもんね。最初はたまたま倒せましたが、2日目の朝は殻ぶって噛みつかれちゃいましたし…」
「そうだったわね。でも大怪我まではしなかったでしょ?噛みつきがバイトラビットの最高威力なわけだし。」
「そうですね。バイトラビットに関してはあれが一番威力の高い攻撃なんだ。って思ったら恐怖はなくなりましたよ。最も攻撃を喰らわないのが一番なんですけど…」
「そうね。今後冒険やクエストに出た際には、見たことない魔物と対峙することになるわ。その際に攻撃力は低くても毒を持っていたり、今日みたいな足場が悪い時に攻撃を受けて頭を打つってこともあり得るわ。どんな弱い敵でもちゃんと慎重に倒すこと。これが一番大事よ。油断が一番怖いんだから。」
リナさんは俺にしっかり理由もつけて教えてくれる。前世の上司のように頭ごなしに怒ったりはしない。リナさんに教えてもらえることはすんなりと頭に入って納得できる。
前世にもこんな上司がいたらなぁ…あんな小太りのバーコードじゃなくて、リナさんみたいに美人で、スタイルが良くて…
ガサガサッ!
えっ!?なんだ!?
要らない事考えていたら目の前に1匹のスライムがコロコロと転がってきた。あーびっくりした…
見るからに攻撃を受けており、弱っているようだ。
一応鑑定スキルを使うと《スライム》と表示される。
…駄目だわからん。しかし、水色のスライムとか緑色のスライムと違い、透明感はあるが淡く白い色をしている。初めて見たな…
ガサッ!ガサッ!
スライムが転がってきた方向からバイトラビットが現れる。
「スイト!バイトラビットよ?しかも3匹…うーん…珍しいわね?」
確かに今まで毎日バイトラビットと対峙してきたが、いつもは単体で現れていた。しかし目の前には3体のバイトラビット。
しかしバイトラビットは俺でもリナさんでもなく、スライムを見ている。
このスライムを狙っているのか?
スライムは怯えたようにフルフル震えている。
うーん…なんか可哀そうだ…普通のスライムとバイトラビットだったらバイトラビットの圧勝だ。しかも3体。目の前で倒されてしまうのは気分が良くないな…それに3人のいじめっ子が1人をいじめているような構図にも見えてしまった。
よし!しょうがない!
俺は傘を放り、その淡く白いスライムに駆け寄り左手に抱く。右手には杖を握る。
バイトラビットの目線がスライムから俺に合う。
「リナさん!申し訳ないですけど、2体お願いしていいですか!?」
「え!?あ!分かったわ!あたしは右の2体をやるからスイトくんは左の1体をお願い!」
リナさんは俺の左腕に目をやると、察知してくれたのか了承してくれる。
「わかりました!お願いします。」
リナさんは落ちている石をバイトラビットに投げ、注意を引き付ける。
思惑通り右の2体はリナさんに、左の1体は俺を目掛けて突進してくる。
俺は近づいてきたバイトラビットを右手に持った杖で薙ぎ払い、倒す。
バイトラビットが動かなくなったことを確認し、放った傘を拾いつつリナさんの方を見るとリナさんはとびかかってきたバイトラビットを引き付け素手で殴り飛ばしていた。それと同時に突進していたバイトラビットには蹴りを入れている。
それぞれに一撃を与え、バイトラビットは動かなくなっている。
…すげぇ。一切無駄がなく的確な一撃だった。リナさんが倒したバイトラビットを見ると2体とも腹の横、内臓の辺りに跡がついている。
「弱点さえ的確に捉えれば、どんな魔物も致命傷を負うわ。ただそれだけのことよ!」
カッコいい。純粋にそう思った。
「しかし妙ね?バイトラビットって群れでなかなか現れないのだけれど…その子を狙っていたのかしらね?」
リナさんは俺が抱えているスライムを見ている。確かにこの辺では見たことないスライムだが…
スライムはまだ怯えているのかフルフル震えている。心なしか弱っているんじゃないかと思う。
「とにかくあたしは解体するわね。スイトくんはその子を見ててあげて。」
そういってリナさんはナイフを取り出しまた手際よく解体をしていく。そして臓物を集め火魔法で燃やした。
「さて急ぎましょうか。スイトくんはその子をしっかり抱えてて。」
そういってリナさんは俺の前を歩く。
いつもは並んで話しながら歩いているのだが、俺が抱えているスライムのためか、前を歩いてくれている。
俺は傘を脇に抱え、スライムを左手に抱き、右手で撫でてみる。
「大丈夫だぞー。もう怖くないからな。」
と、声をかけ撫でていると、フルフル震えていたスライムも、ちょっとすると危害がないと思ったのか安堵して、動かなくなっていた。死んでしまったかと思ったが目を閉じすやすや眠っているようだった。
スライムが眠った頃には、小川沿いのルートと交わる道に差し掛かっており、ここからゴトウッドまでは約10分というところだろう。ここまでくると魔物もなかなか見ない場所だ。
「あたしもこの辺に長い事いるけど、見たことないスライムだわ。淡い白いスライムねぇー…この辺では水色か緑だもの。」
リナさんは俺の横に並び、腕の中で寝ているスライムを見る。
「確かにそうなんですよね…バイトラビットといい…こいつに関係があるのかなぁ…」
「とりあえずお店に着いたらこの子の様子を見つつ、お昼頃になったらスライズに行きましょう。アイナさんなら何か分かるかもしれないわ。しかし、ぐっすり寝ているのね。安心したのかしら。」
リナさんはにっこり笑い、そう言う。
俺は分かりました。と返事をし並んで歩く。
少し歩くとゴトウッドの街が見えてきた。
確かにぐっすり寝てるな…安心してくれたのならそれはそれで嬉しい。
俺はスライムを撫でながら、そう思う。
「おー!リナちゃん!スイト君!おはよう!」
ゴトウッドの西門の門番、バルトックさんが大声で挨拶をしてくれる。
腕の中でビクッとスライムが動いた。
どうやら驚いて起きてしまったらしい。またフルフルと震えている。
「ダルカさんおはよう!今日はあいにくの天気ね。」
「まぁ晴れ間も見えるしこの調子ならあと少しで止むだろうよ。お!スイト君スライムかい?」
「そうなんです。なんか色々あってほっとけなくて連れてきちゃいました。」
俺は省略し、ダルカさんに告げる。
「まぁ、スライムなら大丈夫だ。他の魔物だったら確認を取って記名をしてもらうが…リナちゃんもいるしな。」
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます!」
「さ、スイト行こっか!ダルカさん今日もお疲れ様!」
「おう!リナちゃんもスイト君も頑張ってな!」
ダルカさんと軽く話して、街へ入る。
良かった。こいつを連れて入れなかったらどうしようかと思った…
震えていたスライムも気づけばまた目を閉じて寝ている。
スライムは総じてマイペースなんだろうか?アイナさんのイエルムもリフルもそうだったけど…
とりあえず、街に入れたのでスライムにとっての脅威はない…だろう。
今日はこいつを連れているから予定がちょっと変わることになるのかな?
そこはリナさんの考えを聞きリナさんに委ねようかな。




