第170話 スイトは真面目だなぁ。
水路の流れを見ながらまったりとリナさんと話しているが、ふと周りを見ると、洞窟内なんだよなぁ。と感じる。
真上を見ればもちろん陽は当たらないし、なんか不思議な感覚だ。
とはいえ灯りは確保されているし、気温もめちゃくちゃ暑いわけでも、寒い訳でもなく、水路に流れる水のおかげで涼し気だ。
水は透き通っており、時折大小の魚も泳いでいる。それを見ているだけでも心が休まるが、そのお供に温かい紅茶というのも一見、アンバランスではあるが、さらに心が落ち着く。
「この冒険でスイトも結構レベル上がるんじゃない?あとでライフカードも確認してみない?」
確かに、カノースウッドのダンジョンだけでも無数のファミリーバットやフロックバットを倒したし、なかなかに苦戦をしたトンネルリザードも倒しているしな。
それだけでなく、ダンジョンに潜ってはある程度の魔物を倒して…
そう思うと、今回の冒険で今まで以上に魔物を倒してるな。ま、俺じゃなくて俺のテイムモンスター達なんだが。
「そうですね。自分がどれくらいのレベルかってのを確認したいですし…ライフカードってこまめに確認するもんなんですかね?」
俺はライフカードを確認したのは、最初にこの世界に転生した時と…まぁ数えるくらいしか確認はしていないが、冒険が終わり、家にいるときやゴトウッドの店にいる時だ。
1つの冒険を節目として確認しようと思っていたが、これくらい長期間での冒険は初めてだし、道中で1回確認するのもありか。
「そうねぇ。冒険者によって違うとは思うけど…まぁいつ確認した方がいいって決まりはないからなぁ。」
まぁそういうもんだよなぁ。とはいえこれほど敵を倒したのも初めてだし、一度は確認してみよう。
「はい。リナさんお茶のおかわりです。…っていうか陽が出ていないから時間の感覚も狂っちゃいますねぇ。」
「ありがとー。そうね。ま、大丈夫よ。出張所とか至る所に時計あるし。ほら。あそこにも」
リナさんが指を指す先にも時計がある。確かにここに来るまでに結構、時計を見たな。
リナさんが指さす先には柱時計があり、この辺りは水路の両サイドは遊歩道みたいになっているし、ちょっとして冒険者達の憩いの場になっているのかもしれない。
実際、座って喋ってる冒険者もいるし。俺達もそうだし…
「夕ご飯にはちょっと早いですね。もうちょっとゆっくりしましょっか。」
「うん!紅茶も淹れなおしてもらっちゃったし…しょうがないわねー。」
「そのままテントまで持って帰ってもいいですけど…」
「えぇー…なんでそんないじわる言うかなぁ。ね?もうちょいゆっくりしていきましょ?」
そんな可愛くて綺麗な顔で微笑まれたら断れるわけないじゃないですか…
そうじゃなくてもさらさらまだテントに戻る気はないが。
久しぶりに2人でまったりできてることだしね。ハル達と一緒なのが嫌な訳ではもちろんないが、たまには静かでゆっくり過ごす時間を楽しむのも良い。
「スイトがこっちに来て4ヵ月くらいよね?凄い成長っぷりよねぇ。」
確かに…まだ4ヵ月とちょっとしか経っていないのか。
こんなに早くこっちの世界に馴染めるとも思っていなかったし、魔物をテイムできるとも思っていなかった。
それこそハル達には感謝だなぁ。
「それにねー。こっちの世界にある程度慣れてきたら牧場に行ってテイムモンスターをプレゼントしようと思ってたのよ。」
「え?そうだったんですか?」
確かにこっちにきてちょっとしてハルと出会いまたすぐにロゼリールと出会った。
ロゼリールを連れて帰ってきてから今度はホーリィと出会い、最近ではシャイラ…結構なペースじゃないか?
4ヵ月で4匹。となると…1ヵ月で1匹ずつ増えている計算だ。
ま…そんなガンガン増やしたら家はパンクするし、それこそリナさんに申し訳ないしな。
「えぇ。それがちょっとでハルちゃんテイムして、出先でロゼちゃんテイムして…なんでこうも珍しい魔物ばかりテイムできるかなぁ。」
確かに、ハルだけでもそうだったが、新たに仲間が増える度に、日に日に冒険者とすれ違う度に視線を感じるようになったし…
まだどんな魔物が珍しいか良くいるかなんて良くわかっていないけど…
あ。バイトラビットは珍しくないし、ファミリーバットやフロックバットはたくさんいるってのは分かる。あと、イートラットとスティンカーと…
うん。たくさん倒した魔物イコール良くいる魔物ってことで。
「ハルも本などでも個体名だけで詳しく書かれていなかったですし、ロゼリールだって、珍しいんですもんね。」
街や街道を歩いていると足を止めてこっちを見る冒険者が多い。
俺のテイムモンスターの物珍しさも大いにあるだろうが…他はリナさんの容姿、その次に俺の容姿か…
ヘイルとサリオもロゼリールに驚いていたしな。それほどにクイーンビーは珍しいんだろう。
このカノースウッドのダンジョンに入ってからは冒険者が多いからか俺のテイムモンスターを見て足を止めじーっと見る冒険者の多い事…
その理由はロゼリールだけでなくシャイラにもあるだろうが…
確かに冒険者に辛酸をなめさせ続けているトラップモンスターのミステリボックス。
ましてやそれをテイムしているテイマーなのだから、注目を浴びるのは仕方がないといっちゃ仕方がないのか…
「でもみんな良い子よね。それはスイトの人柄ももちろんあるわ。」
「なんですか急に…そんなに褒めて…」
やっぱり色々な人が俺を褒めてはくれるものの、まだ慣れないなぁ…
前世では罵倒されてばっかりだったからなのかもしれない。
しかし、リナさんの言っていたみんな良い子。というのは間違いない。
俺のような新米のテイマーを信頼してついてきてくれる4匹の魔物達。個性や戦闘面などみんな違うが、良い奴ばかりで俺も助けられている。
「それはそうなんですよね。だから俺もあいつらが恥ずかしくないテイマーになりたいんです。」
「スイトは真面目だなぁ。でもそれがスイトのいいところよ。」
依然、リナさんは俺を褒めてくれるが…
俺がそう思えるのはアイナさん、グランさんの2人の先輩テイマーと、もちろんリナさんのおかげだ。
もしかしたら、リナさん達が言っている、そこら辺のテイマーに1から10まで教わっていたら、テイムモンスターの扱い方も…ってそれはないか。根がそんなんじゃないし…むしろ俺が奴隷のように扱われてきたからな。そんなことにはどう転んでもならなかった…と思いたい。
ちょっと前に10階層、今20階層の休息地にいる訳で、色々な冒険者を見てきた。
その中にはもちろんテイムモンスターを連れているテイマーも多く見かけたが全員と言っていいほど、テイムモンスターの扱いが厳しいように感じた。
今まではそのようなテイマーを傍からあまり見ることはなかったものの、ここにいる人間の99パーセントくらいはほぼ冒険者だ。そのような光景が嫌でも目に入るので悲しくなってしまう。
テイムモンスターの目も精気がないというか…悲しい目をしているというか…どう表現していいか分からないが、少なくとも俺のテイムモンスター達より元気がないのは確かだ。
そう考えるとヘイルとサリオのテイムモンスターである、バオールとガウリスは表情が心なし明るくなったように思うし、足取りも軽いように思う。
やっぱりヘイルとサリオが心変わりして、真摯に向き合ってきたからだろうか?
もちろんバオールとガウリスの表情などを見ていれば良い事だったと思うし、ヘイルとサリオにとっても、テイマーとして良い事だったのだろう。
俺はリナさんにアイナさん達を紹介してもらえたのが非常にラッキーだったな。
ミリーだって、アイナさん達と同様にテイムモンスターを大事にする。という考えではあったものの、マルスーナで孤立してしまっていたしな。
なんというかこの世界でも悪しき風習があり、それが根付いているんだな。と思う。
テイマーとして、1人でもそういうテイマーを減らしていきたいとは思うが…まだまだ新米テイマーだし、それって魔王討伐より大変なんじゃね…?と思ってしまう。
「さ、そろそろ良い時間かしら?良い息抜きになったわ!戻りましょっか!」
座っていたリナさんがその場を立ち、俺はリナさんを見上げ、後に倣うようにその場に立つ。
リナさんは、にっこり笑い、「行こっ?」っと言って俺の手を引いて少し駆け足で走る。
なんというか…これはこれでいいなぁ。えへへ。




