第162話 えっ…!?あぁ…まぁ色々と…
さて、つかの間の休息も終わり、ちょうどいい時間になったので、俺達は本日の宿泊先へと向かう。
「良い物いっぱいあったわねー!これでお茶の時間が更に楽しみだわ!」
リナさんを除く、俺を含めた3人はお茶とお菓子を楽しみ、テイマーの話をアイナさんと話してたが、リナさんは時間になるまでずっと茶葉を見ていた。
キラキラとした表情で棚を眺め、行ったり来たりしていたリナさん。本当に紅茶が好きなんだなぁ。
大通りは夕方ということもあり、冒険から帰ってきた冒険者や、住民の人達がたくさん往来していた。
その大通りから1本路地に入り、少し歩くと、本日の宿に到着。
大通り沿いの宿に比べれば少々くたびれてはいるものの、俺達は贅沢できる立場ではないし、なんだかんだしっかりとした睡眠も取れている。
それに、マイクスさん達、経験が豊富な冒険者が取った宿なので知る人ぞ知る、穴場で良い宿なのだろう。
中に入って受付を済まし、食堂兼、ロビーとなっている大きなフロアへ。
周りを見渡すと数人の冒険者がいたが、道具や武器が使い込まれた、どの人も経験豊富そうな冒険者ばかりだ。
その中にがっしりとした若い男性2人を中心に、俺と同い年くらいの冒険者3人。一目でわかるマイクスさん達のグループがすでに到着していた。
「あらあら。みんなお疲れ様。早かったのねぇ。」
「うむ。順調に探索が終わってね。みんなも大分慣れてきたようだ。…ってなんだかリナさんはごきげんそうだね。」
「えっ…!?あぁ…まぁ色々と…」
「リナちゃんたってのお願いで、あそこの紅茶が有名なお店に行ってきたのよぉ。」
「なんだ。アイナ達も順調に進めていたのか。なら明日も大丈夫かもしれないな。よし。全員揃ったところだし、飯にしよう。スイト、フロル。手伝ってくれ。」
どうやらここもキッチンを自由に使って良い宿屋のようだ。
俺はベルトを椅子にかけ、3人でキッチンへ向かう。
しかし、グランさんが言っていた明日も大丈夫。という言葉が気になる。
明日の予定はもう決まっているのだろうか?
「さ、今日はバイトラビットの他に美味そうな肉を買ってきた。道中に色々と狩れたがなかなかの金になってな。」
グランさんはポケットからバイトラビットの肉を取り出し、さらに店で購入した肉や野菜を取り出す。
肉も新鮮そうだし、野菜も瑞々しく綺麗だ。
俺達はグランさんの指示に従い手際よく調理を進め、あっという間に夕食が完成した。
シャイラとミルも食材を取ってくれたり、食器を並べたりと色々と手伝ってくれてスムーズに料理ができた。ってのもあるだろうな。
今日はバイトラビットと新鮮な野菜の炒め物に、グランさんが買ってきた肉のスープ。それにパンだ。
毎日、バイトラビットの肉が出てくるが、色々な調理方法で味が一緒な訳ではなく、飽きがこない。そもそも狩ってから解体するまで間もないので新鮮だ。そりゃ美味いよなぁ。
あっという間に全員で夕食を食べ終え、食器を片付けるが、そこでもシャイラとミルが手伝ってくれるので、あっという間に終わる。
で、食後恒例、明日の予定の確認が始まる。
「グラン、スイト君、フロル君。今日もご馳走様。さて、明日の予定だが――」
マイクスさんの話によると、カノースウッドに到着した際の予定を大まかに決めていたらしい。
俺達が、予想以上にダンジョン探索や冒険に慣れてきたことを踏まえて、グランさん達とも予定を決めていたそうだ。
で、その予定だが明日は1日中カノースウッドのダンジョンに潜るとのこと。
俺とヘイル、サリオの3人はそれぞれ1人ずつダンジョンに潜っていく。
ただ、何かあった時のために1人ずつに補助としてマイクスさん達がそれぞれついてくれるそうだ。
ミリーとフロルは2人組で潜るとのことだが、話を聞くと、ミリーはまだ冒険に慣れていないこと。フロルはミルの存在が大きいことが挙げられていた。
そしてカノースウッドのダンジョンだが、まだ未攻略のダンジョンだということ。
ただ浅い階層には弱い魔物しか出ないらしく、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出るようになるらしい。
これが初級冒険者から上級冒険者まで幅広く利用される要因であり、人気の元であるらしい。
確かにそれだけ冒険者が訪れるダンジョンが街の中にあるという事は宿屋や食事が摂れる料理屋なども半永久的に繁盛するよなぁ。大きいダンジョンを中心に街が栄えることもあるって言ってたし、カノースウッドはそういう街なのかもしれない。
そして朝一、ギルドに向かいダンジョン内のフロアマップを貰い、解体したハードロックタートルを貰って一度宿に集合。そこで各々、付き添いの先生方から話を聞き、ダンジョンへ。という流れだ。
「以上が簡単な流れだが、あとは誰が誰に付き添うか。だね。」
「俺はミリーとフロルに付き添っても構わないか?ミルもグライアに懐いているしな。早めに切り上げて食事の準備などもできる可能性がある。」
「ふむ。なら、ミリーとフロルはグランに任せよう。あとは――」
「あらあら。なら私は、ヘイル君かサリオ君に付き添おうかしらねぇ。テイマーとしての立ち回りも教えられるし。」
「そうだな。じゃあヘイルかサリオにはアイナで…スイト君には私が…」
「あ!マイクスさん!スイトはあたしが付き添ってもいいですか?」
マイクスさんの言葉を遮りリナさんはそう申し出る。
確かにリナさんと一緒の方が慣れているから楽だが…ほっとしていたヘイルとサリオの顔に緊張が走る。
どちらかは、マイクスさんと一緒に行動しなきゃいけない訳だしな。
「あらあら。リナちゃんは本当にスイト君が大好きねぇ。」
「ち…違うわよ!理由としては、スイトはテイムモンスターが4体もいること。ただシャイラちゃん以外は、スイトの次にあたしが長く接しているから、その方がこの子達の負担にならないかなって。」
「あらあら…なかなか尤もらしい理由を見つけるようになったわねぇ。」
「だから!もう…」
確かにシャイラ以外の3匹は、リナさんの特訓を受けていたり、一緒に生活もしているし、リナさんに懐いてもいる。
俺が同時に4匹をまとめ上げられるのであればいいが、何かあった際に2匹はリナさんに指示を出させて、俺は残りの2匹の指示を出す。というのも可能だ。
「ふむ。確かにそうだね。じゃあスイト君はリナちゃんに任せようか。」
「やった!…あ、いや、はい。ありがとうございます。」
「ほらぁー。やっぱりスイト君と一緒にいたいだけじゃないの。」
「もう!いいじゃない!」
相変わらずこういう場面ではアイナさんにいじられるリナさん。
「うむ。ヘイルとサリオにどちらが付くかは後でアイナと相談しよう。後は――」
一旦、俺達駆け出し冒険者とサポートしてくれる先輩の冒険者のペアは決まった。ヘイルとサリオ以外は。
ヘイルとサリオは落ち着かない様子だが…
なんやかんやマイクスさんはヘイルとサリオに厳しい面が見られるがそれは、期待しているからこそだと俺は思うが…当事者はたまったもんじゃないよなぁ。
で、マイクスさんの話の続きだがこのカノースウッドには3,4日滞在するらしい。
なんなら、カノースウッドのダンジョン探索が一番のメイン。ここが試験みたいなものとマイクスさんは言っていたが…
3,4日としたのは1日分余裕を持ったらしい。
フィーズの町で起きたこともあるしな。元々余裕を持った行程だったが、フィーズの町の件を含めても大分順調とのこと。マイクスさんが言うなら大丈夫だろう。
で、ここからがミソなんだが、ダンジョン内での野営、野宿などもあり得るとのこと。
ミリーとフロルは1日目は低階層へ潜り、グランさんの元でひたすら訓練。そして2,3日目で低階層での野営と野宿だそうだ。
「わーい!グラン先生とフロルの料理が食べられるのね!なんだか悪いなぁー。」
能天気にそんなことを言っていたが、多分、ミリーもやるんだぞ。
とはいえ解体に関してはミリーは俺達の中で一番だしな。料理しているところは見た事ないが、もしかしたら料理もできるのかもしれない。
俺達は、リナさん、アイナさん、マイクスさんの指導の元、様子を見て3日目の夕方までにこの宿に帰ってくる流れになるそうだ。
「俺、アイナ先生がいいわ…」
「僕もだよ。なんか良い言い訳…いや理由を…ダメだ…」
隣でヘイルとサリオは思い詰めた顔をしてぶつぶつ呟いている。マイクスさんはそんなに厳しいのか?
以前一緒に行動した時はそうでもなかったが…今日までの付き合いなど様々な要因はあるだろうけど。
ともかく、明日は久しぶりのほぼソロでの行動。
道具の確認なども含め万全で臨みたいところだ。




