表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/177

第159話 もう打つ手がないぞ…

 フィーズの町を出て、舗装されたカノースウッドへの道を歩き、少しすると脇道に入る。

 1日中、ダンジョン探索に明け暮れている間、舗装された道を歩く事の方が少ない。

 当初はなかなか歩きづらいと思っていたが、最近は苦にならなくなってきた。

 アイナさんとリナさんの話によるとまず午前中に2つのダンジョンを探索。

 そしてお昼を挟んでまたダンジョンを探索しつつ、カノースウッド領へ入るとのこと。

 で、カノースウッドの街に入り次第、ギルドへ寄り、道中狩った素材や肉をギルドで売却。そのついでに地図を購入。ここまでが本日の予定だ。


 しばらくは、シャイラを抱きながら歩いていたが、途中で小さく鳴きながら揺れていたので、地面に降ろすとカタカタと震えていた。元気そうな雰囲気もあるしもう大丈夫そうだ。

 その後は、イエルムやリフルから話を聞きつつ、ハルも参加して4匹でなにやら喋っていた。

 ロゼリールとホーリィは2匹で喋りつつ先頭を歩いている。


 午前中に5階層あるダンジョンを難なく攻略し、昼休憩を挟み、イースルーウッド領では最後となるダンジョンへ。

 そこでもなんら問題は起きずに攻略をする。マッピングにも慣れてきたし、ダンジョン攻略にも慣れてきたかな?とはいえ、イレギュラーな事があるかもしれないので、気は抜かず全てにおいて、考えて行動をする。

 その意思はテイムモンスター達にも伝わっており、ダンジョン内ではお喋りもほどほどに役割をこなしてくれていた。


 さて俺達はイースルーウッド領とカノースウッド領の境界線の関所のようなところに到着。

 そこには、兵士のような屈強な男性が立っており、身元の確認などを終えて、カノースウッド領に入っていく。

 ここからはまた、カノースウッド領にしか出てこない魔物がいるそうだ。


「ま、歩いて、遭遇すれば分かるわよ。」


 リナさんはそんなことを言っていたが…

 まぁ、冒険というのは未知との遭遇に冷静にどう対処できるかというところも冒険者の腕の見せ所らしいので、何か異変が起きたらすぐ対処できるように頭の中でシミュレーションはしておくが…

 ゴトウッド領ではフィッシュキラー、イースルーウッドではスネークイールなど、その土地によって出てくる魔物も違う。

 共通してどこにでもいるのはバイトラビットとスライムくらいらしい。


 俺達は、カノースウッドへと歩いている。

 なぜわかるかというと道が比較的綺麗で整備されているから。

 街と街を結ぶ街道は馬車なども通るので整備されている。現に商人や冒険者と思われる人々とすれ違う人の量も多い。


「さ、この辺りをこっちに曲がって…」


 俺達は街道を外れ、上り坂を歩いて行く。

 なんだかカノースウッド領に入ってから上り坂が多いのは、朝に言っていた、カノースウッドの街が世界樹の木陰で一番高い位置にあるというのが関係しているのだろう。

 上り坂を歩いて行くと、少し拓けた草原のような広場に到着。


「さ、ここで一旦、休憩をしましょ。今日最後のダンジョンは向こうにあるわよ。」


 リナさんが指さすところを見ても草原が広がっておりその先には急斜面の丘が見えるだけでなんにもないが…

 ダンジョンって洞窟みたいな感じだと思っていたが、違うらしいな。


「ピッ!」


 草原に座り一息ついていると、ハルが敵の気配を感知したようだ。

 俺達はすぐさま立ちあがり、周りを見渡す。

 草むらがガサガサと揺れ、のそのそと目の前に現れたのは見たことがない、大きな亀のような魔物だ。

 

 すぐさま鑑定スキルを発動させると《ハードロックタートル》と記された。

 名前の通り甲羅はゴツゴツしており黄土色。いかにも俺固いよ!防御力めっちゃあるよ!という見た目。

 その反面、のそのそ現れたところを見ると足はかなり遅い様子。


「これがハードロックタートルよ。カノースウッドの固有種ね。」


 リナさんの説明を聞きながらハードロックタートルを注視し、戦いに備える。

 体長はおおよそ2メートル。幅も体高もなかなかだ。これはなかなかの長期戦になりそうだし、攻撃力もあるだろう。



……


 遅い。こちらに向かってのしのしと歩くのは良いが…いかんせん遅い。どうしよう…

 うーん。こっちに敵意がなければスルーしても構わない気もするが…


「シャイラ。こいつは敵意をもってこっちに向かってきてるかな?」


「ぴっ…ぴぃ…」


 カタカタとシャイラが揺れ、シャイラもハードロックタートルを注視している。

 うん。どうやら攻撃を仕掛けるためにこちらに向かってきているようだ。

 なら戦っても問題ないな。とりあえず物は試し。これだけ遅ければ物理攻撃は通らなさそうだが…


「ホーリィ。裏に周って爪でひっかけ!」


「もぃ。もぃー…もぃ!」


 タッタッタッとホーリィは駆け出し、ハードロックタートルの裏へ回る。

 ハードロックタートルは、先ほどの速度とは打って変わって素早く両手足、首を甲羅に引っ込める。

 構わずホーリィは爪を使ってひっかくが、ガキッ!ガキッ!と音がするだけでダメージは通らない。

 まぁ物理攻撃しかないホーリィには難敵か。


「よし。ホーリィ!下がって!」


「もぃ…もぃ!」


 ホーリィは悔しそうに後ろに下がる。

 うーん…物理が通らないとなると、ヘイルのガウリスも出番がないな。スピードを活かした物理攻撃がメインだし…ハルはスライムブローが使えずに光の矢だけになるしな。

 となれば…


「よし!ロゼリール!空中に飛んで魔法で攻めよう!」


「ビッ!ビィー…ビッ!」


 ロゼリールは瞬時に指示に従い上空へと上がり、水魔法を展開。これは水弾だな。

 水の粒が勢いよくハードロックタートルへと放たれる。が…

 身体の露出部を甲羅に隠したハードロックタートルの甲羅に水弾は弾かれてしまう。


「水がダメなら…火しかないな。ロゼリール!火だ!」


「ビィー…ビビッ!」


 今度は火球が水弾と同じように勢いよくハードロックタートルを襲う。

 が…これも甲羅に当たり消えてしまう。

 おい…もう策はないぞ…

 恐らく俺のテイムモンスターでは、ロゼリールの魔法が最大火力。それが通らないとなると…


「ピッ!」


 しょうがない。ハルの光の矢か。

 それでダメなら考えよう。足は遅いので逃げるのも手だ。


「よし、ハル!最大威力で光の矢を撃て!」


「ピッ…ピィー…ピィー!」


 動きが遅い分、光の矢の生成に集中するハル。大きく鋭い矢はハードロックタートル目掛け、鋭くそれこそ光の速さで飛んでいく。



ガスッ!



 鈍い音がしたものの光の矢はハードロックタートルの甲羅を貫くことなく消滅した。

 ハードロックタートルの甲羅には傷ひとつついていない。


「もう打つ手がないぞ…」


「ぴっ…ぴっ!」


 シャイラ?いや、シャイラのシャドーハンドも物理技だ…通るか通らないか分からないが…


「よし!シャイラ!シャドーハンドだ!」


「ぴっ…ぴっ…」


 ん?どうした?シャイラは今度はカタカタと横に揺れている。

 もしかしてシャドーハンドでの攻撃を嫌がっている?


「シャドーハンドはダメか?じゃあ…シャイラに任せても大丈夫かな?」


「ぴっ…」


 今度は前後にカタカタと揺れるシャイラ。何か策があるらしい。

 実際にまだシャイラが放った攻撃はシャドーハンドだけ。ミステリボックスがDランク以下の冒険者が手出ししてはいけない魔物なら…他にも何か特徴があるかもしれない。


 今度はシャイラが先頭に立ち、ハードロックタートルと対峙する。

 ハードロックタートルはこちらの攻撃が止んだのを察し両手足、そして首を出して、口から砂の塊を勢い良く吐き出す。


 ダメだ!直撃する!と思った瞬間、シャイラは宝箱を閉じ、真っ向から砂の塊を受ける。

 

ドスッ!


 鈍い音をたて、砂の塊はシャイラの宝箱に直撃し、周りへ四散する。


「シャイラ!大丈夫か!」


 シャイラは箱を少しだけ開け小さくぴっ…と鳴く。いつも通りの鳴き声だし、宝箱には傷ひとつ入っていない。しっかり受けきれたようだ。


 今度はシャイラのターン。


「ぴっ…ぴぃー…」


 シャイラは先ほどより大きく箱を開けたかと思うとなにやら、ピンクとも桃色ともとれるような霧のようなものを発生させ、その霧はもわもわとハードロックタートルを包み込む。


「あらあら。みんな一応口を閉じなさい!あの霧に触れても吸っても駄目よ!」


 どうやらあれがシャイラの技の一種らしい。

 少し様子を見るが、ハードロックタートルはドシン!という音と共に地に臥した。

 その後、霧のようなものは徐々に消えていき、周りは元通りの空気になったのが分かる。


「うん。もう大丈夫そうねぇ。」


 アイナさんはそう言い、ハードロックタートルへと近づく。


「アイナさん大丈夫そう?」


「えぇ。大丈夫よぉ。」


「よし!じゃあみんなでハードロックタートルを裏返しましょ。」


 リナさんの声とともに俺達もハードロックタートルの側面に立ちテイムモンスター達とハードロックタートルを裏返す。

 どうやら息はあるみたいだが…


「スイト。あれが、シャイラちゃんの技のひとつ、スイートミストよ。あの霧は催眠効果があるの。」


 なるほどな。俺が前に対峙したスイートオウダーと同じ成分を持つ霧みたいなものか…そういう技もあるからDランク以下の冒険者はやられてしまうと…

 相手を眠らせその隙に攻撃か。ただ単にシャドーハンドの攻撃力が高いだけじゃないんだな…


「そうねぇ。今までシャイラちゃん、スイートミストを使わなかったものねぇ。まぁ、ダンジョン内では距離を置かないと味方にも霧が回っちゃうものね。」


 今までシャイラが先頭に立っていたのはダンジョン内だけだし、ダンジョンの外でもそんな脅威になる魔物は現れなかった。

 事実シャドーハンドで一蹴してたしなぁ。


「そうか…色んなことができるんだな。凄いなぁシャイラは。」


「ぴ…ぴぃ…」


 照れくさそうにカタコトと揺れるシャイラ。

 左右に揺れているときは「いいえ」、前後に揺れているときは「はい」、そして照れている時は無造作に揺れている。

 意思疎通もできることが分かり、安心する。

 しかし…まだハードロックタートルを倒した訳じゃないしな…これからどうしたものか…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ