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第140話 私嫌です。

 ダンジョンを出て辺りは既に真っ暗。イエルムが辺りを照らしながら、イースルーウッドへと俺達は歩いて行く。

 俺達のパーティは明るく照らされているが、視界は良好とはいえない。が、遠くに灯りが1つ、2つ見える。帰路へついている冒険者の灯りだろうか?

 帰りも無事、何事もなくイースルーウッドへ到着。そのまま宿に直行し、一旦食堂へ。

 そこには、グランさんとマイクスさん、それにミリーとフロル、サリオの全員が集合していた。


「あらあら。全員集合ね。何かあったの?」


 アイナさんが不思議そうな顔でみんなを見る。自由時間なのに俺達ダンジョンに行ってた人らが集まっているっていうのは不思議っちゃ不思議だが…


「おぉアイナ。お疲れ。いやな…アイナ達が出てった後にみんなで飯に行ったんだが…」


 飯食った後に飯って…胃袋どうなってんだ…

 話を聞くと、ミリーとフロルが街を散策しているときに気になるスイーツを見つけて、料理の事はグランさん!となり、食堂へ戻り全員でそこに行ったんだとか。

 そこではある木の実が使われており、この辺でも採れるということだったので、じゃあ腹ごなしの散歩がてら街の周りを散策!となったらしい。で…


「で…だ。こいつを見つけた。俺らはマイクスとフロル以外はテイムモンスターがいるしな。フロルが抱きかかえて帰ってきたんだが。」


 食堂にいた5人の中心にいるのは小さな…三毛猫?のように白をベースにオレンジと黒のまだら模様の体毛をした、小さなウサギ。ウサギってことはバイトラビットか?


「散歩してたらたまたまこの子がきゅうきゅう鳴いていてね。」


「生まれたてのバイトラビットの子が親とはぐれることがあるんだ。まぁたまたま俺達がそこに現れた…って話なんだが…」


「3色の毛…は、珍しいわねぇ。」


 確かに今まで数多くのバイトラビットを倒してきた。なんならスライムなどよりも倒しては解体して毎日の食に並ぶほどに食べてきてもいる。

 だが、三毛のバイトラビットなど見た事は無かった。基本は橙色か灰色。たまーに白い毛や黒い毛のバイトラビットには遭遇したことはあるが…


「私も初めて見たんだ。変異種や上位種だとこの界隈の脅威になりかねない。ま、見つけ次第冒険者に駆除されるのが関の山だが…」


 変異種か上位種…か。一応鑑定してみると、そこには《バイトラビット》ではなく、《ミケラビット》と表示された。ってことはやはり上位種か変異種か…


「リナさんちょっと…」


「え?なに?」


 鑑定スキルを持ってることはリナさんしか知らないし…一応リナさんに説明をする。


「そっか…うん。分かったわ。」


 といっても変異種か上位種…なぁ。

 魔物に詳しいグランさんもうーん…と悩んでいる。


「この子、ミケラビットだと思うわよ?」


「やはりミケラビットか。ってことは変異種か。」


「ふむ。やはり大きくなったらこの街の周りの脅威になり得るが…」


 とはいえまだ子ウサギだし、脅威にはならないが、逃がした後大きくなったら脅威になりかねないもんなぁ。

 グランさんやマイクスさんは何を悩んでいるんだろうか?

 生まれて間もない子ウサギだし、殺してしまうというのは少し気が引けるが…


「でも…こんなに小さくて…お母さんやお父さんと別れてしまっているだけなのに殺すのは…私嫌です。」


 口を開いたのはフロル。なるほど…フロルが反対しているのか。

 ミケラビットはフロルの手の中できゅうきゅう鳴いている。

 そのミケラビットはフロルは微笑みながら撫でている。


「あらあら…丁度冒険の最中だし、私やグランやマイクス。リナちゃんだっているわ。ここはフロルちゃんに任せたら?」


「しかし…ミケラビットには文献などもないだろう?フロルの手に余るようだったら…」


「それならその時考えれば良いのよ!私達4人と冒険者5人がいるのよ?」


「むぅ…それはそうだが…もしなにかあったら…」


「はぁ…役職とかにつくとこうも周りの目を気にしなきゃならないのかしらねぇ。フロルちゃんはどうしたいの?」


「私は…」


 アイナさんがマイクスさんを圧倒している。

 マイクスさんの言う事も分かる。マイクスさんは俺達を預かる立場だし、何かあってはいけない。それにマルスーナのギルド長という肩書もあるしな。

 ただ俺としては…テイマーだし、アイナさんもテイマーだ。やはり小さな敵対しない命をここで処分するというのは反対だ。


「私はこの子と一緒にいたいです。でも…私の手に余るようだったらその時は…」


「うん!良く言ったわね!全力でサポートするわ!テイマーの先輩がたくさんいるんだもの。なーんにも心配しなくていいわよ!」


 アイナさんは満面の笑みを浮かべてフロルに寄り添い抱きつく。

 グランさんも一安心したのかふぅっと一息ついて微笑んでいる。

 マイクスさんはやれやれ…と少し困っているが…それでもなんだか嬉しそうだ。


「フロルもテイマーの仲間入りだね!お互い頑張ろうね!」


 ミリーも親友がテイマーの仲間入りを果たして非常に嬉しそうだ。

 それにフロルも今までに見た事のない笑みを浮かべている。

 フロルもテイムモンスターが欲しいって言ってたしなぁ。念願のテイムモンスターが…って、テイムまだしてなくね?


「しかしフロル。まずはテイムしないと…」


「あ。そっか…」


「フロルは初めてだろ?じゃあ俺が教えっから…」


 サリオとヘイルがフロルにテイムの順序を教える。

 そういえば俺もハルをテイムするときは緊張したなぁ…ハルは俺を受け入れてくれていたけど…実際ハルがいなければ俺はこの場にいないんだよな。ハルには本当に感謝してもしきれない。


 フロルは一旦ミケラビットを床に置きしゃがんで、目を合わせている。

 ミケラビットもフロルの元にとことこと歩いて行き頭を足に摺り寄せているところをみると、既にフロルに懐いているのだろうか?

 擦り寄ってくるミケラビットをまた目の前に置き、目を合わせ、フロルはミケラビットに話しかけている。

 そして横からヘイルとサリオの指導の元、ミケラビットをテイムする。


「テイム。」


 フロルが一言そう放つと、フロルから放たれる淡い気のようなものがミケラビットを覆う。

 ミケラビットが纏っていた気が徐々に収まり、消えた。

 おぉ!これでテイム完了かな?


「うむ。無事テイムできたようだな。」


「良かったわねフロルちゃん!これであなたもテイマーの仲間入りだわ!」


「私がテイマー…よろしくね?」


「きゅう!」


 ミケラビットは鳴き、嬉しそうにぴょんっとフロルの胸元へと跳ぶ。

 俺がハルをテイムするときアイナさんが元気な魔物はテイムされたくなければ跳ね返すと言っていた。フロルはミケラビットに受け入れられたのだろう。


「まぁ明日からが大変だぞ。まだそいつは子供だしな。当分はお前が守ってやらなきゃダメだぞ?」


 テイマーの先輩として、テイマーほやほやのフロルにグランさんが声をかける。

 フロルは真剣な眼差しに変わり、グランさんの目を見て、はい。と答える。

 ま、フロルなら大丈夫だろう。マルスーナに帰っても仲の良いミリーもいるし、先輩テイマーのヘイルとサリオもいる。


「さて…あとは何を食うか…だが…」


 あぁ確かに。何が大事ってこいつが何を食べるかだよな。

 エサに関してはテイムモンスターを育成するにあたって一番大事なことかもしれない。


「バイトラビットなら基本的に雑食だからなんでも食べると思うがな。」


 さすがグランさん。魔物に関しての知識はそこらのテイマーより知識が多い。

 じゃあフードや手持ちの木の実などを与えてみても良さそうだ。


「じゃあ私が作ってるフードを与えてみる?この子の食事量が分かればその分のフードをフロルちゃんにあげるわよ?」


「え?アイナさん…いいんですか?」


「えぇ!テイマーデビューのお祝いってことで!」


「ありがとうございます!」


 アイナさんのフードはハルやロゼリールもいつも美味しそうに食べている。

 それにレシピも貰ったが、アイナさんは量をいつも多めに作ると言っていた。そっちの方が安上がりだし、余らせるのももったいないなぁと以前愚痴っていたので、俺はアイナさんからいつもフードを購入している。


「アイナ先生!僕も今度レシピ教えてもらっていいですか?」


「あ!俺も俺も!俺とサリオはいっつも市販のフードで…少しでも良い物をこいつに食わせたいんです。」


「あらあら。いいわよぉ。明日までにレシピを書いたメモを作っておくわ。私のレシピをベースに少しずつ手を加えてもいいかもしれないわね。」


 なるほど。俺もアイナさんに貰ったフードをそのままハルやロゼリールに渡しているが…いつも美味しそうに食べているけど、飽きが来るかもしれないしな。

 にネルモルなんて、最初口にしたときは目を輝かせてがっついていたなぁ。

 飽きがこないように木の実を1つ2つ、いつもデザートとして添えてはいるけれど…食事は人間も魔物も楽しみのひとつだしな。

 それに食性によっても変わってくることもあるか。ハルとロゼリールはなんやかんやなんでも食べるけど、恐らくガウリスやバオールは肉の方が好きな傾向にありそうだしな。見た目的に。


「俺もアイナのフードを使っているが、グライアは肉が好きだからな。ガウリスやバオールも同じ好みかもしれないから、俺がどうアレンジしているか教えるぞ。」


「グラン先生!」「ありがとうございます!」


 ヘイルとサリオはアイナさんとグランさんに感謝しっぱなしだ。

 やっぱり良い先輩や師匠がいると心強いな。


 そしてフロルは、アイナさんのフードを少量分けてもらい、チゴの実を1つ食器に入れてミケラビットの目の前に置く。

 ミケラビットは最初くんくんと匂いを嗅いでいたがひと口食べると美味しそうにもくもく食べている。


「あらあら。この子お腹減っていたのかもしれないわねぇ。でも美味しそうに食べているのをみて安心したわ。あと冷たすぎるミルクはお腹壊しちゃうから人肌程度の温度のミルクを一緒に出してあげればいいと思うわよ。」


 アイナさんの助言に真剣な眼差しで頷き、返事をしているフロル。

 最初は色々と大変だが、慣れればどうってことない。それに今から代わりの利かないパートナーがフロルにもできた訳だしな。

 …うちの子達は食欲旺盛だしいつでも元気で、戦闘もしっかりこなすから心配することはないが…

 フロルとミケラビットがどういう成長するのか楽しみな反面、俺もテイマーとしてのライバルが1人増えた。俺も追い抜かれないように精進しなきゃだな。

《ミケラビット》


 バイトラビットの変異種。非常に珍しいことから、文献にはあまり記されていない。

 特徴としては毛並みが3色であること。それ以外はなんらバイトラビットとは大きさや食性などは変わらないと思われる。

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