第137話 はぁ…アイナにはかなわないな。
「っつーかさ。お前とリナ先生って…どういう関係なの?」
え?どういう関係と聞かれましても…同居人?恩人?
うーん…同居人ではなんか薄っぺらすぎるし、恩人っちゃ恩人なんだけども…
「いや、苗字は一緒じゃん?親戚ってのは分かんだけどさ。」
あぁ。そういう事ね。一応…いとこっていう設定だったな。うん。
実際は血も繋がってなけりゃ、俺は転生者だし、リナさんは俺を召喚した人。そんな事を他人に言えるわけもない。
「いとこだよ。俺がこっちの方に引っ越すってことで、お世話になってるんだ。」
「ふーん…いいなぁ…」
いいなぁって。お前はミリー一筋と違うんか。
まぁでも…外見はもちろん内面も非の打ち所がない女性なのは間違いないんだよなぁ。
「ギルド長も結構ガンガン押してんだけどな。先生が全然なびかないからさ。見てて面白いけどよ。」
マイクスさん…でも、マイクスさんとリナさんが並んでたら美男美女のカップルに見えるよなぁ。
スペック的にもギルド長っていう役職があるし、マイクスさんも非の打ちどころがないイケメンだ。
「食堂でスイトと話してるときは楽しそうだったんだけどな。だからどんな関係なんだろ?って思ってさ。それに…いとことはいえ一緒の部屋だし…いいなぁ。俺もあんな美女とお近づきになりてぇ。」
ミリーはどこいったんだミリーは。
やっぱり世の男性は大体はそう思うのかな?俺が前世でした恋愛…か…
…
ない。彼女もいなけりゃ、好意を持った女性なんて…うーん…強いて言えば中学生くらいか。
それでも会話もしたことなけりゃ、遠くで見てただけだしな。それくらいなんだよなぁ…人並みに性欲はあったけど、社会人になってそんなものすら消え失せたし、むしろ三大欲求のうちの1つも満たすことが出来なかったしなぁ。
今は睡眠と食事、どちらも満足はしているが。
性欲?えぇ。もちろんありますけれど。リナさんと同じベッドで寝るのはなんやかんやで緊張するし、そりゃ悶々としますとも。ま、何も行動に移せないのがさすが童貞と言ったところか。
そりゃ『賢者のコツ』なんてもんも手に入るはずですわ…
「食堂の先生の発言もびっくりしたぜ。まさかスイトと一緒の部屋がいいなんてなぁ。」
あれ?そんなこと言ってたっけか?いや言ってない気がするが、第三者からしたらそう取られるのかもしれないな。
「なんかあたふたしてたし、アイナさんにもいじられてたし…それにあの時のギルド長の表情。面白かったな。ははは!」
そんなとこまで見てたのか。まぁ、アイナさんがリナさんをいじるのは趣味みたいなもんだが…
確かにマイクスさんの表情は面白かったな。拍子抜けしてるとはまさにあの事だ。
ヘイルが言うようにマイクスさんがリナさんを狙ってたんなら驚きもするよな。
「俺もこの冒険でミリーとの距離が縮められたらなぁ…」
やっぱりなんだかんだ言ってもミリーが好きなんだな。まぁ、確かに良い子ではあるしなぁ。
ミリーもミリーでヘイルとサリオとのわだかまりもなくなってそうだし、俺がいなくなってからヘイル達がしっかりミリーと向き合っていたかというのは分かる。まぁ、ミリーも元々明るい性格だし。
「グループ違うしな。つってもどっかで入れ換えするかもって言ってたしまだチャンスはあるだろ?それに自由時間だってあるし。」
「ま、そうだけどよ…ミリーはフロルと街に繰り出していったよ。」
「…まぁまだ初日だし、焦らなくてもいいだろ。」
いいなぁ。俺も恋愛とかしてたらこんなに人の事を思って一喜一憂してたんだろうなぁ。青春ですな。
っつってもこの世界ではリナさんにしろミリーにしろ、女性と多く接しているものの…
恋愛に発展することはあるんだろうか?この辺は前世の俺の女性経験のなさが仇となっていそうだ。
見た目は激変しても中身はただの童貞なんで。はぁ…
「そうだよな!まだまだ始まったばっかだしな!」
「俺が帰ったあともちゃんとミリーのサポートとかしてたんだろ?」
「おお!良く分かったな!ま、俺とサリオが中心になってな。ただ、やっぱりこの思想っつーかテイムモンスターへの接し方をガラっと変えるのには賛同をなかなか得られなくてな。逆に俺らの事も白い目で見てくる奴らもいてな。なかなか大変だが、ミリーはこれをずっと我慢してたと思ったらな。申し訳なくもあり、ミリーってすげーやつなんだなって再確認させられたってのもあり…」
「そうか…ヘイル達も大変だな…」
「ま、サリオに関しては今の方が合ってそうだしよ。俺もそんな気にしねぇしな。だったらかかってこいよって感じだ。」
ヘイルも俺よりは経験のある冒険者だしな。メンタルも強いし負けん気も強いし…ヘイルとサリオは今後も大丈夫そうだ。
「そういえば、お前が抱きかかえてるそいつ…ずーっと静かだけどどうしたんだ?」
ヘイルの言葉にネルモルはぴくっと反応する。が、反応しただけ。やっぱりまだ落ち込んでいるのだろうか?
俺はヘイルに事情を話す。ヘイルはうんうん頷いて、よし!と大声を出した。
「スイト。そいつ連れて街の外に行こうぜ。」
「え?」
「やっぱりよ。こういう時は実戦あるのみだろ?身体動かしゃ気分も上がってくるしな。」
そんなもんだろうか?まぁ、俺は構わないが、ネルモル次第といったところだ。
ネルモルにどうする?と聞くと、こくっと頷く。
「よし。決まりだ。多分、先生達はまだ食堂にいるだろうから準備出来次第、食堂に集合だ。」
「うん。分かった。じゃあまた後でな。」
俺はそうヘイルに告げ、ネルモルを抱きかかえて部屋へと戻る。
部屋に戻るとまだ、ハルとロゼリールはベッドで遊んでいる。
俺はベルトを装着し直し、準備を整える。
「ハル。ロゼリール。俺とネルモルはちょっと出かけるけど、ついてくる?」
2匹は俺の言葉に目を見合わせたあと、ネルモルを見る。
何かを感じ取ったのか。ロゼリールは首を振り、ハルは身体を左右にぷるぷると震えさせる。
その後、一言二言ネルモルに何か話し、また遊び出した。
「分かった。いつ帰るか分かんないけど…先に寝てて大丈夫だからね。」
「ピッ!」「ビッ!」
「よし。じゃあ行こっか。」
「もぃ」
よし。出かけるとなったら…あー。鍵は掛けていかないとな。食堂に行った際にリナさんに渡して…とはいえ、何時に帰ってくるか分からないしなぁ。
そんなことを考え廊下を歩きながら、食堂へ。
4人はまだ座って何かを話していた。
「おぉ。スイト君どうしたんだい?」
「いやちょっと…ヘイルと街の外に行きたいなと思いまして。」
「ふむ。理由を一応聞いておこうか。」
「えっと――」
俺は、先ほどのヘイルとの会話、それにネルモルの今の状況をマイクスさんに伝える。
マイクスさんはうんうん。と頷き、分かった。と俺に言う。
「しかし何があるか分からないからな。過保護ではあるかも分からないがここに4人いる。誰かついて行こうか。」
「あたし行ってもいいですけど…それにスイトと同じ部屋だし。」
「ふむ。じゃあ私もついて行こうか。人数は多い方がいいだろうし…」
「あらあら。マイクス。良いわよ?あなたはここで他の子達が来るかもしれないわ。私が行きましょう。」
「えっ…いやでも…」
「一応あなたが今回の冒険のリーダーなんだから。それに他の子に何か言われたら私とグランじゃ対応できないかもしれないじゃないの。」
「ま、まぁ…そうだが。」
「だから私とリナちゃんで行ってくるわ。スイト君。ちょっと準備してくるから待っててね?」
「あ…アイナさんすいません。ありがとうございます。」
「良いのよ!それに一緒に行くヘイル君だっけ?あの子もテイマーでしょ?グループが違うし、色々と気にはなるのよ。」
なるほどな。アイナさんも俺達の事を色々考えてくれている。非常にありがたいことだ。
「じゃ、あたしも準備してくるわね。鍵貸してくれる?」
「あ、はい。あとハルとロゼリールは部屋にいるって言ってたんで。」
「分かったわ。じゃあまたここに集合で良いわね。」
そう言ってリナさんは部屋へ戻っていった。
「じゃ、私も行ってくるわ。グラン。良いわよね?」
「あぁ。気を付けてな。あと道中なんか使えそうな木の実があったら取ってきてくれ。」
「うん。じゃ、スイト君待っててね。」
そう言ってアイナさんも自室へと戻っていく。
街の周辺だけだったら俺とヘイルだけでも問題はなさそうだが、念には念をいれて…ってことだろうか?
今回はハルとロゼリールの2匹もいないしな。ネルモルだって一応ロゼリールの友達ではあるが、俺のテイムモンスターではないし。
「はぁ…アイナにはかなわないな。」
「ははは。ま、リナもリナで…な。たまには男2人でゆっくりするのもいいだろ?」
「ふむ。それもまた悪くないか。」
ガチャ
「あ!グラン先生!丁度良かった!」
玄関からミリーとフロルが帰ってきた。そういえば外に出てたって言ってたな。
「あの。私達ちょっと外に出てたんですけど…気になったお店があって。料理の事はグランさんに聞いた方がいいかなって。」
「あぁ。いいぞ。」
「やった!私達あそこの角を曲がったとこのお店でこういうものみたんですけど…気になってー。で、料理の事はグラン先生に聞いたら?って」
「そういう事か。よしじゃあ…あ。マイクスはどうする?」
「…私もついて行こうか。サリオを1人にしてしまうな。声をかけておこう。」
「じゃ!私達はここで待ってますね!マイクスギルド長!ごちそうさまです!」
「えっ?あ…あぁ。いいだろう…」
なんだかんだ自由時間とはいえ、ゆっくり休んでいる人間はいなくなりそうだ。
気になる料理…か。どんなものか分からないが美味しそうなものだったら気になるな。
明日の朝にでもフロルに聞いてみようかな?
それにしてもマイクスさん。アイナさんに振り回されこの後、お代も出すのか…
ギルド長って大変…なのかな?




